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*** 103 両替商北海屋 ***



この物語はフィクションです。

登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。

また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。




 


 「ええ、今より30日後、全ての堺銭は硫酸銅と硫化鉄という鉱物の粒になり、銭の形を取れずに使い物にならなくなります」


「神術とはそこまでのことが出来ますか……」



 堺銭の原材料になっていた黒鉱は、主に閃亜鉛鉱(ZnS)、方鉛鉱(PbS)、黄銅鉱(CuFeS2)などであるが、このうち堺銭は主に黄銅鉱(CuFeS2)と多くの不純物を鋳溶かして作られていた。

 ムサシ一派は全ての堺銭に『ロックオン』を終え、この黄銅鉱(CuFeS2)を『資源抽出』で分解して『合成』の神術で亜鉛や鉛などの不純物を含む硫化鉄Ⅱ(FeS)と硫化銅I (Cu2S) の3ミリほどの粒子に『合成』する神術のマクロ構築を終えている。

 このうち硫化鉄の微粒子は自然発火性物質であるために、亜鉛や鉛などの不純物を添加してその発火性を抑制してもいた。

 もちろんこの時代の精錬技術では、これらの物質から純粋鉄や純粋銅を精錬することは不可能であり、融点は1100度を超えるために鋳溶かしてもう一度堺銭を造ることも容易ではない。

 桔梗屋一派はその資金力にものを言わせ、倭寇の密貿易によって明の撫順から石炭と耐火煉瓦を輸入して堺銭の鋳造を行っていたのである。



「ええ、出来ます。

 それでそのための準備として、皆さまにいくつかご依頼があるのです」


「承りまする……」


「まずは境湊の最南部に広めの商会建設用地を確保したいのですが、土地の手当てをお願いしたいと思います。

 むろん商会の建物は我々北海国が造ります」


「南側の外れでよろしいのならば、すぐにも湊役人に話をつけましょう」


「ありがとうございます。

 もちろん湊使用料は北海国が負担します」


「ところでどのような店を出されるのですか」


「両替商ですね」


「両替商でございますか……」


「ええ、今より半年ほど、堺銭2枚と明銭か北海銭1枚とを交換出来る店舗とします」


「あの、畏れながら、現在我ら堺銭反対派はもちろんその取引先の多くは堺銭を持っておりませぬ。

 持っておるのは桔梗屋を筆頭とする堺銭鋳造派とその友好商会たちだけですので、明銭や北海銭と両替を行なう者は全くいないのではないかと……」


「ええ、それはもちろん承知しております。

 ですがその店の存在は、皆さまのご協力を頂戴して少なくとも堺全域に周知したいと考えております。

 そして、堺銭が役に立たない鉱物の粒に変わってしまった後も、しばらくはその残骸と明銭や北海銭との両替を続けようと思っているのですよ。

 いくら堺銭賛成派といえども、我らの神術によって倒産する商家が激増するのは我らの本意ではございません。

 罪があるのは堺銭を鋳造している桔梗屋と恵比寿屋、それにその両者から賄を受け取って偽銭の鋳造認可を奏上した三好家、細川京兆家と公家衆だけになりますので」


「あの、わたくしの親類に堺銭賛成派の商家がいるのですが、その者に今のうちに明銭に変えておくよう勧めてもよろしいでしょうか……」


「もちろん構いませんが、30日後に堺銭が崩壊するという事は伏せておいて頂けますか」


「畏まりました」


「それからですが……

 現在公家衆と細川京兆家、三好家の3者で約360万枚の堺銭を保有しています。

 これがすべて鉱石屑になれば、当然公家衆も細川も三好も激怒することでしょう。

 彼らもまずは主犯の桔梗屋を責め立てようとするでしょうが、桔梗屋も恵比寿屋も我らが通貨偽造・同行使の容疑で処罰いたしますのでそれも不能です。

 そうなれば、官位・官職の任命斡旋を握る公家衆からの圧力もあって、連中は武力による脅しにより堺衆全体に賠償を求めて来るでしょう。

 ですがご安心ください。

 武家による武力を用いた脅迫は、すべて我ら北海国が潰しますので」


「あの……

 そのようなことが可能なのでしょうか。

 阿波の三好本家軍は京と大阪の治安維持のために6万近い兵を動員していますが……」


 天王寺屋の主が口を開いた。


「あなたにはまだ知らせていませんでしたか。

 北海国さま、いやカムイ・ムサシさまは、北海国に攻め込んで来た檜山安東軍5800と南部軍2万9000をことごとく捕獲されました。

 さらに大幅に戦力を失った安東と南部領に他国が攻め込んで出羽・陸奥の地に戦が蔓延することを抑止するために、ムサシさまの名で出羽・陸奥の主要大名家に『惣無事令』を出されています。

