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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第一部 オーク村の若夫婦 第二章 村の改革
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第68話 物色とその戦果

「サフィナ、この馬車に間違いないか?」

「うん。サフィナが運ばれてたやつ」

「なるほど。確かに天井と壁がぶち割られてンな」


横倒しになった馬車は、先日サフィナが語った通り天井が破壊されている。

シャミルはそこから中に入り込み、一瞥して口惜し気に舌を鳴らした。


「…誰かが既に入っておるな。荒された跡がある」

「オーク共がやったんじゃねえの?」

「確かにチb…アーサフィナ入ッタ箱運び出すノニ中入っタガ、壁ノ筒トかハ放っテオイタはずダ」


唇を尖らせたサフィナに睨まれて、呼び慣れた言い方を変えるクラスク。

不満顔ながらこくこくと頷くサフィナ。


「なんでだ? 酒かもしれねえじゃん?」

「酒ノ匂イシナかっタ」

「あー」


酒呑みらしい会話を交わしながらゲルダとクラスクも中を覗き込もうとする。

…が、開いてるの天井も壁も彼らが入れるほどには大きくない。

当時は確か小柄なリーパグが運び出したはずだ、とクラスクは回想する。

かといって馬車本来の扉は横倒しのせいで上に付いていて登らなければ中に入れない。


「めんどくせえな。なあクラスクさんよ。この馬車あたしら二人なら起こせるんじゃないか?」


クラスクは「ヤっテみルカ…」と言いかけて育ちつつある理性が全力でブレーキをかける。


「アー…チビ(クァヴィ)…じゃナイリーパグノトコノ…アー」

「シャミルじゃ」

「それデシタ」

「も~旦那様名前は社交辞令の基本なんですからしっかり覚えてくださいね?」

「わかっテル。気ヲ付けル」


妙にかしこまった言い方をしてしまうクラスクに、ゲルダは思わず顔を背けて笑いを堪える。


「ナラシャミル。こノ馬車起こシテ構わナイか? やめタ方がイイカ?」

「起こさんでいてくれると助かるのう。もし無事な瓶があったら割れてしまうかもしれんでな。起こすならわしが出た後にしてくれんか」

「…ダそウダ」

「りょーかい。じゃあこっちは待つしかねえな」


ゲルダが両腕を後頭部に組んで近くの崖に寄り掛かる。

その横をとてとてのサフィナが通り抜け、そのまま横倒しになった馬車の天井の穴から中を覗き込んだ。


「サフィナも、手伝う?」

「おー手伝っとくれ手伝っとくれ」


シャミルに手招きされるまま馬車の中にごそごそと入るサフィナ。


「んー…これ私も入れるかな…?」


穴の幅を腕で測りながらミエも四つん這いになって中に潜り込んだ。


「なんだよ仲間外れはアタシだけかよー…」


つまらなそうに不満をごちるゲルダは…クラスクが地面に突きたてている戦斧に目を付けた。


「なあクラスクさんよ、その斧でこの馬車の天井を叩っ壊せば…」

「オ前考え方オーク似テル。凄イナ」

「それ褒められてる気がしねーぞ!?」



×          ×         ×



「おいミエちょっと外に出て行ってあの物騒な会話をやめさせてきてくれんか」

「あっははははははははは無理ですー」

「じゃよなあ

「ミエ、シャミル、楽しそう…」

「そう見えます?」

「そう見えるか?」


なんとも嬉しげなミエと心底嫌そうな顔のシャミルを交互に眺めながら、何を納得したのかサフィナは一人こくこくと頷いた。


「でも大体割れて散乱しちゃってますねえ…うわなんか床…壁? がべとっとしてる…シャミルさんこれってなんの薬とかわかります?」

「それはj…いやわしは書物を読んでばかりで実学は門外漢でのう。ろくなものではなさそうじゃが…ふむこれもダメじゃ。空気に触れて変質しておる。もはや効果はあるまい」

「じゃあサフィナの案内、ダメだった…?」


