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106/121

*** 106 堺大混乱 ***



この物語はフィクションです。

登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。

また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。




 


「その施粥所で振舞う食料も、『堺屋』を通じて神界が負担すると仰せですか……」


「もちろんだ」


「それも日の本の民のためとなりましょう。

 了承致しました。

 ですが、地元の盗賊やならず者などが食料を強奪しようとするかもしれませぬぞ」


「問題ない、各地の施粥所には俺の配下を5人ずつ程配置する。

 それならば強盗団がたとえ万人規模で押し寄せて来ても全員を捕縛出来る」


「そうですか……

 ならば必ずやそうした勅令を発すると致しましょう」


「理解頂けてなによりだ」


「これで飢饉に見舞われた地でも、餓死者はいなくなりそうですの……

 だがそれだけの施粥のための食料はあるのですか」


「それも問題ない。

 現在20億石ほどの米を備蓄している上に、その備蓄庫はここと同じように時間が停止している。

 よって、何百年経とうが米は新米のままだ」


「ほんに凄まじいお力ですの……」


「また、施粥所用地貸与を承諾して官位官職を得た武家がいた際には、ここ御所前の施粥所の職員を通じて俺に連絡が届くようにして欲しい。

 そうすれば俺か配下がその武家の領地を訪れて施粥所を建設するだろう」


「委細承知致しました。

 朕も陣頭に立って御所の蔵人を指揮させて頂きましょう」


「感謝する。

 俺に連絡事があれば堺屋の者たち経由で伝えてくれ。

 何かあれば俺の方からもまた連絡しよう。

 それでは俺は任務に戻ることにする」


 ムサシが消えた。



 後土御門ごつちみかど天皇は、ムサシが座していた場所を見ながら大きく息を吐いた。

 5人の侍従も涙に濡れた面を上げている。


(ふふ、高天原も祖神も捏造だったとしても、神は本当におわしたのだな。

 その神が本気になられて日の本の民をお救い下さるからには、帝たる朕も全力で支援させて頂こうではないか……)



 帝は臣下たちに語りかけた。


「朕は以前から祖神の存在には半信半疑であった……」


 侍従たちが再び深く頭を下げた。

 つまり陛下に同意するということなのだろう。


「どれだけ潔斎して真摯に祈念しても祖神の存在を身近に感じられることはなく、戦乱も飢饉も流行り病も収まることは無かったのだ。

 それにの、朕が没した後、後代の天皇にどれだけ祈られても、矮小な我が力では護国も豊穣も為すことなど出来んだろう。

 だがあのお方様は違う。

 ついに本物の神が現れてこの日の本を、いやこの大地の全てをお救い下さるかもしれん。

 まあ本物の神が祖神でなく他の地からお見えになられたということは多少残念ではあるが、それでも非常に喜ばしいことだ。

 そなたたちも、これよりあのお方さまのために力を貸してくれ」


「「「 御意のままに…… 」」」





 そのころ、もちろん堺の街も大混乱に陥っていた。

 まあ、各商家が貯め込んでいた堺銭がすべて鉱石屑に変わってしまったのだから当然だが。 


 各商家の主たちは、銭箱の中にあった堺銭が鉱石屑になってしまったのを見て、まずは驚愕し、次に自分の身代の大半が一夜にして無くなってしまったと焦燥し、そしてやり場のない怒りの矛先を桔梗屋に向けたのである。


 商会主たちは供を引き連れて桔梗屋に向かった。

 中には鉱石屑の詰まった銭箱を満載した大八車を供に曳かせている者もいる。

 その周囲にも護衛のつもりか屈強な供たちが棍棒を持って続いていた。


 だが……

 桔梗屋の玄関前ではその主人がふんどし姿のまま『神罰実行中』の前掛けをつけて、異様な踊りを踊っていたのである。


「「「 !!!! 」」」


 また、雨戸が堅く閉ざされた桔梗屋の建物には、


『桔梗屋は通貨偽造、偽造通貨行使の罪で神界に罰せられています。

 また、その身代は通貨詐欺事件被害者救済に使用するため、すべて神界が没収しました。

 桔梗屋に押し入って財を持ち出そうとした者にも同様な神罰が下されます。  

 神界』

 という看板が架かっていたのである。

 よく見れば既に店の横手では20人ほどの男たちが桔梗屋と同じ姿で踊っていた。

(尚、桔梗屋の家財道具を持ち出して逃亡しようとした従業員たちは、裏庭で踊っている)


 もちろん桔梗屋主人の眼前に立ち、弁償しろと喚き散らしている者も多かったが、それに応える桔梗屋の声は誰にも聞こえない。


 さらに数人が雨戸を叩き壊して店に侵入しようとしたが、すぐにふんどし&前掛け姿にされて踊りの列に加わっている。


 もちろん恵比寿屋の前でも同じ光景が繰り広げられていたが、大勢の商人が困惑と焦燥に立ち尽くしている中、大きな声が聞こえて来た。


「堺商人のみなさま、堺の街の南の外れにある『北海屋』では、堺銭が鉱石屑になり果てた今も、その屑を重量当たり半分の宋銭や明銭に両替する営業を行っております。

 両替をご希望の方は『北海屋』までお越しくださいませ」


 商人たちが走り始めた。

 部下に大八車を曳かせている者は大声で部下を督励し、鉱石屑を持って来ていなかった者は店に駆け戻って鉱石屑を大八車に積み込んでいる。



 だが……

 そうした彼らが必死で走って堺湊の近くにある『北海屋』の前に来てみれば、そこには既に500メートル近い長蛇の列が出来ていたのであった。

 生まれてこの方列に並んだことなど無い商会主たちも、30人近い北海屋の従業員たちに促されてロープ沿いに初めての列に並んでいる。


「ええい貴様ら邪魔だどけぇっ!

