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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第五部 竜殺しの太守クラスク 第二十章 魔族の計画
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第889話 街の襲撃主

「ミエ様! 危険です! このような前線に来られては敵のいい……的……?」


エモニモが叫ぶより早く戦場は迅速に動いた。


「ヒッ!」

「ギャッ!」

「グギャア!」


といった叫びが周囲から響いたかと思うと一斉に羽音がして、魔族どもが宙に舞い上がり距離を取る。

だが遠くからこちらを攻撃するというでもなく、遠巻きにこちらを見ているのみだ。

悲鳴以外に言葉は発していないが、精神感応でざわざわとざわめいているようにも見える。


「………………………?」


エモニモには何が起こったか理解ができず、その場で硬直する。

だが戦いを本分とするラオクィクは魔族どもの様子からすぐにある傾向を読み取った。


「アイツラ怖がッテル」

「怖がる? ラオ、何を怖がるというのですか」

「アー……」


ラオクィク自身も理由はよくわからない。

ただ襲撃と略奪を旨とする種族として、相手の見せた弱味には敏感だ。


彼等の動揺、怯え、そしてその視線から察して……


「アネゴ怖ガッテル?」

「なんで?!」

「ワカラン」


あまりの理解不能さに困惑したラオクィクとエモニモ夫婦が、同時にぐりんとその首をミエの方に向けた。


「マタナニカシタノカ」

「また何かしたのですか!?」

「なっとくいかないんですけどー!?」


二人のあまりの物言いに思わず大声で叫ぶミエ。

その叫びに魔族どもはヒッ!と身を竦ませてさらに距離を取った。


「シャミル殿?」

「わしにもわからん。ただ連中がこやつを怖がっておることだけは演技でもなく事実のようじゃ」


助けを求めるようなエモニモの視線に、コルキから振り落とされぬようミエにしがみついていたシャミルがかぶりを振った。

完全にお手上げのポーズである。


「一体何がどうなって…」

「わたしだって知らないですよ! なんか私を見るなり魔族の皆さんん怖がってばっかりで! こっちこそ理由が知りたいんですけどー!?」


ミエがびっと空の魔族達を指さしまくし立てる。

すると指さされた方角の魔族どもはこれまた「ヒッ!?」と怯えて羽をばたつかせ距離を取る。


落ち着いた行軍のような動きではない。

明らかに個々がそれぞれ狼狽え怯えながら逃げ腰になっているのである。


そのあまりに信じがたい様子にエモニモとラオクィクは目を真ん丸にして驚愕した。



一体どんな神や悪魔と契約したらこんなことができるのだろうか、と。



「と、ともかく今一番ピンチなところってどこですか?! 私も意味わかってないですけど戦場で何かお役に立てるなら!」

「わしらは戦争の専門家ではないからの。大隊長殿と衛兵隊長殿の判断を聞きたい」

「フム……」


まったくもって意味は分からないけれど、事実として魔族達がミエに怯えているのは事実のようだ。

もしこれが演技で誘い込んでいるつもりならもっと幾らでもやりようがあるはずに見える。

エモニモはそう解釈しすぐに街の急所を報せる。


「街に侵入した魔族達の動きが途中から変わりました。上街西部に集結しているように見えます」

「上街西部……?」


ハッとなってミエとシャミルが顔を見合わせ、互いを指さし合った。


「「聖ワティヌス教会!」」


二人の推測にエモニモが肯首して同意する。


「ええ。襲撃の最中魔族達の姿が突然増えました。おそらく通常の襲撃に紛れ妖術で姿を消した暗殺部隊が背後に回りこちらの不意をついて城壁の上を一瞬で占拠するつもりだったようです。ですが襲撃の直後彼らの姿が露わとなりその計画は破綻しました。おそらくイエタ大司教が教会で秘跡魔術を用いたものかと」

