*** 108 三好水軍全滅 ***
この物語はフィクションです。
登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。
また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。
こうして、三好水軍は小早1000を失ったのであった。
しかも何故か海面には投げ出されたはずの兵の姿も無い。
(もちろん舟や積載物資と共に北海国の牢に転移させられている)
しかも目を転じれば、堺湊に向かった上陸部隊5000名を乗せた小早も消え失せていた。
湊に接近・接岸した途端に舟も物資も兵員も北海国総司令部の転移神術で消え失せていたからである。
関船と安宅船は船体が大きい分、錨石を下ろしても麻縄が切れるだけで沈没を免れていた。
だが、命令された停泊位置を守るために、全船とも必死で魯を動かしている。
そのとき総大将の三好長光が傍らの参謀に向けて声を発した。
「喜平治よ、安宅船2隻を敵船の腹に突撃させ、衝角をもって船腹に穴を開けろ」
「し、しかし若、そのようなことをすれば敵船が沈み、鹵獲することが不能になります!」
「なに、あれだけの巨船だ。
船腹に穴が一つや二つ開いたところですぐに沈みはせぬ。
そうして安宅から鉤縄を打ち、今度こそ敵船に乗り込んで敵兵を殲滅させよ。
船はその後修理すればよい。
何より小早を千も沈められて兵も多数失ったにも関わらず、敵が無傷のままでは兄上に合わせる顔が無いわ」
まあこれも一種の武士の見栄なのだろう。
それにしても、キミは自分の見栄を通すために他者を殺そうとするんだね。
たぶんもうキミタチの情状酌量の余地は消え失せてるよ。
「ははっ!
安宅は一旦敵船から離れ、回頭した後に勢いをつけて衝角攻撃を為せっ!
その後は再度鉤縄にて敵船に乗り込み、白兵戦を行うこととするっ!」
「「「 うおぉぉぉ―――っ! 」」」
実は安宅船や関船のように竜骨が無く、魯で進む船は意外に小回りが効く。
左右の魯を逆に動かせば、戦車のような超信地旋回まで可能なのだ。
三好水軍の誇る安宅船はいったん北海Ⅰから離れ、水夫たちの必死の働きで助走をつけ、北海Ⅰに対して衝角攻撃を行った。
だが……
今まさに2隻の安宅船の衝角が北海Ⅰに激突せんとする須臾の時に、目に見えぬほどの速度でいくつかの事が起きた。
まずは既にロックオンを完了されていた安宅船内の人員も物資もすべて消え失せている。
三好長光も参謀の喜平治も、突然個別牢に転移させられてフリーズしていた。
その直後。
ドガドガァァァァ―――ン!
巨大な音と共に安宅船2隻がまるで爆発したかのように四散し、300メートルほども吹き飛ばされていったのであった……
覚えておられるだろうか。
北海ⅠはカムチャツカⅠや樺太Ⅰと同型艦である。
つまり厳冬期の流氷に覆われたオホーツク海でも航行可能な大型砕氷船であり、その船体には全周に32か所もの反重力神道具が設置してあった。
数千トンからときには数万トンに及ぶ巨大な海氷を弾き飛ばして粉砕しながら時速60キロ以上で航行することが可能な船なのだ。
たかが木造の数千トン程度の船が、いくら微々たる速度といえど、全速力で進むところをその運動ベクトルを真逆にされてしまえば慣性によって粉々に破壊されてしまうのである。
「「「 あああぁぁぁ―――っ! 」」」
「「「 安宅船がぁぁぁ―――っ! 」」」
残った三好水軍の船から悲鳴が上がった。
尚、堺湊で宙に浮きラジオ体操を続ける傲慢商人と破落戸たちは全員が尿モレを起こしている。
そのとき北海Ⅰが安宅船と同様にその場で回頭を始めた。
そうして西を向いたところでゆっくりと移動を始めたのである。
よく見れば北海Ⅰの船体には傷一つ見られなかった。
何故か海に浮いていた安宅船の破片も徐々に姿を消して行っている。
まあ薪として少しは役に立つだろう。
「「「 追えぇぇぇ―――っ! 」」」
「「「 あの船を追うのだぁぁぁ―――っ! 」」」
「「「 海の果てまで追い詰めて母港を特定し、陸上からの攻撃で今度こそあの船を沈めろぉぉぉ―――っ! 」」」
三好水軍の誇りである安宅船を粉々にされ、水軍の末端指揮官と兵たちは逆上していた。
そうして必死で魯を漕いで、北海Ⅰを追跡し始めたのである。
もしも三好水軍の全将兵に今回の作戦出動の目的、つまり堺湊の封鎖という意図が徹底されていたならば、関船と小早の半数は港に残って封鎖戦を試みただろう。
だが急遽出撃を命じられた水軍では、末端指揮官へのブリーフィングなどは皆無だったのである。
三好水軍の全船艇が堺湊を離れて北海Ⅰを追っていった。
北海Ⅰも敢えて速度を抑え、まるで三好水軍を誘導するかのようにゆっくりと航行している。
奇妙な艦隊が紀伊水道を抜けて太平洋に出ようとしているところで日が傾き始めた。
「小頭ぁ、日が落ち始めましたぜぇ……」
「情けねぇ声を出すな!
