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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第五部 竜殺しの太守クラスク 第十五章 新たなる一歩
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第713話 取材三人娘

「何かの役に立ちたい…ですか」


翌日。

クラスク市北大門の外にミエがいた。


彼女の前には三人の娘。

人間族の娘エィレと人魚族の娘シャル、そして巨人族の娘ヴィラがいる。


ミエの問いかけにエィレは真面目な顔で頷いた。

シャルは興味なさそうな素振りをしつつ気にしているようだ。

そしてヴィラは…少しおどおどしている。


彼女の場合街にやって来た当日ネッカとユーアレニルに聞かされた話のインパクトが強すぎるのだ。

ミエが何かすごい恐ろしい存在であるかのような印象が抜けないのだろう。


まあミエがこの街や周辺の国々に与えた影響を考えたのなら間違いなく彼女は()()()()人物なのだろうけれど、その場合『恐ろしい人』というより『恐るべき人物』という言い回しの方が正しいような気もする。


ただヴィラにはその差が理解できない。

()()()()()()()がわかるほど、彼女はまだ人型生物(フェインミューブ)の言葉に通じていないからだ。


「はい! 新聞の話をしたらぜひ協力したいって!」

「安紙で大量印刷とか色々考えるわねーミエも。ほらヴィラ、あんたの方からも頼みなさいな」


振り向いたシャルの目に入ったのは膝立ちでうずくまり縮こまったヴィラが、二人の背後に隠れながらおずおずと顔だけこちらに向けている姿だった。

いや図体的にまるで隠れられていなかったが。


「なにやってんのアンタ」

「こわい」


人間より倍以上大きな娘が怯える姿がクラスク市の外壁周りを歩く農夫や荷馬車の目に止まる。

なんであんなことになっているのだろうという謎と不可思議は、けれどその巨人の前に立って困ったように苦笑している女性を見てすぐに氷解した。


「ああミエ様か」

「ミエ様ならなー」

「ミエ様ならふしぎじゃない」

「「「ミエさまだからなー」」」


背後から切れ切れに聞こえてくるそんなのんびりとした会話に、ミエが腰に手を当ててなんとも不服そうに訴えた。


「納得いかないんですけど!」

「こわい!」



閑話休題。



「そうですねー。エィレちゃんはこの街をいろんな視点から紹介したいんですよね?」

「あ、はい。基本的にはその路線です」

「シャルちゃんに水路探訪の記事依頼したのすっごくいいと思います! シャルちゃんも期待してますね!」

「あ、ありがとうございます!」

「まーねー。期待されたらちょっとは応えようかなって気にもなるけどー」


憧れの人に褒められて声を震わせるエィレとまんざらでもなさそうに頭を掻くシャル。

この娘、割とおだてに弱いタイプのようだ。


「で、ヴィラちゃんですけど…そうですねえ。()()()()()()()()()()()()()()()?」

「「!?」」


ミエの台詞にヴィラとシャルが目をぱちくりとっせ、エィレだけがハッと口元に手を当てた。


「うちが人型生物フェインミューブ以外の種族を受け入れている事はいずれ公にしないといけないことですしー。まあ今日みたいな光景を目撃されちゃってますから近隣の街には噂くらいはもう伝わってるでしょうけども」

「そっか…この街に来た動機とか実際の人となりとかを伝えればこの村の異種族への不安を払拭ふっしょくする助けになるかも!」

「はい! いい視点だと思います」


知性体が不安や恐怖と言った負の感情を覚えるのは主に己の生命の安全が確信できぬ可能性がある時だ。

そして相手のことを『知らない』ということは、そうした負の感情の十分な引き金になる。

知らぬという事は何をしてくるか予測できぬと言う事であり、すなわち「目の前の相手の己の知らぬ部分で」「自分の命が危険に晒されるかもしれない」という不安に襲われやすいということだ。


『クラスク市が人外の化物を飼っている』などという噂が立てばいらぬ混乱や偏見を招くだろう。


その化物どもを利用して何かしでかそうとしているのではないか?

巨人族を率いて近隣の街や国に侵略戦争を仕掛ける気なのではないか?

