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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第三部 村長クラスク 第五章 臆病者のドワーフ娘
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第230話 面接結果

「はいはいはい! 質問質問質問があります!」


ネカターエルの前でぴょんこぴょんこと飛び跳ねながら挙手するミエ。


「は、はいなんでふか」

「小石をこんな人間大の石像にできるってことは質量とか体積を魔法によって変えられるってことですよね!」

「は、はいでふ。呪文や術者の魔力によって差は出まふけど、それで合ってまふ」

「ならならなら! こうそこらの石ころに呪文かけて石像に変身! 特定の場所まで歩いてもらってそこで石材に変身! そのまま城壁の一部に! みたいなことも! できるの! では!?」

「オオオオオ! それスゴイ! 便利!」


ミエの言葉に驚嘆して興奮するクラスク。

確かにそんなことができれば築城の大改革ではある。


「あー…えっと、その……」

「はい! はい!」

「ウン! ウン!」


目をキラキラ輝かせて答えを待ち構えているクラスクとミエの夫婦。

その期待に満ち満ちた顔に根負けしたように、ネカターエルが重い口を開いた。


「その…できるできないで言ったら、あの、できまふけど…」

「できるんですか!?」

「スゴイ! スゴイ!」

「でも…あまり意味ないと思いまふ…」

「ふぇ?」

「ナンデダ?!」


なんとも申し訳なさそうに答えるネカターエルの言葉に、若夫婦は互いに顔を見合わせた。


「じゅ、呪文には『持続時間』があるんでふ。でふから、その、『小石を石像に変化させる』ことはできまふ。その後で『石像を城壁用の石材に変化させる』こともできまふ。でも、呪文の持続時間が過ぎれば、結局元の小石に戻っちゃうので…」

「あー…持続時間……」


彼女ら使っている魔術は呪文によって小石を別のものに変化させている。

その際の『大きさ』や『動力』は魔術なのだから当然()()()()()()()()()()()わけだ。


ミエには魔力がどういうものかいまいちピンとこないけれど、例えばそれが人間が個々に持っている電力のようなエネルギーで、それを動力に当てているとするならば、電気が切れれば石像も石材もその姿を維持できなくなってただの小石に戻ってしまうはずだ。

そう考えれば確かに理屈は通っている。



魔術だからなんでもできると思っていたけれど、なかなかそう簡単にはいかないようだ。



「それは…確かに使えませんねえ」

「城壁ガ壊れルナ」

「うう、ごめんなさいでふっ!」


二人の脳内には見事に組み上がった城壁に囲まれた立派な砦が思い浮かび、次にその所々が突然小石に戻って砦が崩壊するイメージが思い浮かんだ。


「そういえば土とか石の魔術が得意、って仰ってましたけど…」

「あ、はいでふ。精霊魔術には当人の気質によってどの精霊と相性がいい、悪いっていうのがはっきり分かれてるんでふけど、魔導術にも若干ですがあるんでふ。気質っていうか当人の成り立ちというか『起源』みたいなものなんでふけど。だから土や石が得意なのはドワーフだからでふかね…」

「ふむ…なるほど…」


よくわからないなりに頷くミエ。


「で、その…石を加工する魔術とかも使えるんですよね?」

「できまふけど石像とかの芸術品は技術不足で…」

「あいえそうじゃなくて石材! 石材が作りたいんです!」

「石材? そう言えば城壁がどうのって言ってましたけど…」

「実はですねー…」


村の事情を簡単に説明するミエ。


「きゃうん!? オ、オーク族が街をでふか…!?」


驚きのあまり妙な声を出してしまうネカターエル。

クラスク家の前で丸まっていたコルキが『なかま? なかま?』という感じで首をもたげて尻尾を振った。

視線が合って涙目で慌てて首をぶるんぶるん振るネカターエル。


「はい。オーク族は女性が極端に少ないですから。他の種族の村を略奪とかせずにオーク族の女性問題を解決するため、外に村を開いて他種族の女性を招けるようにしよう、と旦那様が」

