*** 28 神力レベルアップ鍛錬 ***
この物語はフィクションです。
登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。
また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。
教官補佐は自分の後ろに続く先頭グループに話しかけた。
「おい、キサマたち、このままのペースで走り続けろ。
本官は後ろを見て来る」
「「「 はい! 」」」
遥か後方では200人ほどが座り込んでいた。
よく見れば全員体重が優に100キロを超えている集団である。
(合計約32トン)
「おいお前たち、なんでこんなところで座り込んでいるんだ」
「も、もう一歩も動けません……」
「走るどころか動くことも……」
「そうか」
その場に人数分のファイアーボールが出現し、座り込んでいる候補生の尻にゆっくりと近づいていった。
「「「 ぎゃあぁぁぁ―――っ! 」」」
「「「 熱い熱い熱いぃぃぃ―――っ! 」」」
「なんだお前たち動けるじゃないか。
ほれほれ、さっさと動かないとまた尻を焼かれるぞ」
「「「 ぎゃあぁぁぁ―――っ! 」」」
もちろん作業服の尻の部分は焼け落ちていたが、女性士官候補生の尻には何故かモザイクがかかっていたそうだ……
候補生たちの尻が本当に黒コゲになってくると、教官補佐は各人の尻に『ロックオン』の神術を設定した後『ヒール』の神術を発動していたが、それがまた尻の痛覚も回復させるため、悲鳴はさらに大きくなっていたそうだ。
先頭集団は2周のランニングを終えたが、ファイアーボールに追いかけられている集団はまだ1周も終えていなかった。
「2周のランニングを終えた者は、シャワーを浴びて朝食を喰いに行け。
その後は一般訓練カリキュラムだ」
「あの…… 教官殿」
「なんだ」
「彼らはいつまで走り続けるのでしょうか」
「言っただろう、2周走り終わるまでだ」
「それでは夜まで、いや夜中を過ぎても終わらないかもしれませんが……」
「構わん」
((( ………… )))
「あの、明日も走るんでしょうか」
「キサマらが卒業するまで毎朝だ」
「それでも彼らが2周走れるようになるには何年もかかるかもしれませんが」
「それも構わん。
この士官学校の訓練計画書にも書いてあるが、ここの空間には『時間加速10万倍』と『老化停止』の神術がかかっている。
よってたとえ100年かかろうが特に問題は無い」
((( !!!!! )))
((( き、気の毒に…… )))
まだ彼らはこれから自分たちがさらに気の毒なメに遭うことを知らない。
8:00を過ぎると、尻コゲ集団の胃には細かく刻まれた食料と水がゆっくりと転移されていった。
また、もしその場で失禁脱糞していたとしても、すぐに『クリーン』の神術が降りて来て綺麗な状態になっている。
だがまあ、こうした(本人にとって)激しい運動をしていると、尿はほとんど出ないものであるが。
筆者は以前『南アルプス主脈全山縦走』と称して、夜叉神峠から光岳まで12日かけて縦走したことがある。
(鳳凰三山、甲斐駒ヶ岳、仙丈ヶ岳、三峰岳、北岳、間ノ岳、農鳥岳、塩見岳、悪沢岳、赤石岳、聖岳、茶臼岳、光岳)
単独行、テント泊、食料燃料持参、垂直標高差累計1万1千メートル(←チョモランマの標高より遥かに高い)
その間、尿は朝イチと就寝前にしか出なかったのだ。
たぶん行動中には、老廃物は尿ではなく汗として出て行ってしまっていたのだろう。
(水は1日に5リットルほど飲んでいたので水分不足はない)
その代わりかどうか、最後の方には服すべてと帽子が尿臭くなって閉口したが……
真夏とはいえ標高3000メートル近い場所では湧き水の温度も10度以下である。
そんな冷水では顔を洗うだけで手が悴んで動かなくなって来るのだ。
服を洗ったりすれば手が激痛に見舞われる上に、乾かす場所も無いのである。
閑話休題。
12:00になると尻コゲ集団の胃にまた食料と水が転移された。
途中15:00と最後には18:00にも。
そうして、19:00になると、各人に軽度の『ヒール』がかけられて(筋挫傷が治る程度)、それぞれのテントに戻されていったようだ。
ムサシも意外と優しい(?)のである。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ランニングと朝食を終えた集団は、体育館のような場所に集合した。
そこにはベッドのある小さなブースが無数に存在している。
「さて、キサマらにはこれより『神力レベル』アップのための鍛錬を行ってもらう」
「「「 おお! 」」」
「各人このブースに1人ずつ入り、中に表示されるステータスボードを見て現時点での自分の神力レベルを確認せよ。