などといったクラスクやミエが考えてすらいないようなことを勝手に想像し恐怖しかねない。


そうした相手に対する『恐怖』はその相手を『脅威』とみなす契機となる。

そして人は脅威がある時それを積極的に排除しようと行動する。

共存と共栄を目指すはずのクラスク市の方針が戦争を招く引き金になってしまったら洒落にもならぬ。



…だがそれを自ら公言し喧伝するとなると少し話は変わって来る。



「そっか、確かにヴィラはそういう取材相手にぴったりかも」

「そうなの?」

「うん!」


自分自身で己の価値をよく理解できていないヴィラが首を捻り、エィレが力強く頷いた。


人型生物フェインミューブ以外の種族、といっても隠れ里ルミクニにいる者は多種多様だ。

そもそも二足歩行でない連中すらいる。

のっけからそうした者を紹介したところでなかなか誤解や不理解を解く手助けにはならぬだろう。


だがヴィラは違う。

まずサイズ以外の見た目が人型生物フェインミューブに近いため恐怖を覚えることはあってもその見た目から嫌悪感などは抱きにくい。

また当人の感性が人型生物フェインミューブのそれと近く人里に降りてきた動機自体も共感を得やすいだろう。


さらに大きいのは人型生物フェインミューブとの『距離感』である。

例えばゴブリンやコボルトであればよく人型生物フェインミューブの集落を襲ったりするのでイメージが悪い。

食人鬼オーガなど印象最悪の際たるものだろう。


だが巨人族でもヴィラのような真巨人(丘巨人)は比較的人里から離れたところを根城としており、彼らから直接被害を受けた者はそれほど多くない。

この地方であれば巨人族に被害を受けるのは主に遠方に荷物を運ぶため山沿いを進む必要がある隊商の荷馬車程度だろう。


直接被害を受けないということは悪い印象を受けにくいということであり、クラスク市側が主体的に発信したイメージを誤解や偏見少なくそのまま受け入れやすいという事でもある。


そういう意味において、新聞という情報媒体を用いた宣伝記事としてヴィラは格好の取材対象であると言えるだろう。


「ヴィラ、今度色々聞いてもいい?」

「それシンブンのやくにたつ?」

「うん! すっごく! 新聞にも! 隠れ里にも! この街にも!」

「ホント!? ならはなす! はなしたい!」

「うん! よろしくね!」


こうして記事のひとつが決まる。

エィレ記者による『クラスク市隠されし里の秘密』である。

これはのちに人気記事のひとつとなり、その後エィレはヴィラだけでなく様々な種族の村人たちの話を聞き取ることになった。


「ならついでにこうしましょう。貴女達三人にはクラスク新聞の記者になってもらいます」

「え?」

「記者?」

「なになに? なになになに?」


ミエの唐突な宣言に三人が目を丸くする。


「でも記者って言ってもヴィラはまだ…」

「字かけない! …よむのもにがて」

「ですね! なのでシャルちゃんが個別の担当記事を書くとき以外の取材する時は必ず三人でセットということにします。貴女達三人でいるとお互い会話も弾むでしょうし、そういうのがインタビューの時有利に働くこともありますので。リーダーはエィレちゃんということにしましょう。『取材目的』『必ず三人で行動すること』という条件を満たせるのであればヴィラちゃんが街に入る事も許可します」

「「!!!」」「?」


エィレとシャルは目を丸くして、互いに顔を見合わせた。

ヴィラは何やら自分のことが言われている気がしたが、いまいち意味がよく分かっていないらしい。


「もちろん人の姿になってもらう必要がありますが。魔導学院に支払う魔術使用料をそちらが負担する必要はありません……まあ学院に依頼するんじゃなくってネッカさんに頼んで個人でかけてもらう分には触媒費用以外そんなお金かからないでしょうしね…ただし必ず私を通してネッカさんが魔術をかける必要がある関係上、この形式の取材をする前に必ず街に申請を出して、私に話を通しておくこと。いいですか?」

「「!!!!」」

「………??」


これまで三人が一緒に街に入ったことは一度もない。

三人が一緒に街にいたことはあったけれど、あれは途中からシャルが合流しただけであって三人で共に街に入ったわけではない。

実はあの一件以降三人が連れ立って街に入ったことは一度もないのである。


理由は単純。

ヴィラが人間族に変身するための魔術使用料が馬鹿にならないほど高かったからだ。

ゆえに三人連れだってのお出かけが街の外などにならざるを得ず、以前の時のように北森などに出かけたりしていたわけだ。


だがミエの言ったことが本当なら、これからは取材目的であればいつでも大手を振って三人一緒に堂々と街に入る事ができる。


「ヴィラ、聞いた!?」

「すごいじゃない! やったわねアンタ!」

「え? なに? ながくてとちゅうからよくわからなかった…」


大はしゃぎする二人と、いまいち自体がよく呑み込めていないヴィラ。


「ヴィラ! 私たちと一緒に記事を作るの」

「いっしょにつくる!」

「そのためだったら街に入ってもいいって!」

「はいれる! まちに!」

「ただし必ず私たち三人一緒って条件だけどね」

「さんにんいっしょ!!」


ようやく事態が呑み込めてきたヴィラに……エィレとシャルが抱き着いた。


……互いに抱き合った、ではない。

そんなことをすればエィレとシャルがたちまちヴィラの怪力に抱き潰されてしまうだろうから。






そうした危険も含めた相互理解……

それを新聞によって発信するのが、彼女たちのこれからの仕事である。






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