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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第三部 村長クラスク 第五章 臆病者のドワーフ娘
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第241話 曰(いわ)く

「「「いわく……?」」」


怪訝そうな一同の声に、ネッカは今更ながらに己の使用した用語が一般的でないことを想い出した。


「あ、ご、ごめんなさいでふっ! つい知ってる前提で…そうでふよね魔導師の用語でふし…っ!」


そしてぺこぺこと頭を下げて幾度も謝罪する。


「曰くというのはこう…『何かの事情』とかそういう意味の単語ですよね?」

「は、はいそれで合ってまふ」


ミエの質問にネッカが頷く。


「具体的に言うとこう…武器につく特殊能力みたいなもの…と考えてもらっていいでふ」

「「「ほほう(キラーン」」」

「きゃーっ!?」


キャスをはじめクラスク、ゲルダ、エモニモがやけに身を乗り出して瞳を輝かせる。

どうやら相当興味があるらしい。

彼らに気圧されてミエは思わず悲鳴を上げ身構えてしまった。


「で…その『()()()()()()()』というのは一体どういう意味だ」

「え、ええっとでふね…よいしょ、あ、これ拭くだけで消せるんでふね…便利でふ…」


キャスの質問に対し、ネッカは近くの椅子を壁際まで運ぶと、そこにある大きな黒板…ミエの感覚だとちょうど学校の教室に備え付けてあるような…の前に立ち、その使い心地を確かめるように説明を始めた。

ただドワーフゆえに上の方には手が届かず、椅子に乗ってうんしょうんしょと背伸びをする羽目になったけれど。


「あー…ドワーフサイズの魔術工房ってこと忘れてたニャ…」


アーリが内装の手直しについての必要性を認め新たな予算と納期について手持ちの黒板に書きこんで(その横からシャミルに錬金術工房の追加予算を描き込もうとしてぴしゃりと手を叩かれて)いる間、ネッカもまた壁の黒板に絵図を描きこんでゆく。

まず最初に描かれたのはそれは見事な剣と、その隣に描かれたた戦士らしき絵だった。

ただその戦士は背格好的にドワーフだったけれど。


「上手えなあオイ」

「おー…たっぴつ…」

「あ、あの、ええっと……皆さんの種族にも昔話とか伝承とかで有名な戦士とか英雄さんがいらっしゃると思いまふが…」


ネッカの言葉に戦士系の一同がうんうんと頷く。

きっと子供心にそうした昔話を聞いて瞳を輝かせていたのだろう。

出自的にゲルダが知っているのは食人鬼(オーガ)ではなく人間族の戦士についてだろうけれど。


「その英雄たちの持っている武器にも色々有名な言い伝えとかがあると思うんでふ。たとえばゴブリンをいっぱい倒したとか、武器に火を着けてトロールをやっつけたりとか」

「ああ、確かにそうだな」

「殺ス! ゴブリンイっぱイ殺ス!」


ネッカが黒板に描かれた剣に色々な特性を書き加えどんどんカッコよくしてゆくと、戦士一同が彼女の説明に前のめりに賛同する。

ミエは正直そのあたりのノリにはついて行けなかったけれど、クラスクが少年のようにはしゃいでいる姿はとても可愛いく思えた。


さてネッカは黒板に絵を描き加えながら説明を続けてゆく。

剣の下に複数の人々を描き、そこに矢印を伸ばす。

さらに人々に下に大きな半円を描き、そこに『世界ユィールゥ』と注釈を入れ人々からの矢印をそこに伸ばした。


「で、そうした言い伝えは昔話とか伝承って形になって皆さんに語り聞かされたと思いまふ。そうして長い年月をかけてたくさんのたくさんの人が記憶することで……()()()()()()()()()()()んでふ」

「「「うん……?」」」


途中まで熱心に聞いていた戦士一同が、そこで腕を組んで一斉に首を捻った。


「世界が覚えるってどういうことだ…?」

「ええっと私達人型生物(フェインミューブ)は神様が造ったものでふ。つまり私達自体がこの世界の構成要素なんでふ。これはわかりまふか?」

「あん?」


ゲルダ以外は大体その部分については納得できたようだが、ゲルダだけは未だによくわかっていないようだ。

そこにミエが横からフォローを入れる。


「ええっとゲルダさん。この世界は神様が造ったものですよね?」

「それはわかる」

人型生物フェインミューブも神様が造ったものですよね?」

「それもわかる」

「なら両者は定義的には同じものですよね? 人型生物フェインミューブも空や川や森や獣と同じく世界の一部ってことです」

「…ああ!(ぽむ」


ミエの説明でようやく手を打ち納得するゲルダ。


「あ、ミエ様ありがとうございまふ…で、でふね。そんな感じで世界の『構成要素』である皆さんが覚えたことは、同様に世界にも刻まれるんでふ。こうちょっとイメージしづらいかもしれないでふけど…」

