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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第五部 竜殺しの太守クラスク 第十八章 クラスク市の危機
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第816話 けがの功名

「きゃっ」

「なになになにー!?」

「うわああああああああああっ!」


一瞬にして包帯が如き布にぐるぐる巻きにされてしまった一同。

頭部もまたぐるぐるに布で巻かれてしまい視界すら確保できない。


(いっけない……!)


エィレは後悔するがもう遅い。

周囲の者を無力化するのに長けている魔族だったのだ。


もしなんらかの強力な幻影系統なり変化系統なりの魔術妖術でこの街のセキュリティを突破できるのなら、確かに彼らのような魔族は非常に潜伏に適しているだろう。

無論教会の日々の祈りを突破できるだけの防御術も必要なのは言うまでもないだろうが。


まず本来の姿が人型に近く挙動に不信感が出にくい。

手足のない魔族などが人の姿に化けたとしたらどうしてもその挙動に不自然さが出てしまうからだ。


さらに油断した相手でも疑った相手でも物陰からこの包帯で一瞬にして無力化して捕らえることができる。

そして捉えた相手は妖術にかけるなりそのまま殺害するなり自由に料理できるというわけだ。


(苦、し……っ!)


だが今の自分達にはどうすることもできない。

この中で唯一魔族に対抗できそうなのは精霊魔術使いのシャルくらいである。


無論魔族には強力な魔術結界があり、なまじな魔術は通用しない。

だが魔族自体を目標としない魔術……例えば以前使った〈座礁藻域ギィスクルマク〉のようなもので避難する隙を作ること自体はできたはずだ。


だが帯によって視界が塞がれる直前、そのシャルもまた帯に絡めとられてゆくのが見えた。


魔術を封じるには魔術を唱えるために必要な要素……すなわち呪文詠唱(音声要素)、魔術の流れを造る手足の動き(動作要素)、そして触媒(触媒要素)や焦具(焦具要素)などが必要とされる。

魔術によってはその一部の要素が不要な呪文もあるそうだし、()()()()()()()()を積んだ魔導師であればそれらの一部の要素が省略して魔術を行使できるようになるらしいけれど、この状態のシャルでは動作要素も音声要素も満たせまい。

触媒を取り出せる隙間もあるかどうか。


つまりこの帯布攻撃は術師と相対した際相手の呪文行使能力を殆ど封殺してしまう、ということになる。

術師殺しと言ってもいい。

いやより正確には生きたまま敵対する術師を無力化してしまえるというさらに剣呑な効果なのだが。


となるとエィレ達にできることはほとんどない。

ほぼ詰みではないか。


一体どうしたらいいのだろう。

必死に考えるが答えは出ない。

自分達だけの話であれば街の政治に関わっている以上こういう危険な目に遭う事はある程度覚悟できていたけれど……街の人たちが傷つくのは辛い。


一体、一体どうしたら……!



