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*** 39 名乗っていいのか? ***



この物語はフィクションです。

登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。

また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。




 


 約1時間後。


「ふう、面倒かけやがって」


「どうでしたか?」


「若けぇ侍が1人、その子分らしき奴らが7人だ。

 手練れはいねぇ。

 たぶん武田方の土豪だな。

 戦利品が無くて焦ってんだろ」


 足軽頭とその手下たち4人は準備を始めた。

 手下たちも黒装束に着替え、頭巾は懐に入れている。


「おい、吹き矢は持って来たか」


「もちろんでさ」


「毒は?」


「いつもの附子をたっぷりと」


(註:附子=トリカブトの毒のこと)


「そうか、俺にも毒を貸してくれ」


「へいどうぞ」


 彼らの吹き矢はご丁寧に先端部分に溝が切ってあり、より多くの毒が乗せられるようになっている。


「若ぇ奴は生け捕りにするから藁縄も目隠しも持っていくぞ」


「へへ、もう背負い袋に入れてまさぁ」


 もはや彼らは完全に暗殺、奇襲のプロ集団である。

 全員が風魔衆の上忍クラス、いやそれ以上かもしれない。

 さすがは僧侶と僧兵1500人以上を襲撃して殺して来た男たちであった。



「そろそろ出るか。

 おい農民兵共、忘れずに騒ぎ続けろ。

 そうすりゃあ奴らはまだお前らが起きてると思って襲って来ねぇだろ」


「「「 へい 」」」



 準備を終えた頭と昔からの部下たち4人は、左手の出口から出て姿を消し、音もたてずに襲撃者に近づいて行った。


(いいか、まず俺が奴らの前方に石を投げる。

 その後は左から順に4人に毒吹き矢を打ち込め。

 打ち込み終わったらすぐに残りの3人を始末し、続けて毒で動けなくなった4人を始末して若侍は全員で押さえつけて縛り上げる)


((( へい )))


 彼らは頭巾を被り、侍たちの後方50メートルほどまでは背をかがめてゆっくりと歩いていく。

 次いでやはりゆっくりとした匍匐前進に移行し、15メートルほどにまで近づいた。

 侍たちは待つのに飽きたのか後方を見やることもしていない。

 頭が石を持った手を上に上げて配下たちを見回した。

 4人が吹き矢筒を構えたまま頷いて応える。

 頭が手を伸ばしたまま大きなモーションで石を放った。


 ガサッ。


 8人の侍が硬直しながら音のした方を見た。


((( ふひゅっ )))


 2発の吹き矢は見事にターゲットの盆の窪に刺さり、残りの2発も後頭部に刺さっている。


((( !! )))


 トリカブトの毒は、体内に入った量にもよるが、十分な量が頭部に打ち込まれた場合には、その瞬間から行動が緩慢になって30秒でほぼ動けなくなり、1時間ほどで死に至る可能性が高い。


 次の瞬間には3人が侍たちに襲い掛かり、やはり盆の窪に槍の先端を差し入れた。

 次いで吹き矢が刺さった男たちにも短槍を突き刺す。

 若侍は頭にぶん殴られて昏倒している。


 男たちは手分けして侍たちの衣服を奪い、若侍は手足を縛りあげて口枷と目隠しもかけた。


「お前ぇはここに残ってろ。

 すぐに農民兵共を寄越すから、寺の裏の畑に穴を掘ってこいつらを埋めるんだ。

 すぐには分からねぇように少し深めの穴でな」


「へい」


 寺に戻った男たちは白湯を飲んで一息ついた。

 裏手からはしばらくザクザクという穴を掘る音が聞こえて来ていたが、それもすぐに静かになっている。

 若侍はその畑の奥に寝かされていた。



「おい、起きろ」


 頭が、両手足を縛られ目隠しもされて転がされている若侍の手を槍で突いた。


「―――っ!」


「お前ぇは誰だ」


「お、お前こそ誰だ!

 も、者共、狼藉者だ! 出会え出会えっ!」


「ばーか、お前ぇの弱っちい手下共はもう土の下だ」


「!!!!」


「名を名乗れ」


「ふ、ふざけるなっ!

