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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第五部 竜殺しの太守クラスク 第十五章 新たなる一歩
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第702話 政治制度

政策……それは統治者が打ち出す政治的方針や方策のこと。

治めているものが国のこともあれば街のこともある。


己の支配地を富ませるため、或いは強大な軍事力を獲得するため、或いは近隣諸国と平和的な関係を築くため、様々な意図を以て為政者は己の信じる政策を打ち出す。


それが上手く行くこともあれば、失敗して大損害や大きな被害を招くこともある。

失敗が政策方針上の大きな過ちであることもあれば、理念は正しくとも手段が正しくなかった場合もあるし、単に時代や運が悪かっただけということもある。



ただいずれにせよそれで統治者…国王や太守など…が失脚することはない。

なぜなら彼らは王族や貴族であり、そもそも己の領地を治める者として領民の上に君臨しているからだ。



無論彼らの政策の失敗によって富や武、或いは国としての影響力などを失って、最終的に没落したり攻め滅ぼされることはあるかもしれない。

けれどそれは失策のツケを払っただけであって政策の失敗そのものが理由で失脚したわけではない。


中には王位継承争いなどで政策の失敗を理由に王位を下ろされ別の有力者が王位に就く、といったケースもあるだろう。

だがそうして失脚しても彼は依然王族のままだ。

血統こそが王族や貴族を形成している基本だからである。


だがこの街は。クラスクとミエはそれを否定しようとしている。

ただ政策でのみ上に立つものを判断する政治構造、そんなものが成立したらそれは王侯貴族の全否定ではないか。


エィレの背筋に冷や汗が滲んだ。

こんな会話王都の皆には決して伝えられない。

一片でも伝わったらなこの街との交渉自体が瓦解しかねない危険がある。


「ですが…その場合領地はどうするのですか。選ばれた人達が分割統治するのですか?」

「ああ議会民主制の場合基本的に土地も家も全部個々人が所有してる前提ですよ。街や国はあくまで国体として領土全体の管理はしてますけど領土を私有しているわけではありません」

「……………………!」


あまりの言葉にエィレは息を飲んだ。


「全部街の連中に分けルノカ」

「そうですねー。そうしないと上に立つ人が街の運営じゃなくて欲得のために立候補することになっちゃいますし、いざ議員になったら自分の利権を守る法律ばかり作る事になっちゃうじゃないですか」

「ソウナノカ」


ふむ、とクラスクは首を捻る。

彼は上に立ち下の者を導く、いわゆる指導者というものについてはよく理解していたつもりだが、権威や権力を守るために汲々とする…という感覚がよくわからないのである。


オーク族の単純な価値観と、金銭を全く使わぬ生活が彼のそうしたある種の無欲さを形成しており、それが為政者となった今も彼の取る政策に大きな影響を与えているのだ。


欲を欠かぬ。

過剰に望まぬ。

己の地位に胡坐をかかぬ。

そしてそれらの維持にあくせくせぬ。

彼が勝ち得た富と権力、そして手にした栄誉と栄光を考えれば、彼が今住んでいる家が森村で一番小さいのは明らかに不釣り合いだろう。


それでいて親分として自分の下についた者の面倒を見たいという義務感と責任感は人一倍ある。


人の上に立つ者としてこれほど稀有な性質を有している者はなかなかいない。

出色と言っていいだろう。


だが…だからこそ後継者問題が重くなる。

彼に比肩する精神性を有する存在などこの世にそうそういないだろうから。


「あまり面白くナイナ。他にハドンナノガアル。モット一番偉イノガイル奴ガイイ」

「なら普通に君主制ですか? それならいろんな王国がありますからそれを参考に…」

「デモさっき言っテタ選挙ッテノモ入れタイ。街の中から街を動かす奴ガ手ヲ上げルノハ面白そうダ」

「う~ん…なるほど…」


ふむ、と腕組みをしてミエが考え込んだ。


「あまり政治関係は詳しくないんですよねー」

「「?」」


ミエの呟きがかすかに漏れ聞こえたけれど、クラスクもエィレもその言葉の意味を測りかねた。

ついでに言うならエィレもけげんそうに首を傾げていた。

ミエの知識と発想力に対しての彼女の自己評価があまりにそぐわなく想えたからだ。


まあ実際のところ元の世界で不治の病に侵されていた彼女はそれが政治でどうにかなる問題ではないと自覚していたため、政治体制についてはさほど興味を持たず、あまり詳しく調べたことはなかった。

