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*** 31 詐欺の懸念 ***



この物語はフィクションです。

登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。

また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。




 


「ところで武四郎(情報担当)、その詐欺師連中を追跡して確保することって出来るか?」


「へへ、兄貴が俺の弟分を9人用意してくれて、アバターも50万人いるから楽勝だな。

 ただ、上級神とその家宰や侍従長にステルスナノマシンをぶち込む必要があるから、最高神の承認が必要だろうけどよ。

 後は最高神政務庁から各神の神殿秘書AIへの強制命令権だな」


「そうか、詐欺師の身元は不明だけど、必ず上級神や家宰なんかに接触するだろうから、そいつらや秘書AIに網を張っておけば特定出来るのか」


「ついでに神界司法警察と階梯宇宙銀行連盟の協力も必要だ。

 銀河間重層次元ネットを通じた接触でも逆探知の許可が貰えるようにするのと、振込先を把握したと同時に口座と保有者を特定して、その後の資金移動を自動追跡した上で最終的には凍結するためだ」


「わかった、こんど元時間に戻って最高神さまと首席補佐官閣下に伝えて来るわ。

 武四郎も一緒に来てくれ」


「了解」


「なぁ、それで詐欺師連中をとっ捕まえたとして、上級神どもにカネは返してやるのか?」


「それは最高神の判断だな。

 俺たちにゃあ関係無ぇ」


「それもそうだ」


「だが多分、犯罪の罰金として凍結口座のカネはほとんど神界のものになるし、上級神がカネの返還を要求して来たら、神界司法警察は民事不介入なので犯人に対して民事賠償請求を起こせ、って言ってやればいいだろう」


「「「 わはははは 」」」


「っていうことは、士官候補生が全員退学するから、俺たちは地球対策に専念できるか」


「それがよぉ、中央神殿が階梯宇宙の使徒や使徒見習いにこの士官学校のことを告知したんだけどよ。

 中央神殿までの交通費と士官学校の学費は食費衣服費も含めて完全無料だろ。

 それを知って階梯宇宙全域の使徒と使徒見習いがほぼ全員志願して来そうなんだと」


「全員かよ……」


「まあ兄貴は使徒たちにとっては超英雄だからなぁ」


「この階梯宇宙全域で使徒や使徒見習いは何人ぐらいいたっけ」


「たしか10億人ぐれぇじゃなかったか?」


「そんなにか」


「でもそんなに使徒が殺到したら、階梯宇宙の救済任務が停滞しないか?」


「なに言ってんだお前、今の10万倍の時間加速率だったら、士官学校で1万年過ごさせても、元宇宙では40日だろうに」


「あ、そうか。

 だったら10億人受け入れるのも1万年で済むのか」


「兄貴が発注した士官学校用人工天体9基が届けば1000年だし、時間加速を100万倍にすれば100年だ」


「それならなんとかなりそうだな」


「それじゃあ連絡員を派遣して武七郎と武八郎にそう伝えよう」


「「 おう! 」」



「ところで、お前たちに任せていた地球の悪党退治はどうなった?」


「まだ元宇宙に戻って確認してねぇからよく分かんねぇけどさ。

 感触としてはかなり順調だぞ」


「具体的には?」


「まずは秦の始皇帝に侵略を止めろって言ったんだけどさ、どうも『侵略して敵を殺さねば自分が殺される!』っていう強迫神経症を患ってたみたいで全く言う事聞かないんだよ。

