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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第五部 竜殺しの太守クラスク 第十五章 新たなる一歩
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第717話 記者のなり手たち

「私達がその新聞記者というものになることがこの街とアルザス王国との交渉妥結のためになる、と?」


アルヴィナが少し怪訝そうな顔で眉をひそめる。


「はい。先刻はお話しませんでしたが…この新聞はクラスク市と同時にアルザス王国でも発刊の予定があります」

「「「!!」」」


三人が目を見開き驚いた。


「同時にって言うのはどこまでー?」

「その日の記事が翌日にはどちらの街でも同時に発売される予定です」

「…そりゃ驚いた。本当に『同時に』なんだ」


ふむふむふむー、と首を傾げてアウリネルが考え込む。


「…ノームの。技術的に可能なのか、それは」

「できるできないなら…まあできるかなー。『この街なら』、ね」

「できるのか」

「製紙工場と印刷所を王国側にも作ってー、従業員に魔導師を雇えばー、あとはさっきの説明通りだとすると新聞の主体って記事……要は文章の集まりだからここと王国の魔導師同士で水晶玉でも使って文章のやりとりをすればいいわけでー」

「なるほど、そうした呪文があるのか」

「! ふうん」


ダフマネックの言い回しにアウリネルが少し意外そうに片眉を上げた。

言い方からするとどうやらドワーフは魔導術の詳細な呪文までは知らぬようだが魔導術自体についての理解はあるように聞こえたからだ。

なにせ大概のドワーフは神聖魔術以外の魔術にはとんと疎く、オークのように()()()()とひとくくりにしがちである。

それを『呪文』と表現するだけでもだいぶ理解が深いと言えよう。


「懸念事項は王国側で新聞を発行する時に材料である木材をどうするかくらいだねー」

「それに関しては街の住人となった北の森のエルフ達を通じて向こうのエルフ族と交渉すると言っていました」

「なるほどエルフ族を通じて…確かにそれなら合意は得られそうですね。ただ仮にその交渉が上手く行くとしても時間がかかりませんか?」

「はい」


アルヴィナの言葉にエィレは素直に頷いた。


「ですのでそれまでは王都の南の商業都市ツォモーペから木材を運ぶと言っていました。あのあたりなら森林も多くしばらくは木材も枯渇しないだろうからと」

「確かにあのあたりの森にエルフはいませんが…野放図な乱伐に繋がりかねないことは少々気にかかるところですね」

「そうですね、そのあたりは後でミエさんとクラスク様にお伝えしておきましょう」

「お願いします。私の方からも伝えておきましょう」


エィレとアルヴィナは互いに頷き、そしてエィレが話を続ける。


「ともかくこの新聞…あるいは雑誌はアルザス王国王都と同時に発売されます。それはつまりこの街の実情と王都の内情をそれぞれの街の市民に同時に発信できる、ということです」

「なるほど…仮に上の連中を説得できたとて、下からの突き上げがなくばオークの街との交渉締結はしにくかろうし、逆に庶民側からの要望や期待感が高まれば上の連中を説得する後押しにもできるという事か。ふむ、悪くないのではないか」

「そうだねー。草の根で情報の共有ができるのはいいかもー」

「はい。ミエさんもまさにそのあたりの話をしていました」


こくりと頷き二人の言葉を肯定するエィレ。


「この計画の要はクラスク市の情報発信媒体を作ることです。そして私たち外交官はこの街に()()()()と確信しているはず。ならば外交官自らが筆を執って新聞に記事を寄稿する事は私達の本分と矛盾しません。むしろ本義であるともいえます」

「なるほど。理屈ですね」


アルヴィナはエィレの言葉に納得したのか、静かに頷いた。

どうやら彼女なりに新聞の記事を書くことの重要性を飲み込めたようだ。


ただ…エィレの話はそれで終わりではなかった。


「それだけじゃありませんよ、アルヴィナさん」

「………?」


アルヴィナの傾げる首に、エィレは大きく頷いた。


「言ったじゃないですか。新聞は()()()()()()だって。この街の情報をアルザス王国側に発信することも逆にアルザス王国側の情報をこの街に発信することもできます。だから……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んです」

