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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第五部 竜殺しの太守クラスク 第十六章 未曽有の危機
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第767話 挿話本題~神々の取引~

これまで、誰にも。

ミエは誰一人己の出自を語りはしなかった。

記憶喪失だと誤魔化して、己が異世界からやってきた異邦者であることを秘密にしてきた。


ひとつには言っても信じてもらえなさそうだったことと、もうひとつは何か明かしてはいけないような気がしたからだ。


それは転生者としての本能的なものなのか、それとも彼女の思い込みによるものなのか、それはわからない。

ただ彼女はそうしたことに理解がありそうな人物……例えば魔導術を学び次元界や他の世界について理解あるネッカに会ってさえ、それを黙秘してきた。


打ち明けるタイミングを逸してしまったというのも勿論あるが、実はもう一つ別の理由がある。

心の内で無意識に恐怖を抱いていたからだ。


もし正体を知られてしまったら元の世界に戻ってしまうのではないだろうか。

戻されてしまうのではないだろうか。

もし露見してしまったら全部夢だったことにされはしないだろうか。


病弱で、家と病院しかろくに知らず、学校すらろくに通えなかった彼女にとって、それは何より避けたい末路だった。

今が幸せだからこそ、失う事を恐れていたのだ。


「シャミル、さん……」

「なんじゃ」


ミエの声が、震えている。

彼女のこんな怯えた声を出したのもそれを耳にしたのも、シャミルには初めてだった。


「その、いつから……?」

「初めの頃から疑ってはおったよ、じゃが確信したのはお主が子を産んだ時じゃ」

「子供……? クルケブとミックとピリック……?」

「そうじゃ。()()()()()()()

「どうして……」


怯えるミエに、小さく嘆息しながらシャミルが語る。


「この世界には子が生まれる際いくつかの『要素』が介入する。お主も切れ切れにじゃが聞いたことがあるはずじゃ」

「要、素……?」


ミエは必死に思い出す。

混乱し、考えがまとまらぬ。

困惑したように眉を寄せ汗をかくミエに、シャミルは仕方なく己からその続きを口にした。


()()()()()()()じゃ。お主と太守殿が子を為したのなら、大きく三つ……細かく言うたら四つの要素が関わってくることになる」

「四つ……?」

「そうじゃ。まずひとつ、この世界の人型生物フェインミューブは皆神の似姿として生み出された種族達じゃ。ゆえに神々はその姿が崩れる事を望まず、他種族同士が子を為した場合必ずそのどちらかの種族となる。これはこの世界の根幹を為すルールであり、基本誰であれ影響を受ける」

「…それは、聞いたことがあります」

「うむ。ちなみに人型生物フェインミューブとそれ以外の種との間に生まれた子であってもこの法則が適用される例が確認されておるゆえ、片親が条件を満たしておれば発動するようじゃな」

「…………………」


シャミルの言葉に、ミエはそのまま頷いた。


「第二に太陽神エミュアの祝福じゃ。太陽神は太陽があまねく世界を照らすように、全ての種族を平等に祝福せんと他の神々に働きかけた。己が生み出した人間族ファネムの特性を皆受け入れないか、と。そして交渉の末神々はそれを受諾した。ゆえに人間族ファネムと他の種族が交わり子を為した場合のみ、その子供は両親の特徴をそれぞれ併せ持った形で生まれる」


それはミエの知る一般的な交配の結果であり、あまり驚くべきことではなかった。

むしろ一方の種族でしか生まれない方が彼女の常識的にはおかしいのだから。


人間族(ファネム)は特段の長所も短所もなく均質な能力を持っておる。一部に特化しておるがゆえに欠点も大きい他の種族との間の子は、それゆえその種族の欠点を()()()()()()ような特質となることが多い。つまりその種族が己の種族的欠陥によって存亡の危機に陥った時、そうした人間族(ファネム)との混血達が助けとなることが少なくないのじゃ。要は互いにメリットがあるということで、他の神々にも受け入れられたのじゃな。これは太陽神エミュアを象った人間族(ファネム)だけの特徴であり、一つ目のルールを上書きする」


