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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第二部 族長クラスク 第四章 いざ村の外へ
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第180話 ゴブリンの噂

「デ、ここからが今日の本題ダ」


最後のカマンベールチーズを摘まみながら蜂蜜酒をあおり、クラスクがどっかと長椅子に座り直す。

どうやらこのチーズが随分とお気に召したようだ。

ミエは後でトニアに作り方を教わろうと心に決める。


まあ製法的にロモス…彼女の元の世界で言うところの凝乳酵素レンネットが必要となるため、アーリに材料を取り寄せてもらわぬ限り生まれたてのこの村ではそうそう簡単に作れるものではないのだが。


「ゴブリンにつイテの続報ダ」


全員真剣な面持ちで姿勢を正す。

理想を言えば村がオープンする前にカタを付けたくて畑で働くオークを多めにしつつ警戒に当たっていたのだが、これまで襲撃が一切なかったのである。


「諦めたってことはねえのかな? 村の周りに柵もできたし前よりずっと規模もでかくなっただろ。アタシが襲撃側ならちょっと躊躇するぞ」


ゲルダの言葉にアーリやシャミルが賛意を示し頷く。

単純に考えればゴブリンやオークの襲撃というのは自分達の群れや部族の維持や拡大のために行うものだ。


襲撃した結果多くの仲間が返り討ちに遭うリスクがあるならそれはもはや襲撃とは呼ばない。

『戦争』である。

無論知能が低い種族であれば実力差に気づかず空腹を満たすためだけに襲いかかってくることもあるかもしれないが、少なくともゴブリンはそうではないはずだ。

あの集団にそれだけの知性があることは前回の襲撃でよくわかっている。


「それなんだが…いいか」

「なんダ、キャス」

「うちの騎士隊の何人かが馬の訓練も兼ねて村の周りを回っていた折、遠くに影のようなものを見たと言っていた。無論見間違えかもしれんが、何人かから報告が来ている。気に留めた方がいいと思う」

「ゲルダさん、護衛隊のオークさん達からの報告は?」

「ん~? 草原で明らかにオークじゃねえ連中を遠くで見かけたとは言ってたなそういや。襲ってもこねえからそのままほっといたっつーてたが」


「じゃあ私からも。農作業をしてる村の人からはそんな報告ないですね。ただ夜に見張りをしてたうちのオーク…ドゥキフコヴさんとヴェノシさんから畜舎に近寄る獣みたいなものに気づいて追い返したって報告が来てます」

「フム…」


最後にミエの報告を聞いて、クラスクが腕を組んで考え込む。


「クラスク殿、どう思う? 襲撃はあると思うか?」

「…あルナ。近いうちに来ル」


キャスの問いに対するクラスクの断言にざわ、と一同がどよめいた。

明らかに彼女らの予測や常識とは異なる答えだったからだ。


「その根拠は?」

「商人ドモみタイにここを通過しテく連中を除けばオークじゃナイ『ヒトガタ』はこの近くにはいナイ。ダから村の連中が見タのは例のゴブリンドもの()()ト考えテイイ。()()()()()()()()()()()()()()()()ガ」


キャスの質問にクラスクが少し考え込みながら答える。


「デダ…前回の襲撃の時既に俺達オークとキャスの手勢がイタ。()()()が目的ならその時点デ諦めル筈ダ」

「つまり彼らは襲撃と村の資産の収奪が目的ではないと?」

「前回はそうダッタかもしれナイ。ダガそのあトに様子を見に来てルのは明らかに違ウ」


ふむ、とキャスが腕組みをして黙考する。

前回この村にいた騎士隊は疲労と空腹でかなり不甲斐なかったし、対応したのは半数程度だったけれど、それでも結構な人数はいた。

武装した兵士が1ダース(ウィゴム)もいれば、単なる物取りや野盗相手であれば十分襲撃を躊躇させる理由となるはずだ。

いわゆる『抑止力』というやつである。


野盗と言えば危険で命知らずなイメージがあるけれど、彼らは別に好んで戦いたいわけではない。

大概は労働や農作業に従事せず楽に生活したいか、或いは襲撃せざるを得ない程に追い詰められたり人間社会から落後しているかのいずれかであって、彼らとて戦わずに済むなら戦いたくないし、恫喝で相手が折れてくれるならそれで済ませたいのである。

キャスは幾つもの野盗の群れを討伐しており、それをよくよく知悉していた。


例外は襲撃と同時に戦いを愉しむオーク族のような種族性の場合だが、力や体格で劣るゴブリン族に特にそういった特性はないはずだ。


「なら…目的はなんだ」

「ワカラン。この場所が欲しイのカ、ここにイル連中が欲しくテ()()()のを待っテルのカ、探しものデモあルのカ」

「探し物…?」

「『誰カ』ダか『何カ』ダかわからんガ、『まじない』でこの村が示されテルかもしれなイッテ話ダ」

「!! ……占術のことか!?」


キャスが驚愕し、クラスクが静かに頷く。


「占術? 占術ってなんですか?」


きょとんとした顔のミエが尋ねる。

ただ…それに答えたのはキャスではなかった。


「占術は…あれニャ。魔術の種類と言うか種別と言うか…『系統』ニャ。神様とかの上位存在からお告げを聞いたり、アイテムの鑑定したり、知らニャい言葉を話せるようにニャったり、知らニャい文字が読めるようになったり的ニャ…こう()()()()()()()()()()と考えればいいニャ」

