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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第三部 村長クラスク 第六章 決戦!城塞防衛線
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第270話 子守りネッカ

あの会合から数日…


「う~~ん…」


ミエは腕を組み首を傾げながら森のクラスク村の広場を歩いている。

蜂蜜関連の品を作っている村娘達に口々に声をかけられるが、どうにも上の空らしく生返事をするのみだ。


まあミエに何か考え事がある時はだいたいいつもこうなので、娘達は特に気にする風もなくおしゃべりをしながら作業に戻った。


「う~~ん……」


ミエは唸りながら己の家の方に向かっている。

そしてその間ずっと頭を悩ませている。


(城壁…城壁。どう考えても間に合わないですよねえ…?)


彼女の目下の難題は外のクラスク村の城壁についてだ。

村の今後を考えるなら地底からの襲撃と、王国から派遣されるであろう正規軍を撃退しなければならない。


数日間滞在していた徴税吏はそれ以上引き留めておけず村から退出した。

こちらからの色よい返事は一切得られないままに。

となれば当然彼の報告を受けて王侯の騎士達が派遣されるだろう。


彼が王宮に戻ってから…とは限らない。

東の商業都市ツォモーペにもそこを治めている貴族がいるはずだし、当然魔導師だって仕えているはずだ。

となればかの徴税吏が向かうのはその商業都市まででいい。

そこから王都へと魔導師同士で魔術による通信を行って交渉の不成立を告げれば、それでこの村を糾弾する条件が整ったことになる。

王国正規軍の派遣は思った以上に早くなるはずだ。


地底から湧いて出た黒エルフ(ブレイ)率いる闇の軍団。

そして王国から派遣された正規軍。


オークの花嫁を求めて造られたクラスク村…この村にどんな未来が待っているとしても、そこに到達するためにはこの二つの難題をクリアするのが最低限の条件となるだろう。

そのためには村をぐるりと囲む石材の壁か、でなければせめて村の横に石組みの砦を作る必要がある。


だがそれには圧倒的に石材が足りない。

人出も足りない。


ネッカのお陰で以前よりは格段に捗るようになったけれど、それでもあと二カ月かかってギリギリ村の横に砦らしきハリボテができるかどうか、といったところだ。


占術によれば相手の襲撃は一か月以上二カ月以内の公算が高い。

つまりそれでは最低限の砦すら間に合わない恐れがある。

だが現状これ以上石材の増産はできない…はずである。


()()()()()()()()()……」


ぼそり、とミエが呟く。


あの夜のネッカの占術とギスの告白、明らかになった様々な状況、そしてシャミルの懺悔。

さまざまな情報が入り乱れていたけれど、ミエが目下頭を悩ませていたのはその内の()()()()()()であった。


神様に問うた十の質問のうちゲルダが放ったものである。


ゲルダの質問について、あの時気にしていたものは誰もいなかった。

なぜなら彼女は質問の仕方を誤って、正しい答えを得られなかったからだ。

ゆえに皆の脳裏には『失敗した質問』として片付けられ、彼女の問いかけが顧みられる事はなかった。


だが…本当にそうだろうか。

ミエはあの日の翌日あたりから、そこがずっと引っかかっていたのだ。


彼女は…ゲルダはこう質問した。

『ギスが所有している宝石を狙う者達が襲撃に来るまでに、外のクラスク村の城壁は完成するのか』と。

そしてそれに対してあの神様は『()()()()()()()()()』と答えたのである。


未来は不確定であり、膨大な努力や大きな方針変更などによって変わることもずれることもあるらしい。

つまり占術で得た答えは変わり得る、ということである。


ゲルダの質問はまさにその未来に関わる項目で、こちらの努力如何によって結果が変わってしまうためあの時の質問の「『はい』か『いいえ』で答えられるもの」という条件を満たせず、望んだ回答が得られなかったわけだ。



だが…そこにこそミエの疑念があった。



なぜなら今のペースで考えた場合、ネッカがどんなに呪文を唱えても、オーク達がどんなに頑張って石を運んでも、そしてシャミルがどんなに工夫した工法で石材を積み上げても、()()()()()()()()()()()()()()()()はずなのである。




だがそれなら…神から帰って来る答えは『城壁の完成は間に合わぬ』…つまり『いいえ』であるべきではないのか?




