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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第三部 村長クラスク 第六章 決戦!城塞防衛線
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第313話 ウッケ・ハヴシ対策班

「わかった。光る粉じゃな。夜までに用意しよう」

「お願いします」


エモニモの依頼により錬金術のアイテム作成の依頼が舞い込みシャミルが肯首する。


「念のため例の()()()()も頼むぜ」

「はいでふ。巻物自体は今日までに必要数用意してるでふ」


ふんすと鼻息を荒くするネッカ。

どうやら相当にいい仕事ができたらしい。


「しかし呪文一つ唱えるごとに金貨が数百枚か…しかもそれを前線に出る幹部級全員にと来た。よほどの金満でないとできんぞそんなこと」

「お金で命が買えるなら安いものです!」


シャミルが放つ皮肉をミエがばっさりと切り捨てて、賛同するようにサフィナやキャスがこくこくと頷いた。

ネッカが用意した巻物に記されている呪文というのは、どうやら1回唱えるごとに金がかかるというなんともコストパフォーマンスの悪い代物らしい。


だがその呪文の存在を知ったミエがアーリと相談した結果是非とも必要だと言われ、ネッカは彼女の依頼により今日までこつこつとその巻物を必要数分用意してきた。

呪文を詠唱する際に触媒などが必要な場合、巻物を作成する時点で同時に消費される。

つまりこの準備のためだけに金貨が数千枚以上既に吹き飛んでいるわけだ。


かつて彼女は己の得意系統の中でも特に有用なその呪文で仲間を助けようとしたことがあった。

だが一人当たり金貨数百枚の報酬を得るために一人に金貨数百枚の出費はできないと断られ、遂に彼らの元から逃げ出すまでその呪文が役に立つことはなかった。

だがこの村では金に糸目をつけず、しかも戦いの前に魔具として残しておくようにと頼まれたのだ。


そのあまりの格差と己に対する扱いの違い。

ネッカは喧々諤々たる宮廷会議の様子を眺めながら、不思議な高揚と感慨にふけっていた、


「後一ツ、ドウシテモ必要ナモノガアアル」

「ナンダ」


ラオクィクの言葉にネッカはふと顔を上げた。

その言葉が自分に向けられたもののような気がしたからだ。


「アイツノ『眼力』ドウニカシタイ」

「眼力…?」

「ソウダ。アイツニ睨マレルト足ガ竦ム。動ケナクナル。アレドウニカシナイトドンナニ強イ奴デモ、ダメ」

「アア…あっタナ確かに」


今更ながらに前族長との戦いを思い返しながらクラスクが呟く。


「聞キタイ。族長…村長ハアノ時ドウヤッテアレヲ抜ケタ」

「アー…ミエの応援聞イテ頑張れタ?」

「ミエアネゴ! 応援シテクレ!」

「いえそれはもちろん送り出す時に皆さんの応援はすると思いますけど…流石にお城の外までついてはいけないですよ…?」


う~んと考え込む一同。


「待ってくださいでふ。整理しまふ。まずその『眼力』を受けたらどんな状態になるんでふ?」


と、そこに黒板近くにいたネッカが声をかけ、皆に背を向けサインペンを握る。


「コウ…体ガ全ク動カナクナッテ…」

「対象は何人でふか?」

「何人デモデキルッテイッテタナ」

「何人でも…と。で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でふか?」

「ム…?」


そこでラオクィクは少し考え込む。

その隣でクラスクがフォローに回った。


「村じゃあ滅多に見なイガ外デの襲撃デ見タこトあル。確か四人くらイに同時に使っテタ」

「でその時の相手は一切動けなかったでふ?」

「イヤ…ノロノロは動イテイタようナ……」

「なるほど…でふね」


その後幾つかの質問を重ね、ネッカが板書しながらその『眼力』の効能を炙り出す。


「これまでの話を纏めると…おそらく、威圧的な精神効果に付随する敏捷度の大幅減少、といった効能であると予測できまふ。その後相手の動きが元に戻ったりする報告と考え合わせると、おそらく能力値の減少は敏捷度に対する攻撃や敏捷度そのものの吸収効果ではなく一時的なペナルティーで、対象を分割することも可能でふがその場合減少させる敏捷度は対象の人数に応じて分割されるのでは…と考えられまふ」

「セイシンコウカ?」

「敏捷度?」


ラオクィクとゲルダが互いに顔を見合わせ、頭上に?を浮かべて再びネッカの方を見る。


「要はアイツの眼力ハ対戦相手の『動き』を奪っテルッテ事カ?」

「はいでふクラ様」

「ナルホド…言われテみれば確かに…」


襲撃現場などでの族長の戦い方、己の前に彼に決闘を挑み嬲り殺された村のオーク、そして己自身の体験。

腕組みをして色々思い起こしてみれば、確かにその説明で全て説明がつく。


(俺が対処デきタのは…ミエの応援があっタから…? ミエの応援が俺に力をくれタ…?)