「ああ…ネットで情報を集める的な…?」

モスモスで何の情報を集めるニャ? 鳥でも捕まえるのかニャ?」

「ああいえこちらの話です」


さすがにインターネットの話をしてもこちらの世界の住人には通用しまいとミエは話を流した。

もしかしたら魔術的な何かで似たような説明が付けられるのかもしれないけれど、その場合今度はミエの方が理解できまい。


ただ少なくともミエにも思い当たることが一つだけあった。

かつてこの世界に来る時あの案内人が自分にかけてくれた、この世界の共通語やオーク語を習得させてくれた何かも、きっと占術の類なのだろう、と。


「う~ん…でも情報戦で相手に上を行かれるのは嫌ですねえ」

「そうだニャア。確かに占術で相手の陣容とか人数とか欠点とかを調査するのは強敵相手には特に有効ニャ」


滔々と述べるアーリに、会合に集まっている一同が感心しきりで聞き入っていた。


「…なんニャ?」

「あ、いや、アーリ殿は随分と詳しいのだなと」

「ぎく」

「おー…今ぎくって言った」

「言ってニャ…! 言ってたニャ。そそそそれはさておき族長はよく占術の事なんて知ってたニャ?」

「む…確かに。オーク族は魔術が苦手だと思っていたが」


アーリが露骨に話題を逸らそうとしているのはキャスもわかっていたが、彼女が降った話題が興味を引くものだったのでそのまま尻馬に乗ることにする。


「うちの村にはイナイがオーク族にもまじない師はイル。アイツら占い得意」

「ああ、土俗の術師か」

「そうダ」

「なるほど…確かにゴブリンの祈祷師でもいれば占術のひとつでも使えるかもしれんが…なら一体何を探している? ()()()()()()()()()()()()()

「それハわからン。こっちにモまじない師がいれば話は別ダガ、ウチノ村イナイ」


キャスの質問に答えながらクラスクはちら、と彼女の方を見るが、特に期待している素振りではなかった。

キャスは肩を竦めながら嘆息し不承不承それを認める。


「確かに私も魔術は多少扱えるが占術については期待するな。そもそも専門の精霊使いではなくエルフの血の恩恵で少し扱えるだけで数も少ないし、覚えているのも殆ど戦闘補助系の魔術だけだ」


そう言いながらキャスは己の耳をつまむ。


「そのエルフの血ゆえ私は耳や目がいいからな。≪夜目≫もよく利く。戦闘前野情報収集は自前の知覚で大概事足りるから占術系統を習得しようというモチベーションがなかったのだ。これでいいか」

「よくわかっタ」


クラスクは小さく肯き腕組みをした。


「向こうにまじない師がイるかドうかは問題じゃナイ。問題なのはあイつらがこっちに馬に乗っタ兵隊も俺達オークもイルっテ知っテルのにまダこの村を襲撃すル気があルってトコダ」

「確かに。その戦力を把握した上でなお挑んでくる以上なんらかの勝ちの目があると踏んでの事だろうな」


キャスとクラスクが示し合わせたかのように互いに肯首する。


「しかし向こうの手の内がわからんとこちらとしてはやって来た相手を迎撃する以上のことができん。さてどうしたものか…」

「なあなあ、ちょっといいか」


とそこに挙手をして発言の許可を求める者がいた。

脇でクラスクとキャスの話し合いに耳を傾けていたゲルダである。

彼女の膝上にはいつの間にやらサフィナが座り、ゲルダに背もたれてご満悦の体だ。


「言っテくれ」

「要は敵の大半はゴブリンって考えていいんだよな?」

「多分ナ」

「でそいつらが手強いのは誰か後ろで訓練なり指導なりしてる奴がいるからで」

「そうダ」

「てことはこの村に色気出してるのもその()()()()()ってことだよな?」

「…そうダナ」

「なら…()()()()は、次出張ってくると思うかい?」

「……そうカ!」


ゲルダの言葉にクラスクは眼を大きく見開いた。


「ゴブリン多すぎルト村危険。デモこの村の周囲草原と荒野ばかりダ。大軍すぎるとそれ隠せナイ! ダからゴブリンの数そこまデ多くデきナイ! デモそれなら俺達十分勝テル! ダから…」

「その戦力差を覆すために、次は向こうの黒幕も出張ってくる、と?」

「そうダ! そイつがイルから連中は強気ナンダ。ダから…」


クラスクがどん、と拳で机を叩く。


「真っ先にそイつを見つけテ、ぶち殺す!」


おおお~…と周囲からどよめきが上がる。


「ふむ…仮にその想定が正しかったとして…そやつをどうやって見つけるつもりじゃ」

「うン?」

「相手は術師かもしれんのじゃろ。その親玉が目論見通り『戦場』に来ているからとて、『前線』に出ておるとは限るまいに」

「ア……」


シャミルの言葉見クラスクは口をあんぐりと開け、一瞬硬直した。

オーク族として()()()()()()()()()()()という前提で考えていたものらしい。



「……はい」



と、その時…

おずおずと挙手をする者がいた。


一同が驚きを以てその相手を凝視する。

それは…その挙手の主は、ゲルダの膝の上に座っていたサフィナだったのだ。







「それ、もしかしたら、サフィナ、手伝えるかも…」

「「「マジか」」」






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