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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第二部 族長クラスク 第四章 いざ村の外へ
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第196話 フィアース・ディアム

「…あれ、なんか聞こえないか」

「ああ…声?」



ミエの声が、騎士達の耳に届いた。

それはすなわちミエの≪応援≫が彼らに届いた、と言うことでもある。



スキルは使用すれば使用するほどレベルが上がり、効果が上昇する。

レベル次第で新しい効果が追加される場合もある。



そして…スキルによってはより上位スキルのスキルツリーが解放されることも。



ミエは夫であるクラスクをいつも応援しているが、その性格上出会った人を誰でも≪応援≫する。

ゆえに≪応援(個人)≫もまたレベルが上がり続け…結果として新たなスキルツリーが解放されていた。



無論ミエ自身としては全くの無自覚なのだが。



彼女が新たに獲得したスキル…≪応援(集団)≫は、字の如く特定の集団を応援するものである。

相手の人数が多すぎると効果対象外となるし、まだ修得したばかりなのでできるのはせいぜい1つか2つのスキルや判定にボーナスを与える程度のものだが…


だが、それでも、『全員』である。

応援された全員に、その効果が行き渡るのだ。


たとえそれが小さな補正であっても、集団全員が恩恵を受けるメリットは計り知れない。

集団と集団の争いの場合、勝負を決めるのは個の突出した能力より全体の総合力がものを言うのだから。


「…なんかやる気湧いてきた」

「だな! またあのスープ飲みたいし…」

「マム…」

「「お前は正気に戻れ」」


口々に気合を入れ直し意気軒高となる騎士達。

そして≪応援(集団)≫により気分が上向きになり判断力が向上したことで、先刻落馬した騎士の一人ライネスにあるアイデアが浮かんだ。


「フェイダン! テォフィル! ワイアント! “フィアース・ディアム”だ!」

「!!」

「わかった!」

「成程な…了解!」


ライネスの叫びに呼応した三人は、未だに騎乗したままの、騎馬が無事な面々である。

彼らはそれぞれ別の方角へ馬首を向けると、そちらにいた狼ども目がけて猛然と突撃を敢行した。


急な反撃に驚く狼とその騎乗者達。

彼らは素早く草叢に飛び込み、草原の中を縫うように走りその突進を交わした。


後に残ったのは落馬し地上で身を固めている騎士達、そして唯一飛び出さなかった騎馬が一騎のみ。

今のうちにあの馬を毒で無力化し、残っている人間どもに毒刃を突き立てようか…

突進を避けるため狼達に急旋回をかけさせていたゴブリンどもは、その勢いのまま首を回して騎士達の下へと殺到した。


「ムンターの馬を守れ! これ以上やらせんな!」

「「「おお!」」」


唯一残った鞍上の騎士とその馬を守るべく、彼の周りに密集陣形を敷く騎士達。

だが徒歩かち鎧者よろいものなどここのゴブリン達は怖れはしない。

鈍重なマトが幾ら群れ集まり塊になったところで、鎧の継ぎ目に刃を突き込みやすくなるだけだ。


猛然と草叢を飛び出し、騎士達に襲いかかる狼ども。

そんな狼の体を盾にしつつ、その横腹から身を乗り出して毒塗りのダーツを投擲するゴブリン達。


たちまち数十本の毒の針が宙に踊り、馬に当たらぬようにと騎士達が盾の壁でそれを防ぐ。

盾に弾かれたダーツが幾重にも甲高い音を立てたその直後に…狼が猛然と飛びかかりその爪と牙で騎士達を掻き毟り噛みついた。


そして騎士達の注意が狼どもに向いたその瞬間…革帯の留め具を外し、狼達から自由となったゴブリンどもが宙に躍り上がり、頭上から鈍重な人間どもの鎧と兜の継ぎ目めがけてその短刀を突き立てんとした。


獲った。

ゴブリンどもは勝利を確信したことだろう。


「ギャンッ!?」


だが…次の瞬間彼らは激しい衝撃と共に地面に転がっていた。

つい先刻まで騎乗していた狼どもが地面に転がり痙攣しており、その胴体には大きな穴が空いていた。

明らかに猛烈な勢いの攻撃を喰らって吹き飛ばされたのだ。

そして彼らゴブリンどももまた何かの突進を()()()のように喰らい、全身の激痛と共に地べたに叩きつけられはいつくばっていた。


騎馬が見える。

先程走り去ったはずの馬達だ。

そしてその馬に跨った騎士達の騎兵槍ランスが血に染まっている。

自分達が襲いかかったあの瞬間…そのタイミングに合わせて突撃を仕掛けてのけたのだ。


危険極まりない行為である。

仲間の騎士達が固まっているあの場所に、別々の方向から騎兵槍ランスを構えて突撃してきたのだ。


騎馬が仲間を踏み潰すかもしれない。

最悪その槍の穂先が仲間を貫くことすらないとは言えない。

だが彼らは互いの技量を信じてそれを誘ったのだ。


「ヘヘ…お前たちがオークどもより俺らの方を警戒してたのは間違ってねえよ…少なくとも…馬の扱いに関しては、な…っ!」


己の頭上に揺れる仲間の騎兵槍ランス、目の前でギリギリ止まった騎馬の前脚に冷や汗をだらだらと流しながら、騎士の一人ライネスが呟いた。



ゴブリン達は油断などしていなかった。

ただ知らなかったのだ。

騎兵が操る馬の最高速度を。



馬には大きく四つの歩法がある。

即ち並歩、速歩、駆足、そして襲歩の四つである。


このうち襲歩と呼ばれる歩法が最も速く、突撃や突進をする際にはこの歩法が用いられる。

ミエがかつてい生きていた世界でも、競馬などで見ることができる走り方だ。


だが…厳密には襲歩にもさらに種類がある。


ライネスが先程叫んだハーフバウンド(フィアース・ディアム)というのはその内の一つで、疲労が激しいためその速度を維持できるのはほんの僅かだが、通常の襲歩よりさらに高速の突進を可能とするのだ。


翡翠騎士団の第七騎士隊は隊員も馬もキャスからこの歩法をみっちりと叩き込まれており、必要な時にいつでも出せるよう訓練されていた。



その圧倒的な速度がゴブリン達の計算を狂わせて…彼らの乗騎たる狼どもの命を断ったのだ。


「…さ、まだ敵は残ってるぞ! 気ィ抜くな!」

「「「おお!」」」





地面に転がり呻いているゴブリン達にとどめを刺した彼らは…

騎士レオナルの叫び共に再び武器を構えた。






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