最悪真っ暗になっても、このでけえ航跡を辿れば追跡は出来るっ!」
「へい……」
そして夜の帳が降り始めるころ、北海Ⅰはその大きな航行灯を点灯した。
「へっ、奴らも夜の海は怖ぇとみえる。
これで追跡がしやすくなったぜ」
「でも小頭ぁ、
さっきからずっと南に向けて航行してやすぜ。
もう陸地から大分離れちまったんじゃあ……
それに生憎の曇り空で月も星も見えねぇし……」
「情けねぇ声出すんじゃねぇって言っただろうがっ!
敵船だって航行してるじゃねぇかっ!
それに幸いにして水も喰いもんもたっぷりあるだろう!
交代で飯を喰いながら、朝まで追跡を続けるぞぉっ」
「へーい」
もちろんこの時代の船に羅針盤などはない。
そのため、大型船と雖も常に陸地を視認しながら航行するのが常識である。
故に、夜間や荒天時に航行することも無かったのだ。
因みにこの日の夜は晴天で月も出ていたが、神界地球派遣軍総司令部が船団の上空500メートルに直径30キロに及ぶ漆黒の円盤を浮かべており、闇夜を演出していた。
さらに日付が変わろうとする頃、北海Ⅰの照明が消え失せた。
「「「 !!!!! 」」」
「ば、莫迦野郎っ!
う、うろたえるんじゃねぇっ!
灯が消えても海をよく見れば航跡が見えるだろうにっ!」
「それが小頭ぁ、その航跡も無くなっちまったんでさぁ……」
「な、なんだとぉぉぉっ!」
もちろん北海Ⅰが灯を消すとともに、念動の神術でゆっくりと宙に浮いて行ったからである。
船はそのまま転移で北海国の母港に帰還していった……
それでもまだ千隻を超える関船と小早が残っていた三好水軍は途方に暮れ、魯を漕ぐのも休止して漂流を始めた。
安宅船の復讐に逸っていた兵たちも、完全に心が折られている。
そして、一隻また一隻と重層次元に転移させられていったのであった……
『三好水軍全舟艇2500、兵11万5000、敵巨船との戦いに臨むも未だ帰還せず』
『堺の街も湊も平穏無事』
この知らせを受けた三好家次期当主長秀は、がっくりと両手を床につけた。
「お、終わった……」
そうして京屋敷の全ての家臣を連れて、阿波の三好城に戻って行ったところでやはりラジオ体操を始めたのであった……
当主と嫡男、そして次男を失った三好本家では、すぐに家督争いが始まって大混乱に陥っている。
史実にあるように、三好家中興の祖である三好長慶は1549年に細川京兆家を京から追い出して、実質的に室町幕府を滅ぼすことが出来るのであろうか……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
北海屋を騙そうとした罪でラジオ体操を続けさせられていた京屋の主もようやく解放された。
そうして数日家で静養して筋肉痛を癒した後に、遠い親戚の店を訪れたのである。
「な、なあ、あんたが俺にあんな忠告をしたってことは、あんたは堺銭が屑になっちまうことを知ってたんだろ」
「さあな」
「そ、それでよ、俺も屑鉱石になっちまった堺銭を北海屋に持ち込んで、せめて半分の重さの明銭にしてもらおうとしたんだが、何故か断られちまったんだよ。
それで俺の代わりに屑鉱石を北海屋に持ち込んで明銭に替えてきてもらえねぇかな。
も、もちろん礼金は払うからよ。
(礼金は3文ぐれぇで十分だろ)」
「あんたが1月近くも踊らされていた理由は、その交換の際に屑鉱石に小石や土を混ぜてたからだろう」
「!!!
あ、あれは堺銭が屑鉱石に替わってたのに驚いて土間にぶちまけちまったからなんだ!
それで慌てて屑鉱石を集めたもんだから、土間の土が少し入っちまったんだよ!」
「屑鉱石に石や土が3割も混ざったのか。
あんたの商会の土間にはそんなに土があるのか」
「ぐぅっ!
だ、だったらさ、せめて少しカネを貸してくれねぇか。
遠い親戚の誼でよ」
「断る。
あんたは私を信用しなかった。
だからわたしもあんたが信用出来ない」
「ぐぐぐぐ……
だ、だったらせめて北海屋を紹介してくれねぇか。
北海屋の取引先はあの清酒を仕入れてとんでもなく儲けてるんだろ。
だったら俺も清酒を仕入れられれば今回の損なんかあっという間に取り返して……」
「なああんた、商売に最も大切なものはなんだと思う?」
「そ、そりゃあ利に決まってんだろうに。
それ以外に商売をする理由はどこにあるんだ?」
「ふう、我ら北海屋の協力商会は、商いに最も大切なものは『信用』だと考えているんだよ」
「そんなもんがあっても儲けは出ねぇだろうに……」
「あんたがわたしを信用していないのと同じく、わたしもあんたを信用出来ないと言っただろう。
そんなあんたを大切な取引先に紹介なぞするわけがないだろうに」
「こ、この野郎っ!
覚えてろよっ!」
「いやそれも断る。
さあ、もう二度と私の前に顔を出さないでくれ」
「うがぁぁぁ―――っ」
京屋はその日の夜中、油壷と火打石を持って遠い親戚の店に向かっているところを神界に逮捕され、店前での1か月間のラジオ体操の後、禁固30年の刑を言い渡されたそうだ……
幸いにも京屋の長男は真面目な性格であったために、跡を継いだのちは地道に商いをして京屋を盛り返し始めているそうだ……