 儂は堺会合衆常盤屋の主ぞっ!」


「いえ、順番に列に並んでくださいませ」


「な、なんだと!

 儂は会合衆の常盤屋主だと言っただろうがぁっ!

 すぐにこの屑銭を元通りの宋銭に取り換えろぉっ!」


「いえいえ、たとえ征夷大将軍だろうと天皇だろうと列には並んで頂きますので」


「なっ、ななななんだとぉっ!

 お前らこ奴を叩きのめせぇっ! 

 すぐに両替をさせるのだぁっ!」


「「「 はっ! 」」」


 だが……


「「「 うわぁぁぁ―――っ! 」」」


 常盤屋とその従業員たちはすぐにふんどし姿にされ、『神罰実行中』の前掛けを下げた姿で宙に浮いた。

 そうしてふよふよと宙を漂って、大八車ごと堺湊沿いのスペースに移動して行ったのである。

 よく見れば、湊沿いでは既に百人近い者たちが踊っていた。


(尚、その大八車から銭箱を盗もうとしたコソドロたちも、同様に湊沿いで踊っている)


 まあ彼らは10日ほど踊った後は解放されることだろう。




 北海屋の店内では12のテーブルで両替が行われていたために、思ったよりも回転は早かった。


 しかし……


「あー、あなたこれ銭箱の中の堺銭の残骸に小石や土を加えて重さを嵩増ししていますね。

 これでは両替は出来ませんのでお引き取りください」


「い、いや堺銭がこんな屑石に変わっちまってたんで、びっくりして土間に中身をぶちまけちまったんだよ。

 だからほんの少し土が混ざっちまっただけなんだってば!」


「いいえ、土は全体の3割以上も混ざっています」


「そ、そんなことねぇって!」


「あなたは京屋さんですね。

 今後京屋さんが持ち込んだ鉱石屑は一切両替を致しませんのでご承知おきください」


「な、なんだとぉっ!」


「そして、あなたには我らに対し詐欺行為を働いた罪で神罰が与えられます」


「!!!!」


 京屋も湊沿いで踊り始めた。


 また、数百文の明銭を大事そうに抱えて帰る零細商人たちを狙って、多くの破落戸が強盗を働こうとしたが、彼らも全員湊沿いで踊るハメになっている。


 こうして堺の街中での混乱は静まりつつあったが、もちろん堺銭崩壊という大事件はこのままでは終わらなかったのであった……




 細川京兆家では当主細川澄之の発狂により、既に後継指名が行われていた細川澄元が次期当主となることが内定していた。

 その澄元は、邸内にあった大量の堺銭がすべて屑石に代わってしまったと聞き、驚天動地の衝撃を受けたのである。


「ええい!

 三好を呼びつけろっ!」


 もちろん阿波の三好城でも当主三好之長(ゆきなが)が踊り狂い、同時に城内の堺銭がすべて屑石になり果てていたために大混乱に陥っていた。

 だが、主君細川家からの緊急呼び出しに、嫡男三好長秀(ながひで)は急遽京の細川邸に向かったのである。


 尚、長秀も既に重度慢性アルコール中毒を患っており、まさか迎え酒を飲むわけにもいかずに、船上でも馬上でもゲロを吐き散らしながら京に向かった。

 また、細川澄元の前に平伏した長秀は、アルコール禁断症状のために手がブルブルと震えていたが、澄元はこれを自分を畏れてのことと思い込み、内心で大いに満足している。


「三好家からの提言により、堺にて堺銭鋳造の認可を得られるよう五摂家を通じて主上に奏上したが、その堺銭がこのように屑石になり果ててしまった!

 この上は速やかに明銭にて弁済せよっ!」


「し、しかし、我が三好家でも全ての堺銭が屑石になってしまっており、そのような弁済は到底……」


「己は阿呆かっ!

 何のために軍勢を擁しておるのだ!

 その軍勢をもって堺衆に圧力をかけ、奴らに弁済させよっ!」


「は、はっ!」


「よいか!

 首尾よく弁済が出来ぬとあれば、京・大阪の警護職を解任し、併せて三好の持つ全ての官位官職を剥奪するぞっ!」


「ははぁっ!」


 三好の武力が無ければ細川管領家も足利将軍家もその維持が危ういというのに、随分な物言いである。



 三好長秀は、早速大阪警護職500に、堺会合衆筆頭の桔梗屋と伏見屋、恵比寿屋を捕らえて三好の京屋敷まで連行するように命じた。

 だがもちろん三好軍500は、堺の街の関所前でふんどし一丁と『神罰実行中』の前掛け姿になり、奇妙な踊りを踊り始めている。


「な、なんだと、そ、それは父上と同じ姿ではないか……」


 三好長秀は、次に堺の街役人に桔梗屋を捕らえて京の三好邸に連れて来るよう命じた。


「あの、桔梗屋と恵比寿屋は、それぞれの店の前で『神罰実行中』と書かれた前掛けとふんどし姿で踊り狂っており、捕縛して連れて来ようとしても全く動かせないのです……」


(それも父上と同じか……

 ま、まさか本当に神罰だとでもいうのか……

 だ、だがこのままでは三好家の官位官職がすべて剥奪されてしまう!)


「ならば町役人に堺会合衆全員を捕らえて連れて来るよう命じろ!

 連帯責任だっ!」


「はっ!」





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