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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第四部 大オーク市長クラスク  第七章 天より舞い降りた聖女
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第388話 オーク街

その代案として出されたのが『オーク街』である。


オーク街とは、下町の一角をさらに城壁で覆い他と隔て、そこの他部族のオーク達を住まわせて、他種族と隔離させつつ近くに置いて教化しようというアイデアだ。


これなら目の届くところに置いておけるし、じっくり教育もできるし、何か起きた時問題にも対処しやすい。

必要なら畑の耕作などの仕事にも従事してもらえる。

元の集落のあった場所は先述の案の通りに砦として整え、一部のオークを半月交代などで派遣して守らせればよい。


そして十分教育が行き届いたと判断できれば…その時は隔離された場所から解放し、街中を闊歩できるようにしてやればいいのだ。


「一見いいアイデアかと思ったんですけどねえ…」

「ダメナノカアネゴ」

「私もその案で悪くないと思ったのだが…」


リーパグが肉を、キャスがピクルスをつまみながらミエに尋ねる。

そして己の舌の上に乗った触感が気に入ったのか、二人でなにやら満足そうにこくこくと頷いた。


「下町の人口増加がこちらの想定をはるかに上回ってます。このままですとオーク達が住むスペースを確保できません」

「「あ……」」



そう…街の規模拡大が彼らの想定をはるかに上回っていた。



現在は移転した元卸売市場の商店街や建設中の初等学校、そして実験農場や家畜小屋などが広がっているのどかな下町北部。

ここは本来であれば各部族のオーク達の住宅を作る予定地だったのだ。


街の西から丘を登れば多島(エルグファヴォ)丘陵(レジファート)の小国群。

街の東の草原の向こうにはアルザス王国最大の商業都市ツォモーペとその衛星都市群。

そして街の南の中森ナブロ・ヒロスへと向かう街道は二手に分かれ、一方は森の中のクラスク村へ、もう一方は森をの向こうにある大国バクラダへと続いている。


それら三方向には毎日のように朝から晩まで隊商や旅人が行き来し、この街を通過してゆく。

そして少なからぬ者達がこの街に滞在し、金を落としてゆくのだ。


なにせ長らくオーク達が支配していたこの一帯にはここ以外にまともな街がなく、一息つくにも貨物や食糧を補充するにも都合がいい。

まさに交易都市を目的として作られたこの街の面目躍如と言えるだろう。


またこの街自体が()()()()()()()()という稀有な特色を得た事で観光地化しつつあるというのも大きい。


ゆえにこの街に発展の素地ありと見込んで、他の街や国から次々と人々が群れ集まって勝手にクラスク市の周辺に住みつき始め、彼らを半ば保護し、或いは囲い込む形で都市のスプロール化…計画にない無秩序な発展…を防ぐためにその周囲に城壁を巡らせた。

この辺りはアルザス王国宮廷魔導師ネザグエンがかつて推測した考察がほぼ的中している。


ただ街に集まった有象無象を防ぐだけなら、街の北部の城壁をここまで大きく巡らせる必要はなかった。

そちらの街道にはは殆ど人が集まらなかったからである。


現在は居館と発展した都心部をぐるりと囲む堅牢な二重城壁…元来の『クラスク城』を中心に、その周囲の外壁は多角形の円に近い形を取っている。

だが当時の発展…もとい勝手に増えた人々を囲い込むことだけが目的だったのなら、その外壁は東西南に広がり、北側にはほぼ閉じた、いわば南側に伸びた半円弧の形状となっていたはずだ。


それをこの街はわざわざ北側にも広げていたのだ。


当時のクラスク市の周囲には堀が巡っており、さらにその外側はずっと混合農業用の畑地が広がっていた。

市街地とするためにはその畑を潰さなければならぬ。

決して軽くはない損害である。


それをわざわざ北に広げた理由がオーク達の居留地…即ち『オーク街』である。

現在農地が広がっているあたりを簡易な宅地に改装し、同時に下町の北側部分のみ城壁でそれ以外の区画と隔てて、そこにオーク達用の小さな町を独立して作る予定だったのだ。


街の北側に居着いた住人はほとんどおらず、城壁で囲っても元々あった畑地を潰さず実験農場や家畜小屋などに転用できるのも都合がよかった。


また多くの空間が空いているため、教会に聖職者が来てくれた時用の卸売市場の移転先など、街造りの便利な空きスペースとして活用されてきた面もある。


「ただそこにですねえ、小学校…じゃなかった、初等学校を作っちゃったんですよねえ」

「! そうか…元来の用途を考えるなら、下街の北部以外のどこかに建てるべきだったのか」

「ですです」


キャスがミエの言わんとする事に気づき、ミエがこくこくと頷く。

ちなみにキャスがつまんでいるのは季節野菜の浅漬けである。

エルフの血を引いているだけに野菜が好きなのだろうか。


そう、今後のために学校を作ること自体に問題はない。

問題はないが、建てるなら街の南側などに建てるべきだった。

だが街の急速な発展に伴い下町の東部、南部、西部は多くの場所に宅地が立ち並び、そこに住み暮らす者のために各地に自然発生的に商店街ができて、瞬く間に空き地を埋めていってしまった。


今でもまだ空き地が残っているにはいるが、学校規模の大きさを建てるだけのスペースはもはや空いていないのだ。


「そんなん強引にどかしちまえばよかったじゃねーか」

「そうなんですよねー。一応体面上はできたんですけど…」


ゲルダの言葉にミエが不承不承己の不手際を認める。


この街の土地は一括してクラスク市長の者であり、彼以外の土地所有者は存在しない。

そしてその全ての土地をその上に家を建てている者に『貸している』というのがこの街の大きな特徴だ。


土地を借りているのだから当然地代を払わなければならない。

そしてその集めた地代を街の発展のために活用する。


かつてミエの世界で提唱された理想都市…『庭園都市』レッチワースにも通じる構想である。

ちなみにこの都市理論は彼女の故国に伝わった際、その名を変えて『田園都市』の名で流布された。


なにせ当時の彼女の故国には()()()()()()()()()という概念自体が広まっていなかったのだ。

今でも田園都市の名を冠する地名や路線などに、当時の名残を見ることができる。


ともあれこの街の全ての土地所有者はクラスク個人である。

ゆえにいつでも彼らにその場を立ち退かせ、自由に都市計画を進めることができたはずだ。


ただシャミルが上げた幾つかの建設予定地を見て回ったミエは、結局その踏ん切りが付けられなかった。

人々が元気よく、今まさに彼らの手で街を発展させてゆく様を見て、彼らをまとめて追い散らしてその跡地に大きな学校を建てる、という行為を躊躇してしまったのだ。


また街の北には大きな空きがあり、そこを放って今現在人が住んでいる…あるいは住みつつある場所を取り壊すのは住人たちの評判を下げかねない、というのも大きかった。

このあたり、ミエの人のよさがやや悪い方に出てしまったと言えるだろう。


結果学校は街の北に建設されることとなった。

もし完成すればそこに町中の子供達が通うことになる。

だがそうすれば当然そこに住むオーク達との接触が増えることになる。


かといって街の北部を、学校より北側で区切ってオークの居留地としてしまうと、今度はオーク達の棲む場所が減りすぎてしまうのだ。

とてもではないが近隣のオーク達を全員収容することができなくなってしまうのである。


「あとはあれニャ、ミエ。もう一つ重大な問題があるニャ」

「ふぇ?」







そしてとどめを刺すように、ミエが未だ思い至ってないとある問題を…アーリが口にした。







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― 新着の感想 ―
[良い点] とんとん拍子すぎないところが良いですねえ!
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