(でも…あの時神様…ルークベン様? だっけ? は『どちらともいえない』って答えたのよね……?)


そうなのだ。

神様の言葉を都合よく解釈するならば『努力如何ではこの村の城壁が期日までに完成する道が()()()()()()』、ということになるはずである。

ただミエには現状その方法が皆目見当がつかなかった。


「ばうっ!」

「う~~~~~~~ん……?」


ずっと考え込んでいたミエは、己の家の前まできたところでコルキに吠えられようやく我に返った。


「あらいつの間に…ってネッカさん!?」

「あ、ミエ様お疲れ様でふ…」

「こちらこそお疲れ様です…ってなになさってるんですか!?」


そして家の前には…はいはいをしながらどろんこ遊びに興じている息子クルケヴと、その横でこれまたミエの娘であるミックとピリックを両肩に抱え必死にあやしているネッカの姿があった。


「えーっと、マルトさんが急用ができたからミエ様が戻られるまでちょっと預かってて欲しいって頼まれてでふね…」

「きゃー!? すいませんすいません! なんかお任せしちゃってたみたいで…!」


慌てて娘二人を抱き上げ、よしよしとあやす。

そしてネッカの着ているローブが二人の涎でべっとべとになっていることに気づきぺこぺこと頭を下げた。


「大丈夫でふ大丈夫でふ」

「ほんとにすいません。ずっとお仕事頼みっぱなしなのに…!」


ネッカは現在朝家を出て丘陵地帯の岩場まで出向き石を切り出し加工して石材にして、その後村に戻って工房に籠りミエに頼まれた魔具を夜まで作成する…といった日々を送っている。

相当多忙なはずである。


「平気でふ。ものづくりは大好きでふから」

「そう言って頂けると嬉しいですけど…」


そう言いながらぐずる娘二人のために服の前をはだけて乳房をさらけ出し二人の口に含ませる。

服飾職人のエッゴティラ特製の授乳用の衣装だ。

母親が育児しやすいように、それでいて普段着としてもお洒落なようにと色々工夫が施されている。


このあたりは男性の服飾職人ではなかなかできぬ発想であり、これを見たアーリがエッゴティラに量産化の案を持ち掛けていた。

まあそちらについてのその後の進捗は聞いていないけれど。


「そういえばお頼みしたものの進み具合はいかがですか?」

「い、一応計画通りでふ。今は魔力の定着待ちなので少し時間があって…それで息抜きに工房の外に出たらマルトさんが…」

「ああああすいませんすいません!」


どこか遠くを見るような目で語るネッカにひたすらに謝るミエ。


「はあああああああああああああ…」


心労で深くため息をつくミエ。

その間も娘二人の頭を撫でるのは忘れない。


「あ…そういえばちょっと疑問なんですが、ここしばらく雨降ってないですよね。この泥はもしかして魔法で…?」

「あ、はいでふ。クルケヴ君の遊び場として……その、放っておくと体をよじ登ってきて、えっと、私の胸をでふね…」

「ああああ重ね重ねすいませんすいません!!」


かあああああ、と赤くなったネッカが己の胸を押さえ、ミエがその日幾度目かになる謝罪をした。



「あ、そうだ、謝罪ついでに聞いておきたいことがあるんですが…ちょっとお時間よろしいでしょうか」

「はい、なんでふか?」



ミエには以前から気になっていて、この前の占術による調査の際にさらに膨らんだ疑問があった。

ここしばらくネッカが多忙で聞けなかったことを、これを期に聞いてしまおうというわけである。


「あのですね…魔導術についての質問なんですけど…」







彼女の疑問…それは魔導術の『詠唱』についてであった。







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