*** 13 アレクサンドロス王 ***
この物語はフィクションです。
登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。
また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。
「ところでムサシとやら、そこにいる我が護衛たちは何故宙に浮いているのだ」
「これは俺の使徒としての力だ。神術という」
「そうか……」
(なんと凄まじい力だ。
この力をさらに多くの敵に放つことが出来るのであれば、いかなる戦にも勝てるだろうな……)
「さて、神界とは宇宙を管理する者とのことだが、宇宙について説明してくれ」
「この地でも昼には太陽が輝いているだろう。
まあ太陽が輝いているから昼なんだが」
「ふむ、昼と夜があるのはなぜか」
(はは、知的好奇心も旺盛か)
「立ち話もなんだから座って話そう」
ムサシが手を振ると、その場に豪奢なソファセットが出て来た。
エウメネスのために机と椅子も出してやっている。
プトレマイオスは仰け反っているが、アレクサンドロスの目は輝いていた。
(はは、けっこう肝も座ってるか。
さすがは地球史上最強と言われる戦争家だな)
「座って話そう。
また、兵たちには聞かせられない話もあるために、この場を遮断する」
ムサシやアレクサンドロス王たちを囲むやや色のついた遮蔽フィールドが出て来た。
同時に兵たちのざわめきが途絶える。
「この壁はなんだ」
「遮蔽フィールドという。
音を遮るものだが、音だけでなく誰も入って来ることは出来ない。
後で試してみればいいが、武器でも破壊出来ない」
「このソファはどこから出した」
「俺の個人倉庫からだ」
「そこからは武器も出せるのか?」
「出そうと思えば出せるが、武器で戦うのは俺の流儀ではない。
俺は常に素手で戦う。
俺たちの言葉でこれをステゴロという」
「そうか……」
「昼と夜があることについてだが、まず太陽は丸いだろう。
あれは円盤状なのではなく球体だ。
夜空に輝く月も丸いがあれも球体であり、この大地すべては地球という名の星の上にあるが、地球もまた球体だ」
「球の端の方にいる者は落ちないのか」
「我らは重力という力でこの地球に押さえつけられている。
つまり地球のどこにいても、地球の中心に向かって押さえつけられているので、どこにも落ちたりはしない。
加えて地球は相当に大きいので自分が端にいるのかどうかもわからない」
「その大きさは?」
「あんたらは1日にどれぐらいの距離を歩ける?」
「そうだな、200スタディオン(≒38キロ)と少しだな」
「ならば地球を歩いて1周するには1000日かかるだろう」
(むう、先生の推測ではもう少し小さいはずだったが、そんなに大きいのか……)
「アリストテレス先生が言うには、遠くにいる船は帆柱の先しか見えないが、近くに来れば船体も見えるようになる。
それがこの大地が丸い証拠だというが、やはり先生は正しかったのだな」
「そうだ、アリストテレスといえば2300年後でも有名な学者だからな」
「なぜそう言える」
「俺はこの星で約2330年後に生まれたからだ」
プトレマイオスはまたも仰け反ったが、アレクサンドロスはやや顔が強張っただけだった。
武九郎は興味深そうにムサシの顔を見ている。
(兄貴は随分とこの男が気に入ったようだな……)
「その後俺は天使に見出されて神界のために働くようになった。
神界のために働き始めてから5万年になる」
プトレマイオスはさらに仰け反り、アレクサンドロスの目は見開かれた。
(やはり……)
「それで話の続きだが、地球は太陽の周囲を廻っているが、同時に地球は自分でも廻っている」
「なぜ廻っているのだ」
「詳しく話せば長くなる。
また機会があれば教えてやろう」
「そうか!
我らがいる場所が太陽に向いていれば昼だが、地球の反対側にいる者にとってみれば、太陽が地球に隠されているので夜なのだな!
