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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第五部 竜殺しの太守クラスク 第十九章 旧き死
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第846話 再会

「その傷ずっトそのママカ。一生血出ルカ」

「いや流石にそういう事は……」


傷口を押さえつつ魔導師が痛みに顔を歪めながら答える。

だがその視線はずっとクラスクの脇で宙に浮きながらその刀身を近くにある禍々しい斧に押し付けている白銀の剣に注がれていた。


知性ある剣アムソラゾムゴ・ティルゥか。珍しいな」

「お前珍シイノカ」


クラスクに問いかけられ刀身から一層まばゆい光を放つ銀の剣。

傍目にもクラスクに褒められて喜んでいるように見えた。


「いや俺はそもそもあんたの種族の方が驚きだよ」

「私も共通語が堪能なオーク族を初めて見ました」

「よく言われル」


戦士と聖職者の素朴な感想にクラスクがしれっと答える。


「その剣、どうやって手に入れたのだ」

「拾っタ」

「「「拾った!?」」」

「大トカゲ……アー、ドラゴン? の背中に刺さっテタの拾っタ」

「「「ドラゴンの!?」」」

「ソウソウ。アレダ。アノ西ノ一番高イ山。前あそこ行っタ。あそこの火口に住んデタ奴の背中刺さっテタ」

「「「嘘ォ!?」」」


このあたりの西の山脈と言えば赤蛇山脈ロビリン・ニアムゼムトである。

その一番高い山と言えば赤蛇山ニアムズ・ロビリン

そしてそこの火口に住む竜と言えば、かつて目覚めるたびこの地を蹂躙してきたかの赤竜を置いて他にいない。


「ではそれは…もしや魔竜殺しドラゴン・トレウォールではないか!?」

「アー、そう言えばネッカガそんな事言っテタナ。それデシタ」

「え? 吟遊詩人が詩ってたみたいにマジであの赤竜の尻に突き刺さってたの、それ!?」

「ソウダッタ。アイツの尻デ拾っタ」

「「すげー!」」

「っていうかそれは拾ったって言わねーよ!?」


冒険者達が本気で感心し、全力でツッコミを入れる。

まあその出自と経緯を考えれば当然のことなのかもしれないけれど。


「ええっと…オーク族で、ものすげえでかくで、『あの』赤竜の巣穴から生きて帰って来た……ってこたああんたもしかしてクラスク市の太守『赤竜殺し』のクラスクか!?」

「そウダナ。そンナ風に呼ばれル事モアル」

「「「おおー」」」

「信ジルノカ。俺オーク」

「……疑おうにも聖剣の現物が目の前に浮いておってはの」

「そうダッタ」


己の立場が知られたクラスクは、もっともらしく咳払いすると戦地のただ中にいながらクラスク市のアピールをはじめた。


「クラスク市絶賛現在冒険者募集中。仕事イっぱイあル。ココが一段落したら是非ウチに来イ」

「ええー迷うっちゃうなあ」


クラスクは暢気にそんな宣伝をしながらも周囲に視線を送っている。

寄らば斬るぞとその怒らせた肩で語っている。


周囲の魔族どもはだいぶ減ったがいなくなったわけではない。

だのに誰一人クラスク達を襲おうとはしていない。

遠巻きに見守っているのみだ。

クラスクの事を警戒し攻撃を躊躇しているのだろうか。


(違うナ)


