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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第二部 族長クラスク 第四章 いざ村の外へ
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第189話 群狼戦術

「族長殿族長殿」

「ナンダ」


先日、ゴブリン達への対策会議を行った日。

会議の後クラスクに話しかける者がいた。


シャミルである。


「サフィナの進言は採用するとして、じゃ。わしのほうも少しできることはやっておきたい」

「わかっタ。任せル」

「即決するのう! まあよい。それで尋ねたいんじゃが…オーク達の中で一番投擲が上手いのは誰じゃ」

「飛び道具ならお前ノ旦那ダ」


クラスクにそう言われシャミルはなんとも微妙な顔をした。

嬉しそうな照れ臭いようなそれでいて何やら腹立たしいような、そんな表情である。


「む…ならば大きな得物ならどうじゃ? こう例えば…投げ槍ならば?」

「それならラオの野郎ダナ」

「ふむ…わかった。こちらも色々準備しておくとしよう。おおいアーリ! アーリ! 商人殿! ちょっとよいか!」


そんな感じで、ミエがキャスを引きまわして村中を歩き回っている間に、他の者達も色々と準備していたのである。



×        ×        ×



そうしてラオクィクに渡されたのが先程の投げ槍だった。

槍と言っても穂先に付いているのは槍頭ではなく、火輪草と複数の素材の粉末を煎じて作ったいわゆる『火薬』が丸い塊に詰められたものだ。

これを投げると地面にぶつかった衝撃で爆発する、という少々危険な代物である。


とはいえ威力は大したものではない。

爆発音が大きくかなりの明るさではあるがが、周囲の相手にダメージを与えるほどではないし燃え広がりもしない。

要は投げて使う花火のようなものだ。


なのでその用途も攻撃ではなく、今回のように音で驚かせて足止めしたりする程度のものでしかない。

相手が狼を使ってくるかも…とのことからシャミルが思いついたアイデアである。


「背中デ爆発シタラドウスル気ダッタンダ。後デ文句言ウ」

「ラ、ラオクィク!」

「ソウダガ」


エモニモの誰何すいかの叫びに応えながらぶんぶん、と槍をしごき、二投目の狙いを付けつつ狼共をくわと見開いた眼で威嚇するラオクィク。

エモニモの方はエモニモの方で、いつの間にやらその生意気なオークの名を覚えたものらしい。


狼たちは唸り声を上げて威嚇し返すが、すぐには襲ってこない。

どうやら先刻の攻撃の正体が掴めず相当警戒しているようだ。

まずはシャミルの目論見通りといったところだろう。


「オ前馬降リロ。ソレハモウ駄目カ当分駄目ダ」

「く…っ!」


ラオクィクに言われるまでもなくエモニモにもわかっていた。

この馬の様子は尋常ではない。

単に脅えているとかそういう類ではないのだ。


「お前はあいつらの正体がわかるのか」

「正体? 前ニクラ…族長ニ言ワレタダロ。『狼乗リ』ダ」

「ゴブリンの狼乗り?! だが…」


そこまで言い差してハッとした。

襲いかかってこない狼たち。

突然様子がおかしくなった馬。

誰も乗っていない騎乗生物。

そして、あの時の奇妙な手応え…



頭の中でそれらの意味が組み合わさり、エモニモは大声で叫ぶ。



「お前達! 様子がおかしくなった馬から降りなさい! この狼どもはゴブリン乗りです!」

「ええっ!? でもゴブリンなんて影も形も…」

「よく見て! ゴブリンどもが乗ってるのは狼の上じゃありません! ()()()()()()()()()!」

「「「ええええええええええええええ!?」」」


そう、エモニモの言った通り。

ゴブリン達は狼の腹の下にいた。

狼の胴に黒い革帯を巻きつけ、それで自分達の体を固定していたのである。


先程エモニモが狼に斬りつけた時感じた妙な手応えはその革帯を斬った時のもの。

同時に聞こえた呻きはそれにより地面に叩き落とされたゴブリンのもの。

闇を裂いて彼女を襲った攻撃はおそらくその地面に落ちたゴブリンが投擲した短剣か何かだろう。