 それで『ヒール』で神経症を治してやったんだけど、それでもダメだったんで、秦の周囲を大城壁で囲っておいたわ。

 そしたら予想通り狂ったように内戦始めたんで、将軍や地元豪族は全員ラジオ体操刑に処したんだ。

 あいつらまつりごとイコール戦だと思ってるから、戦してないとアイデンティティーが保てないみたいだな」


「うーん、すぐに戦を止めたいんなら大城壁は有効なんだろうけどさ。

 それだと文明の発展がけっこう制限されるよな。

 だからやっぱり『他人に暴力を振るおうとすると、自動的に30日間のラジオ体操』の方がいいんじゃねえか?」


「なあ武三郎(物資担当)、それ暴力だけじゃあなくって、盗みと脅迫と教唆も付け加えられるかな」


「脳にブチ込むナノマシンの数が多少増えるだけだから可能だぞ」


「そしたらさ、中華帝国相当地域に限定して、『ナノマシン管理』やってみねぇか」


「地域限定なら構わんかもな。

 将来の地球全域管理の実験だって言えば文句も出ねぇだろ」


「「「 やろうやろう! 」」」



「俺、古代中国に対処してて思ったんだけどさ、あの地域って、場所によってものすごくヒューマノイドが違うんだよ。

 種族の違いもさることながら、文化というか文明というか風習というか。

 おなじ犬人族でも東と西でぜんぜん違うし。

 そんな中で20世紀によくあんな中華帝国とかいうデカい国を作ったよな」


「まあ、国がデカいほどトップの自尊心が満たされるからだろうけど」


「だから国家主席をヒーローに祀り上げたり思想教育始めたり少数民族や種族を盛大に弾圧する必要があったんだろう。

 大きすぎる国、多すぎる人口の国の弊害じゃねぇかな」



「なあ、無線も無く、長距離交通手段も無い古代では、国の適正面積ってどのぐらいだと思う?」


「ヒューマノイドが住めないような地を除いて東京都(2170平方キロ)ぐれぇじゃねぇかな。

 産業革命期に入ったら北海道(8万3454平方キロ)ぐれぇとか。

 それ以上広いと統治が難しいだろう」


「鉄道網や道路が整備され始めたら、居住可能地面積は日本相当(約38万平方キロ)ぐらいとか」


「連邦制国家ならもうすこしイケるかも。

 まあソビエトみたいな終身制独裁者を出さないようにする制度も必要だけど」


「そういう意味じゃあアメリカ合衆国なんか頑張ってる方だったよな」


「南北戦争って言う分裂の危機を乗り越えて、対共産主義という名目での覇権主義が収まった後はまあまあの統治してたし」


「ロシアや中華帝国やアフリカの独裁者たちから見ると、不思議でしょうがない国だったそうだな。

 なんでアメリカの大統領は、邪魔する奴らを皆殺しにして自分が終身大統領や皇帝になろうとしないんだろうって」


「「「 ははは 」」」


「ついでに独裁者連中が最も嫌う言葉は『法律』だったそうだな。

『なんで他人の決めた法とかいうもんに、この俺さまが従わなきゃなんないんだ!

 俺が従うのは俺の意思だけだ!』って思ってたからな」


「「「 あははは 」」」



「他の時代、他の地域はどうだった?」


「まずはモンゴル帝国のフビライに『侵略をやめろ!』って言ったんだけど、ワケワカンネェこと怒鳴りながら暴れ出したんだ。

 ありゃあほんまもんのキチガイだな。

 それで息子たちや親族たちが四方八方に侵略し始めたんで、予定通り武五郎に壁を建設してもらったんだ。

 そしたらやっぱみんな閉所恐怖症を発症してついでにフラストレーションも酷かったようで、侵略軍司令官である息子や親族たちはみんな発狂しちまったんだよ。

 それで侵略計画はすべてパーになったんだけど、かろうじて正気を保っていた側近や将軍たちが盛大に内戦を始めようとしたから、10万人ぐらいに草原でラジオ体操させたんだ。

