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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第三部 村長クラスク 第六章 決戦!城塞防衛線
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第258話 秘密の隠れ家

「シャミルさんシャミルさん! ギスさんから話を聞けました!」


文字通り村へ取って返したミエが広場を歩いていたシャミルに慌てて声をかける。


「なんじゃ、随分と速いの。今日は泊りがけになると言うておったような」

「それがですね、なんかギスさん先方の都合で早めに帰ることになったらしくて、それでちょっと先でばったり。で要件だけ伝えて取り急ぎ戻って来た感じで…」

「…なんとまあ。族長殿も()()()()()のう」


心底感心したようにシャミルが呻く。


「…何をです?」

「運をじゃ!」

「ああ!(ぽむ」


ようやくシャミルの言わんとしていることが飲み込めて、ミエは手を叩き納得する。


「それでギスさんどうやら心当たりがあるらしくって…これで当たりですかね」

「待て。アヴィルタの方もなにやら心当たりがあるようじゃったぞ?」

「ふぇ?」


この村に褐色の肌の娘は二人いる。

南方人ティアスフォルムのハーフである人間族アヴィルタと、黒エルフ(ブレイ)のハーフであるギスの二人だ。


その二人に、この村を襲った連中の目的らしき青い宝石について心当たりを尋ねたところ、どちらも『ある』と答えたわけである。


「ただのう、事情を話すのはよいがなるべく人目につかぬところがよいと言うておった」

「おんなじです! ギスさんもなんかこう探知や探索の魔術が効かないような場所があるならそこでお話ししてもいいって…」


二人は顔を見合わせ、そして互いに首を捻った。


「「うん…?」」


よくわからない。

二人の符合は何を意味しているのだろうか。

それとも単なる偶然の一致なのだろうか。


「と、とにかく魔術的な事ならネッカさんに相談しましょう!」

「そ、そうじゃな!」


ミエとシャミルはばたばたとネッカの魔術工房へと向かった。


「探知魔術に引っかからない場所に心当たり…でふか?」


こくこく、と頷くミエ。


「大気中に魔力が一切ない『無魔(ユィカソヒュウ)空間(ー・フォーエン)』とかならその条件を満たしまふけど…このあたりにはないと思いまふ」

「ないですかー」

「魔術的大災害が起こった地域でもないと発生しないと思いまふ」

「それはそれであったら嫌じゃのう」

「はいでふ」


消沈するミエを前に少しだけ首を傾けたネッカは、幾度か目をしばたたかせるとこう問うた。


「確認なんでふが…それは先程の宝石の持ち主が探知魔術などに検知されるのが嫌だからそれが解決するまで情報提供しない、と言ってる認識で合ってまふか?」

「はあ、はい、おおむね」


腕を組んで目を閉じて、ぽくぽくぽく…とおよそ三拍ほど動きを止めたネッカは、静かに目を空けて高告げる。


「それなら…なんとか()()()()()かもしれないでふね」

「できるんですか!?」

「はいでふ。ただし()()()()()()()でふ。その準備を整えるのに明日まで待って欲しいでふ」

「わかりました! 皆さんに伝えておきますね!」


ミエは未だ半信半疑だがネッカはその道の専門家である。

彼女ができるというからにはなんらかの精算があるのだろう。

ミエはすぐにそう信じて報告の為クラスクの元へ向かった。



×        ×        ×



その翌日、夜の魔術工房。

工房の周囲には四人のオークがいて、それぞれ武器を手に周囲を見張っている。


この村の最高幹部足るラオクィク、ワッフ、リーパグの三人、そして最近若手の中で頭角を現しつつあるイェーヴフの四人である。


イェーヴフは己以外が皆幹部ばかり、という仕事に抜擢されたこともあって興奮と高揚とで随分と鼻息が荒い。


「イェーヴフ、アマリ気負ウナ。シクジルゾ」

「ワ、ワカッテマス!」


ラオクィクに釘を刺されびし、と背筋を伸ばすイェーヴフ。


「ン、ワカッテルナライイダ」

「ホントニワカッテンノカァ? 言葉ダケジャネーカー?」

「ソウナンダカ?!」

「ソ、ソンナコトアリマセンッ!」


素直に受け取るワッフと、やや辛辣なリーパグ。


「本人ガソノ気デモ()()()()()()()コトハアル。マ気張ラズ気負ワズ手ヲ抜カズ、適当デイイ」

「ラオ、ソレカナリ難シイ奴ダベ」

「マ、見張リダロ? 俺ノ方カラ来ル怪シイ奴ハ任セトキナ」


リーパグはオーク族としては小柄で力も弱いがかわりに器用で目もいい。