それが彼女の本音として漏れ出ただけなのだろうけれど。


「なら立憲君主制か大統領制あたりですかねえ」

「ナンダソレ」

「立憲…?」


ミエの口から次々に飛び出す単語にエィレは目を白黒させる。

いったいこれのどこが政治に詳しくないというのだろうか。


「立憲君主制は君主制なので王様がいます。ただしその王様は憲法を超える事はできません。憲法は議会で決めて、その議会は議員によって構成されて、その議員たちは選挙によって選ばれます」

「王様お飾りカ」

「そうですねー。外交とかでは血統がものを言う事も多いですから完全にお飾りというわけでもないですが、確かに王族や王制を残すための妥協的産物と見る事もできるかもですね。詳しくないですが」


ミエの言葉に『何を言ってるんだろうこの人…』のような顔つきになる三人。


「大統領制は選挙によって国の一番偉い人を選ぶ制度です」

「選挙デ王様決めル感じカ」

「おおむねそうですね。ただ偉いと言っても持ってるのはほぼ行政権だけですけど」

「「ギョウセイケン?」」


また知らない単語が出てきて、クラスクとエィレは再び声を合わせる。

だがエィレはもう驚きを通り越して逆に興味津々となっていた。


想像もしていなかった言葉、新しい『概念』。

だがミエの口から出たそれは単なる机上の空論などではなく、いかにも実現可能そうに聞こえるのだ。


ならば知りたい。

自分達が当たり前のように享受している血統や王制というもの。

彼女はそれ以外のどんなやり方を聞かせてくれるのだろうか、と。


「ええっと…このあたりのだいたいの国は君主制…つまり王様が国を治める形ですよね。王様っていうのは系統としての王族がいるか、あるいは貴族たちの中から王様が選ばれるかあたりだと思いますが、基本的に血筋によるものだと思います」


ミエの言葉にエィレが頷き、クラスクと背後のイエタもまあ納得した体を示した。


ただ厳密にはミエの言っている事は正確ではない。

ミエの言っているのは世襲型君主制であって、中には選挙で君主を選ぶ選挙型君主制も存在するからだ。

ただ先述の通り彼女は己の健康にあまり関わらない知識…特に政治関連についてはあまり詳しくなく、つい考慮から漏れてしまったのである。


「ではその王様の代わりに『誰か』が政治を行おうとした時、()()()()()()()()()だと思いますか?」

「「うん…?」」


気を付ける?

政治をする時に気を付ける?

一体何を気を付ければいいのだろう。

話を聞いていた一同は僅かに逡巡した。


「旦那様はどうお考えですか?」

「間違えナイ」

「もちろんそれも大事ですね。イエタさんはどう思われます?」

「そうですねえ…議員さんという方が複数で話し合いをなさるのですから…喧嘩しない、でしょうか」

「喧嘩しないのも大事ですね! じゃあエィレちゃんは?」

「ええっと……専横を止める、でしょうか」

「はい! この中だとエィレちゃんが一番正解です! ぱちぱちぱちー、えらいっ!」

「くそう! 負けタ!」


拍手したミエがエィレの頭を撫で、彼女をいたく赤面させた。

そしてその後ろで本気で悔しがるクラスク。


「センオウ! センオウっテナンダ!」

「わがままで好き勝手に振舞うことですわ、クラスク様」

「はい。イエタさんの仰る通り。ここでは特に権威や権力を振りかざして好き勝手に振舞うことですね」

「? ??……ナンデそんナ事すルンダ? 大将が偉イノハ自分の手下を守る為ダロ?」


クラスクの本気で不思議そうな表情を見て、ミエとイエタ、そしてエィレは同時にくすりと笑みを浮かべた。


だってクラスクは理解できていないのだ。

彼は為政者でありながら、権力をかさに好き勝手するという感覚が本気で理解できていないのである。



「ナンデ笑ウ!?」

「いえ、だって旦那様…くすくす」

「申し訳ありませんクラスク様。決して悪い意味では」

「ふふ、面白い領主様ですね、クラスク様は」


三人の実に嬉し気な笑みに、ただクラスクだけは理由が理解できずに混乱する。






「ナンデ笑うンダー!?」






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― 新着の感想 ―
ウッケ・ハヴシがそんな人でしたねえ。
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