「う~ん…要は集合(ギッログスポ)無意識(・アンギムツァイト)とか阿頼(エリウェ・)耶識(パックミーム)みたいなものでしょうか。あれ? っていうかちゃんと訳語があるんですねこれ。すごいなー」


ふむふむと一人勝手に納得しているミエの言葉にぎょっとして目を真ん丸に剥いたネッカは、椅子からうんしょと飛び降りてかつかつかつとミエの方へにじり寄るとその両手を強く掴んだ。


「ふぇっ!?」

「そそそそそそそそれでふぅぅぅ! 御存じだったんでふか?!」

「えーっと御存知って言うかなんていうか…」

「魔導師の学術系統の中でも精神異界に関する分野はかなり専門的でふのに…ものすごい博識なんでふね!!」


キラッキラと畏敬の瞳でこちらを見上げて来るネッカにあははーと笑いながらなんとか誤魔化そうとするミエ。


「む、昔の事を断片的に思い出したのかもですねー。私記憶喪失なもので…」

「そうだったんでふか!? う~ん精神系統の術は私門外漢でふし記憶領域の()()()()を利用して…けどあれは失ったものって戻せるんでふかね? 記憶の忘却っていっても魔術的には三つの要素があるから仮に脳の外に奪われていた場合まず占術で…」


ネッカはミエから視線を逸らしぶつぶつと何かを呟き始める。


「あ、それよりネッカさん話の続き! 続きをお願いします!」


ミエはあ、考えてみたら魔術で記憶取り戻したりとかできちゃうのかも…? みたいな危惧を抱きつつも、なんとかその場を誤魔化そうとした。


「あ、そうでふねそうでふねすいませんつい興奮しちゃったでふ…えっとともかくそうした伝説や伝承は人々の記憶を伝って世界に記憶されまふ。そして『世界がそう記憶してる』ってことは…つまりその剣は()()()()()()()()()()()()、ということになるんでふ」

「ええっと…?」


その言葉にはミエも一瞬戸惑う。

だがネッカはそのまま板書を続けた。

すなわち一番下にある『世界』から再び矢印を伸ばし、最初の剣へと向けたのだ。


「この世界には微量の魔力が大気中に漂っていまふ。通常は魔術でも使わない限り指向性を持たないただの粒子なんでふが…昔話や言い伝えを世界が正しいと認識した時、伝承に謳われた剣の周囲にある魔力がその剣に向かって収束しまふ。そして長い長い年月…短くて百年、長ければ数千年の時を経て…その武器は魔剣…即ち魔法の剣になるわけでふ」

「「「おおおおおおー」」」


話しを聞いていた一同が感嘆の声を上げる。

この説明には戦士肌ではないミエやシャミルも感心した。


「でこの時、『ゴブリンをたくさん殺した』って伝承があったらそれも一緒に再現されてでふね、つまり『ゴブリンと戦う時精緻さや威力が上がる魔法の剣』になるわけでふ。こうした武器の伝承にまつわる能力の事を『いわく』と呼びまふ」

「「「おおおおおおー」」」

「なるほど…!」


戦士たちが(珍しくエモニモも)一様に興奮し、ミエがぽんと手を打った。


「つまり『ゴブリンをいっぱい倒した剣』の本来の持ち主である戦士さんが実際使っていた頃には、『ゴブリンをいっぱい倒せる魔法の剣』ではなかったってことですか?!」

「そうなりまふね。もちろん神様や魔王に授けられた剣みたいな伝承の武器もあって、初めからそうした効果を備えている武器もありまふけど、大体の魔法の武器は今説明したような流れで誕生しまふ」

「へえええええ…!」

「それででふね…」


ネッカは再び皆に背を向けて、黒板に三角帽子をかぶった魔導師を描く。


「で、魔導師たちは…この『武器が魔法を宿し魔法の武器になる』という魔術式を解明したんでふ」

「ふぇっ?!」


黒板に描かれた魔導師の横に金床が描かれ…そこに魔法の剣が描き足された。






「世界が数百年の時をかけてゆっくり魔力を集め武器を魔法化してゆくプロセスを疑似的に再現し、そこに自らの魔力を注ぎ込むことでその経過を大幅に短縮して…そうでふね、だいたい数日から一か月ほどで魔法の武器を打ち鍛えることができると思いまふ」






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