その後はベッドサイドにある30センチ級の空の神石に手を当て、自分の体内にある神力が枯渇するまで神力を注入するように。
ただ、この神石には神力吸引の効果がかかっているので、無理に神力を放出する必要は無い。
質問は?」
「この士官学校では神術の行使は許されていないのではないでしょうか」
「この空間に於ける神石への神力注入のみ許可されている」
「あの、教官補佐殿、なぜ体内の神力が枯渇するまで放出するのでしょうか。
半分程度の放出ではダメなのですか?」
「確かに半分程度の放出でも神力レベルは上昇する。
キサマらは日々生きていく上でも無意識に身体強化やインベントリなどで神力を使っておるからな。
そうでなければ現時点でキサマらの神力レベルがゼロではないことの説明がつかないだろう。
キサマらが『今日は疲れたな』と思うときは、半分以上が神力の減少による疲労感だ」
「なるほど」
「だが、神力を半分放出する程度では神力レベルはほとんど上がらない。
キサマらの神力レベルが全員4以下であるのがその証拠だ。
今まで生きて来て毎日無意識に神術を使っていてもその程度のレベルでしかないからな」
((( ………… )))
「だが体内の神力を枯渇するまで放出すると、神力レベルが飛躍的に上昇することがわかっている」
「そ、それがムサシ教官長殿があそこまで神力を上げるために発見されたノウハウなのでしょうか!」
「いや違う。
体内の神力を枯渇させるまで放出すると神力レベルが飛躍的に上昇するという事は、もう何十億年も前から神術研究者の間では常識になっている」
((( ………… )))
「で、ですが教官補佐殿、噂で聞いたところでは、体内の神力をゼロになるまで放出すると、凄まじい激痛の中で嘔吐が続き、挙句に数日間も気絶してしまうというのですが……」
「それは事実だ」
((( ……………… )))
「そ、それでは数日間も気絶して時間を無駄にすることにより、却って効率が悪くなるのでは!」
「キサマら程度のレベル帯に於いては1回の神力全放出と気絶によるレベルアップは、毎日激しい運動を続けた場合の約3年分に相当することがわかっている」
「「「 !!!! 」」」
「ならば数日気絶していたとしても、十分に効率的だろう」
「あ、あの!
神力の枯渇と同時に『ヒール』をかけて貰えば激痛も嘔吐感も受けなくて済むのでは!」
「その場合には神力のレベルアップはゼロであることもわかっている。
神力とは、筋力と同様に自力で修復される過程で強化されるのだ」
「「「 !!!!! 」」」
「で、ではなにかその苦痛と嘔吐を避けるノウハウは!」
「それとももっと手っ取り早くレベルを上げる方法は!」
「神界が総力を挙げて研究すればきっともっと楽なノウハウが!」
「既に神界はここ数十億年の間、その研究に最高の研究者をのべ数億人も投入して来た。
この階梯宇宙だけでなく、数兆に及ぶ親宇宙に於いても同様の研究は行われている」
「「「 !!! 」」」
「研究者のほとんどは、そうしたノウハウを見つけて名声を得よう、そのノウハウで自分のレベルを上げて長い寿命と共に昇進を勝ち取ろうという動機で研究を続けていたそうだ。
だが誰一人としてそのようなノウハウを発見出来ず、失意と後悔のうちに寿命で死んでいったのだな。
もしくは絶望のあまり自殺するとか」
「「「 !!!!!! 」」」
「キサマらも希望するならば、この士官学校を卒業もしくは退学して神術研究者の道に進むのもよいだろう。
ただし、その場合でも最低でもレベル100まで神力を上げた経験が必要になろう。
神力レベルを上げた経験の無い者に、神力レベルを飛躍的に上げるノウハウを研究することなど不可能だろうからな」
((( ……………… )))
「それでは各人指定されたブースに入れ」
『各人ブースに入ったな。
ブース内のステータスボードには、今のキサマらの神力レベルが小数点以下8桁まで表示されているので確認せよ。
30センチ級の空神石の充填率も表示されているはずだが、現時点では無論ゼロである。
それでは神石に手を置いて、神力の充填を始めよ!』
「「「 うわっ! な、なんだこれっ! 」」」
「「「 し、神力が吸い取られるっ! 」」」
「「「 ぎゃあぁぁぁ―――っ! 」」」
「「「 痛い痛い痛いぃぃぃ―――っ! 」」」
「「「 おえぇぇぇ―――っ! 」」」
「「「 ゲロゲロゲロゲロ…… 」」」
各ブースではすぐに『クリーン』の神術が発動され、糞尿を含む汚物は全て綺麗に消え失せていた……
また、バイタルチェックも行われて必要な者には救護措置も取られ、もちろん各人の胃には暫時流動食が転移されている。
「ふむ、全員順調に気絶したようだな。
後は何日後に復活するかということか……」