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*** 22 士官学校規則集及び訓練計画 ***



この物語はフィクションです。

登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。

また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。




 


「もちろん我々は『手軽に神力レベルを上げる方法』も模索し続けた。

 当時も最高神に就任した後も。

 だが、1億年近くも模索したにも関わらず、わかったことは『そのような安易な方法は無い』ということだけだったのだ」


「はい」


「そなたも知っての通り、神力レベルを大きく上げる方法は、体内の神力を使い果たし、激痛と嘔吐感に耐えた後、数日間気絶する以外に無い。

 神術のレベルは神力を使用するだけでも多少は上がるが、枯渇させた場合には飛躍的に上がるからの。

 しかもその際に、麻酔や『痛覚遮断』などを使うと一切レベルは上がらぬ」


「仰る通りです」


「はは、そなたのレベルが600を超えたと初めて聞いた時には眩暈がしたぞ。

 1000を超えた時にはそなたの正気を疑ったものだ」


「ははは」


「だが、レベル500を超えたころになると、レベルが極めて上がりにくくなる代わりに、『気絶耐性』のスキルが生えて来て、痛みは変わらないものの、気絶時間は短くなっていくというのは本当か?」


「ええ本当です。

 今では枯渇させても痛みはそのままですが、嘔吐感ほとんどありませんし、気絶もしなくなりました。

 ただし、気絶していないということは体内の神力が復活していないということになります。

 ですので数日間の静養で神力の復活を待たねばなりません。

 実際にはこの回復期こそがレベルを上げているようですね。

 よって、神力回復用の神石さえあれば、いくらでも鍛錬が続けられます。

 まあ言ってみれば、それこそがノウハウですかね」


「なるほどの。

 ただ、当時は我らもレベルを600にまで上げられれば、『資源抽出』などという恐るべき神術が行使可能になるとは夢にも思っておらなんだわ。

 何の役にも立っていない放浪惑星や小惑星を資源の山に変えられるとは……」


「ええ、如何なる物体もたった140しかない元素で構成されていますからね。

 元になる元素さえ潤沢にあれば、それら元素を合成して食品を含む化合物を作り出す技術は十分に確立されていますので」


「その発想と言い、実際に神術を作り上げてしまう能力と言い、まさに天才だの……」


「実はレベルがまだ低い頃から『資源抽出』を試みていたんですが、やはりレベルが足りずにさんざん激痛と気絶を繰り返していたんです。

 それでおおよそレベル600に至れば『資源抽出』が可能になるという目途も立っていました。

 だからこそあの苦しい鍛錬に耐えられたのだと思います」


「それにしても膨大な時間がかかったと思うが」


「神力の回復にはもちろん自分が充填していた神石も使えるのですが、充填と注入にはどうしても1割ほどのロスが出ます。

 ですので休養時間は必要になりました。

 高価な神石を大量に購入しておけばその時間も節約出来ますけど。

 そのためにレベルが600を超えて『資源抽出』の神術を使えるようになり、資金を得られるまでは、休養の時間をかなり必要としていました。

 ただ、その間神術発動訓練や肉体の鍛錬も出来ましたので、それほど無駄な時間ではありませんでしたけど」


「……そなたさえよければ、現時点のレベル1200に至るまで、時間加速空間でどれほどの期間鍛錬を続けていたのか教えてもらえまいか……」


「レベルが800を超えたころになると、神力枯渇によるレベルアップの効率がさらに落ちますので時間はよりかかるようになります。

 まあ正確に測っていたわけではないのですが、主観時間にしてのべで80万年ほどでしょうか。

 その間およそ2億回の神力枯渇を経験していたと思います」


 最高神がソファに背を預けた。


「ふう、やはりそなたはどこかに狂気を秘めているのかもしれぬな……」


「ははは、わたしもそう思います。

 或る程度神石が溜まると自分専用の時間加速空間を作っていましたが、『資源抽出』が出来るようになって資金が潤沢になったので、加速スケールを1億倍にしていましたから、客観時間は大して経過していません」


