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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第五部 竜殺しの太守クラスク 第十五章 新たなる一歩
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第711話 求人広告

記者。

記事を書く者達をそう呼ぶらしい。


その記者が足りない。

とにかく圧倒的に足りない。


毎日毎日、いや場合によっては毎日でなくともよいのだが、とにかく定期的に刊行するためには記者がいくらいても足りない。

ちょっと考えただけでとんでもない量の記者が必要になって、エィレは軽く眩暈がした。


「そっか…しかもいずれはギャラグフの方でも集めないといけないのか」

「そうですねーキャスさん。はじめは少誌面で広告ちょっと多めにして、あとは求人広告で募集ですかねー」

「求人広告?」


聞き慣れぬミエの言葉にエィレが思わず鸚鵡返しに聞き返す。


「あーそっか。考えてみたらまだないのかな? えっと冒険者の酒場とかに募集の張り紙あるじゃないですか。あれと似たようなものですよ。『求む新聞記者!貴方も新聞を作りませんか?募集要件:共通語の読み書きができること。※応募者多数の場合面接によって採用を決定します。面接会場:上街居館 面接日:●●』みたいな。えーっとあと足りないのは…年齢? ええっとこの場合募集可能なのって何歳からなんでしょう。成人規定があるわけじゃないですし…」


ぶつぶつ呟きながら板書した広告要綱とにらめっこしているミエの背中を目を丸くしながら見つめている一同。


「あー…なるほど。新聞ってのを新聞社? ってとこで働く奴を募集するのに使うって事か。無駄がねーな」

「あほう。そんな単純な話ではないわ」

「え? 何がだよ。さっきミエが言ってたじゃねーか。店の広告とか載せて金取るって。要はあれの職探し版だろ?」

「そうなんじゃが、そうなんじゃがそれで済む話ではないんじゃ!」

「? よくわかんねーぞ」

「と、とんでもニャイこと考えるニャ……新聞広告の時点で気づいとくべきだったニャ…」


シャミルが驚いている以上に驚愕していたのはアーリだった。

商人である彼女にはまだ実行すらされていないその求人広告の脅威をとまざまざと理解できたからだ。


例えば冒険者の酒場やこの街の主用箇所に設置されている掲示板。

そこに書いたり貼られたりした内容を読めばその案件を伝えらえる。

だがそれはその場を通りかからなければ目に止まらない。


この街がずっと頼ってきた宣伝媒体である吟遊詩人。

彼らの歌でこれまでこの街の情報を広めてきた。

だが吟遊詩人の語りは耳目を引くために大袈裟になりがちで信憑性にやや欠けるし、それが眉唾物の噂なら層倍だろう。

オーク族の作った街などその最たるものだ。


だが新聞や雑誌は違う。

安価に買えてどこでも読める。

自宅に帰ってから読んでもいいしそこらの公園で読んでもいい。

外で読めば他の者が興味を引いて新たに買ってゆくだろうし、大多数が賃金労働者であり小金が余っていて余暇もあり、それでいて識字率も高いこの街の住人はその利便性と話題性ゆえ飛びついて瞬く間に街中に広がるだろう。



()()()()()()()()()()()



定期的に刊行され、常に最新情報と様々な知識を発信し続ける媒体であれば、やがて人々に信頼されるようになるだろう。

『情報が正確だから信頼する』ではなく、『新聞だから信頼できる』に変わってゆくはずだ。


アーリにはそれが手に取るように分かった。

なぜなら()()()()()()()()()()()()()()()()だからである。

そしてもしそんな媒体に店の広告や求人の募集などを載せてみたら…どうなるか。

答えは明白だ。



効果絶大に決まっている。



情報を発信し続けることでこの街の実態をアルザス王国に伝える…ミエの目的はそうかもしれない。

だがこの新たな情報媒体は活用次第でさらに恐ろしい力を発揮するかもしれぬ。

アーリは本能的にそんな危惧を抱いた。


彼女の直観は正しい。

慧眼と言ってもいいだろう。


この世界ではまだ発生していない現象だが、新聞のような客観的に()()()知識や情報を載せる媒体は、それを継続的に利用している者にとって()()()()()()()()()という特性を有している。