しょんぼり俯くサフィナの頭にミエが優しく手を乗せよしよしと撫でる。


「別にサフィナちゃんのせいじゃないわよ」

「でも…」


ミエが慰めつつ床に転がっている瓶を拾った。


「それに…別に薬はあれば嬉しいってだけでそれが目的じゃないしね!」

「……?」


サフィナは不思議そうに横に向けた耳をぴこぴこと揺らす。

シャミルとミエはにんまりと笑って床に落ちた瓶を物色し始めた。



×          ×         ×



「ただいま戻りましたー!」

「ふふん大漁大漁♪」


実に満足げな表情でミエとシャミルが帰還する。

そしてその後ろからふんすと鼻息の荒いサフィナが続いた。


「サフィナがんばった」

「よーしよしよし偉い偉い」

「くび、いたい」

「ゲルダさん力加減ー!」

「おおっと悪ィ悪ィ」


一歩間違えればエルフの細首など容易くねじ切りそうなゲルダの掌に撫でられ、サフィナは首をぐりんぐりんと動かされながら必死に耐える。


「でなんか薬は見つかったのか?」

「うんにゃ薬は全部奪われたかダメになっとったよ」

「なんだ。じゃあここまで来といて実入りなしか」

「そうは言うとらん」

「ああン?」


ミエとシャミルが草の上に並べたもの…

それは透明かつ奇妙な形の容器群、そして怪しげな器具どもであった。


「…なんだそりゃ」

「これはビーカー、これはフラスコ、これは漏斗、これは試験管、これは三脚金網、それに蓋つきの瓶がそこそこ! 全部化学…じゃなかった錬金術の実験器具ですよ!」

「ようもまあ錬金術の専門用語ばかり知っておるのうミエ。やはりお主記憶喪失前は学者だったのでは?」

「そうかもしれませんねー」


ミエの口調がやや棒読みになる。


「へぇー、()()()()とか初めて見たぜ」

「やっぱりそうなんですか?」

「ああ。でも色付きの方が綺麗じゃね?」

「まあ普通はそう思いますよね…」


ミエたちの戦利品をつまみながらゲルダがしげしげと眺め、ゲルダが素直な感想を述べる。


「まあここを漁った連中もそう思ったんじゃろうな。中身の抜けた薬瓶なぞ価値がないと。とんでもない話じゃ。透明なガラスは作り出すのに相当に高い技術がいるというのに」


ここにいない相手への不満を漏らすシャミル。


「まあまあ。お陰で私達は助かったんですからいいじゃないですか。ともあれこれだけあれば色々研究できそうですよね…というわけでお願いしてもよろしいでしょうか! シャミルさん!」

「んー…わしは研究実験の方は専門外だったんじゃが…まあ乗りかかった船じゃしのう」

「やったあ! ありがとうございますっ!」

「これ抱きつくでない! うぬぅ密着してわかる隠れ巨乳め…!」


どこか恨めしい口調で呟くシャミル。

それを口に指を当てて眺めているクラスク。


「なんだいクラスクさんよ、羨ましいのか?」

「ムウ羨まシイ…そうダナ。俺羨まシイ。ミエ! 俺ニモそれやっテクレ!」

「毎晩なさってるじゃないですかー!」


犬も食わなそうなやり取りにゲルダが思わず吹き出す。


「しかし協力するのはやぶさかではないが、あの家では少々手狭じゃな。かといってあれより大きな家となると…」

「族長の家ダけダナ。諦めロ」

「成程。しかし困ったの。それだと満足な実験ができんかもしれん」

「んー…じゃあ増築しちゃいます?」

「「「増築…?」」」


ミエの言葉を全員が不思議そうに聞き返し、その後シャミルだけ手を打った。


「なるほど。家の()()()()か!」

「はい! シャミルさんならあの家の壁の素材分かりますよね? 前と違って今は人手が使えますから…」

「この地域じゃと荒土の壁じゃな! 素材も手近で手に入りそうじゃ! 図面もワシが引くとして…壁塗りはリーパグあたりに任せるかのう。ふむ、確かにそれならなんとかなりそうじゃ」





こうしてミエたちはシャミルの…もといリーパグの家を増築し、シャミルの簡易研究室が完成したのであった。






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