*** 46 被害拡大 ***
この物語はフィクションです。
登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。
また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。
「特殊突入隊航法部より報告!
本艦隊は敵性人工天体から1光分の位置に転移完了。
戦闘機を展開して人工天体の包囲開始します!」
1分後。
「旗艦ブリッジより報告!
敵性人工天体、ミサイル発射口、レーザー砲門開きました!」
「特殊突入隊ハッキング班から報告!
容疑者の潜む人工天体の転移装置は全て機能停止させました!」
「特殊突入隊解析班から報告!
敵性人工天体のエネルギー炉、人工重力発生装置、レーザー及びミサイル発射装置の特定終了!
ロックオンも完了していますので、重層次元航行ミサイルに短距離転移を行わせ、すべての攻撃目標を3秒以内に破壊可能です!」
「よし!
降伏勧告を始めろ!」
「復唱、降伏勧告始めます!」
『人工天体に告ぐ、こちらは〇〇恒星系政府所属の警察特殊突入部隊である。
貴君らは完全に包囲されている。
10分以内に降伏しなければ、諸君らは素粒子にまで分解されることになるだろう。
繰り返す……」
「ブリッジより指揮官殿に報告!
敵性天体、レーザー砲門、ミサイル砲門共に閉じました!
ドッキングベイの扉も開いてます!
あ! レーダー塔に巨大な白旗が上がりました!」
「なんだよ、もう終わりかよ。
突入逮捕部隊1個分隊に完全武装の上、敵性天体に侵攻させろ。
武器使用自由」
「はっ! 突入逮捕部隊武器使用自由、侵攻開始します!」
こうして詐欺犯逮捕は無事に終わったのである。
やっぱり札束でぶん殴るような超過剰戦力だと犠牲者が出なくていいね♪
特殊突入部隊の警察官1200名は、ムサシから各人10万クレジット(≒1000万円)のボーナスを受け取ることが出来た。
若い警察官はこのカネでカノジョに婚約指輪を買い、無事結婚してもらえることになった。
また、新婚の警察官は奥さんと一緒にリゾート惑星に休暇旅行に行けた。
そして中堅の警察官は、子供の教育費を貯金することが出来たのである。
ほとんどの者がムサシに感謝の祈りを捧げたのは言うまでもない。
こうして、この詐欺撲滅作戦が始まって半年も経つと、ムサシはのべ50万人の警察官から拝まれることとなったのである。
偽の残留薬物消去薬と『詳細鑑定』神道具はエホバー上級神の神殿に無事送られてきた。
どうやら詐欺師たちは逃亡の時間を稼ぐために、AIに準備させていたらしい。
この薬剤はただのビタミン剤であったが、中にマーカーナノマシンが含まれている。
そのナノマシンを体内に持つ者が神道具を発動させると『残留禁止薬物ナシ』という表示が出るだけであり、その他の者が発動させると『残留禁止薬物アリ』という表示が出るのだ。
5年後の孫の天使見習い認証式の前夜、この上級神は『残留禁止薬物消去薬剤』を孫に服用させ、認証式までは絶対に麻薬を摂取しないようにと言い含めた。
尚、神道具に触れさせて『残留禁止薬物ナシ』という表示が出たので上級神閣下はご満悦だったが、自身も試したところ『残留禁止薬物アリ』の表示が出たのですぐ不機嫌になっている。
そして、孫は禁断症状でやや手を震わせながら認証式に出向いたところ、見事に禁止薬物使用の容疑で逮捕されてしまい、その後もちろん上級神一族はほぼ全員が逮捕拘留されてしまった。
出頭要請が来た際に、上級神が残留薬物消去薬を飲みまくったのは言うまでもない。
そうして上級神は神界裁判所で『薬物陽性反応は何かの間違いだ!』と主張し続けたものの、何度検査しても重度陽性反応は変わらなかったため、裁判で禁固5万年の判決を受けることになったのである。
そんな刑務所に服役中の上級神の下に、或る日神界司法警察の捜査官が訪問して来た。
「被害届を提出されますか?」
「なんの被害だ!
上級神たるわしを冤罪で投獄した被害についてか!」
「いえ、あなたから2500万クレジットを詐取した詐欺犯に対する被害届です」
「なに…… 詐欺だと……」
「そうです、あなたが売りつけられたあの『残留薬物消去薬剤』は、ただのビタミン剤だったのですよ」
「そ、そそそ、そんなバカな!
