表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第四部 大オーク市長クラスク  第七章 天より舞い降りた聖女
417/941

第414話 (七章最終話)交渉成立

「……ドワーフ族としてその仕事を受けることはできん」

「「「父上!」」」


兄弟たちが思い悩むその背後で、ブランデーの入った杯を傾けながら父トーリンが断じた。


「理由を聞イテもイイカ」

「喩えどんなものであれドワーフ族としてオークの仕事に手を貸す事はできん」

「そうカ…」


クラスクはがっくりと肩を落とした。

どうやら彼の想像以上に互いの種族の壁は厚いらしい。


「父上…」


長男ヘグーンウルクが父親に何か声を掛けようとするが、それをトーリン自らが制した。


「最後まで話を聞け。()()()()()()()()()その話は受けられん。我らが貴様を認めたところで街中のドワーフ達が貴様を認めるには長い長い年月が必要だ。オーク族の寿命は我らより遥かに短い。その間待てはしないのだろう?」

「!!」

「父様、それって…!!」


父の言葉に面を伏せていたネッカが、その後に続く言葉で顔を上げ、ぱああと輝かせる。


「ドワーフ族として、この街としてお前の仕事を引き受けることはできぬ。だが()()()()が受ける分には問題なかろう。当初は貴様が予定している数より若干減るかもしれんが、それで構わんか」

「ああ。助かル。助かル……!」


ぐっ、と拳を握り締め、クラスクが絞り出すような声で呟いた。


「いいのですか父上」

「…うむ。いかにオーク族であろうと優れた職人を擁し旨い酒を作れる者を認めるのはやぶさかではない。しばらく忙しくなるが…構わんか」

「ええ。私は問題ありません」


父トーリンの言葉に長男ヘグーンウルクが応えた。

手にはウィスキーの注がれた杯を持っている。


「はい。私も異存ありません」


次男ナクブもそう応じた。

その手にはブランデーの入った杯がある。


「まあ俺にとっては命の恩人でもあるからな。癪な事だが」


三男サットクも不承不承頷く。

まあ手には甜菜ウオッカの杯が握られたままなのだが。


「私も賛成です」


そして四男ルセコーもまた小さく頷き賛意を示した。

そしてその手には蜂蜜蒸留酒ノエウ・ツヴラストの杯がある。


「うむ。ではこれよりドワーフ族の総意とは別に、我ら一家は貴様の仕事を受けるものとする。それで異存ないか」

「異存ナイ。助かル」


ほう、と大きく息を吐くクラスク。

流石に彼も緊張していたのだろう。

なにせ長年の宿敵であるドワーフの街に部下も連れずに乗り込んだのだ。


この街出身のネッカを連れ、善良で知られる天翼族ユームズのイエタを連れて来てなお集団で取り囲まれ数を頼みに殺されていてもおかしくなかった。

ちなみにこの商談に関し彼の家のペットであるコルキが非常に行きたそうにしてだいぶだだをこねていたけれど、流石に不味いと判断し彼に待てを言い渡して自宅に留めおいた。


コルキはだいぶしょぼくれていたけれど、どう見ても魔狼である彼をあの街以外に連れて行くのは少々リスクが高すぎるとの判断であった。

街の入り口前でのあの険悪な雰囲気を考えるとその判断は正解だったと言えるだろう。


多少なりとも彼らの矛先…いや斧先だろうか…が鈍ったのはクラスクが目の前でサットク…この街の住人たるドワーフを救ってのけたところが大きい。

もしあれがなければどんなに魅力的な謳い文句で語り訴えかけようとも、そもそも聞く耳すら持ってくれなかった可能性が高い。

そういう意味で今回の訪問はとても幸運だったと言えよう。




まあその彼の幸運も、出発前のミエの≪応援≫によって増強されていたものなのだから、この夫婦なかなかに隙がない。




「ちなみに要求するわけではないが他に酒はないのか」

「要求しテルじゃナイカ」

「いや、旨い酒なので、つい、うむ」


三男サットクの呻きを聞いてクラスクはニヤリと笑う。


「ネッカ、冷蔵庫もう一台あっタナ」

「はいでふ!」


例の小さめのリュックから机上に乗っている冷蔵庫と同じものを取り出しどしんと並べるネッカ。

部屋に上がる歓声。


「あるではないか!」

()()()()()ト言う奴ダ。ゴネタらダメ押しに使うつもりダッタ」

「おいこいつオークのくせに頭が回るぞ」

「オークのくせに」

「オークのくせに」

「なんダトー」


酷い侮辱を言っているようで、ドワーフ達の表情には侮蔑の色がない。

言葉だけは激昂しているように見えるクラスクもまた、別段本気で怒っているわけではなさそうだ。


「残念ながらもう新しイ酒はナイガ」

「構わん。俺はウィスキーをもらおう」

「俺はブランデーだ!」


商談成立の後は無礼講とばかりに酒を要求するドワーフ達。

クラスクもまた酒好きなので特に止めることもなくそのまま酒宴に突入する。


ぶるるる…と部屋の外で嘶きが聞こえた。

クラスクの愛馬うまそう(キートク・フクィル)のものだろう。


「酒の席が長くなルなら馬房を借りテイイカ」

「わかった。馬房はないが開いている牛舎ならある。案内しよう」

「デハ暫し失礼すル。おおイうまそう(キートク・フクィル)!」


扉を開けて念のため左右を確認、通路を歩いているドワーフがいないことを確認の上のそりと地下道に出たクラスクは、サットクの案内で家の脇に掘られた穴に案内する。


「ううむ。引っ張って入ると奥から出られんな。押したら蹴られんか?」

「心配ナイ。うまそう(キートク・フクィル)、お前ひとりで入れルか」


クラスクにそう言われたうまそう(キートク・フクィル)はまるで返事をするかのようにぶるるといななくと、てくてくと通路を回るようにしてその穴を確認、そのままそちらに尻を向けて後ろ向きに入ってゆく。