「おおー、さすがイエタさん!」

「で魔族どももそれに気づきイエタを亡き者にせんとしておるわけか」

「おそらくは」

「大変じゃないですかー!」


ようやく事情を理解したミエが慌てて叫び、コルキの首筋を軽く叩く。

伏せていたコルキはむくりと起き上がると周囲を警戒し軽く唸り声を上げた。


「コルキ、聖ワティヌス教会、わかる? いつもイエタさんに撫でてもらってるとこ! おうちじゃないわよ?」

「ばうっ!」


一声吼えたコルキはそのままエモニモ達を跳び越え城壁の上を走りだす。

その進路上にいる魔族どもはまるでコルキを避けるようにバサッと羽を広げ逃げ出していた。


「…一体なんだったのだ」

「ミエノ姉御スゴイナ」


呆然と見送るエモニモと素直に感心するラオクィク。

オーク族にとって敵に恐れられる、畏怖されるというのはある種のステータスであり、あれほど面倒で厄介な魔族どもにそうした感情を抱かれているミエに素直に感心しているのである。


「隊長隊長」

「やべえっす。まじやべえっす」

「今度はどうした」


と、そこに元翡翠騎士団の衛兵ライネスとレオナルが報告に現れ、エモニモは我に返る。

ミエに怯えているのは確かに僥倖かもしれないが、彼女が去った今再び自分達は攻撃の矢面に立たされることになったはずだからだ。


「隊長、なんかこいつらミエ様の名を聞くだけでビビってます」

「はあ? 本人だけならともかく…いやそれもだいぶおかしいが…ミエ様の名を聞いただけで怯えるなどそんなこと……」

「ギャ!」

「…………………………」


己の発した言葉に一瞬身構える宙空の羽魔族コニフヴォムを見て目をぱちくりさせたエモニモは不承不承それを認め、すぐに頭を切り替えた。

どんな理由があるにせよ、自分達に有利な要素は最大限活用せねばならない。


「……よし、お前ら! ミエ様の名を連呼しながら戦うぞ!!」

「ミエノ姉御スゴイナ!」




×        ×        ×




一方で教会内部では戦いの決着が迫っていた。


教会の奥、祭壇の前に立つイエタとサフィナ。

彼女らの頭上には燦燦と輝く太陽がある。


本物ではない。

サフィナの援けを借りてイエタが生み出した魔術による小型の疑似太陽だ。


その高熱が教会内を満たし、本来であれば教会自体が融解しかねない温度に上昇している。

角魔族ヴェヘイヴケス三体の内一体は既に焼け爛れ斃れていた。


高熱自体は火属性の付随効果であり、火と熱自体で魔族を傷つける事はできぬ。

彼等は火属性に対し完全耐性があるからだ。

だから仮に太陽と同等の高熱であれ、それ自体では魔族を倒すには至らない。


だが…属性、という枠組みで考慮するのなら、太陽から放たれるもので魔族が一切防げないものがある。



『光』である。



「もう一回行きますよ」

「はいっ!」


サフィナ(?)の声に合わせイエタが応える。

そして彼女が精神を集中させると頭上の小さな太陽が如き光球の周囲に八つの白い球が生まれた。


「「おひさまのひかり(スフツァーマト)!」」


二人の聖なる言葉と同時にその太陽の周囲から八条の光が放たれる。

周囲に八方に放射する白い直線状の光線だ。


そのまま行けば教会の床や天井に命中して終わりそうなその光は、けれど途中で角度を直角に変え教会の内側に向けて照射された。


残った角魔族ヴェヘイヴケス二体が妖術で迎撃し、或いは避けようとする。

けれどその光は避けた傍から直角に向きを変え、命中するまで魔族どもを追尾してゆく。


まるでホーミングレーザーさながらだ。

しかもそれが八条ある。

かわしようがないのだ。


次々と突き刺さる白い光芒。

それは角魔族ヴェヘイヴケスどもの身体を焼き焦がし、激痛を与えてのけた。


二体それぞれを個別に狙っているという事はこの効果は『対象を取る』ものだ。

つまり魔術結界の対象となるはずである。


にもかかわらずその光は魔族どもをやすやすと刺し貫いてゆく。

つまり上級魔族の魔術結界をその強引に貫通しているのだ。

おそろしい魔力の高さである。


だが……これだけのことができるのに、なぜサフィナは今までやらなかったのか。

教会の隅でそれを呼吸を整えるキャスには、その方が気にかかった。






何か重大な……()()()()()()()()()()になりはしないのか、と。







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― 新着の感想 ―
なんだろ、大量の応援するから、善意がたまってた。世界に善意が認められたな認識でウンタラな?
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