*** 44 反社会的勢力 ***
この物語はフィクションです。
登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。
また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。
「言っておくがな、最高神さまは若かりし頃使徒として客観時間で8000年働いておられた」
「「「 !!!!! 」」」
「そして神術レベルは210、使徒ランクはAランクをお持ちである」
「「「 !!!!!!! 」」」
「因みにわたしは使徒として客観時間1万年を過ごし、神術レベル250、使徒ランクSを持っておる」
((( ……あぅ…… )))
「もちろん最高神さまも私も神界生まれの神一族出身である。
つまりその方ら神界生まれの神であっても神界改革法にある条件は満たせるのだぞ」
((( ……あぅあぅ…… )))
「付け加えるとだ。
あの法案が発布される前の公聴会に於いては、参加者からの意見はさらに厳しいものだった。
一例を挙げれば、
『禁止薬物検査は、直ちに天使と神全員に行い、薬物使用者の天使格、神格は剥奪すべきである!』
『現役の天使、神のうち、法案にある昇格条件を満たしていない者は、直ちに天使見習いに降格すべし!』というものだったのだ。
「「「 !!!!!! 」」」
「だがそれではあまりに改革が急進的だという事で、最高神さまのご判断であのような緩やかな改革法になったのである。
あれらの条件には『尚、現在初級天使以上の地位にいる者に関してはこの条件を免除する』という条項が付いていただろう。
まあその条項もあと3万年ほどで取り消されるだろうが」
((( ……あぅあぅあぅ…… )))
「あの…… 首席補佐官閣下。
かの『使徒士官学校』とやらに行けば、本当に『容易に神術レベルを上げる方法』を得られるのでしょうか……」
「それはそなたらの勝手な思い込みである。
神界としての公式見解でも、最高神さまやわたしの見解でもそのような方法は存在しない」
「あの、本当に存在しないのでしょうか……
たとえば、この階梯宇宙だけではなく、マザーユニバースでは極秘裏にそのような方法が発見されていて神術レベル600に至る者が数多く現れているとか……」
「その方は、この階梯宇宙の資源逼迫があのムサシ特別上級神のおかげで大幅に緩和されたことを知っておろう」
「は、はい……」
「加えて現在、一千億を超える親宇宙から希少資源の購入希望が殺到しておることは知っておるか」
「……はい……」
「それでは極秘裏にそのような安易に神術レベルを上げられる方法を発見した者がいたとして、その者らは何故資源を売りに出していないのだ?」
「……あぅ……」
「そうした者がいないことこそが、安易に神術レベルを上げられる方法は存在しないという有力な証拠になるだろう」
((( ………………………… )))
こうした応答は神界の認定会場だけでなく、もちろん天使界の会場でも行われていた。
(説明役は首席補佐官の部下たち)
「という事は初級神さま、俺たち天使族でも努力すれば初級神になれるっていうことですか!」
「その通りだ。
努力以外の制約条件は無い」
「すげぇ!」
「もう生まれや一族名に縛られなくっていいのか!」
「なんか俄然やる気になって来たぜ!」
「それに俺たち初級天使見習いでも、あの『使徒士官学校』に志願出来るんですよね!」
「しかも費用も一切かからないと!」
「当然だ」
「「「 うおぉぉぉ―――っ! 」」」
やはり血筋しか取り柄の無い者がのさばっている社会では、下位の者たちのやる気も相当に削がれていたようだ。
故に既得権にしがみ付いている者たちほど、改革に反対するのだろう。
同じ改革法案に対するこの反応の違いこそその証明と言える。
この神界改革法案は、無能かつ犯罪行為を為している神たちを排除するだけでなく、こうして天使族の若手も、そしてヒューマノイド出身の現役使徒たちも大いに鼓舞することになる。
さすがは最高神とその首席補佐官と言えよう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
神や天使たちは知らない者が多いが、神界の広報や法律などは神界認定ヒューマノイド世界でも広く告知されている。
これはもちろん、神界や天使界はそもそもヒューマノイド世界のために存在するという原理原則から来ているもので、神界や天使界は秘匿されるようなものではないという考えによる。
(ただし、神界未認定世界すなわち未開世界に於いては、未開人を過度に神界に依存させないため、神界の代理人を騙る者を排除するために、天使界や神界の存在や関与を秘匿するという原則もある)
そして、神界認定世界といえども、多くの反社会的勢力が存在するのであった……
「あの、上級神閣下」
「なんだ!」
「あと5年ほどで嫡孫さまがご成人なさるのですよね……」
「わかりきったことを聞くなっ!
