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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第一部 オーク村の若夫婦 第二章 村の改革
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第51話 村を変えるために

「旦那様。先ほどのお話ですが…方法はあります」

「アルノカ!?」



互いに椅子に座り直し、ミエが真面目な顔で答える。



「オーク族は異種族の女性を娶らないと種族が維持できない…そういうことですよね?」

「そウダ」

「なら…攫うのではなく招けばいいんです」

「招ク…?」



ミエが笑顔で出した答えに、クラスクは不思議そうに首を傾げた。



「オーク族恨マれテル。来イ言っテ来ル女イナイ」

「はい! ですので評判をよくしましょう」

「評判…よくスル?」


ミエはこれまで温めてきた己の考えを滔々と述べる。

一方クラスクは悩みに悩んだ末に唐突に切り出したはずの自分の悩みにすらすらと答えるミエに目を丸くしていた。



「今のこの村の女性の扱いは他の種族からすれば到底良いものとは思えません」



無論この村の外の世界を知らぬミエにはそんな確証はなかったが、そのあたりは自分の世界の倫理観で代用する。


「ですのでこの村の女性の扱いを改善して、この村の女性たちが幸せそうに暮らせるようにして、この村を訪れた他の種族にこの村はとても良いところだと、この村で暮らせる女性はとても幸せなのだろうと評価していただければ、男にせよ女にせよ向こうから来てくれるようになるかと」

「それハ…こノ村ノ場所ヲ他ノ種族ニ教えル言ウこトカ?」

「はい。今すぐには難しいでしょうが……いずれはそうすべきかと」


クラスクが考えていた以上に、それは方針の大転換である。

なぜなら…そのやり方を、きっとあの族長は決して許容しない。



つまりミエの助言に従い、ミエの唱えた方針に舵を切るなら、クラスクは族長ウッケ・ハヴシとの()()が絶対に避けられない、ということだ。

あの化物のような強さの族長に、である。



「……村開ク前ニ、こノ村ノ女ノタめニやれルコトアルカ?」

「はい! それはもうたっくさん! それには旦那様も是非協力していただきたいです!」

「…わカっタ」

「わあ…っ」


最終的に族長と決別するにせよしないにせよ、その前にやるべきことはすべてやっておかなければ。

クラスクはそう判断し、ミエの進言に肯いた。

この村の女性の扱いをよくすること自体はクラスクも賛成なのだ。


「では…まずお風呂に入りましょう!」

「風呂…!?」


ぽん、と手を叩いて告げたミエの言葉に、クラスクは再び目を丸くした。


「はい! まず今すぐに協力していただけそうなオークさんと、そのお嫁さんを集めていただけますか? 今日はもう遅いので…できれば明日の仕事帰りにでも!」



×         ×         ×



女性にとって清潔感や小奇麗さは非常に重要な要素である。

自分自身にせよ、相手となる男性にせよだ。


そのためまずミエは集めたオークの連れている女達を例の蒸気風呂…いわゆるサウナに連れていって個々に体を洗ってやった。

当然先のエルフの少女もである。


こびりついた汗を流し、肌をきれいにしてやって、風呂上りに髪を梳かす。

それだけでそのエルフの少女はとびっきりの美少女に変貌した。


「ま、眩し…ていうか可愛すぎません…っ!?」


あまりの劇的ビフォーアフターに驚愕し衝撃を受けるミエ。

彼女がかつて生きていた世界の少女グラビアなら天下が取れるどころか世界が狙えそうなレベルである。

もっともミエ自身はそうしたものにとんと疎かったけれど。


だが無論これで終わりではない。


クラスクにもらった巻布…他のオーク達がろくに顧みない、だが希少な色付きの布類を自宅の倉庫から漁って鋏で裁断し、簡易な服を作る。

服といっても布を長めに切って肩から体に巻き付けるようにして纏い、再び肩まで巻いて先端同士を結んだあと、腰帯を締めただけの簡素なもので、彼女の世界で言えば古代のキトンやトーガに近いものだ。

