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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第五部 竜殺しの太守クラスク 第十八章 クラスク市の危機
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第825話 同舟

「大丈夫かサフィナ。怪我はないか」

「おー…たすかった」


サフィナがてとてととキャスの前までやってきて幾度も大きくのびをする。

見ようによっては万歳をしているように見なくもない。


「おれい」


ぴょこんと頭を下げてしばらく固まり、その後くいっと首をかしげてキャスを下からじいと見つめる。

まるでいつまで頭を下げていればいいのか窺っているかのようだ。


「いやいい。サフィナに何かあると私が困る」

「おー…こまる」


くくい、と上体を起こし、再び大きく伸び……万歳? をする。

その所作にキャスは少し困惑した。


周りにミエやシャミルがいる状況では全然気にならないけれど、サフィナと二人きりという状態はややキャスの苦手とするところであった。

考えていることがよくわからないし、テンポもだいぶズレているからだ。


もちろん嫌いとか嫌だと言う事ではまったくない。

彼女の神託に近い予見能力にはいつも驚かされているし、実際幾度も助けられている。


ただその言動が予測不能すぎてキャスの理解の範疇をやや超えているため、二人きりとなると何を話していいのかよくわからないのだ。


サフィナはエルフ族である。

キャスも同じエルフの血を半分引く半ば同族同士ではないか。

そういう意見もあるかもしれない。


けれどそれは逆だ。

その血筋のせいで人間達の間でエルフだと迫害され、そしてエルフ達からは人間だと疎まれて、それをずっと引きずってきたキャスにとって、エルフ族のそれも世界樹ンクグシレムの森の巫女なんぞという上澄みの中の上澄みでありながらそうしたことにまったく拘泥せずオーク族の嫁となる事を選んだサフィナは少し自由奔放過ぎて、むしろ彼女のコンプレックスを刺激してしまうのである。


有体に言えば、キャスはサフィナのことが…ほんの少しだけ…苦手であった。


「それじゃあサフィナいそぐ」

「ちょっと待て」


片手をシュタっと上げて、軽快そうに。

表情一つ変えずてってってーとそのまま駆け出そうとしたサフィナの襟首をキャスが引っ掴む。


「おー……すすまない」

「それはお前の足が宙に浮いてるからな」

「なるほど。どうり」


ふむふむと納得し、まるで今でも走り続けているかのように手足をばたつかせつつこくこくと頷くサフィナ。

この街の置かれている状況を鑑みると少々悠長というか気の抜けた対応である。


「どこへ行く。そちらは危険だぞ。また襲われたらどうする」

「おー……キケンだからいく」

「む……」


今度のサフィナの言葉には、キャスの理性が及んだ。


なぜ自分は()()()()()()などと言ったのか。

それは街中の魔族どもの動きに『統制』はなくとも『統一性』があったからだ。


つまり何らかの指揮に寄らず、それでいて同じ方角に向け移動しているように感じられたのである。

おそらく精神感応で目的地だけが告げられて、それぞれが個々の判断で行動した結果だろう。


では彼らの目的地はどこか。

これもある程度目星が付く。


先刻、空から襲撃してきた魔族どもの先遣隊の数が突然に()()()


突然の増援…というわけではない。

あらかじめ姿を消しながら目に見える軍勢に同道し、少数と油断した兵士達を背後から殺害せんとしていた魔族どもがなんらかの魔術によりその姿を露見させられたのである。


街を覆うほどの広範囲かつ強力な魔術を行使できるとなるとまず浮かぶのは妹嫁たるネッカだが、彼女は現在ドルムに向かって単身…もとい二人で行軍中のはずだ。

となると街に残っている術師でこのクラスを行使できそうなのは司教であるイエタか、或いは儀式魔術を用いた魔導学院副学院長ネザグエンのいずれか、ということになる。


そうなるとあとは消去法だ。

魔族どもの向かっている方角は街の中心部から見て西方面。

これを上街西部、つまり聖ワティヌス教会だと仮定すると全ての辻褄が合う。


つまり先の魔族どもの透明化を解除したのは教会で高貴な秘跡を行ったイエタであり、魔族どもは即座にそれを神聖魔術によるものと察知、何らかの手段でこの術を対象不適切…『どんな対象』を『どう不適切』にするのかはあまり考えたくはないが…にするため教会を襲撃せんとし、これまた何らかの手段でそれを察したサフィナが現地へと急行しようとしている……と言ったところだろうか。


「行き先は教会か」

「おー…」


キャスの問いに彼女の腕に吊られぶらぶらしながらこくこくと頷くサフィナ。


「それはお前が行かなければならんことか」

「おー…ひつよう」

「死ぬかもしれんのだぞ」


続けて発せられたキャスの警句に……けれどサフィナは涼やかな瞳をキャスに向けてこう返した。


「おー……行ったらサフィナ死ぬかもしれない。割としぬかも?」

「おい」

「でもサフィナ行かなかったら()()()()()()()()()。サフィナも()()()()はだいぶ違うけど、()()()()()()

「…………………っ!!」


とんでもないことを、口にされた気がする。


「どっちも生きてる可能性あるの、サフィナが教会行ったとき、だけ。だからいく」


死の危険があることなど、とっくに覚悟していた。

この一見幼い少女は己の死を予見した上で、それでも助かる可能性に賭けてここにいるのだ。


「…すまなかった」

「おー……?」


くくい、と小首を傾げてサフィナガそのつぶらな瞳でキャスを見上げる。


「…なんであやまる?」

「いや、こっちの話だ」

「おー……お?」


キャスはそのままサフィナを担ぎ上げると、己の背中に負った。


「お前の足では時間がかかる。私が背負って行こう。目的地は同じだ」

「おー……たすかる」


キャスの背でどうやらバンザイをしているらしきサフィナ。

気配でなんとなくそれを察したキャスはふふ、と笑った。


「では行くぞ。しっかり掴まっておけ。振り落とされるなよ…〈風歩クミユ・ギュー〉!」

「おー……おおおおおおおお?」


足に風の精霊を纏わせ、一気に加速する。

途中の魔族どもとうっかり交戦せぬように、最短距離かつ最速で現地へ向かうつもりなのだ。


「おお……てってってー」

「気の抜ける合いの手はやめてくれ!」


兵士達と交戦中の魔族どもの間を縫うようにすり抜けながら、サフィナを乗せて一気に上街の西へと向かう。


「む……っ!」

「とっとっと……わわわ」


キャスが突然急停止をかけ、振り落とされそうになったサフィナは慌てておぶおぶとキャスにしがみつき直す。


「おー……?」

「勘のいい者がいたな。それが当人とは限らんが」



教会の前は……戦場と化していた。



オーク達が斧を振るい、魔族どもが血飛沫を上げている。

魔族どもが槍を突き返し、オーク達が派手に傷ついている。


乱戦である。

聖ワティヌス教会……この街に一番最初に造られた教会の前には……今や魔族どもとオークどもが血で血を洗うまさに血戦を繰り広げていた。


「右に展開するだ! 一歩も近づけさせたらダメだべ!」






それを指揮していたのは……オーク兵隊長にしてサフィナの夫、ワッフであった。







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