*** 25 禁止薬物 ***
この物語はフィクションです。
登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。
また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。
そこは一辺が30メートルほどある何もない部屋だった。
「さて、これより検査を行う。
キサマらは1名ずつ順番に部屋中央にある印のところに立て」
最初の士官候補生が部屋中央に立った。
ガラガラガラガラ……
「「「 なっ…… 」」」
「なんだこの私物の山はっ!」
その場には、広い部屋が埋まるほどの雑多な私物が散乱していた。
その中には稼働停止中のセクサロイドまで2体ある。
「なんだこれはぁっ!」
「ぼ、ボクのマリンちゃんとムリンちゃんに触るなぁぁぁ―――っ!」
バリバリバリバリ! ド―――ン!
「ぎゃあぁぁぁ―――っ!」
プスプスプス。
「『士官学校内への私物の持ち込み禁止』と規則集に書いてあっただろうがっ!
これらは全て没収する!」
「ええええ―――っ!」
「安心しろ、キサマが無事士官学校を卒業出来ればこれら私物は返却される」
「うっ、うううう―――っ!」
「あ、あの、教官補佐殿……」
「なんだ」
「なぜ彼が重層次元倉庫に入れていた私物がすべて外に出て来てしまったのでしょうか……」
「士官学校規則集に『士官学校内では、特別な許可の出た実習中以外では神術の使用は停止する』とあっただろう。
神術が使えないのならばインベントリに入れていた物がすべて出てくるのは当然だ」
「「「 !!!! 」」」
(な、なぁ、俺たちとんでもねぇ書類にサインしちまったのかな……)
(あ、ああ……)
いや士官候補生諸君、もっともっととんでもない規則があるよぉ♪
「次の候補生中央へ!」
この男は調査部門次長の息子だった。
ガラガラガラガラ……
「なんだこの酒瓶の山はぁっ!」
「あの、わたしがいつも飲んでる酒です……」
「士官学校内での飲酒は禁止されておると言っただろう!」
「で、でも俺、酒無しで2時間過ごすと手が震えて来るもんで……
特別に飲酒許可って出ませんかね?」
「出るわけが無かろう!
この酒は全て没収する」
「ううううううっ……」
「次の候補生中央へ!」
ウウウーッ! ウウウーッ! ウウウーッ!
その場に8体の警備ドローンが出て来た。
「警備兵!
この者の体内から禁止薬物が検出された!
全ての私物とともに、この容疑者を神界司法警察の取調室に転送せよ!
私物の中にも禁止薬物とみられるものが大量にあるので注意して扱え!」
「「「 はっ! 」」」
容疑者も私物も全て消えた。
因みにこの候補生も調査部門長の嫡孫である。
本当に調査部門関係者には碌な奴がいないようだ。
「あの…… 教官殿、何故彼が禁止薬物を使用していることがわかったのでしょうか……」
「『詳細鑑定』の結果だ」
「あの、本人の同意を得ない鑑定神術の行使は神界法で禁止されているのでは……」
「その法は士官学校内では適用除外である」
((( ………… )))
その日の夕方、神界上級神の邸宅が並ぶ一角には、神界司法警察の捜査官たちの姿があった。
「我々は神界司法警察の捜査官で、こちらが捜査令状です。
この邸の責任者を呼んでください」
「た、ただいま……」
「な、なんだキサマラは!
このワシを神界調査部門長である上級神と知ってのことかぁっ!」
「はい、知っています」
「なっ!」
「あなたの孫は、本日使徒士官学校に入学した際の検査で体内から厳重禁止薬物が検出されると共に、インベントリ内にも大量の禁止薬物を所持していました。
よって、神界裁判所の捜査令状に基づき、これよりこの邸内の家宅捜索を行います」
「わ、わしは上級神だと言っただろうがっ!」
「上級神さまだろうと最高神さまだろうと、裁判所の捜査令状を持った捜査官の捜査は妨げられません。
それでは捜査を開始します」
ウウウーッ! ウウウーッ! ウウウーッ!
「警官ドローン、この者の体内に禁止薬物反応があった。
この容疑者を逮捕して神界裁判所の留置場に転移させよ」
「「「 はっ! 」」」
「ま、ままま、待てキサマ!