情報の精査を意識できぬ者であれば猶更だし、喩え意識できたとしても精査するだけの技量がない者であればどう足掻いても情報に飲み込まれ、或いは流されてしまう。

ネットの情報や書き込みなどを鵜呑みにしがち人達も根底は一緒である。


簡単に言えば誤謬ごびゅうや偽情報などであってもいかにも信憑性があるかのように見えてしまうのだ。

それを利用して人々を騙し操り扇動することだってできる。


いや嘘の情報や偽情報とまではゆかずとも、特定の方向性に()()()情報は人心を簡単に誘導し得る。

ミエの世界で政治集団や宗教団体などが新聞を発行している理由がまさにそれだ。


ミエ自身にはそうした意図や思惑は一切ないだろう。

その点についてアーリは心の内で即座に断じた。


だが新聞や雑誌という媒体には、そうしたミエの意思を越えたとてつもなく強力で、同時に危ういものを秘めているのではないか。

そうアーリは感じたのである。


「ふむ。では最終的にはその求人広告で記者を集めるとして、だがそれでも初期の記者がまだ足りん気がするな」


新聞に見立てたサンプル用紙にペンを走らせ仮の記事を組みながらキャスが呟く。


「そうですねー。とりあえず季節とか関係ないいつでも載せられる記事はあらかじめある程度ストックしておいてー。新聞小説もこの手が使えますね」

「なるほどの。記事によっては必ずしも毎日最新情報を集めねばならんというわけではない、か。道理じゃな」

「ですです」

「となるとわしの領分はあまり最新情報やら季節やら関係ないからの。あらかじめある程度書き溜めておくか」

「そうしていただけると助かります!」

「おー、そういえばミエ、ゲルダ食べもの食べる記事書くって言ってた」

「はいサフィナちゃん。言ってましたね」

「言ったぞ。アタシの記事だかんな」

「いいと思いますよ食レポ。この街の名物料理も紹介できますし」

「おー」


サフィナは無表情ながら何か嬉しげにバンザイする。


「サフィナちゃんもやりたかったんですか食レポ」

「ちがう」


そしてふるふる、と首を振るサフィナ。


「えーっと、食べもの食べる方じゃなくって」

「なくって?」

「つくるほうの記事とか、いいの?」

「いいですね! いいと思います! うちの街で採れる材料だけで簡単に作れて栄養たっぷりの料理とか! 割と料理知識って地域差や個人差ありますからねー。新聞でフォロー出来たらとってもいいんじゃないでしょうか!」

「おー…」


サフィナガ幾度か万歳を繰り返す。


「…サフィナちゃんの手料理ですか?」

「ちがう。ワッフーにケーキつくりたい」

「ああ!」


ぽむと手を叩くミエ。


「それはあれですね! あの有名なケーキ屋さん(ヴェサットリオ)トニアの店長トニアちゃんによるスイーツ講座! みたいな!」

「そう、それ。そういうのやつ」

「それはいかんやつじゃの」

「絶対売れる奴ニャ」


わいのわいのと雑談しながらも次々に話が進んでゆく。

こんな活発で闊達な首脳陣の会談などエィレは見たことも聞いたこともなかった。

だがそれがなんとも心地よく、彼女はすっかり気に入ってしまう。


「……ところでキャス、それ何やってるの?」

「ああ姫様。こう記事というのは考えるに文字の集まりなわけで」

「はい」

「ということは記事としての文字数は変わらなくとも新聞のスペースに配置する際縦に長くしたり横に伸ばしたりとレイアウトを変えられるわけです」

「たしかに」

「そうした時誌面の配置にどのような可能性があるのかと今少し試行錯誤していたところで」

「あー……」


とそこまで相槌を打ったところでエィレはうん? と首を捻った。


「それって…実際の新聞でも必要な作業ですよね?」

「ああ、はい。編集さんですね」


二人の会話にミエが割って入る。


「編集さん?」

「よく気づきましたねー。いくらみんなが記事を書いたってそれを紙面のどこにどんな風に配置するか、挿絵はどういう風に載せるのか。とか考える人がいないと新聞は出せません。そのためにそうしたことを専門にする人が必要です。それが編集さんですね」

「…成程。確かに道理だな」


キャスは今更そのことに気づいて少し唸った。

まさに今己がしていた行為を毎日のようにやらねばならぬ人物がいるのだ。

そのことを考えてキャスは少しゾッとした。

おそらくとんでもなく多忙になるはずである。


「ミエ様。初期の記者集めはどうしましょうか。一応衛兵たちは皆読み書きができますが面白い記事を書けるかというと…」

「ですよねえ」


エモニモが半分流された議題を再び持ち出し、ミエが困ったように首を振った。


「あ……」


そんな時、一人口元を押えその身を震わせた者がいた。

エィレである。






「私……その新聞記者に心当たりある、かも……?」





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