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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第三部 村長クラスク 第六章 決戦!城塞防衛線
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第259話 二つの青い宝石

「では…私の方から失礼します…デス」


アヴィルタが腰のあたりに指を当てると、いつの間にかその手の中に大粒の青い宝石が煌めいていた。


「ほう、隠し物用の仕掛けのある服じゃな」

「はい。そうダ…デス」


机の上に置かれた宝石は鶏の卵程の大きさの大きさの美しくカットされた宝石で、見る者に等しく感嘆の念を抱かせた。


「わふん! 青灰簾石センジェムソーでふ! これ程の大きさの石があるなんて…!」

「ふぇ? たんざないと…ってなんです? 翻訳されてもさっぱりなんですけど…?」


どうにもミエは宝石などの造詣がまるでないらしく、母国語に翻訳されてもさっぱり理解できずに首を捻る。


タンザナイトは『タンザニアの石』を意味する名だ。

その呼称からわかる通りタンザニアで産出する珍しい宝石で、希少性という意味ではダイヤモンドより遥かに上である。

夜空の深い青のような色合いを持ちながら、見る角度や光源により異なる青に色を変える多色性と呼ばれる特質を持ち、宝石愛好家からの評価も非常に高い。

ただ硬度が低く劈開性へきかいせいがあり衝撃に弱いという欠点があるため、扱いには注意を要する宝石だ。


「これは母方の家が代々受け継いできたとても珍しい宝石で、母が病で亡くなった時に私に受け継がれました、デス。奴隷商に攫われた時もこれだけは見つからぬようにと気を付けたものダ…デス」

「確かに…詳しくは全然わからないですけどすごく綺麗ですねー…」


素人のミエから見ても美しいということだけははっきりわかる。

そうした品格のようなものを持った宝石なのだ。


「ニャ。そのサイズの青灰簾石センジェムソーなら価値を知ってる奴ならほっとかないニャ。場合によっては奪い合いで人死にが出かねないニャー」

「それは…今の家庭的に大丈夫なのですか? その、オーク…夫にも内緒に?」


アーリの台詞を聞いて心配になったのか、エモニモが問いかける。


「イイエ。夫もこの石については知っています、デス。ただ幸い夫はただのキラキラ光って綺麗な石だと言ってくれて…」

「あー…オークですからねえ」


アヴィルタの言葉にミエがうんうんと頷いて…


「「素敵(ポッ」」

「待てい」


そしてミエとアヴィルタの二人が頬を染めたところでシャミルにツッコみを入れられた。


「それは単にオークがこの宝石の価値をわかっておらんだけじゃろ」

「わかっテル。きらきら光ってキレイ」

「村長殿今しばらく黙ってて頂きたい」

「ごめんなサイ」


シャミルの皮肉にクラスクが反論するが、すぐにやり込められて謝罪した。


「えー、ちゃんとわかってますよー。綺麗だって知ってるじゃないですかー」

「そうデス。金額的な価値より純粋に綺麗だと感じる心のあり方こそ、美を愛でるには必要な事だと思うます…思います、デス」

「ぐむ…まあ夫婦仲が円満なのはよいことじゃが」


シャミルの言葉にアヴィルタは微笑みながらも少し照れたように肩をすぼめ頬を染める。


「それデ…この石はそんな躍起になっテ奪いに来ルほドノもんなのカ」

「希少価値を知ってる奴ニャらそれくらいはしかねないニャー」

「そうカ…」


クラスクからするとたかが光る小石ひとつに敵と味方の両方の命を賭けるというのは(いささ)()()()()な気がするのだが、アーリがそう言っている以上人によってはそうなのだろう。

そのために村の連中の命が危機に陥るのはだいぶ業腹ではあるが。


「デ…お前の方はドウナンダ」

「ちょっと待ってて」


さて、クラスクが次に呼びつけたもう一人の娘…ハーフの黒エルフ(ブレイ)であるギスに話しかけると、彼女は目を閉じ己の胸に手を当て小さく呟いた。


「…〈露見イクァセブクシ〉」


彼女の呟き…いや詠唱と同時にその胸部…ちょうど乳房がYの字になっている辺りが黒く輝く。

ギスはそこに己の右手指を伸ばすと…そのまま己の体に指を突き入れた。


「ふぇっ!?」

「その合言葉ギネムウィルは…!?」


ミエとネッカが同時に叫び、他の一堂も一様に驚いた。

ギスの手指はずぶずぶと彼女自身の胸の内へと沈み込み…やがてゆっくりと引き抜かれると、そこには青い宝石が摘ままれていた。


やや楕円形の、いわゆるオーバルブリリアントカットのその宝石は、握りこぶしよりやや小ぶりという宝石としてはかなり大きなもので、青く妖しい光を放って卓上に佇んでいた。


