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*** 29 1万年 ***



この物語はフィクションです。

登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。

また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。




 


 士官候補生全員(除くランニング中の者、及び慢性アルコール中毒で精神科に入院中の者)が神力を枯渇させて気絶してから3日目。


(もう3日も経ったというのに回復者が1人もいないとは……

 やはり神力レベル4以下の者たちではこの程度だったか)


 4日目の夜になって、ようやく多くの候補生たちが復活し始めた。


『気絶から目覚めた候補生たちに告ぐ。

 30分間の休息の後に隣接するグラウンドに移動し、1時間のランニングを行え。

 その後はまたブースに戻って神力枯渇だ』


「「「 !!!!! 」」」


「あ、あの、教官補佐殿」


『全員に聞かせるために念話で質問せよ』


『は、はい。

 我々はあれほどまでに苦しい思いをしたのです。

 せ、せめて休息は1日、いや半日……』


『必要無い。

 お前たちは4日もの間気絶していたが、その間に体力、神力共に全回復している。

 ただ、筋力だけは落ちているために、それを少々取り戻すためにランニングをするのだ』


『あの、こ、こんな過酷な鍛錬はどれほど続くのでしょうか……』


『お前たちは事前に『使徒士官学校規則集』と共に『訓練計画』を読んだ上で入学申請にサインしたはずだ。

 その訓練計画の内容をもう忘れたのか?』


((( よ、読んでねぇ…… )))


『特別に教えてやろう。

 この神力充填訓練は10回連続で行い、その後1日使って体力回復訓練を行った後、再び10回連続の充填訓練に入る』


『『『 !!!!! 』』』


『む、無理です。

 そんな過酷な訓練には耐えられません!』


『キサマらはその内容を読んだ上で承諾書にサインをしたはずだ』


((( …………… )))


『どうしても耐えられないというのならばこの士官学校を自主退学しろ。

 ただしその場合、キサマらの所属する一族からの入学者は1万年間停止されることを忘れるな』


((( ……あぅ…… )))



『あの、教官補佐殿』


『なんだ』


『わたしのステータスボードには、神術のレベルアップ幅が『0.0001』と出ているのですが、これはどういうことなのでしょうか……』


『もちろんキサマの神力レベルが0.0001上がったということだ』


『と、ということはレベルが1上がるには……』


『そんな計算も出来んのか、当然あと9999回の神力枯渇が必要になる』


『『『 !!!!! 』』』


『あの、あのあのあの、ステータスボードの日付が4日進んでいるのですが、これはわたしが4日間も気絶していたということなのですよね!

 ということは、もしこの鍛錬をずっと続けられたとしても、レベルが1上がるためには……』


『やはりそんな簡単な計算も出来んのか。

 1標準年(=400日)で100回の鍛錬が出来るのだから、100年続ければキサマのレベルは1上がるだろう』


『『『 !!!!!!! 』』』


『厳密に言えば、この充填鍛錬を続けていくと気絶している時間は徐々に短くなってゆく。

 だがその分レベルアップに必要な枯渇回数も多くなっていくので、この程度のレベル帯では100年で1レベルアップというペースはあまり変わらないだろう』


『そ、それでどれほどレベルが上がったらこの士官学校を卒業出来るのでしょうか!』


『それも訓練計画に書いてあっただろうが。

 まあいい、特別に教えてやろう。

 卒業要件を満たすための条件はいくつかあるが、神力レベルは最低でも100が必要だ』


『と、ととと、ということは!』


『必要期間は1万年弱だな』


『『『 !!!!!!!!! 』』』


『だが安心せよ。

 前にも言ったがこの士官学校全体は時間加速10万倍の空間になっておるし、キサマらには老化停止の神術も施されておる。

 よって、たとえこの士官学校で1万年を過ごして卒業したとしても、元宇宙の中央神殿に戻った時には現地時間で40日しか経っておらず、老化もしていないだろう。

 よかったな』


((( …………… )))



『教官補佐殿!』


『なんだ』


『この神石に込めた神力は誰の物になるのでしょうか!』


『むろん充填した者の私有財産になる。

 この原則は階梯宇宙でも士官学校でも変わらない』


『仮にフル充填出来たとして、いくらぐらいで売れるのでしょうか!』


『そんなことも知らんのか、これだからボンボンは。

 階梯宇宙の30センチ級神石標準価格は売値が3800万クレジット(≒38億円)、買値が4000万クレジット(≒40億円)だ。

 この士官学校ではフル充填されている神石は特別に4000万クレジットで買い取ってもらえるぞ』


『そ、そんなに……』


『なにしろフル充填された30センチ級神石が1つあれば、中規模都市のエネルギー需要を3か月は賄えるからな』


『あの、教官殿、わたしのボードには神石への神力充填率0.001と表示されているのですが、ということは1000回の充填を行えば、その神石は4000万クレジット(≒40億円)で買い取ってもらえるのですかぁ。

 それなら1回の激痛と気絶で4万クレジット(≒400万円)稼げるんですね♪

 だったらそんなに悪くない訓練です♪』


『キサマはカン違いをしておる』


『えっ、そ、それではあの0.001という表示はパーセントなんですか!