「「「!!!」」」


その言葉にはアルヴィナだけでなく他二人もハッと顔を上げた。


「おそらく皆さんはこの街を訪れるまでこの街の内情について詳しくは知らず、少なからぬ偏見を抱いていらっしゃったはず…違いますか?」

「それはまあ、はい」

「わしらは鉱山都市オルドゥスの件があったからこの街の功績自体は把握しとったよ、功績自体は」

「うちらはその前の地底軍の襲撃の時に大きな恩があったからねー。外交官派遣する前から空気は友好的だったさ。ただそれ以前はって言われるとまあうん」


三人は程度の差こそあれ、そうした側面があったことを否定しなかった。

確かに実情を知らぬ状態なら抱いても仕方のない偏見である。

だってまさかにオーク族がこんな先進的で文化的で平和的な大都市を建造するだなんて思わないではないか。


「はい。まあそうですよね。私だってクラスクさまにお会いするまではそうでしたし。皆さんもこの街について詳しくは知らなかったのでしょう。ですがそれはこの街の人達にとっても同じ事。皆さんの国について、この街の人たちは詳しく知りません。アルザス王国と同じように、です」

「…なるほど。つまりこの新聞を利用すれば私たちがこの街に自分達の国について伝え知ってもらえる一助になると?」

「はい、アルヴィナさん。そしてそれは同時に()()()()()()()()()()()()()()ということです」

「!!」


言われてアルヴィナはハッとした。

エィレの言わんとしている事が遅まきながら理解できたからである。


「ふむ、そうか…王国にも同日に新聞が発売されるからか……!」


ダフマネックが己の顎髭を撫でつけながらその事実に小さく呻く。

そう、新聞はこの世界の庶民が利用できる情報媒体としては()()()()()()()()()()()()のだ。


仮に日刊だとするなら今日起こった出来事をもう翌日には伝えられる。

それも遥か遠方のアルザス王国に、である。


無論これまでそうした情報発信効果自体はあった。

魔導術による占術……〈伝送フヴォフヴィック〉などを始めとした遠隔通信魔術である。


だがそうした魔術のほとんどは魔導術であり、そして魔導師に呪文の行使を依頼すれば金がかかる。

その金額はとてもではないが庶民が支払えるものではない。

ゆえにこれまでそうした高速の情報伝達は王侯貴族や一部富裕層のみが独占してきた。


だがそれがこの新聞によって変わり得る。

伝えたい情報をほぼ同日に複数の場所に発信できるようになるのだ。


「例えばエルフ族であればなぜ勝手に森の木を切ってはいけないのか、何が貴女達の逆鱗に触れるのか。そして逆に()()()()()()()()()()()のか、エルフについてのコラムで伝える事ができるはずです。軋轢のある両種族は合えば角突き合わせるばかり、そもそも険悪で会合を開く機会すらない地域も多いですが、そういう情報を新聞を通じて発信できるのなら、互いの誤解を解く機会となり得るのではないかと私は思います。どうでしょう。これなら単にこの街に協力する、というだけでなく、自国の代表たる外交官としての皆さんにとっても十分メリットのある話かと思いますが」


三人は押し黙って黙考している。

だがエィレには彼らの放つ空気で、口を開く前から己の交渉結果を理解した。


「…そうですね。確かに協力する価値は十分あると判断できます」

「まあわしは最初からそのつもりじゃったが」

「面白そう! お金にもなる! やるやるー!」



こうして三人の協力を取り付けたエィレはほっと息をつき……






そうして、その後の交渉により二十人以上の新聞記者をミエに紹介し大いに驚かれることとなった。









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― 新着の感想 ―
エィレさんやり手ですね!
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