あの者は確かに階梯宇宙中央大学の薬学研究所の者だと名乗ったのだぞ!」
「あの、階梯宇宙中央大学には薬学研究所はありません。
薬学研究所があるのは、階梯宇宙中央医学・薬学大学です」
「!!!!!!!!!!!!!」
「あれは最初から最後まで詐欺だったのですよ。
あなたはその詐欺に引っかかったのです」
「う、ううう、うがあぁぁぁ――――――っ!」
この上級神は、あまりの屈辱と怒りにそのまま発狂してしまい、医療刑務所に身柄を移されたそうだ。
そのために詐取金返還の民事訴訟を起こすことも出来なくなってしまったのである……
もちろんこうした詐欺はこれだけではなかった。
曰く、
『たった3日間の集中治療であなたの体内に残る禁止薬物の痕跡を消去します。
高貴な方々限定10名様のみへのご案内です。
今すぐお申し込みを!』
『たった1回の治療であなたの体内に残る禁止薬物の痕跡が無くなるだけでなく、今後も永遠に薬物の陽性反応は出なくなります。
今すぐお申し込みを!』
『初級神以上のやんごとなき方々のみにご案内させていただいております。
このたび、いくら服用しても残留薬物検査で陽性反応の出ない高級麻薬が開発されました!
限定10名様にのみご案内させていただいております。
今すぐお申し込みを!』
『天使族並びに神族の方々にご案内させて頂いております。
このたび、使徒スクールを開校致しました。
このスクールでは、Sランク使徒とAランク使徒がご子息とパーティーを組み、その功績を分かち合います。
つまり、ご子息は近傍重層次元に配置されたリゾート天体で寛がれているだけでみるみる使徒ランクが上がっていくのです!
初回生徒募集限定20名様。
入学ご希望の方は、ご連絡いただければ入学案内をお送りさせて頂きます』
『極秘使徒ランク販売会。
ランクAからランクDまでの現役使徒が、引退に伴いそのランクを売りに出しています。
数が限られておりますので今すぐご連絡を!」
『ついに開発!
たった1日の医学的措置で、あなたの神力レベルがぐんぐんアップ!
最高レベル100まで1日で到達します!
限定20名の高貴な方々にのみご案内させていただいております。
今すぐお申し込みを!』
こうした詐欺メールは神界の神、天使界の天使たちの下に殺到し、驚くべきことに神や天使の大半がこれに引っかかってしまっていたのである。
その数は神一族が上級神家から初級神家まで8000件、天使一族が上級天使家から初級天使家まで6000件に上り、もちろんその全てが詐欺であったために被害総額は実に1000億クレジット(≒10兆円)に上った。
中には薬物系、使徒ランク系、神術レベル系の3つの詐欺すべてに引っかかってしまった神もいたらしい。
(幸いにも武四郎の活躍とムサシの資金力により、詐欺実行犯の100%が逮捕され、その詐取金額のある口座全てが凍結されていたが)
それではなぜこれほどまでに被害が拡大してしまったのだろうか。
それは各家が所有する通信AIの性能によるところが大きいと見られる。
通信AIの主な機能は文字通り通信である。
その中でも家長や家宰、侍従長などからは、『ご主人さまとその一族さまにとって、必要な通信のみを知らせよ』と指示されていた。
要は単純なスパムメール、DMメールの削除である。
もちろん秘書AIと違って、そのメールが詐欺であるかどうかなどという判断は通信AIには出来なかったため、神界や天使界外からの勧誘メールなどは基本的に削除していた。
ただ、秘書AIや侍従長などから、『ご主人さまが新たに施行された神界改革法に困っておられる』という情報だけは得ていたために、『神界改革法の内容に関連するメール』も削除してもよいものかどうか侍従長などに確認してしまったのである。
これに侍従長らが『神界改革法に関するメールはすべて表示せよ』と指示してしまったのが原因と考えられるのだ。
要はいままで詐欺メールなど見たことが無い神や天使に、大量の詐欺情報が伝わるようになっていたのである。
神や天使の経験と判断力の無さに、神界改革法が一族に及ぼす脅威が拍車をかけたことになる。
さらに、被害に遭った者がカネを送金してもしばらくの間詐欺被害に気付かなかったことも大きかった。
詐欺犯たちは逃亡の時間を稼ぐために、使徒スクールなどへの入校や医療措置までにはそれなりの日数が表示されていたからという理由もある。
加えて神界司法警察の捜査官などからあれは詐欺だったと聞かされ、被害届を出すかどうか問われた際に、『被害届を出せばカネが戻って来るのか!』という質問に対して、『神界司法警察は民事不介入なので、自分で民事訴訟を起こせ』と言われてしまったのである。
そんな訴訟を起こしたら、自分が詐欺に遭ったと宣伝するようなものであり、『家名に傷がついてしまう!』と判断してしまったのだ。
やはり、生まれ以外に能の無い者は、『家名に傷をつける』ということを最も恐れるのだろう。
こうして神や天使を対象にした詐欺被害情報がほとんど拡散しなかったために、続々と被害者が増えていったのである。
もちろん神界も最高神政務庁から詐欺に対する注意喚起の広報を何度も出していたが、そんなものは誰も読んでいなかったのであった。
神界裁判所は、被害者不詳のまま詐欺犯に有罪判決を下し、巨額の罰金を科すことが出来たが、武四郎の活躍で詐欺犯の口座が全て凍結されていたために、罰金の取りっぱぐれはなかった。
もしも被害者から被害届が出ていれば、被害金の返還も検討されたかもしれないが、被害届を出していない者にカネを渡すわけにはいかないのである。