 12の侵略軍から次々に侵略不能って報告を受けたフビライは、怒りのあまり脳の血管切れてヨイヨイになっちまってたわ」


「そうか、大城壁による封じ込めも過激な国にはやはり効果的だったか」


「ということは大城壁とナノマシンコントロールの併用でいいってことだな」


「それにしても不思議だよな。

 中国地域って紀元前の昔からずっと戦乱や無能統治で碌でもない地域だったから、21世紀になってもトンデモな国のままだったろ。

 だけど14世紀にはあれだけ残虐で狂ってたモンゴルは、20世紀後半からはかなり大人しい普通の国になってたよな。

 中華帝国との違いは何だったんだろう?」


「明治期から第2次大戦の終戦までの日本が世界史上でも稀に見る超弩級に狂ってた国だったのが、たった30年ぐれぇでそこそこまともな国になったよな。

 それも何でだったんだろうな?」


「武四郎(情報担当)」


「おう」


「紀元前5000年の時点から100年ごとの地球に36基ずつの観測衛星と、地表にはまばらだけど観測用マシン群を配備して観察を続けてもらってたよな」


「ばっちりやってるぞ。

 AIに詳細な地球史をまとめさせ始めてもいるし」


「そんだけの資料があれば、かなりの研究が出来そうだな」


「はは、階梯宇宙の地球史研究者たちも泣いて喜ぶだろう」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ミヌエットと武四郎を伴って元宇宙に戻ったムサシは、神界中央神殿の最高神と首席補佐官に面談の申し入れをしたが、驚くべきことに即座の来訪許可が出たのである。


「このように早くの来訪許可をありがとうございます」


 首席補佐官は相変わらず無表情のまま言った。


「当然だ、そなたは今1万の階梯宇宙が注目する任務を2つも為しておる」


「それではあまりお時間を取らせないためにも、早速用件を申し上げてよろしいでしょうか」


「うむ」


「まずはこちらが、我々が最近地球で為した作戦の様子です。

 その結果については、重層次元に置いたスタンドアローン・コンピューターと階梯宇宙に残る地球の歴史を比較してご確認ください」


「その比較確認については日々チェックさせて報告を得ている。

 また随分と地球の歴史が変わったようだの。

 もちろんあのような変わり方であれば大いに歓迎する」


「それは良かったです。

 そして、現状での『使徒士官学校』の映像記録ですが、先ほどダイジェストを中央神殿のAIに転送しておきましたので、お時間のある時にご覧ください」


「それは楽しみだ」


 ムサシは背筋を正した。


「それからですね、最高神さまと首席補佐官閣下は今神界の人事改革を計画中だと思います」


「ほう」


「なんでも今後の天使や神の昇格については、『昇格審査の都度薬物検査を実施する』、『上級神昇格に関しては『最低でも神力レベル100以上』、『使徒としてヒューマノイド救済活動1000年以上』、『使徒ランクC以上』を課すようにされるとか。

 それ以外にも初級天使への昇格や初級神への昇格に際しても条件を設けられると」


「むぅ、さすがの情報収集力だの……

 まず我らは神界、天使界に蔓延する薬物汚染に呆れたのだよ。

 加えてそなたの受勲式に参列しておった上級神たちの態度にも心底呆れたのだ。

 神界の存在意義はヒューマノイド世界の安寧に資するためのみである、という大原則があるにも関わらず、そのヒューマノイドに大いなる功徳を齎したそなたを称えるどころかあのような侮蔑や憎しみの視線を向けるとは。

 よってわたしと最高神さまは、神界の神、特に一族を率いる上級神らに再教育が必要だと判断した」


「そうでしたか。

 彼らは努力によって得られるレベルも、使徒としてヒューマノイドに奉仕した経験も無く、有るのは単に生まれつきの階級と年功序列だけですので。

 ですから努力によって得たレベルと奉仕によって得られた功徳プーニャが妬ましくて仕方がないのでしょう。

 その妬みが憎しみにまで至るほどに」


「その通りだろうの……」


「ただ、その政策に関しまして、些か懸念があるためにこうして来訪させていただいています」


「もちろん上級神一派は大勢の一族の若者をそなたの『使徒士官学校』に入学させようとすることだろう。

 だが現職の上級神はとりあえずそのまま据え置きとするために、それほど一気に入学希望者は増えぬと思うが?」


「いえ、そのようなことを懸念しているわけではありません。

 神一族や天使一族を標的にした階梯宇宙の反社会的勢力による詐欺が激増することを憂慮しています」


「詐欺だと?」


「はい、それでは武四郎、説明して差し上げろ」


「はい」


 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


「うむう、そのような悪辣な真似を試みる者がいるというのか……」


「山ほどいるでしょうね。

 彼らはそもそも罪悪感などを覚えることは有りませんし、相手が天使や神ともなればむしろ積極的に行動するでしょう」


 最高神のいつもの微笑もすっかり消え失せていた……





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