 貴様のような奴に名乗る名は無いっ!」


 どかっ! 「ぎゃあっ!」


「もう一度聞く、名は?」


「ふんっ!」


 どかどかどかどかっ! 「うぎゃあぁぁっ!」


「おい、こいつを痛めつけろ。

 だが殺すなよ、ちっと聞きてぇことがある」


「「「 へい! 」」」


 どかどかどかどかっ!どかどかどかどかっ!どかどかどかどかっ!


「う、うぐうぅぅぅ……」


「名は?」


「あ、穴山信懸殿の寄騎、権田信包が一子、信夫だ……」


「なーにが寄騎だよ、馬にも乗ってねぇ徒武士が」


「ぐうっ!」


「ってぇことはただの百姓武士か」


「な、なんだと!

 清和源氏の血を引く権田一族の子息に無礼な口を利くなぁっ!」


「あー、清和源氏さまかよ。

 その末裔がこんなところで足軽相手に略奪品の横取り狙いとは、ご先祖サマも泣いてるわなぁ」


「な、なんだとぉっ!

 き、キサマこそ名を名乗れっ!

 この目隠しも外して顔を見せろ!」


「なあおい、本当に名乗っていいのか?」


「あ、当たり前だ!

 この無礼の報いは必ず受けさせてやる!」


「そうかいそうかい、おい、目隠しを外せ」


「「「 へい 」」」


「俺は原虎胤足軽大将の麾下、足軽頭の仁平だ」


「や、やはり足軽か!

 足軽ごときが武田武士にこのような無礼を働いていいとでも思っているのか!」


「思っているぞ?」


「!!!!」


「それで念のため聞くが、なんでこんなに遅くまでこんなところにいたんだ?」


「そ、それは……」


「たしか穴山殿は先日の軍議で先陣を欲して、複数の武将と共に諏訪大社に突撃していったんだよな。

 それで敵本隊が出て来たもんだから慌てて逃げ回ってたせいで、略奪品が無かったのか。

 だから手柄も略奪品も手に入らずに怒り狂った穴山殿に言われて、お前ら権田一族はこんなところまで来て、略奪品や奴隷として売り飛ばせる諏訪の百姓を探してたってぇわけだ」


「な……」


「それにしてもさすがは原の大将だぜ。

 敢えて左翼奥に俺たちを配置して、敵の主力は阿呆な武士たちに任せたとはよ。

 きっと大将は大きく左に回って敵本体を後ろから叩いたんだろうな」


「な、ななな……」


「お前ぇら侍は見事に足軽隊のために囮になってくれたわけだ。

 おかげで足軽隊はまた手柄も略奪品もたっぷりと得ただろう」


「ぐ、ぐぅぅぅ……」


「さて、もう聞きてぇことはあらかた聞いた。

 お前ぇらはこいつを穴の中に放り込んでから殺し、埋めて来い」


「「「 へい! 」」」


「ま、ままま、待てっ!

 同じ武田の足軽が士分を殺すなどと許されるとでも思っているのかっ!

 は、早くこの縄を解いて俺を解放しろっ!」


「あのなぁ、さっきお前ぇには『本当に俺の名を名乗っていいのか』って聞いたよな。

 あれは『顔を見せて名乗っちまったらお前ぇを殺す他無くなるが、それでもいいのか?』っていう意味だったんだぞ?」


「!!!!!!!!!!!!」


「やっぱり莫迦は死ななきゃ治んねぇか。

 これでお前ぇは奴隷探しの途中で百姓に返り討ちに遭い、行方不明になった単なる阿呆になるわけだ」


「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「おい、口枷をして静かにさせてから連れて行け」


「「「 へい 」」」


(むぐぅ―――っ! むぐぅ―――っ! むぐぅ―――っ! )


「さぁて、子の刻ぐれぇまでもうちっとだけ休むか……」



 仁平たちの振る舞いを見てすっかり震え上がっていた百姓たちは、戦利品として大人しく本陣まで歩いていったそうだ……



 こうした若侍の様子の一部始終を見ていたある士官候補生は思っていた。


(そうか……

 生まれだけではどうにもならないこともあるのだな……

 知恵も力も必要なのか……)



 いやぁ、それに気づけただけでも大したもんだけどさ。

 でも知恵と力をつけるための努力をしなけりゃ今までとおんなじだよ?