 もちろんそんな令には誰も従わず、安東と南部に大量の武装強盗団が派遣されましたが、北海国さまの手によって、その全軍24万が捕獲されています。

 ついでに安東と南部領内で寺領の寄進を強訴しようとした一向宗の僧兵5000も捕獲されました」


「そ、そんなに……」


「おかげで出羽・陸奥の地では、全ての武家が自領の防衛のみに腐心するようになり、侵略のための戦が出来なくなってしまっておるのですよ」


「三好家の本願地である阿波には三好一族による水軍6万もいますし、京・大阪には細川家の命で治安維持のための兵6万を配置しています。

 両者を合わせれば、12万に近い大兵力になりましょうが、彼らに堺湊を封鎖でもされれば堺衆には大打撃となりますが……」


 カムイレオが微笑んだ。


「ムサシさまの目的である日の本平定の為には、武家の資金力と軍事力を削ぐことが何よりも重要です。

 ムサシさまは、堺銭撲滅を契機に畿内を実効支配する三好の軍事力も一掃することをお考えですね。

 もちろんその後の治安維持は伏見屋と同じ例の踊りで行います」


「そ、そうであらせられましたか……」




 堺衆との会合を終え、用地も確保したカムイレオは総司令部に連絡を入れた。


「こちらはカムイレオです。

 予定通り堺湊の使用権と店舗用地を確保致しました。

 堺湊周辺を除く大阪湾、紀伊水道の浚渫工事と両替商店舗建設に移行してください」


『総司令部了解。

 直ちに武五郎さまに連絡し、予定の工事の開始を依頼いたします』




 この連絡を受けて、武五郎は配下一個中隊を100年前に派遣した。

 そうして大型船が航行可能なように、大阪湾と紀伊水道の浚渫作業を始めたのである。

 もちろん一気に工事を進めて海底付近の生態系を大規模に破壊しないよう、工事は毎年少しずつ行う予定である。

 特に友ヶ島と淡路島の間の海峡は幅が約3キロしか無く、水深も浅いために特に入念に工事が行われるだろう。


 もちろん両替商の店舗については既に用意されており、あとは現地を整地した後に転移させるだけになっていた。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 数日後、桔梗屋にて。


 3番番頭が手代を伴って主人の都合を伺っていた。



「旦那さま、お忙しいところ申し訳ございません。

 ですがこちらの手代が、お得意さま廻りの際に気になるものを見たと申すので、わたくしも出向いて確認して参りました。

 その結果をご報告させて頂きたいと考えまして」


「何事だ」


「あの、堺湊の南の外れにいつの間にか巨大な店が出来ておりまして、『両替商 北海屋』という看板が架かっておりました」


「それがどうした。

 この堺は会合衆の推薦を受け、地代と冥加金さえ払えば誰でも店は出せるのだぞ」


「そ、それがですね、その店では大きな看板に分かりやすい楷書体で、

『両替致します。

 堺銭2枚につき明銭1枚、もしくは北海銭1枚』

『堺銭と称される偽銅銭の銅合有量は銅銭の重さの約4割1分しか無いのに対して、同じ重さの明銭の銅合有は8割5分、北海銭は9割5分もあります。

 この機会に是非堺銭を明銭や北海銭に両替されたら如何でしょうか』

 と書いてあったのです」


「なんだと!

 堺銭に含まれる銅の少なさを暴露しているというのか!

 その北海屋とか申す両替商の本願地はどこだ!」


「そ、それが我らは桔梗屋の紋を染め抜いたお仕着せを着ておりまして、誰が見ても桔梗屋の者とわかってしまいます。

 それで念のために北海屋の者に問いかけることは控えておりました」


「むう、まあいい判断だ」


「ありがとうございます……」


「それでその両替商の店舗の様子は」


「はい、建物の間口は10間ほど、奥行きも10間で御座いますが、総石造りで高さが8階建てほどもあるために大変に目立ちます。

 しかも正面には巨大なギヤマンの板が10枚ほども嵌って居りまして、その中には堺銭10貫文、明銭10貫文、北海銭とやらも同じく10貫文積み上げられていました。

 そうして、それらの山の前には、それぞれが合有する銅の塊が置かれていたのです。

 堺銭の山の前にはその4割ほどの銅隗が、明銭の山の前には8割ほどの銅隗が、そして北海銭とやらの前には北海銭10貫文とほぼ同じ大きさの銅隗が積み上げられていました」


「ぐぅ……」


「あの、堺銭には4割の銅しか含まれていないというのは本当なのでしょうか……」


「そのようなことはお前が知る必要は無いっ!」


「も、申し訳ございませぬ……」


「それでそのような莫迦げた両替に応じる者はいたのか!」


「いえ、見たことも無いほどの巨大な建物や、ギヤマンの板の見物人は大勢いたのですが、実際に両替している者はいませんでした」


「ならば紋の入っていない着物を着てもう一度行って来い!

 そうしてその店の本願地はどこか、何のためにそのような両替を行っておるのか聞いて来るのだ!」


「あの、その店はどうやら入り口で両替希望の堺銭を見せなければ、中にも入れてもらえないようなのですが……」


「ならば堺銭100文、いや20文を持ち、明銭5文と北海銭5文に替えて来い!」


「はい……」



 武五郎一派が堺湊の近くに建設した北海屋の両替商店舗は、すぐに堺衆の間で大きな話題になった。

 さすがに敷地面積1000平方メートル、高さ8階建て石造り(実は鉄筋コンクリート)の建物と巨大なギヤマンのショーウィンドウは堺商人の度肝を抜いたようだ。





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