確かにミエもその話を聞いたことがあったような気がする。

実際街にいるオークと結ばれた娘達が産んだ子供たちはオーク族というにはやや温和そうな顔立ちだった。

人間族(ファネム)の特徴が出ているのだ。


「そして第三にオークの神フクィーフグの呪いじゃな。オーク族と他種族が子を為した場合非常に高い確率でオークが生まれる。先ほど言った通り、人間族相手でなくばひとつめのルールに則り必ずいずれかの種族になるわけじゃが、その際どちらの種族がより多く生まれるかは神々同士の力関係による事が多い。一方がもう一方の神に借りがあった場合、敗北した過去があった場合など、それぞれの神の似姿たる種族同士が結ばれて生まれる子供はより優位にある神の種族の姿で生まれることが多いのじゃ。これを種族間の『綱引き』と呼ぶ」

「え、でも、それじゃあ……」


当然ながらある疑問に行きつき、ミエがつい興味本位で尋ねてしまう。


「……そうじゃな。オークの神フクィーフグは他の神々に対し圧倒的に有利な条件を飲ませたことになる。じゃがフクィーフグがどのようにして他の神々と交渉し、どのように己の要求を飲ませたのかはわからぬ。聖職者どもが己の神に尋ねても一様に黙り込んでしまうらしいからの。ともあれその結果として他種族とオーク族が子を為した際、ほとんどの場合オークの子が生まれる事となる。そして……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようじゃ」


ぴくり、とミエがわずかに身じろぎした。


「別……なんですか?」

「男児ばかりしか生まれんのであればその種族が滅びてしまうじゃろうが。となればそれを主神たるフクィーフグが望むとは考えにくい。じゃがこれまた誰がかけた呪いなのかは不明のままじゃ。()()()()()には違いないじゃろうがな」

「………………」

「じゃがまあどの神が仕向けたことにせよ、それもまた神々の定めたことには違いない。ゆえにひとまとめにして考えると、つまりオーク族と他種族との間に生まれる子はほぼオークの男児となる。これも第二の法則と同様第一の法則を上書きする」


シャミルの言葉を、ミエはまとまらぬ頭でそのまま飲み込む。

彼女の言いたいこととは一体何なのだろう。


「さて今の話を理解した上で、人間族ファネムとオーク族が子を為したとする。さすれば何が生まれると思う」

「ええっと……」


第一の法則はこの世界の根本原理である。

それに対し第二と第三の法則は神々同士の取り決めであり、それぞれ第一の法則より優先される。


第三の法則に則れば生まれるのはオーク族の男児となるが、そこに第二の法則が割って入るため、そのオークには人間族ファネムの特徴が入る事になる。


「ということは……生まれてくるのはみんな半オークの男の子ばっかり……?」


それはまさにこの街の出産事情そのものだった。

今街にいる赤子や幼児はほぼすべてオークの男児か、半オークの男児ばかりだからである。

女児は一人も生まれていないのだ。



……そう、()()()()()()()



「あ………っ!」


ミエはその事実に気づき愕然とした。


「ようやく気付いたか。お主の、()()()()()()()()()()()()。クルケブは半オークではない。特徴に人間族ファネムのそれが見られないゆえ純正なオーク族の男児じゃ、一方でミックとピリックにはオークの特徴が微塵もない。どう見ても人間族ファネムの娘に見ゆる。()()()()()()()()()()()?」


おかしい。

確かにおかしい。


先程の話を当てはめるなら、オーク族であるクラスクと結ばれたなら第三の法則に従いオークの男児が生まれるはずだが、ミエからは人間族ファネムの女児も一緒に生まれている。

そして人間族ファネムとの間の子なのだから三人いずれにも半オークとなっているべきなのに、そうなってもいない。


だがそれはミエの知る常識とも異なる結果だった。

なにせオーク族と人間族ファネム()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。



それでは、それではまるで……



「そうじゃ。お主の子には第二の法則も第三の法則も適用されず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だがそれは何故じゃ」

「それは、ええと……」


ミエが言葉に詰まり、そのままシャミルが己の言葉を継いだ。


「それはお主が()()()()()()()()()()()()()からじゃ。第一の法則はこの世界そのものの法則。それゆえ片親がオーク族であるお主の子にも影響した。一方で第二と第三の法則はそれぞれの神が()()()()()()()()()に対し他の神々との間に個別に契約を交わしたもの。つまり自分達が産みだした()()()姿()()()()()()()にのみ適用される。じゃがお主はそうではないのじゃろ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃ。それゆえ太陽神エミュアの契約もオークの神との契約も効果を表さなんだ」


息を飲むミエの前で……シャミルが静かに告げる。

その厳然たる事実を。






「となれば答えはひとつしかない。つまりお主はこの世界の住人ではなく、異なる世界からやってきた()()()()()()()()()()()()()()()()()()に他ならぬ、ということじゃ」








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