 こうして使徒士官学校1期生の実戦参加第1陣の訓練は終了した。

 だが、あの抜群の戦闘力と指揮能力を持つ仁平の隊ですら、参加候補生90人のうち死亡者は30名もいたのである。

(内、戦闘中死亡は11名、残り19名は反抗か逃亡による内部仕置きにて死亡)


 土豪や国人領主の下に配属された農民兵(士官候補生)は、諏訪家本隊から武士たちが逃げる際に囮としての殿しんがりを命じられ、全滅していた隊もあったらしい。


 こうして実戦訓練第1回に参加した士官候補生(のアバター)約1000名のうち、約300名が戦闘時に死亡し、200名が内部の仕置きで死亡した。

 これが平和な神界で暮らして来た神や天使のボンボンたちには強烈なトラウマとなり、ほとんどが特重度PTSDと診断されて士官学校内の精神科病棟に入院することになった。

 残りの500名は生き延びることは出来たものの、全員が敵兵や味方を殺害した経験により、重度のPTSDを患ってしまっている。

 どうも他人を殺した際に槍が体の中に入っていく感触や、相手の断末魔の痙攣が槍を通して自分の手に伝わり、それが残ってしまっているそうだ。

 このために、寝ていても突然悲鳴を上げながら飛び起きるようになり、全員が精神科にて通院治療を続けている。


 ただ、敵や味方を殺害した際に、性的興奮を覚えてしまった候補生もごく少数ながらいたらしい。

 種族保存本能遮断措置下にあって性的興奮を覚えるとはよほどのことだろう。

 彼ら彼女らは、将来の快楽殺人鬼予備軍として一生ナノマシンの行動管理下に入ることになる。




 もちろん実戦訓練の第2弾1000名は、同じ天文10年(1541年)晩秋の時点に送り込まれた。

 同じ時間軸であるために、その後の展開もほぼ同じである。


 こうして士官候補生たちは実戦訓練に行くたびに、その半数が精神科病棟に長期入院をすることになる。

 候補生1万人の訓練が終わると、第1弾の訓練を終えた者たちのうち、入院していない者は再度の訓練に放り込まれたが、こうして3巡もすれば候補生のほぼ全員が入院する状態になるだろう。


 武七郎と武八郎は、次の士官候補生1万名を受け入れる準備を始めており、まもなく追加発注していた人工惑星9基も届くため、追加で9万人も受け入れ可能になる……




「なあ武一郎、この仁平っていう奴やその手下を使徒候補生にスカウトして、士官学校に入れたら面白いんじゃね?」


「いやそりゃあ面白いかもしれねぇけどよ。

 でも『この下賤なヒューマノイドめ!』とか喧嘩売って来た神や天使を皆殺しにしたら、兄貴はどうやってイイワケすんだ?」


「そ、それもそうだな……」



「それにしてもだ兄貴、俺たちの母国である日本の歴史がこんなに酷ぇものだったとはよ。

 あの仁平が言ってた通りほんとに地獄だわ」


「そうだな、俺たちぁもう数え切れねぇほど紛争世界の平定任務を熟して来たけどよ。

 ここまで酷ぇ世界は滅多に見られねぇな。

 しかもこれがありきたりの日常だってぇんだからよ」


「さすがは階梯宇宙有数の暴虐世界である地球の、それも氷期による戦国時代だってぇことか……」


「俺が前世でまだ生きてた頃には、入院のヒマ潰しによく小説なんぞは読んでたけどよ。

 ライトノベルにしても通常ノベルにしても、『戦記物』『戦国時代物』ってぇのは商業ベースに乗るほど人気はあったよな。

 だが集団強盗殺人の結果、『立身出世譚』として財も土地も地位も得た奴を礼賛するようなものばっかしだったし」


「そうだよなぁ、信長だの秀吉だのって常に戦国武将人気ランキングの上位にいるけど、奴らが殺人教唆した結果殺した人数を見れば、明治期と昭和期の周辺国侵略を除いて日本最高の殺人者だもんな」


「まあ、そういう連中の生き方に感情移入して小説を読みたがるってぇのは、日本人の大半がそういう強盗殺人の加害者側の子孫だからってぇこともあるんだろう」


「はは、『俺もご先祖さまに肖り、他人をブチ殺しまくって財を奪ってのし上がりてぇ!』っていう願望昇華のために小説を読んでるってぇことか」

 

「なんにせぇ、そういう殺人によるのし上がり願望を遺伝子レベルで持ってる連中ばっかしの国を平定していくってのは大変だな」


「こりゃあ俺たちも本気マジで対処しなけりゃだ」


「おう……」





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