そして、馬の様子がおかしくなったのは…


「気を抜かないで! 連中は短剣に毒を塗ってます!」

「あっ! そうか…っ!」


彼らは狼の腹の下の隠れ、狼を巧みに操りながら敵陣をすり抜け、その際短剣で掠めるようにして馬の脚を攻撃していたのだ。

騎士は鎖鎧を着ており脚部もしっかり守っているし、多くの者が盾も構えている。

ゆえにまず邪魔な馬を無力化し、できれば馬に暴れさせ騎士達を地面に叩きつけてダメージを与えることも狙っていたのだろう。

相当訓練された乗り手、そして戦術である。


「けど種が割れりゃあこっちのもんだ! 腹の下に隠れてたってなあ…え? 上にもくんの?!」


どうやら雰囲気からこちらに気づかれたことを知ったらしきゴブリンどもは、狼の腹からするするとその背中に回り込み、嫌らしい笑みと共にこちらを威嚇する。


「村ニヤルワケニハイカン。ココデ止メルゾ」

「わかっています!」


馬上で槍を構えるラオクィク、下馬して地上で剣を構えるエモニモ。

その左右に騎乗のオーク共が二騎。

前方には騎狼ゴブリンが五匹。


その向こうには騎士達が十数騎、それを威嚇する騎狼ゴブリンが八頭。

少々離れた場所で、互いが互いを睨み合う。


「どうやら騎乗に慣れたうちの騎士達を向こうで足止めしつつ、不慣れそうな貴方達の方から突破しようという肚のようですね」

「舐メタコト考エヤガル」




ぶんっ、という音が突然エモニモの脇で響き、同時に獣の断末魔の叫びが響いた。

目のも止まらぬ速さで投げつけたラオクィクの槍が一匹の狼の頭蓋を突き破り地面に縫い留めたのだ。


その狼を操っていたゴブリンは腹の下に隠れていたが、狼の体を貫き己の目の前に飛び出て地面に突き刺さった槍に驚き急ぎ脇腹へと回り込もうとする。


「サセネエヨ」


だがそれより早く馬を駆って狼共に群れに突っ込んだラオクィクは、己が投げ、狼越しに地面に突き刺さった槍を片手で引っこ抜き頭上でぶうんと一振りした。


ゴブリンども特製のその騎狼用の革帯は彼らと狼をしっかりと結び付けており、けれど逆に言えばゴブリンを狼と繋げ固定させてしまう。

ゆえにラオクィクの力任せのぶん回しにゴブリンもまた巻き込まれ、風圧と遠心力とでその体躯が奇妙な形に歪んだ。


落ち着け。

慌てるな。

振り回されながらも素早く革帯の留め具を外し、宙空にとんぼ返りして脱出したそのゴブリンは、端倪すべからざる技量の持ち主だったと言えよう。


けれど…彼が目指した着地点に、彼よりも早く回り込んだ女騎士がいた。

エモニモである。


そのゴブリンは盗賊として鍛えた体術で空中で猫のように体をねじり、その回転を勢いに変えて短刀を三本彼女目がけて投擲した。

毒塗りの短刀である。


夜の闇に紛れ空を切り裂く漆黒に塗られた毒刃…けれど村の中央で煌々と輝く篝火の炎がその刃を照らし出し、エモニモはそれを頼りに剣を左右に払って叩き落とす。



()()()()()()()



無理な体勢からの投擲など当たれば僥倖程度のもの。

その人間族の剣の勢いが殺せればそれでいい。


そのゴブリンはあろうことか、エモニモが短剣を振り払ったその剣の上に()()し、そのままとんぼ返りを打って草叢の中に逃げ去ろうとした。


「!?」


…が、できない。

身体が跳ねない。


彼が剣の上に足を乗せたその瞬間、エモニモは剣を握る手を緩めその剣の切っ先を下げた。

跳躍するためには剣をエモニモがしっかり掴み、固定されていなければならない。

ゆえにその剣は飛び跳ねるための足場となり得ず、ゴブリンはエモニモの目の前に落下する。


「グギギギギィィィィィッ!!」


最後の足掻きとばかりに宙で体を反転させ、毒塗りの短剣を突き出すゴブリン。

だが体勢が十分でないその一撃をエモニモは余裕を持って肩当てで受け、そのまま宙にいる相手を一刀の下に切り伏せた。


「見事ダ。強イナ」

「誉めても何も出ませんけど」

「凄イ思ウ褒メタ。オ前素直ジャナイ」

「よ・け・い・なお世話ですーっ!」






互いに憎まれ口を叩きつつ、だが寸分の油断なく、

ラオクィクとエモニモが村を背に群狼どもを迎え撃つ。






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