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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第五部 竜殺しの太守クラスク 第十五章 新たなる一歩
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第710話 雑誌

「しかしいざこれを実現しようと思うたら相当大変じゃな」

「そうですねえ」

「この誌面づくりを毎日か……担当はほぼかかりきりになるんじゃないかニャ?」

「はい。ですから私たちが政務の合間にやるのは相当厳しいかと……なので最終的には私たちの手から離れ完全に独立した新聞社を作りたいですねー」

「新聞を出版する専門の商売か、なるほど」

「結構な規模になりそうニャー。予算ちょっと考えとくニャ」


ミエの言葉にさもありなんと頷くシャミルとアーリ。


「しかしそこに至るまでは私たちも相当多忙になりそうですね。本業に支障が出ないといいのですが」

「はいエモニモさん。仰ることよくわかります」


エモニモの言葉にうんうんと頷くミエ。


「やはりミエ様も懸念されてましたか」

「それはもう」

「ですよね……これを毎日ですからね」

「いえ必ずしも毎日である必要はないんですが」

「「「いいんかい」」」


ミエの言葉からそれを前提に考えていた全員から総ツッコミが入る。


「ああいえいえもちろんできるなら毎日がいいですよ? いいですけど。それはもう日刊誌が理想ですけども。でも例えばそれが厳しいって言うなら一週間に一回とか月に一回とかでもいいんです。週刊誌とか月刊誌てやつですね」

「週刊誌、月刊誌か…」

「はい。大事なのは『()()()()()()』『()()()()』そして『()()』出し続けることです。それがあってはじめて()()()()()()という状態が維持できて、それが()()()()()になりますから」


ミエの言葉を聞いてキャスがふむと腕を組んだ。


「なるほど…つまり信頼を担保に情報の信用度を高めようということか」

「さすがキャスさん! はい、仰る通りです」

「流石です隊長」

「隊長ではない」

「親衛隊長ですが」

「む……言うようになったな」


珍しくエモニモに言いくるめられるキャス。

子供ができたからか、エモニモの心情にも何か変化があったのだろうか。


「なるほどニャ。ずっと出続けてる以上評価され続け売れ続けてるわけニャからそこで書かれてることもきっと正しい二違いニャイ…最終的にそういう状態を目指そうってことだニャ?」

「ですです」


アーリの言葉にミエとキャスが同時に頷いた。


「それは確かに納得の考えニャ。商人も一度だけの大取引じゃ相手を信頼しないニャ。何度もいい取引を積み重ねて初めて信用できると判断するニャ」

「はい。まあ発行間隔が伸びるなら新聞よりは雑誌形式で出したいですけどねー」

「雑誌…そういえば新聞とは別に弾薬庫がどうとか最初に言うておったな。そっちはどういう仕組みじゃ」

「あー、構造の方から気になるんですね…」


いかにもシャミルらしいと感心したミエは、先ほどの紙を再び持ち出した。


「新聞がわかってれば雑誌の方は簡単です。これくらいの大きさの紙を真ん中で折ってですねー、たくさん重ねてー」

「新聞のページ数多いやつか?」

「そうですね、ゲルダさんの認識に近いです。でこれをいーっぱい重ねて……最後に真ん中を止める! そして折る! はい、完成です!」

「「「おおおー!?」」」


どよめきが、上がる。


「なるほど? 新聞より枚数が多い分中央を止める必要があるのか」

「これだけ重ねると大きく広げにくいですからサイズ自体も小型化するんですね」

「ええいそんなことより止めるとはなんじゃ止めるとは!」


キャスとエモニモを押しのけシャミルがミエに食って掛かる。


「ええっとホッチキス…って言ってもわからないか。こういう感じのコの字型…じゃなくてこっちの文字だとこんな感じの金具をですね、こうやって、こう…ええっとこの金具なんて言うんでしょう?」


黒板にミエが簡単な図を描く。

ちなみにミエの言うホッチキスは特定メーカーの製品があまりに有名だったため定着してしまった俗称であって、厳密にはステープラが正しい。


そしてミエが悩んでいるコの字型の金具はステープラ用の綴り針である。

が、日常生活を送っている者がそう言う事柄を意識することはまずないため、ミエもまたその正式名称を一切聞いたことがなかった。


「ほほう! なるほどなるほど! 上から強く押す! この時点では針はまっすぐじゃから紙を貫く! で、そのあと下にあるこのくぼみに押し付けられた針がくぼみに沿って折れ曲がる! 結果紙を留める役割となるわけか! ほっほう! 単純じゃがよくできておるの! これならドワーフ族と協力すればすぐに作れそうじゃ!」

