*** 4 階梯宇宙史上最大の作戦 ***
この物語はフィクションです。
登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。
また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。
「それでね、時間遡行神術は神力レベル500以上が必要な超高度神術なの。
つまり禁術行使を許可しても、全階梯宇宙で使える人が神さまを含めてもムサシさんたち以外一人もいないのよ」
「ったくみんな鍛錬サボり過ぎなんじゃないか。
たかがレベル500にも至れていないとは」
「あなたみたいにレベル1200もあるひとは他にいないわよ。
それにあなたはなんといっても地球出身だし、歴史の知識も深いし、なによりSSS級使徒ですもの。
それでわたし、この階梯宇宙全体を統括する上級神さまたちから、この任務を受けてもらえるようあなたを説得するように依頼されたの」
「命令じゃあ無くって説得なのか?」
「そりゃあもちろん使徒さんたちには、如何なる任務も拒否出来る権限が与えられているもの」
「まあどう考えてもその任務の適任者は俺しかいないだろうからな。
引き受けるのは吝かじゃないが。
ただいくつか要望がある」
「何でも言って。
すぐに階梯宇宙神界中央神殿に行ってあなたの要望に承認をもらってくるから」
「はは、中央神殿もだいぶ追い詰められているんだな。
禁術使用の許可を出すぐらいだし、子宇宙から相当に突き上げを喰らっているんだろう」
「まあ複数の階梯宇宙に跨るヒューマノイド大量絶滅の元凶ですもの。
それに予算は無制限だし、必要とあれば他の使徒を何人でも徴用していいそうよ」
「いや、予算はすべて俺の個人資産で賄うわ。
神界本部にいちいち予算請求して許可を得るのもめんどくさいからな。
あいつら自分たちの権力を誇示するために、わざと時間をかけて承認するし。
(21世紀地球の組織とおなじ)
それから使徒の徴用も必要ない。
人員はすべて俺の分身たちとそのアバターを使う」
「あのあなたの知識・経験・能力をアップロードした有機コンピューターから、銀河最先端のバイオロイドに情報を複製ダウンロードしたあなたの分身たちね」
「今までも任務遂行の助手として俺をサポートしてくれてたからな。
まあ直接の配下は10人だけど、あいつら最先端の量子AIと接続してて、それぞれ1万体のアバターを動かせるようになってるから人員は十分だろう。
神術も使えるようにしてやってるしな。
だが、念のため銀河連盟に発注してアバターをもう10万体ほど増やしておくか」
「あのアバターって1体で10億クレジット(≒1000億円)もするんでしょ。
おカネ大丈夫?」
「以前神界金星勲章授与の副賞に神界からもらった放浪惑星を粉々にしたものから、元素抽出を続けてきただろ。
今では階梯宇宙全体の神界予算300億年分相当の資源とクレジットがあるから大丈夫だ。
一気に全部売ると銀河経済が混乱するから少しずつ売ってるが、純粋資源を担保にすれば銀河間連盟銀行がいくらでもカネ貸してくれるし」
「ふう、すごいわねぇ。
だからここみたいなステキな人口惑星を買えて、本拠地にしているのね」
(まあこいつも天使族世界に戻れば姫さまって呼ばれるぐらいの上流階級出身だそうだから、俺のカネ目当てっていうこともないだろうな)
「ところで神界調査部門が、あなたが時間遡行神術を悪用しないよう監視するために、5万年前の地球救済任務に同行したいって言ってるそうなんだけどどうする」
「あー、いくら監視しても何人来ても構わんが、現地に行くのはご自分たちでどうぞって言っといてくれ」
「あははは、あの部門で5万年も前に時間遡行出来る神力レベルのある神さまや天使はひとりもいないわよ。
せいぜいレベル10だわ」
「だったら監視のために来るならレベルを500に上げてから自力で来いってな。
そんなことより、中央神殿のおエラいさんたちにいくつか依頼事項があるんだ」
「聞かせて頂戴」
「まずは現時点での地球歴史の確保だな。