妻のミエの応援はいつだって彼の励みであり力であった。

それが疑いようがない。

ただ今回のように()()()()()()()としての妻の応援について意識したのはこれが初めてであった。


「デ、対策ハあルのか」

「そうでふね…」


顎に手をやり少し考え込むネッカ。


「精神効果に対する副次効果でふからまず最初の精神攻撃に対する抵抗に成功することで軽減もしくは無効にできる気がしまふが…報告例だけでふとそもそも抵抗可能な効果なのかどうかがまずわからないでふね…あとその手の防御呪文は聖職者達のが得意なんでふがこの村にはいないでふし、魔導術にも精神攻撃を完全無効にする呪文があるにはありまふが私はまだ使えるだけの実力がないでふし…」


腕を組んで対策を練る。

必要なのは対処法がこの世のどこかに存在するかどうかではない。

()()()()()()()()()()()()用意できるかである。


「…ある程度被弾すること前提なら、なんとかできるかもしれないでふ」

「マジカ!?」


がた、と椅子から立ち上がるラオクィク。

頷くネッカ。


「『加速(ヴュウォリー)の粉(・フェスト)』という魔具を作りまふ。これを振りかけられた対象は一時的に凄い加速を得られまふ。本来なら素早い動きと手数で相手を圧倒するために用いる戦闘補助用の魔具なんでふが、効果が長持ちしないので今回は相手のその『眼力』対策に使いまふ」

「ソイツカケレバ金縛リニナラナイノイカ! イツデキル!」

「少量であれば今晩までには」

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

「オー、ヤル気ダベ」

「ウッセーナー」


吠えるラオクィク。

感心するワッフ。

迷惑そうに眉を顰めるリーパグ。


「ただし…()()()()()()でふ」

「ム…?」


けげんそうなラオクィクに背を向け、ネッカが板書しながら説明する。


「一人でふと睨まれて動けなくなった時点でそもそもこの粉が使えなくなるので詰みまふ」

「「「あ……」」」

「そうか、使う前に動きが封じられているからか。確かにな」


キャスが目を細め相手の能力の厄介さに眉根を寄せる。


「と言う事は二人で挑めという事か?」

「いえキャス様。二人でふと二人一度に睨まれたとき時動きが大幅に制限されてこの粉を取り出してる暇がない危険がありまふ」


そう言いながらネッカは黒板に大きなオークと周りを囲む三人の戦士をさらさらと描き足した。


「三人なら一人だけが対象の時残り二人が自由に動けて粉の準備ができまふ。二人同時に睨まれても一人が自由でふ。そして三人に分割されて使われた場合ペナルティーが大幅に減るのでそれぞれが自分自身にこの粉をかける余裕ができると思いまふ」

「つまり三人一組で挑めということか…!」


キャスの言葉にネッカが頷く。


「三人…三人カ……!」


対処手段はわかった。

だが次に別の問題が持ち上がる。


誰を連れて行くか、だ。


なにせこの村は今夜にも城攻めをされようとしている戦時の只中にある。

どこにも人出が足りないのだ。

だがラオクィクと並んであの前族長と戦おうというのなら、彼に近しい実力がないと務まらない。

それをこの急場で二人用意する、と言うのはかなり困難と言えよう。


「三人一組ダベカ。ソレナラ俺達ガ行クベカ」

「チョ、マテヨ! 俺ハ御免ダゾ!?」


ワッフが当たり前のように名乗りを上げて、リーパグが慌てて拒絶する。


「確かに腕が近くで息も合っているとなると同期同士の方がいいかもしれませんが…」


エモニモの呟きにワッフがサフィナがこくこくと頷きながらワッフを尊敬の目でキラキラと見つめる。

頭を掻きながら照れるワッフ。


「…それは駄目ダ。ラオを連れ出す以上村のオークはワッフが纏めル。リーパグはキャス達と銀時計村に行かせル。二人は廻せねえ」

「ダヨナ! ダヨナ兄貴ィ!」

「…今心底ホッとしとるじゃろうが向こうの村が安全という保証はどこにもないからな?」

「エーデモ主力全部コッチ来テンダロー? 残ッテル奴ナンテ雑魚ダロ雑魚」

「じゃがこちらが敗北しても天窓が空いていれば補充が利く。それを考えれば重要拠点を守るのに幹部級がおっても不思議ではなかろう」

「マジデ!?」


シャミルの言葉にがぼーんと大口を開け明らかにショックを受けた風のリーパグ。


「となると…出張るのはあたしじゃねえ?」

「ゲルダさん?」


がた、と椅子が立ち上がってゲルダがニヤリと笑った。


「こいつとはいつも手合わせしてるし、隊長でもなんでもないあたしならいならいなくなっても城内の守りが薄くなるくらいだろ?」

「なるほど…確かに」


いつもゲルダには主力が出撃している間村の護りを担当してもらっていたが、今回は城壁がある。

削るとしたら確かに一番削りやすい配役ではあるだろう。


「となると残りは…」

「エモニモ、頼ム」

「私ですか!?」






ゲルダとラオクィクの視線が己の方へと向けられて……エモニモは思わず息を飲んだ。






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