「あーはいはい、そうそう、流石ですシャミルさん!」


などと言いつつミエは内心で、


(あーあの凹みってそういう意味なんですねー…言われてみれば納得です)


などと思っていた。

知識はともかく技術方面にはあまり詳しくないミエは。これまでステープラの正確な構造などあまり考えたことがなかったのである。


「しっかしなんで雑誌ニーズズモ? 弾薬庫ニーズズモってつけたんだ?」

「ええっと…なんででしょうね? ほらあれですよ、いっぱい作って横に並べると弾薬庫の砲弾みたいな感じになる……から?」

「あーなるほどなるほど。そりゃなかなか面白れー命名だな。でなんで発案のお前が疑問形なんだよ」

「いやー発案というかなんというか、別の処からアイデアを借りた的な?」


ゲルダの疑問に答えるミエの言葉は当たらずも遠からずと言ったところだろうか。

元々雑誌マガジンの語源は『倉庫』である。

倉庫のように様々な知識を集めた書物を定期的に刊行したら面白いのでは…というアイデアから名付けられたものが、やがて『定期的に刊行する書籍』という部分がのみが独立して定着したものだ。

その倉庫マガジンという単語が、やがて弾薬庫や弾倉という意味を持つようになって、遂にはそちらの意味が主流になってしまったのである。


ミエはその弾倉という意味からしか知らなかったためこちらの世界の『弾薬庫ニーズズモ』という名で呼んでしまったわけだ。


「ふむ、つまり発刊間隔が短いなら薄く簡単に作れる新聞を、ある程度発刊間隔を開けるなら作るのが楽になる分厚みを持たせられる雑誌を刊行しよう、ということか」

「ですですキャスさん」


キャスの察しの良さに嬉しそうにこくこくと頷くミエ。


「ううむ正直どっちも作りたいのう」

「それは私もですけど! さすがに製作がおっつかないと思います! これから目を回すような忙しさになると思うので…」

「これからっつーかだいたいやること決まってねーか?」


ゲルダが椅子を後ろに傾けながら気軽そうにそう言うが、ミエは難しい顔をしてかぶりを振った。


「やることは決まりましたけどやらなければならないことがまだまだ目白押しですから」

「あー印刷機とかむこうの首都? 王都? に運んだりとか?」

「そーゆーのは大変かもしれませんが心配はしてません。シャミルさんとアーリさんのやることですから全く問題ないと思います」

「少しは心配せんか」

「ちょっとは不安がれニャ」

「まったく、これっぽちも心配してません!」

「「こら」」


即答でそう断じるミエ。

ジト目でツッコミを入れる二人。


「あの……ミエさん、じゃあ足りないものって言うのは……」

「ええっと…」

「記事を書く連中だな。先ほど『記者』とか言ったか」


エィレの疑問に答えようとしたミエの横からキャスが口を挟んだ。


「記者、ですか?」

「ええ姫様。この新聞をご覧ください。この紙面1枚に例えば記事を4つ載せるとして、それが二つ折りで表裏にそれぞれあるわけですからこの紙一枚で16の記事が必要になります。新聞はこの紙を何枚も重ねて造るわけですから…単純に四枚重ねなら16ページ、その四倍の64の記事が必要になります」

「そんなに!?」


驚くエィレにキャスが重々しく頷く。


「はい。さらには新聞は情報発信のために作られるわけですが、その集めた情報が毎回毎回の刊行に間に合ううかわかりません。調査に時間のかかる記事もあるでしょうから。さらに記者が病気や怪我で休むリスクを考えますとすぐに穴埋めできる記事を別に用意しておく必要もあります。となればとにかく記者です、技術的な問題はシャミルらがなんとかするにしてもとにかく記者が足りません」





そう……今のままでは圧倒的に記者が足りぬ。

新聞を定期的に発刊し続けるための最も基本的な、そして最大の難問である。





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