「はわわ、す、すごいでふ…っ」


瞳を輝かせてクラスクの方を見つめるネカタエール。

オーク族という種族性の中にあってそれを想起し実現せんとしているとしたら紛れもなく傑物であろう。


ネカターエルは子供の頃から本を読むのが大好きで、当然この世界の物語なども読み漁っていた。

知恵比べ、戦記、勲功いさおし、異種族同士の悲恋など、実に様々である。


今ミエから聞いた話は、そんな物語の中の様々な種族、色とりどりの英雄譚…そのオーク版のように聞こえたのだ。

ネカターエルのクラスクを見つめる瞳の色が、明らかに変わる。


「大シタ話じゃナイ。俺ミエ好き。愛しテル。ミエとずっト一緒にイタイ考えタらこうなっタ」

「だ、旦那様!?」

「はわ、さらに異種恋愛譚でふ…!」


ぼん、と真っ赤になるミエ。

ますます瞳を輝かせるネカターエル。


「もー、もー! 旦那さまったらこういう時にー! と、とにかくそんなわけで砦を築きたいんですけど、近くに岩場がないのと石工さんがまだいなくてですね…」

「~~~~~……!!」


何かが、ぞくぞくと背筋を走り抜けた。

まるで吟遊詩人に語られ、謳われる物語の中の登場人物のような道を歩まんと…少なくとも志している男と、そんな彼にオーク族という種族性すら変えさせた女性。

そんな物語のような現場に、今自分は居合わせている。

そして…もしかしたらそれに手を貸せるかもしれないのだ。


「あ、あの…あのあの、もう少し…もう少し、大きな石はありまふまふか…?」

「まふまふ?」

「わかっタ。待っテロ」


おずおずと尋ねたネカターエルの言葉をクラスクが快諾し小走りで森の中に消える。

そしてすぐにどすどすと足音を立てながら大きな岩を抱え戻って来た。


どすん、と地面に落とされたそれはごつごつとした楕円形で、クラスクの腰ほどの高さがある。

おそらく相当な重量で、これを軽々しく運ぶのは人間では難しいだろう。


「これデイイカ」

「は、はいでふ。ええっとそれじゃあ…」


再び杖を構えて、目を閉じて。

息を吸って、吐いて、整えた。



まるで…自分がこの物語を読んでいる読者にどう映っているかを気にするかのように。



展開せよ(ファイクブク) 『変治式イヴェイアボウリ』」


そして呪文の詠唱と共に、その身から弾けるように青白い文字を周囲に飛び散らせると、自らの腕を軽く振って右手指を己の胸にそっと当てる。


「〈修繕イスヴァヴァーヴォ〉」


呪文を唱え終わっても先刻と異なり何も起きない。

ただ…彼女の右手指がうっすらと青白く輝いていた。


「あの…これって…?」

「見てててくださいでふ」


ネカターエルはクラスクの前まで歩くと、その光る指先で石の表面をそっと撫でる。

するとその部分がまるで職人が鑿でも入れたかのように見る間に滑らかになっていった。


「ふぇえええええええええええ!?」

「ウオオオオオオオオオオオオ!?」


ひと撫でしただけでその表面を綺麗に整えるネカターエル。

だがそれは岩の形そのままに表面だけ磨いたに過ぎない。

けれど彼女がその岩肌を幾度か撫でるとその膨らみがみるみる整えられて、平らかになってゆく。


凡そ数分…岩の周囲を指先で撫でるだけで、その岩は見事な直方体に仕上がった。


「ふぅ…どうでふか」

「わああああああああああああ!」

「ウオオオオオオオオオオオオ!」


出来上がった『石材』…大きさ的にそのままでは使えないが、そのサンプルのような小型版…を見て二人が大興奮する。


「こういうので…いいんでふか?」

「はい! はい! はい! すごい! すごいです!」

「こんなに早く作れルノカ! お前スゴイナ!」


二人の称賛を、否定ではなく初めてはにかんで受け入れる。


「これくらいの細密さでいいなら大丈夫でふ。ドワーフが石細工を収める時はこの百倍は丁寧に仕上げまふけど…」

「そん

 なに」

「求められておるのは芸術品ではなく数が大事な石材じゃからな。用途が違う」


シャミルの言葉にミエがぶんぶんと頷く。


「これ! この呪文! 一日幾つくらい石材作れます!?」

「えっと…本当の大きさはどれくらいでふ?」

「底辺が一辺1と1/2フース(約45cm)、高さが1ウィールブ(約90cm)じゃな」

「それなら…一日に5,6個…いえ1ウィゴム(12個)くらいは作れると思いまふ。無理すればもっといけると思いまふけど…」

「ホントですかー!?」


瞳を輝かせたミエが腕組みをしたクラスクと顔を見合わせる。


「採用! 採用です! ぜひネカターエルさんにうちでお仕事してもらいたいです!」

「あ、は、はい! こちらこそありがとうございまふでふ…!」


ネカターエルの手を取り踊り始めるミエ。

釣られてよたよたと不格好に踊り出すネカターエル。






こうして…魔導師ネカターエルはその技を以てクラスク村に雇われることとなったのだ。

……石工として。






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