この中では見張り員としては最適だろう。


夜と言うこともあり出歩いている村娘は皆無と言っていい。

オーク族は本来夜行性であり、かつては夜でも酒を飲んだり騒いだりするオーク達も少なくなかったが、最近のこの時刻は広場も閑散としている。

『家庭』ができたことで生活時間を嫁に合わせて夜は家に引っ込むオーク達が増えたためだ。

ゆえに怪しい者がいればすぐに気が付くはずである。



だがこれほどの村の重鎮が集まって見張りをするなどと…一体この建物の中でどんな重大な会合が行われているのだろう。



×        ×        ×



「…準備できたでふ」


部屋の隅を幾度か杖で叩き確認した後、ネッカが工房の中心部に戻る。

魔術工房の中には村長クラスクにその妻のミエ、それに加えてゲルダ、シャミル、サフィナのいつもの四人、最近新たに幹部に加わったキャスとエモニモ、そしてアーリというこの村の会合のおさだまりの面子である八人がいた。


なにせ村を襲った連中に関する情報である。

本来は一刻も早く知りたい情報だったのだが、情報の重要性から全員の出席が望まれたため、全員の空き調整した結果集合時刻が夜になってしまったのだ。

皆村の仕事で多忙を極めているのである。


そして…今日はそこにゲストが二人加わっていた。

一人は南方人ティアスフォルムとのハーフである美女アヴィルタ。

そしてもう一人が黒エルフ(ブレイ)のハーフである美女ギスである。


二人とも村の首脳陣一堂に囲まれているというのにまったく物怖じした様子がない。

なかなかの強心臓と胆力と言っていいだろう。


「術の発動を確認したでふ。これでこの工房の中の魔術的防護が保証できまふ」

「あんまり変わって見えないですけど…」


ミエの目から見るとあまりというか先刻までの工房となんら全く変わって見えない。

彼女は多少不安になってネッカに確認した。


「〈対占術防護ヴェオーシリフヴェヴ〉の呪文を工房にかけたでふ。占術によってこの建物とその中の対象を調査しようとした場合、この結界を貫通する必要がありまふ」

「へー…そんなことができるんですか」

「さらに〈標的除外リフクァーヴェヴ〉を重ねてかけたでふ。これで仮に先程の呪文を突破された場合でも()()()()()()されまふ」

「標的から…除外?」


先程の防御術と違い、いまいちその術の効果が理解できず、ミエが首を捻る。


「例えばこの村でエルフ族は三人いまふ。キャス様とサフィナ様とギス様でふ。なにかの占術で『この村にいるエルフは何人か?』と調べれば三人、と帰ってくるはずでふ」

「ふむふむ」

「でもこの呪文をかけた範囲内にサフィナ様だけが入っていた場合、先程の占術の結果は『この村にエルフは二人いる』になりまふ。全員その範囲内に避難していた場合、同じ質問の結果はこうなりまふ。『この村にエルフはいない』」

「あ、あー! 範囲内の相手を()()()()()()()()()呪文なんですか?!」

「そうでふ」


驚嘆するミエの言葉にネッカが頷く。

ミエはカルチャーショックを受けたように目を大きく見開いて、ぼそりと呟いた。


「ああ…なるほど。占術って前の交信みたく効果が不確実なものだけじゃなくって、()()()()()()()()()()()()()()()()んですね」

「はいでふ」


魔術に疎いミエにはその発想はなかった。

()()()()()()()()()()()

ミエはすぐに心の中である計画を思いついたけれど、今は別に危急の要件があったのでとりあえず後回しにすることにした。


「さらに念には念を入れて〈魔導師ベ(フヴォイックス)リルの占術(ク・イナーサー)攻性防壁(ク・ベリルーク)〉の呪文をでふね…」

「ぶふっ」


ネッカの言葉に壁際で話を聞いていた猫獣人のアーリが軽く吹き出し、その激しくむせた。


「なんだよアーリきったねえなあ」


横にいるゲルダにツッコまれ、所在なげに頭を掻くアーリ。


「アーリさん、なにか問題でも?」

「いや何も問題ニャイニャ。それだけ準備すれば外からここを魔術的に捜査することはほぼ不可能だと思っていいニャ」

「アーリさんにそう言われると安心ですねー」

「問題ニャイけど…あれだニャ。まったくもって冒険者向きの呪文のレパートリーじゃないニャー」

「うう、ごめんなさいでふ…」

「まあまあ、お陰で今私達が助かってるんですから」


泣きべそをかくネッカをミエが宥める。



「サテ…問題ナイなら…そろそろ見せテもらっテイイカ」






クラスクの言葉に…アヴィルタとギスが頷いた。






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