ぶぎゅる。



「ぷぎゅる?」


なにか変な音がした。

視界が塞がれていたせいで何がどうなった音なのかさっぱりわからなかったけれど。


「あれ……?」


唐突に己を束縛していた帯の力が緩み、エィレは慌ててそれを引き剥がす。

そしてその視界に飛び込んできたものは……



先程と同じ場所で、地べたに倒れ潰れひしゃげている例の魔族の姿であった、



「まぞく! てき! やっつける!」

「てちょっとヴィラー!?」


エィレがぎょっとしたその視界の上に拳がある。

大きな大きな拳骨だ


その拳骨の元を辿ると……そこには巨大化した、もとい()()()姿()()()()()ヴィラの姿があった。


「あ……そっか、そういうことか……!」

「今広がった結界のこと?」

「そうシャル、それ!」


流石にシャルは術師だけあって現状をすぐに理解できたようだ。


「これってたぶん魔族達が人に化けてるのを暴くための『正体を明らかにする』タイプの呪文なんだと思う! だから人間に化けてる魔族達の姿が元に戻ちゃったんだ!」

「で、そのあおりを喰らってヴィラの変身も解けて元の巨人に戻っちゃったってワケね」

「? なになに? ふたりともどうしたの?」


きょとんとしたヴィラはエィレとシャルの前で大きくかがんで視線を合わせ……こうのたまった。


「二人ともちっちゃくなった?」

「あんたがでっかくなってんのよー!!」


そしてシャルの渾身のツッコミを喰らう。


「え? え?」


シャルに言われたヴィラは己の手を見て、足を見て、周囲を見回して、己を見上げて怯えている男たちを見て……その後一拍置いて目を見開いた。


「ほんとだー!!」

「判断が遅ーい!」


そして再びシャルのツッコミが存分に発揮された。


さて帯布から抜け出した男たちの視線が巨人族の姿となったヴィラに注がれてる。

そこには怯えと恐怖の色があった。


まあ現状街に魔族が攻めてきたという異常事態である。

そんなところに暴れ者で有名な巨人族がいれば警戒するのも当然と言えば当然なのだが。


「う~~ん……」


そんな中……周りの男どもとは明らかに異なる感想を抱いている者が一人いた。

この娼館の客引きにして娼婦、クェットナモである。


「あの……どうかしたんですか?」

「いや、ねえ……」


彼女の視線はまっすぐとヴィラに向いている。

ただ身長差的に彼女の視線をそのまままっすぐ向けるとヴィラの股間に向かうのだが。


「流石にこのサイズ差だと本番は難しいかな……いやでも特殊なプレイなら需要あるかも!」

「いやアンタは何言ってんのー!?」


ぐっと拳を握り締め声高にそう宣言するクェットナモに今日何度目だか忘れたレベルでシャルのツッコミが飛んだ。


「ほんっとにスケベなんだから……」

「娼婦が助平ならそりゃまあ至極正常運ってことさね」

「ホントあー言えばこーゆー……」

「でもシャル、職業人としての誇りはむしろある方じゃないかな……?」

「捨てちゃいなさいよそんな誇り!」


一点もブレないクェットナモにむしろ感心した体のエィレの発言をシャルが即座に切って捨てる。


「まあとりあえず助かったわ。ありがとヴィラ」

「ヴィラ役に立った!?」

「立った立った。すごい立った」

「やたー!」


シャルの少し投げやりな発言にヴィラがムキっとしたポーズを作って応える。

普段の街中の彼女はあくまで人間族となっているためその姿も人間族の女性の常識を超えるものとなっていないけれど、本来の姿である巨人族は男女を問わず筋肉質である。

体積が大きくなったらその分筋肉がないと己の巨体を支えきれないのだ。


まあ生物学的に考えると巨人族のサイズを支えるにはその程度の筋肉ではまるで足りないのだけれど、そこは神の被造物だからなのか問題ないようだ。


ヴィラのマッシヴなポーズに緊張がほぐれ笑いが漏れる現場。

だがシャルはなんとも剣呑な表情を浮かべエィレに話しかけた。


「あの空を飛んでる魔族の一団さあ」

「うん」

「こっちに向かってきてない?」

「……来てるね」


そしてその事実に気づいた二人は互いに顔を見合わせた。


「「ヤバくない……!?」」


咄嗟に行動を起こしたのはエィレだった。

素早く後ろに飛びのき娼館から距離を取ると、そのまま後ろ向きにとっとっと…と駆け出したのだ。


「とにかくクェットナモさん! 外は危険だから避難を! 避難が無理ならせめて娼館の中に隠れて鍵かけてください!!」

「あいよ。アンタらはどうすんだい? 部屋ならまだ余裕あるけどー?」

「私達はいいですから!」

「りょーかい。じゃあそっちのアンタら、こんな日に客として来たんだからとっとと部屋入る!」

「「「へーい」」」


クエットナモは男どもを手早く娼館に押し込めて、エィレに片手で挨拶しつつ正面の普段開けっ放しの扉を閉める。


「一緒に逃げなくていいの?」

「比較で言うならそっちのが安全だと思う! たぶん狙われてるのは私達だろうから!」

「…言われてみればそうね!」


エィレの返事にシャルは完全に納得し反射的に頷いた。


巨人族を擁していて明らかに目立つ集団。

魔族の一体を倒してのけた危険性。

さらには以前襲われたエィレを擁していること。

どの点を取っても彼女たちの方が標的としての優先度が高いことは明白である。


特にかつてエィレが魔族または魔族に与する何者かに襲われた事実を考えると、彼女たちは極力目立ってはいけなかったのだ。

まあ先ほどの展開に関してはヴィラがいなければ詰んでいただろうからどうしようもないとしても。


「じゃあどうするの」

「とにかく……避難を呼びかけながら! 逃げる!」

「わかった!」






エィレとシャルが頷き合って、ヴィラを呼ぼうと声を駆けようとしたその時……

唐突に、彼女たちの足の自由が奪われた。






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