上級神の不逮捕特権を忘れたか!」
「それは上級神会議開催中のみの特権です」
「!!!」
「それに、司法裁判所での精密検査であなたの体内に禁止薬物の存在が確認されれば、あなたの神格は直ちに停止され、裁判の結果によっては神格そのものが剥奪されますので、不逮捕特権ももはや意味は無くなるでしょう」
「!!!!!!」
上級神が警官ドローン2体と共に消えた。
「それではこれよりこの邸内にいる上級神の親族、一族、従業員ら全員の捜査を始めます」
「「「 !!! 」」」
「あらかじめ申し上げておきますが、この邸は周囲を遮蔽フィールドで封鎖済みですので逃亡は不能です。
それでも逃亡を試みた場合は公務執行妨害と見做され、それだけで逮捕要因となりますのでご注意ください」
((( ……あぅ…… )))
この上級神邸では、上級神本人に加えて直系一族20人、親族40人、そして従業員にも15名の逮捕者が出たそうだ。
こうして、使徒士官学校入学前検査により、芋づる式に200人の上級神、300人の上級天使、それらの一族郎党などが5000人以上も逮捕されたとのことであった……
あまりの事態に最高神さまも頭を抱えておられるそうだ。
また、この事件は神界に激震を齎したが、その余波として使徒士官学校への入学願書が大量に取り下げられたため、それらの神や天使たちの邸にも神界司法警察の一斉捜査が入った。
これにより、さらに数千人の逮捕者が出たそうである。
(階梯宇宙の技術力により、厳重禁止薬物使用者の体内からの薬物検出は、たとえ使用から百年経っていても可能だそうだ……)
また、逮捕者たちの証言により禁止薬物販売ルートの多くが明らかになり、神界の要請を受けた階梯宇宙銀河間連絡協議会の命令によって販売ルートの一斉摘発も行われた。
さらには材料となる植物を栽培していた恒星系、その植物から薬物を抽出する工場群のある恒星系も徹底的な摘発を受けたとのことである。
どうやらいくら社会や科学が発達しても、このテの薬物犯罪は後を絶たないらしい……
私物を全て没収され、検査も無事終えた1万人弱の士官候補生たちは、約1千人ずつの中隊に分けられて、士官学校より支給された衣服に着替えさせられた。
「き、教官補佐殿、余、い、いやわたしは上級神を筆頭とする一族で、わたし自身は初級神なのですが……
なぜここにいる全員がこの同じみすぼらしい作業服を着なければならないのでしょうか……」
「士官学校に於いては神、天使、ヒューマノイドの区別は一切無いと士官学校規則集に書いてあっただろう。
キサマもそれに納得して承諾書にサインしたはずだ」
「えっ……」
「それではこれよりキサマらに『種族保存本能停止』措置を施す」
「なんでそんなことするんだよ!
神権(人権に相当する神の基本的権利)侵害だろうに!」
バリバリバリバリ! ド―――ン!
「ぎゃあぁぁぁ―――っ!」
プスプスプス。
「丁度いい機会だ。
記憶力の無いキサマらにもう一度教えてやる。
基本的にキサマらには、緊急時以外教官や教官補佐に自由に話しかけられる権利は無い。
質問があるときには、手を挙げて『教官殿!』もしくは『教官補佐殿!』と声を出し、許可を得てから発言するように」
「こ、この野郎、初級神の俺さまになんてことしやがる!」
バリバリバリバリ! ド―――ン!
「ぎゃあぁぁぁ―――っ!」
プスプスプス。
「も、もうたくさんだ!
こ、こんな学校辞めてやる!」
「ほう、それは助かる」
「えっ……」
「なにしろこの使徒士官学校の入学希望者は今現在30万人もいる上に、これからも増え続けるだろうからな。
キサマらが自主的に辞めてくれれば、我々もその分早く本来の任務に戻れてありがたい。
なにしろ我々は、現在1万の階梯宇宙館に跨る重大任務を続行中であり、キサマらの面倒など見ているヒマは本来無いのだ」
「「「 ………… 」」」
「わ、私は別の階梯宇宙から留学生として送り込まれたエリートだぞ!
その私がこの学校に不満を持って辞めれば、階梯宇宙間の外交問題になる!
それでもいいのか!
留学生の特別扱いを求める!」
バリバリバリバリ! ド―――ン!
「ぎゃあぁぁぁ―――っ!」
プスプスプス。
「ったく、発言する際にはまず『教官補佐殿』と呼びかけて発言の許可を待てとさっき教えたばかりだろうに。
だが特別に教えてやろう。
キサマが所属する階梯宇宙の最高神閣下より、『我が階梯宇宙からの強い要請により留学生を受け入れてもらえることとなった。よって我が留学生が貴階梯宇宙の士官候補生と同じ扱いを受けることについてクレームは一切申し出ない』というサイン済みの念書を受け取っておる」
「えっ……」
「よってキサマが自主的に退学したとしても、我々が困ることは一切ない。
困るのは最高神閣下の面目を潰したキサマの方だろう」
「げぇっ!」
「また、我々は規則集だけでなく、学校運営に関しても真摯に検討して来た。
もちろんその方針も最高神さまのみならず、各階梯宇宙の中央神殿に了承を頂いている。
その運営方針が気に入らずに自主退学が行われた場合、また不品行による強制退学が行われた場合、その階梯宇宙からの留学生受け入れは当面の間停止されるので、さらに入学希望者が減ってありがたい」