「〈物品(ルサイズプ・)隠蔽(クイスヴェス)〉の魔導術とその解放の合言葉ギネムウィルでふね!」

「ええ。そうよ」


ネッカの嬉しそうな声に肯定の言葉を返すギス。


「ネッカさん、御存じなんですか?」

「はいでふ。壁や自分の体なんかに物品を隠す呪文でふね。中と言っても実際にしまってるのは『隣界』なので体の中を透視したり壁を掘っても見つかりませんでふし、呪文などの探知にも引っかからないんでふ」

「なるほどー……隣界?」

(モーズフディ)(アル・ヴレモ)は私達の世界に隣接している幾つかの異界の総称でふ。例えば幽霊なんかが住んでいる『幽界』なんかがそうでふね。幽界はこの世界と隣接…()()()()()()のでその住人である幽霊や死霊なんかを私たちも目で見ることができまふ。でも彼らとは住んでいる世界が違うので互いに触れあうことはできないんでふ。他にも…()()()()()()()()()()()()()()()は彼らを止めることができないので、私達から見ると壁をすり抜けてるように見えたりしまふね」

「へー、へぇー! 面白い!」


ミエが手を叩いて快哉を叫ぶ。

いかにファンタジックな現象であってもそうやって説明されるとなにやら納得できる気がするのはかつて科学文明の恩恵多き世界に暮らしていた名残だろうか。


「いや…それよりギス! お前それ…私と会った頃から使えていたな?!」

「ええ。言ってなかったかしら」

「聞いてない! そうか、昔からお前は盗んだものを隠し通すのが上手かったがそれも…」

「ええ、使ってたわ」

「く…気づかなかった……!」


ぐぎぎ、と悔しさを滲ませるキャス。


「…ところで素朴な疑問なんですけど、エルフって精霊魔術を覚えるんじゃなかったです?」

「それは普通のエルフの話ニャ。黒エルフ(ブレイ)は邪神と契約した影響で幾つかのエルフの特性を失ってるかわりに精霊魔術と魔導術の両方に高い適性を持つニャ。だから魔導術を覚えてても不思議ではないニャ」

「そうだったんですか…」


ミエは感心しながら改めてその宝石をしげしげと眺める。

その背後ではなおも隠していることがないかどうかキャスがギスを詰問し、ギスの方が軽い態度であしらっていた。


「この宝石…すごい綺麗、だけど…?」

「アヴィルタの石のが綺麗に見えル」

「旦那様!」

「ごめんなサイ」


ミエはクラスクの率直すぎる感想を叱りつつも自身もまた違和感を拭えなかった。

確かにその宝石は美しい…感嘆するほどに美しいのだが…なんというか、確かに隣にあるアヴィルタの宝石の方が綺麗に見えるのだ。

大きさといい技術といい十分美麗なもののはずなのだけれど。


「ミエや村長殿だけでなく勘の鋭い者は何か感じておるようじゃな。ネッカや、石と言えばお主が専門家じゃ。何か心当たりはあるかの」

「そうでふね…ん~…」


じぃと二つの石を見比べるネッカ。

その目つきは真剣そのものだ。

ドワーフは専門職であろうとなかろうと石に対しては高い観察眼を持っている。

魔導師である彼女もまたその例外ではないのである。


「アヴィルタ様の石は審美目的の宝石でふ。見た者にその美しさを感じさせるように意識したカットでふね」

「えーっと…失礼ですがネカターエルさん、審美目的以外の宝石があるのですか?」


ネッカの言葉に疑問を感じたエモニモが口を挟む。


「はいでふ。ギス様の石の方は…何らかの()()のためのカットでふね。明らかにカットの仕方が不自然でふ」

「…カットに不自然とかあんのか?」

「はいでふ」


ゲルダの素朴な疑問に対し、ネッカはこくりと強く頷いた。


「宝石は掘られた時点では『原石』でふ。それを磨いてカットして宝石に加工するでふ」

「そりゃわかるけどよ」

「その際カットはなるべく元の原石の大きさを損なわないよう、()()()()()()()()()()()()()()()に行われまふ。大きな宝石はそれだけで価値が上がりまふから」

「おおなるほど、そりゃ理屈だな」

「はいでふ。でもギスクゥ様の宝石はおそらくこれよりずっと大きな原石をわざわざこの大きさにカットしてるでふ。つまり誰かに見せるためのものではなく、この宝石の形状自体に何らかの意味があると考えていいと思いまふ」

「「「へぇー」」」


ゲルダと同時に宝石に詳しくないミエやサフィナもまた感心したような声を上げる。


「おー…そう言えばそっちの宝石の名前聞いてない」

「そうじゃな」

「シャミルさんも知らないんですか?」

「知らん。初めて見る石じゃな。ネッカは知っておるのか?」

「はいでふ」


こくりと頷いたネッカは、机の上のその宝石に目線を合わせるように腰を下げ、目を細めて凝視する。







「おそらくでふが…海魔石エジャニームでふね。非常に希少な…『魔石』の一種でふ」







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