なのにあの莫迦孫と来たら、毎日のように麻薬に溺れておって!」
(それはあなたさまも同じでしょうに……
当初は週に1度程度の麻薬摂取だったのが今では日に3回も……)
「これまでなら成人と同時に初級神見習いとして推挙し、ゆくゆくはわしの後を継いで上級神にまでしてやる予定だったのに、このままではあの忌々しい改革法とやらのせいで、初級神見習いになろうとする際に薬物検査に引っかかってしまうではないか!」
(そうなればお孫さんだけでなく、あなた様も神格を剥奪されて逮捕されてしまいますもんね)
「それでですね、今までは階梯宇宙のヒューマノイド世界から送られて来るスパムメールやDMなどは通信監理AIに命じてすべて削除させていたのですが……
実はそのDMの中にやや気になるものがあるとAIが言うのです」
「なんだ!
回りくどいことを言わずにはっきり言えっ!」
「そ、それがですね、階梯宇宙中央大学薬学研究室の方からの連絡で、禁止薬物使用の痕跡を体内から完全に消去出来る薬品が存在するというものなのです」
「なに……」
「それで、まず映像通信で連絡を取り、注文と入金確認をした後にその薬品が送られて来るというのですよ……」
「そ、それは確かなことなのか!」
「いえ、わたくしでは分かりかねます。
如何いたしましょうか。
やはりAIに削除させましょうか」
「ま、待て!
問い合わせの連絡をしたところで特に問題は無いだろう。
通信AIにその連絡先に接続させろ!」
「畏まりました」
<ピー、詐欺追跡AIシステムより本部へ報告しマス。
エホバー上級神内に潜伏するステルスナノマシンから連絡がありまシタ。
エホバー上級神本人が詐欺メールと思われる宛先に連絡を命じまシタ。
宛先アカウントの座標は秘匿されていましたが、インターギャラクシー警察機構への照会の結果、階梯宇宙中央大学の所在地からは20億光年の距離があると判明しましたので詐欺メールと断定し、これより記録・追跡を開始しマス>
上級神の神殿にある重層次元通信装置のホログラムには、対話相手がAIであるとの表示がなされた。
『ご連絡誠にありがとうございマス。
すぐにヒューマノイドの担当者と代わりますので少々お待ちくださいマセ」
「は、早くしろ!」
(お、ボス、こいつぁどうやら神界からの通信ですぜ!)
(よし! でけぇカモがかかったようだな!)
ホログラム装置には研究衣を着た人物像が現れた。
どう見ても誠実且つ真面目な研究者の姿である。
さらに通信相手に威圧感を与えないよう縮尺をやや小さくしているという念の入れようだった。
<ピー、この人物像は階梯宇宙法典で禁じられているAIによる合成ヒューマノイド姿でありマス。
よってこの容疑者には『不正CG禁止法違反』の容疑も加算されマス>
「これはこれは、ご連絡誠にありがとうございます。
麻薬使用痕跡消滅薬剤についてのお問い合わせでよろしかったでしょうか」
「そうだ!
その薬とやらには本当に効果があるのか!」
「もちろんございますとも。
我々階梯宇宙中央大学の薬学研究室が開発したものでございますので」
「なぜ階梯宇宙の一般薬として売られていないのだ!」
「あの、あなたさまもご存じの通り、階梯宇宙では恒星系政府大統領や閣僚、最高裁判所裁判官などの重職者の就任に際しては、薬物検査が義務付けられております。
我々は他の薬剤を研究中にたまたまこうした痕跡消去薬を開発したのですが、階梯宇宙中央大学理事会より、この薬剤が非合法とされてしまったのですよ」
「なぜ非合法などになったのだ!
極めて有用な薬ではないか!」
侍従長は密かにため息を吐いた。
(上級神閣下はそんなこともお分かりにならないのか……
これはもう薬物摂取によりだいぶ脳細胞の破壊が進んでいるようだの……)
「それはもちろん、恒星系政府大統領などの重職に就く者が禁止薬物使用を隠蔽するのを防ぐためでございますよ」
「むう!
だが、たかがヒューマノイド世界の役職者であろう!
そのような下賤者にまでそうした配慮をしておるのか!」
(あー、上級神閣下、自分が神だって言っちゃってるのも同然だな……)
「あなた様は神界の神さまであらせられましたか」
「そうだ! しかも上級神であるぞ!」
どうやらこの上級神は前回の麻薬摂取から4時間近く経っているために、禁断症状によって怒りっぽくなっているようだ。
「これはこれは、重ねてご無礼申し上げました」
「苦しゅうない、許す!」
(あー、莫迦丸出しだわ……)