「そうか……」


 オーディン首席補佐官は眉間の皴をますます深くし、ミヌエットちゃんは涙目になって震えていた……



「ところでその使徒訓練所への参加希望者は何人ぐらいいるのでしょうか」


「今のところこの階梯宇宙では20万人ほど、チャイルドユニバースからは10万人ほど、複数のマザーユニバースからも1万人ほどだの」


「そんなにいますか……」


「しかもこれは今現在の数字での。

 これからはさらに増える可能性もある」


「その希望者たちの階級構成はどうなっていますか?」


 首席補佐官閣下が口を挟んだ。


「3割が初級神、残り7割が初級天使だ」


「ということは、ほとんどが上級神たち一族の若者や、眷属である天使族の若者ですか」


「そうなるな」


「ひょっとして、上級神たちが自分の威光を高めるために、一族や眷属に参加を強要しているとか」


「そういう面も大きいが、志願者たちも自分の出世のために希望しているとみられる」


「そのうち使徒経験者はどのぐらいいますでしょうか」


「ほとんどおらんだろう。

 天使族はヒューマノイドから使徒見習いをスカウトすることはあっても、最近では自ら使徒となることはせんからな」


「ということは、『特別使徒養成所』を卒業しても使徒になる気は無いということですね。

 別の言い方をすれば、彼らにとっては『金儲けノウハウ取得所』『箔付けの場』ということですか」


「その通りだ」


「ヒューマノイドの現役使徒や使徒見習いの割合はどうなっていますか?」


「ほとんどおらん。

 まだ使徒訓練所の詳細も明らかになっておらんし、銀河間連絡協議会も正式な通達を出していないからだろう。

 訓練費用も訓練期間も明らかになっていないからな」


「その訓練費用や訓練期間については、神界中央神殿はどうお考えですか?」


「すべてそなたの判断に任せようと考えておる。

 費用の予算措置もなんとかしよう」


「ということは、訓練内容もわたしが決めてよろしいのですか」


「もちろんだ。全面的に任せる」


「ふう、それでは単刀直入にお聞きします」


 ムサシの目が力を帯びた。


「この養成所は、第2のムサシを養成しようとする場所でしょうか。

 それとも神族や天使族のボンボンたちにお遊戯を教えて卒業証書を渡してやるだけの場所なのでしょうか」


 最高神がムサシの目を見返した。


「その問いには最高神として責任をもって答えよう。

 もちろん第2のムサシを養成しようとする場所だ」


「それをお聞きして安心しました。

 適当に教えてやって卒業証書を渡してくれということなら、本当にダンスでも教えてやろうかと思っていましたので」


「はははは。

 そなたは今極めて重要な任務中でもあることだ。

 そのそなたにダンスの講師をさせて時間を取らせるわけにはいかんの」


「それではこれをご覧いただけますでしょうか」


 ムサシは最高神と首席補佐官に数ページの紙束を2つずつ渡した。

 表題には『使徒士官学校規則集(案)』及び『訓練計画(案)』と書いてある。


「ははは、もうこのような物まで用意しておったか」


 最高神は微笑みながら読み出したが、首席補佐官の表情はどんどん険しくなっていった。



「ふむ、委細承知した。

 このまま正式な規則と訓練内容としてくれ」


「それでは恐縮ですが、こちらの規則集に最高神さまと首席補佐官閣下のサインをお願いできますでしょうか。

 それをコピーして学生たちに渡してやりたいと思います。

 その後、志願者にもサインさせましょう」


 最高神が相変わらず微笑みながらさらさらとサインを書いた。


「そうそう、この規則集と訓練内容を公式の決定として神界広報にも載せておくかの。

 もちろん誰も読まんだろうが。

 ついでにチャイルドユニバースの各中央神殿にも送り付けて、当地の最高神たちのサインも要求することとする」


「助かります。

 そうして頂ければ後で『聞いていなかった』というクレームも封じることが出来ますので」



 首席補佐官がムサシの顔を見て口を開いた。


「いくつか質問させてくれ」


「どうぞ」


「この『使徒士官学校設置場所は5万年前の地球近傍重層次元とする』というのは、候補生を実質隔離するということなのだな」


「はい。

 まあ現在の階梯宇宙と過去の地球を行き来出来るのは、今のところ私と分身たちとその同行者だけですので」


「ふむ、ということは、生徒の一族や、その後ろ楯である上級神などは一切干渉できず、候補生に連絡すら取れないということか」


「はい。

 加えて地球上での戦争参加体験も容易でしょうから」


 補佐官閣下がムサシの顔をまじまじと見た。


「もうひとつ確認したい。

 学生に死者が出る可能性はあるか」


「いえ、死ぬ可能性がある実戦訓練の際には『完全接続アバター』を使用しますので、たとえ現場で殺されたとしても、本人は無事です。

 精神接続をしているアバターが激痛の末に殺された衝撃で廃人同様になる者もいるかもしれませんが、士官学校の時間加速空間内にある精神病棟で、主観時間50年も過ごせば社会復帰出来るようになるでしょう」


「如何な階梯宇宙の医学力と雖も、後天的精神疾患や重度トラウマの治療には長い時間がかかるからの。

 まあ致し方ないか」


「はい」


「ただ、一度に1万人を受け入れる予定の士官学校の空間に時間加速10万倍を施すエネルギーのコストや、『完全接続アバター』はかなり高価だろう。

 のべで30万人の学生を受け入れるとして、予算見積もりは如何ほどになるか」


「費用に関してはわたしがすべて負担します。

 一般ヒューマノイド使徒や使徒見習いが入学を希望する場合には、彼らの住居から中央神殿までの交通費も含めてです」


「それでは神界土木部に、あと100個ほど無生命放浪惑星を確保するよう伝えておこう。

 それで足りるか?」


「恐縮です。

 わたしの予想では、1期生1万人の様子を知れば残りの志願者たちの50%が入学を辞退するでしょうし、その後も神や天使の志願者は急速に減っていくでしょうから十分足ります」


「はは、なるほど」


 首席補佐官閣下もサインをした。



「ところで、調査部門が5万年前の地球救済任務に於いてそなたを監督するために同行させろと要求したが、そなたはそれを『同行したいのなら自力で時間遡行してくれ』と言って相手にしなかったそうだな。

 調査部門長が激怒しながら私からそなたに命令するよう申し入れて来たぞ」


「はは、そもそも彼らは俺を監督するために同行を要求したのではないんですよ」


「ほう」


「調査部門のトップである上級神は、わたしがレベルを上げたのは何か特別な方法があると未だに信じ込んでいます。

 ですからわたしの任務行動にイチャモンをつけて、『告発されたくなかったら、そのレベル上げの秘密を教えろ』と仄めかしたいんですよ。

 つまりあの上級神やその側近たちは、わたしが『抽出』で資産を得たのを知っているために、貪欲に目が眩んでいるわけです。

 わたしたちの情報担当である武四郎も、『神界調査部門だけは絶対に信用するな』と言っていますし」


「よくわかった。

 それでは私からも、『監督するなら監督対象と距離を置くために別経路でゆけ』と言っておく。

 そのためにレベル500以上が必要ならば、まず調査官を使徒士官学校に入学させよとでも言うか」


「ははは、ありがとうございます」





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