サットクはその馬の信じ難い行動にギョッとして目を剥いた。


構造上の話であれば馬は確かに退歩可能である。

馬術などにもそうした技法があるし、騎士達も必要なのでそういう移動法を馬に教え訓練したりする。


けれど彼らは通常誰かが上に乗って命じない限りそうした行動は進んで取らないものだ。

視界が広い獣であっても完全な背後は死角であることが多く、そして動物は視界が確保できない…つまり安全が確認できない方向へは進みたがらないからだ。


だがこの馬は命じられた後己の背後をわざわざ確認し、その後自ら()()()()に牛舎へと入って行った。

高度な知性がなくばこうした行動は取れぬはずだ。


「…というよりそもそもあの馬だいぶ大きくないか?」


オークを通路に出しっぱなしはまずいと足早に屋内に戻りながらサットクが素朴な感想を漏らす。


「そうダナ。うちにイル他の馬よりダイぶ大きイ」

「だろう。ドワーフの街にいる馬は小柄な種類だが外の馬と比べてもずんと大きくないか? どこの品種だ?」

「普通の馬ダッタ。なんか乗っテタラ大きくなっタ」

「なんだそれは!?」

「わからん。ダガ俺大きイ。馬も大きくナイと困ル」

「それはそうだろうが、だからといって乗り手が困ると大きくなるのか外の馬は!」

「知らン」



確かに奇妙な符号である。

クラスクは元々オーク族の中でも大柄寄りではあったが、これほどの巨体ではなかった。


それが今の状態になったのはミエのスキル≪応援≫の、夫である彼のみに働く専用効果≪ステータス還元≫の力によるものである。

これにより筋力や耐久度を恒久的に増加させ続けたクラスクは、やがてそのステータスに見合った体格となっていった。


まあどうして耐久度ばかりがそれほど増大したのかと言えば、夜の夫婦の営の際に色々と≪応援≫されたからなのだけれど、とりあえずそれは置いておいて。


ともあれクラスクの身体は徐々に大きくなっていった。

通常の軍馬では到底支えきれぬほどに。

ならばどうしてうまそう(キートク・フクィル)は彼を乗せ、疾駆し、そして自在に働くことができるのだろうか。



うまそう(キートク・フクィル)が今の状態になった理由…それもまたミエにあった。



彼女が毎日昼夜を問わず夫に対して行っていた数々の≪応援≫……

その≪応援/旦那様クラスク≫のレベルが上がったことにより、その応援相手に愛用の騎乗生物、獣の相棒、使い魔などがいた場合、通常の≪応援≫だけでなく≪応援/旦那様クラスク≫の効果の一部がそれらの獣に適用されるようになっていたのである。


使い魔を有する魔導師でもなければ獣の相棒を持つ森人ドルイドでもないクラスクには、その対象が愛馬であるうまそう(キートク・フクィル)しかいなかった。

クラスクが騎乗する獣と言えばコルキもそうなのだけれど、コルキはどちらかといえば普段ミエを背に乗せて駆けまわっているため、どうもクラスクの乗騎として認識されなかったようだ。


ゆえにミエの≪応援/旦那様クラスク≫の初歩的な効果である≪ステータス還元(低級)≫がうまそう(キートク・フクィル)に対して発現し、彼女が≪応援≫するたびに一時的に上昇したステータスの一部が恒久的にうまそう(キートク・フクィル)にも還元されることとなったのだ。


これによりうまそう(キートク・フクィル)の耐久度が増大した結果彼は徐々に大型化し、知性が増強された結果人の言葉を聞き分けられるようになった。


その大きさはもはや魔狼コルキと並んでも見劣りしない程となっており、その高まった知性も合わせ、もはや彼は単なる馬というより魔蹄馬と呼ぶに相応しき存在となっていたのである。



「…で、あのオークとはどこまで行っているのだ」

「どこ!? どこってどこでふか!?」

「決まっているだろう! その…こう、関係性というか…」

「~~~~~~~~~~~~~~っ!!」


扉を開けると他の兄弟たちが今まさにネッカを問い詰めている最中であり、ネッカが真っ赤になって俯いていた。


「ああああああああああああああ!!」

「オーク! 貴様! 妹に!!」

「抱イタかト言うなら抱イタ。イッパイ抱イタ。夫婦ダからな」

「「「貴様ぁ!」」」


酒をあおりながら食ってかかる兄弟たち。

真っ赤になって顔を覆うネッカ。

無言で杯を傾ける父トーリン。


「待て待て待て。それなら俺も聞きたいことが……!」


その声は内から勢いよく閉じられた扉によってかき消すように消えた。






こうして宴の夜は更け…クラスク市とネッカの家族との間に冷蔵庫制作の契約が為ったのである。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 応援のスキルの影響の影響で馬がパワーアップ。ふむふむ。つまり、クラはんの血をアクスさんにちいと抜いてもらう。血液型合う他のオークに戻してもらう。これパワーアップすんじゃね?いや、クラはんの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