 ま、まあ、それでも1回当たり400クレジット(≒4万円)ですね。

 年に100回充填出来るとして、年収4万クレジット(≒400万円)ですか。

(註:銀河標準年は24時間×400日)

 ちょっと少ないですが、小遣いぐらいにはなりますね』


『よく見てみろ、0.001という数字の横に『Bp』と書いてあるだろう』


『え、あ、ほんとだ。

 なんなんですかこのBpって……』


『それは『ベーシス・ポイント』の略で、100分の1%のことだ。

(↑本当! 金利などの小さい数字の世界で使われている単位)


 つまりキサマの年収は400クレジット(≒4万円)だな』


『あうぅぅぅ―――っ!』



『いいかげんにしろ!』


『ほう、なかなか元気があるじゃねぇか。

 言いたいことがあるなら言ってみろ』


『キサマたちは我ら高貴な神に100年だの1万年だのと無駄な時間を使わせるつもりか!

 そんなことをしているよりも、秘匿している『容易に神力を上げる方法』を公開せよ!

 これは上級神家嫡孫としての命令だっ!』


『まだそんな世迷い事を言っている奴がいるのか……』


『よ、余迷い事だとっ!

 いいか! 

 我が一族の家長たる上級神閣下が、『間違いなく容易に神力を上げる方法があるに違いない!

 さもなければあのような下賤なるヒューマノイドがレベル600にまで到達して『資源抽出』などという神術を行使出来るはずはない!』と仰っておられたのだぞっ!』


『阿呆な奴だなぁ』


『な、なんだと!

 き、キサマ上級神閣下を愚弄するかっ!』


『阿呆を阿呆と言って何が悪い』


『!!!!!

 き、キサマ、不敬罪で処罰するぞっ!』


『誰が本官を処罰出来るというんだぁ?』


『し、神界中央神殿に申し立てて神界司法警察に捕縛させるのだ!』


『あのなぁ、『不敬罪』は神界基本法で厳重に禁止されているのを知らんのか?』


『えっ……』


『キサマは神界に住む神のくせに神界基本法も知らないのか?』


『あぅ……』


『それに、その警察とやらを50億光年、5万年の時空を超えてここに連れて来るのには、最低でも神力レベル500が必要なんだぞ。

 キサマが連れて来るというのか?』


『う……』


『そんなレベルを持っているのは、この階梯宇宙ではムサシさまとその分身さまたちだけだろうに』


『あぅあぅ……』


『あのな、キサマの一族のトップである阿呆上級神は悔しくてしょうがねぇんだよ』


『く、悔しいだと』


『そうだ。

 下賤なヒューマノイド出身者が自分より遥かに神力レベルが高くて悔しい。

 その下賤者が自分より遥かに圧倒的に裕福なのが悔しい。

 その下賤者が金星勲章を3回、白金勲章まで貰って悔しい。

 自分はひとつも勲章をもらっていないのにだ。

 しかもその下賤者は特別上級神にまで昇格して、自分より階級が上になってしまったのはもう腸が煮えくり返るほど悔しいんだろう。

 だからムサシさまを貶めたくってしょうがねぇんだよ』


『な、なんだと……』


『それで『ノウハウを秘匿している卑怯者だ!』って喚き散らしてるわけだ。

 悔しさのあまり貶めたいから貶めているだけだ。

 典型的な老人性の嫉妬なんだろう』


『な、ななな、なんだと……』


『だから下賤だと思っているヒューマノイドが、どのようにしてそんなノウハウを得られたのか、っていう理性的な疑問はもう持てなくなっているのだ』


『だ、だが偶然発見したとか……』


『この階梯宇宙だけではなく、数兆数京に及ぶ階梯宇宙が数千億年かけて得ようとしてきたノウハウを、たった1人のヒューマノイドが偶然発見したと言うのか?

 それ自分でも無理がある話だと思わんのか?

 もしそれでも言い張るなら、キサマは今すぐ若年性痴呆症の治療を始めた方がいいな』


『うううっ……』


『キサマは、『辛い思いをしたくない』『努力もしたくない』からこそ、そのような老人のたわごとを信じたいんだろうな。

 それは論理的思考によるものではなく、単なる逃避だ』


『あうぅぅぅ―――っ!』





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