クラスクは即座にそう断じた。


自分達を襲わない理由は別にある。

それもある程度予測がついた。

だがクラスクはとりあえずそれを口にすることなく、冒険者達に語り掛けた。


「話戻す。その傷治すアテあルカ」

「あ、ああ。しっかり手当をして傷を塞ぐか、でなければ一度でも回復呪文が通れば血は止まるはずだ。魔力がちょっと足りないとこの通りだがね」

「そウカ。ナラ移動シタ方ガイイ。ここ敵多イ」

「そうだな……一度撤退するか」

「それお勧めシナイ」

「え?」


クラスクは己の背後を親指で指し示す。


「お前達冒険者少し奥突っ込み過ぎタ。正規軍トお前達の間に隙間デキテそこに魔族ドモ割っテ入っテル。そこ抜けルノ今ノお前ラじゃ厳シイ」

「マジか」

「もうちょっト奥、他ノ冒険者大勢イル。そっちノガマダ安全。そっち行ケ」

「わかった。助言感謝する」


魔族の包囲が厚い、というが厳密には少々語弊がある。

魔族はドルム中心に張られている〈精神破損領域《フキオッド・クォゥブキフ・フヴォグキャクス》〉に入りたがらない。

だからいかに魔族の層が厚かろうと結界の内側を通れば悠々と彼らの横を通り抜けることができるだろう。


だが現実にそういう行動を取っている冒険者はいない。

なぜならそうした行動を取ろうとすると周りに誰もいないがゆえに非常に目立つ。

そして目立つ以上妖術の的にされ妖術の集中砲火を受けてしまうのだ。


冒険者もドルムの正規軍も、魔族が火属性の攻撃を得意とすることは知っている。

自分達が完全耐性を有する火属性であれば相手目掛けて撃たなくとも自身を起点として〈火炎球カップ・イクォッド〉などが放てるからだ。


ならば火属性を完全に無効にする呪文…かつてクラスク達が赤竜に挑んだ際用いた神聖魔術の〈火炎免疫ウーサマーニュ・オラフ〉あたりを全員が備えていればいいではないか…と思うが、なかなかそう簡単にはゆかぬ。


中位最高難度の呪文である〈火炎免疫ウーサマーニュ・オラフ〉はそもそも詠唱できる者が少ない。

そもそもそれが詠唱可能な実力があれば冒険者などやらずどこぞの街の最高司教になれる器だからだ。


むしろそのレベルに達した聖職者であれば危険な冒険行など教会のお偉いさんが許可しないレベルである。

うっかり旅先で死なれでもしてしまってはその宗派の大損失だからだ。


火炎免疫ウーサマーニュ・オラフ〉を唱えられるだけでも希少なのに、それを複数回唱えられる者はさらに少ない。

強力な呪文だけあって魔力消費も激しいからだ。


特に〈火炎免疫ウーサマーニュ・オラフ〉を詠唱可能な聖職者はほぼ同時に〈快癒レオフ〉を修得する。

これはほとんどの傷を回復させると同時に大抵の状態異常をも同時に治療してくれる非常に強力な呪文であり、強敵との決戦には是非とっておきたい呪文だ。


つまり強力な呪文だからと安易にぽんぽんかけていられる余裕がないのである。

それこそ莫大な財源があって全てあらかじめ巻物に書き込んでおく余裕があるような連中でもない限り、だ。


結果出撃した者達の多くはより低位の〈火炎抵抗オラフ・ステュツォル〉などをその身に纏っている事が殆どだ。

これは対象の属性ダメージを軽減はしてくれる者の無効にはできない。

ゆえに魔族の軍団と戦っている最中に集中砲火を浴びると軽減しきれなかったダメージの蓄積だけで焼け死んでしまう恐れがある。


そうした理由で彼らはあまり目立つ行動を取りたくないのだ。


冒険者達が魔導師をかばいながらその場を離脱し、クラスクは周囲を威嚇しながらそれを見送る。

彼らが去った後、左手で宙に浮いたままの輝く剣を手に取って、とんとんと己の肩を叩いた。


「そロそロ出てきタらドウダ」

「あれ、気づいてました?」


クラスクの言葉に、一人の人物が進み出る。

一見すると人間族に見える、厳めしい雰囲気の中年男性だ。


だが……その言葉と口調が見た目に反して妙に若々しい。


「似合ってナイゾ。ソノ口調」

「あれ? そうでしたそうでした。ついクセで……」


ぽりぽり、と頭を掻きながらその中年男がクラスクの前に立つ。


「久しぶりですね」

「そうダナ」


互いに言葉少なく。

だが双方ともに視線は逸らさない。


「ナンデあいつら襲わナかっタ」

「するだけ無駄なので」

「無駄?」

「それで貴方が私を憎んだり絶望したリするならやるんですけど、そんなことにはなりませんよね?」

「…シナイナ」

「でしょう? せいぜい『仇くらいは討ってやろう』とやる気にはなるかもしれないですけど、そこまで。彼らの死は貴方を闇に染めないし堕とさない。もし死んでも『ああそうか』と思うだけ。違いますか?」

「違わナイナ。戦場に立つッテノハそうイウ事ダ」


クラスクの答えにさもありなんと肩をすくめたその男の両隣りに魔族がいる。

だがその男を襲おうとはしない。


当たり前である。

その男は魔族だ。


それもこのあたりにいる魔族などが及びもつかぬほど高位の魔族である。

先程の冒険者達を見逃したのも彼が精神感応で指示を出していたからだ。


「邪魔をするな」


と。


「会いたかったですよ」

「俺モダ」

「軽く旧交を暖めますか?」

「ソウダナ」


男が僅かに身を沈め、クラスクが前傾しながら剣と斧を持った手を左右に広げる。



それは魔族。

そしてクラスクが探し求めていた相手。






『旧き死』……

グライフ・クィフィキとと呼ばれる、魔族最高幹部の一人である。








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