俺が5万年前に飛んで行って歴史を改変し、地球人類の滅亡を回避したとしても、その時点でこの階梯宇宙にある歴史記録では『地球は滅亡していない』っていう記録になるはずなんだ。
そうなると、俺が何もしていないっていうことになっちまうから、現時点での地球史を重層次元にでも確保しておいて欲しいんだよ」
「それは大丈夫よ。
現時点での地球史は3.2001次元に置いたスタンドアローンのコンピューターに保存したそうだわ。
もちろん子宇宙でも同じことをしてもらってるし。
その記録と一般の階梯宇宙に流通している地球史を比べると、あなたの歴史改編の影響がすぐにわかるわ」
「それは助かる。
俺は定期的にこの時代に戻って来て、俺が為した改変とその影響をチェックしたいんだ。
そうすれば何を改変すれば地球の暴虐性が弱まるのか研究出来るからな」
「ええ、上級神さまたちも、今後他の地域で同じようなことを試みるときのために、研究資料として残しておきたいそうよ」
「それともうひとつ、俺が過去の地球の歴史を改変すると、2000年に俺が日本で生まれたっていう歴史も変わってしまって、俺が消滅するかもしれないだろ。
だから本当は俺じゃあなくってアンドロメダ銀河辺りの出身者に任せるべき任務なんだけど」
「それは大丈夫らしいわよ。
あの禁術には、それを防いであなたを保存するっていう神術要素も含まれているそうだから」
「だが念のため俺をアップロードした有機コンピューターのハードコピーも持っていこうか。
ついでに今日のこの会話の記録も。
それをこの銀河系銀河以外の銀河出身使徒の個人重層次元倉庫に保持させて、一緒に過去に飛んでもらおう。
そいつには俺が5万年前の地球近傍に作る基地に滞在してもらえばいいだろう」
「だったらわたしが行くわ。
わたしは天使族世界出身だから、あなたが過去の地球の歴史を変えたぐらいでは消滅しないし」
「上級天使が個別任務に参加するのか?」
「ふふ、なにしろヒューマノイドの生命を一度に80兆人分も救うなんて、この階梯宇宙始まって以来最大の作戦ですからね。
階梯宇宙中央神殿の神さまたちも参加したがるかも」
「それは邪魔だから断ってくれ。
でも毎日ミヌエット(のおっぱい)を見てたりしたら、我慢できなくなって襲っちゃうかもしれないぞ」
「望むところだわ♡
でもさすがに任務中に子を生むのはまずいでしょうから、発情抑制措置の代わりに妊娠抑制措置だけはしておくわね♡」
(うふ、ヒト族の男性が喜びそうなエッチな下着もたくさん買っておこうっと♪)
(あー、なかなか有意義な任務になりそうだな……)
「ところでさっき、依頼事が2つあるって言ってたよな。
もう1つはなんなんだ?」
「歴史改編の超重大任務に比べれば実に小さな話なんですけど。
あなたには2日後に銀河系銀河第28象限の神界支部に出頭するよう指示が出てるでしょ」
「ああ、新たに第28象限の中級天使管理官になったポークとかいう豚人族の奴が、一族の手下を使って俺を解任した上で俺の預金を横領しようとしてるんだろ」
「さすがね、もう調べは終わってるのか。
それでお願いというのは、彼らの言うがまま解任されて欲しいのよ。
その後すぐに神界銀河系支部の司法機関がポーク一族を逮捕する用意は整っているから。
あとは実際にあなたを解任したという事実が必要なだけなの」
「了解した。
そいつら多少煽ってもいいんだろ?」
「ふふ、『挑発』レベル300のあなたに本気で煽られたら堪らないでしょうね♪」
「それにしてもそいつら俺の実情を知らないのか?」
「彼らにはあなたのダミー口座の預金額だけをリークしたの。
そしたらすぐに喰いついてきたんで驚いたけど。
いろいろと悪い噂のある一族なので、銀河系本部もこれを機会に一掃しようとしてるのよ」
「はは、ポーク一族の頭であるジンジャーとかいう奴は、上司に金品を届けまくってようやく第28象限の統括管理中級天使になったんだろ。
だからその立場を利用してカネを取り返そうとしているわけだ」
「その通りね。
それじゃあよろしくお願いします」
「ああ、任せておけ」