そして我らがいる地球が廻っているために、昼と夜が交互にやってくるのか!」
「その通りだ」
「月が丸くなったり欠けていったりするのは、球体に太陽の光が当たっているのをいろいろな角度から見ているからか!」
「それもその通りだ」
「うむぅ」
(はは、やはり理解力も高いか)
エウメネス書記官は必死でペンを走らせている。
「そして夜空には無数の光の点があるだろう」
「ああ、数え切れぬほどあるな」
「あれはすべてこの星を照らす太陽と同じ太陽だ。
そして、それら太陽には、この地球と同じように太陽の周りを廻る光っていない星があり、お前たちのようなヒューマノイドがいる星もある。
宇宙とはそれらすべての星々がある空間のことを言い、神界とはその全部の星を見守っている存在だ」
「見守るだけか」
「いや、それらの星の内、この地球のように生命がいる世界に大きな飢饉が起きた時などには、神界からの要請で俺たち使徒が助けに向かう。
大きな戦があれば、それを止めに入ることもある」
「その使徒がなぜ今ここに来た。
このマケドニアの地では大きな飢饉は起きておらんし、コリントス同盟が成されたおかげで戦も静まっているぞ」
「今は大丈夫だ。
だが、今から約2350年後、この星のヒューマノイドは星全体を覆う大戦争を起こして滅んでしまうんだよ」
今度はさすがのアレクサンドロスも仰け反った。
「わ、我らの子孫が死に絶えるというのか……」
「お前たちのようなヒューマノイドだけではない。
全ての生き物も死に絶え、この星は命の無い死の星になってしまうんだ」
「いったいどうやったらそのような大戦争が起こせるというのだ……」
「残念だが、その詳細を教えることは許されていない。
ただ、ある鉱物を掘り出し、たいへんな手間と時間とカネをかけて精製すると、甚大な被害をもたらす武器が作れる」
「猛毒のようなものか」
「毒でもあるが、すべてを焼き尽くす大きな火も出せる。
例えばそれが1つあれば、このマケドニアの地をすべて焼き尽くすことが出来るだろう。
もちろん民もすべて死に絶える」
アレクサンドロスが硬直した。
プトレマイオスは白目になりかけている。
「だが安心してくれ、俺は神界からこの星の生命を助けるよう要請された。
そこで5万年後の宇宙から、今現在より3万年前の時代、つまり俺がいた時よりも8万年前の時代に飛び、その極めて珍しい鉱石を全て掘り尽くしてこの星の者が使えないようにした」
「そ、その鉱石が無ければ、その恐ろしい武器は作れないのか……」
「作れない」
「ふう」
アレクサンドロスが背をソファに預けた。
「おかげで未来のこの星の生命絶滅は免れるだろう」
「そ、それはなによりだ……」
「だが、それでも国同士の遺恨は残った。
おかげで絶滅まではしないものの、大きな規模の戦争がずっと続くようになってしまったんだ。
そのせいで、民も兵も王も死にまくっている。
俺たちはその状況も改善したいんだ」
「戦に塗れる地に平穏を齎すというのか。
しかしどうやって」
「あんたならどうするアレクサンドロス」
「う……」
「あんたはこれからアケメネス朝ペルシャ帝国を叩きにいくところだったろう」
「ああ、ダレイオス3世は常にこのマケドニアや各ポリスを狙って侵攻を繰り返している。
どうやら俺や各ポリスが降伏して臣下に降らず、この地が属国にならないのが我慢できないようだ。
あの国がある限り、この地に平穏は訪れない」
(やはりダレイオス3世は典型的な夜郎自大野郎だったか……)
「あんたは2年後に5万の軍勢で20万のペルシャ軍を壊滅させ、ダレイオス3世も殺してアケメネス朝を滅ぼす」
「えっ……」
「その後も侵攻の手を緩めず、ペルシャ全土、メソポタミア(主に今のイラン・イラク地域)、さらにはインド北西部、エジプトに至るまで降伏させて大帝国を築き上げる」
「ま、待ってくれ!
俺は単にダレイオスに痛撃を与えて、二度とマケドニアに手を出させないようにと!」
「あんたは戦争が上手すぎたんだよアレクサンドロス。
後世では、あんたは歴史上最強の戦争指導者として称えられているんだ」
「!!!」
「それで欲が出たのかメソポタミアから中央アジア、さらにはインド北西部まで占領し、ついでにエジプトも征服して一大帝国を築き上げる」
「そ、そんな!
それではダレイオス3世と変わらないではないか!」
「あんたがペルシャ帝国を滅ぼした後も8年に渡る大遠征を続けた理由は、残念ながら残っていなかった。
あまりに容易に戦争に勝てたせいで欲が出たからか、配下の将軍たちが領土を欲したか……
だが、あんたは戦で敵を殺してその地を自らの領土とすることには長けていたが、その地を統治する組織をほとんど作らないまま、12年後には熱病で死んでしまうんだ」
「「「 !!! 」」」
「あんたが死に瀕した時の遺言では後継者を指名せず、『最強の者が帝国を継承せよ』という内容だったそうだ。
おかげでその後、40年にも渡ってあんたの16人の将軍たちが後継者の座を巡って内乱を起こす(ディアドコイ戦争)」
「ま、待て!
俺の配下の将軍や貴族は15人しかおらんぞ!」
「16人目の将軍はそこにいるエウメネスだ」
「「「 !!! 」」」
「いいか、10年で作り上げた大帝国が、あんたが死んだ途端に内乱で分裂しちまったんだよ。
その後もこの帝国内での勢力争いは続き、コリントス同盟のアテネやテーバイもこれに加わったために、内乱はさらに激化した」
「ま、まさか俺を……」
「いや、我々はなるべく直接の殺しはしたくない。
民の命を救うためにやむを得ない場合には、少数の王や将軍を殺すだろうが」
「そ、それではなぜ今この俺の前に現れたんだ」
「ペルシャ遠征を止めてもらうためだ。
そういう風に今から大きな戦争を抑止することで、今後のこの星を平和なものにしたいのだ」
「だ、だがペルシャ遠征を止めれば、ペルシャはこのマケドニアの地と各ポリスを蹂躙するぞ!」
「もちろんペルシャは俺たちが封じ込める」
「ど、どうやって……」
「あんたらも見ただろう、あの宙に浮かせられて無力化された兵を」
「だが宙に浮いていても弓は使えるぞ」
「それも封じる手段もある。
また、他人に暴力を振るおうとした際には、自動的に無力化することも出来る」
「「「 ………… 」」」
少し書き溜め出来ましたので、月水金に加えて日曜日も投稿させて下さいませ……