ギリシャやローマの石像などが纏っているあれである。


そして普段破れかけの布切れのようなものを身に着けている女性達にそれを着せ、さらにクラスクが襲撃時に持ち帰った僅かな化粧品…主にクリームやリップ…を付けてやる。

少量なので元々は何かの記念日にでも自分が使おうと取っておいたものだが、使うべきはここだと一気に放出した。


「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?」」」


自分が飼っていた女の変貌ぶりに驚愕するラオクィク、リーパグ、そしてワッフ。

クラスクが連れてきた協力者は、当然というべきか例のクラスク派の三人であった。


興奮してすぐに自分の女を抱こうとするオーク達の手を、しかしミエが払いのける。


「いけません! 女性が美しくあろうとしているんですから、当然貴方達も綺麗になってもらいます!」

「オ、俺達モ…?」

「当たり前です。『綺麗な女性』は素質なのかもしれません。でも『女性が綺麗なままでいる』のはいっぱい頑張った努力の賜物なんです! …とものの本にありました。そんな女性の努力には男の方も誠意で応えていただかないと!」


そう言いながらラオクィクの手を引っ張りつかつかとサウナへに入るミエ。


「ウオッ! 湯気ダラケダナ! アネゴ…アネゴ?!」

「はい! いっぱい汗かいて、いっぱい綺麗になっちゃいましょうね!」


扉が閉められ、湯気で蒸し蒸しとする小屋の中…振り向いたラオクィクの目の前には、薄布を纏ったミエの姿があった。


蒸気と汗でたちまち布が湿り、肌に密着し、彼女の体のラインをぴとりと艶やかに浮き立たせる。

上気した頬や首筋はほんのり色っぽく、普段の民族服に比べ出るところが出たその肢体が一層強調されていた。


「ささ、この椅子に腰かけて! 今から使い方を教えますからねー」

「ア、ア、ア、アネゴ…?! ミエアネゴ!?」

「かゆいところはありますかー? こうやってこのタオル…長い布で体をこすってですね」

「ウホオオオオオオオオオオオオオオウ!?」


背後から背中を擦られ、溜まらず飛び上がったラオクィクが辛抱溜まらんと振り向くと…


いつの間にか扉が開き、湯気に覆われつつさらに頭部からも湯気を噴出させているクラスクが腕を組み、凄まじい形相で仁王立ちしていた。


あ、俺死んだわ…的な表情で天井を見上げるラオクィク。

むー、と頬を膨らませおかんむりのミエ。


「もー、旦那様! 扉を閉めてください! 蒸気が外に逃げちゃうじゃないですかー!」

「…ミエ、男連中ノ風呂ノ使イ方俺ガ教エル」

「あら? 大丈夫です? いつもお風呂の時は全部私がしてさしあげてますのに…」

「俺教エル!」

「はいはい」


ものすごい剣幕のクラスクに、わけもわからず頷き退散するミエ。

そして扉が閉められ、クラスクと同期のラオクィクだけが残された。


「こノ布…タオル使ウ。両手デ端ト端掴ンデ体こすル。汚れ堕ちル。気持ちイイ」

「オ、オウ」


言われるがまま初めての風呂を堪能するラオクィク。

だがやがて静寂に耐え切れなくなって……ぽつりと呟いた。


「…ナアクラスク。アネゴ自分ノ体ガドンダケオークノ目ノ毒カワカッテナイト思ウ」

「…ダヨナ」


クラスクがはああああああああああと溜息をつく。


「ワカルカ、ラオ」

「ワカル。スッゴクワカル」

「オ前ミエヲソンナニ襲イタイカ?」


ぎろり、と睨むクラスクの瞳には明らかな殺意が込められていて、ラオクィクは震えあがった。

同期の二人ではあるが、今のクラスクを相手にして無事で済む自信など到底持てないラオクィクであった。


「襲ワナイ! 絶対襲ワナイ! アネゴ全然興奮シナイ!」

「テメエうちノ嫁魅力ナイッテ言ッタカァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

「アアモウメンドクセエナア!」






ともあれそんなこんなで…オーク達の風呂体験も終わり、それなりに小奇麗になった。

そして…オークどもはクラスクが連れてどこかへと去り、残りの女性陣をミエが連れ、彼女の家へと案内した。






…ここからが、本番である。







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