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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第二部 族長クラスク 第四章 いざ村の外へ
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第179話 護衛隊の意味

ミエが言っていた『オープン初日』…

そのために彼女が提案した案とは…()()()()()()()()()()ことであった。



以前述べた通りクラスク村のある中森ナブロ・ヒロスの北には東西南北に伸びる街道がある。

比較的平坦なこのあたりは各地の主要都市を結ぶ交通の要衝だ。


ただその街道は各地を綺麗に十字路で繋いでいるわけではない。

幾つかの廃村とそれらを繋ぐ細い道、そしてその廃村のひとつから西の街道が、また別の廃村から北への街道が…のような構造となっていて、あまり使い勝手がいいとは言えなかった。

けれど整備しようにもそこはオーク族の縄張りであり、長い間誰も手出しができなかったのである。


そこでミエはリーパグに頼んでその街道を整備してもらった。

だが彼女がまず真っ先に行ったのはこの村…棄民達が入植しようとした廃村への道を『隠す』ことであったのだ。


板敷きの上に土を盛り、丈の高い草を乗せ、村へと通じる街道を塞ぐ。

そして新たな街道を村が見えない程度に迂回させながら他の廃村へと繋いだのである。


これでアーリンツ商会の馬車は板敷をどけるだけで簡単に村に荷を運ぶことができ、他の馬車は村に気づかず村の横を素通りする事になる。


その間に急ピッチで家や店を建て、オーク達に接客を学ばせ、また村内の店を利用してもらうことで貨幣経済にも慣れてもらった。

同時にリーパグに村の東西南北のの草を刈り土地を踏み固めて街道を整備してもらい、元々ある街道の手前まで延伸させた。


そして準備万端となったところで夜のうちに例の板敷を移動させ、今度は村から外れてゆく街道を覆い隠し、村から伸ばした街道の最後の数ウィールブ(数m)を一気に刈り込んで元からある四方の街道へと繋げたのだ。



これにより…一夜にしてこのあたりの街道は全て新クラスク村へと吸い込まれ、またこの村から東西南北へと伸びるように生まれ変わったのである。



村の制作過程は一切表に出さず、あたかもショッピングモールやテーマパークが開店初日を迎えるが如くすっかり村としての体裁が整ってからのお披露目。


これが例えば準備途中の、オーク達が怒鳴り合って家を建てているような状態で商人達が来たらどう思うだろうか。

脅えて近寄らないか、或いは突貫工事だと見抜き足元を見られるか、いずれにせよあまりよい印象はなかっただろう。


だが入念な準備を終えた状態で忽然と村が現れればインパクトは絶大である。


突然現れた賑やかな村。

広がる牧歌的な畑や牧草地。

それも街道がそのまま村へと向かっているのだ。

多少怪しんでもそのまま村に入るよりほかはない。

そしてひとたび村へ入ってしまえば、人を襲わないオーク族に歓迎されその存在について嫌でも思い知ることになる。


まさに用意周到な罠である。


「それにしてもうちの護衛隊って安すぎねえかあれ。アタシが傭兵だった頃の日当考えても破格すぎるぞ」

「まあオーク達の食事も酒も全部ウチの店で買ってくれるんニャから総体で見れば儲けは確保できてるニャ」


ゲルダのぼやきにアーリがフォローを入れるが、なぜかミエは妙にすました顔だ。


「あら、ゲルダさんにもちゃんと断るように言ってたじゃないですか『()()お得だよ』って」

「あん? 確かに言ってた気もするけどよ…どういうことだ?」

「『需要と供給』の話ですよ。以前も言いましたけどこの辺りはうちのオーク族の縄張りですよね? で東西南北…ああ南はいないのか…少なくとも三方向はうちの縄張りを抜けても他のオーク族の縄張りがあるじゃないですか」

「…まあそうじゃな」


ミエの言葉に頷いたのはシャミルの方だった。

森の南を抜ければそのままバクラダ王国だが、それ以外では東山ウクル・ウィール西丘ミクルゴック西谷ミクルナッキー北原ヴェクルグ・ブクオヴと言った主要な部族がいて、それ以外にも小さなオークの部族が幾つかある。


「で、前に北原ヴェクルグ・ブクオヴのゲヴィクルさんに仲介してもらって近隣の主要なオーク族と不可侵協定を結んだじゃないですか」

「あー、そういやそんなこと言ってたっけか」


以前北原(ヴェクルグ・ブクオヴ)のゲヴィクル族長代理が村に来たとき、クラスク村は彼女と同盟を結んだ。

そしてその際村の特産品である化粧品を北原(ヴェクルグ・ブクオヴ)の女性達(主に人間族)に提供する見返りとして、ゲヴィクルに近隣の各オーク族との折衝を依頼していたのだ。


この村と、女性が族長代理を務めている北原(ヴェクルグ・ブクオヴ)を除けば、近隣のオーク族の価値観や風習は旧来のそれと変わらない。

つまり襲撃や略奪、狩猟により生計を立て、女性の出生率の低さを他種族から娘を略奪することによって補う…というものだ。


ゆえに彼らはこの村の新族長であるクラスクの方針には安易に賛同できない。

無闇に女性を奪うな、女性を攫うな。

そんな戯言に従っていたら村が滅んでしまうではないか。


己の部族の、引いてはオーク族という種族の存亡がかかっているのだから当たり前と言えば当たり前の意見である。

けれど近隣の部族で最強の存在であった前族長ウッケ・ハヴシを頂上決闘ニクリックス・ファイクにて見事討ち果たしてのけた新族長クラスクと、方針が合わぬからと気軽に敵対もできぬ。


そこでクラスクよりは彼らと懇意にしているゲヴィクルを通じて、近隣の他部族と条約を結ばせたのだ。


一つ、互いの縄張りに侵入しての襲撃や狩りは行わないこと。

一つ、己の縄張りで獲物を見つけ、それを追っていった結果互いの縄張りに侵入した場合、縄張りを無用に荒さぬ限り、それを邪魔しないこと。

一つ、もし相手の部族が獲物を追っていた場合、それを横取りしないこと。


「けどよミエ、あれって確か襲撃の時の獲物の話だよな? こう隊商を襲ったりとかさ」

「うむ、確か簡易な不可侵条約だったはずじゃ」

「はい。ですからうちの護衛隊が馬に乗って隊商を警護しているのは、『うちの縄張りで見つけた獲物を追って他の部族の縄張りに入った』のと同じことですよね?」

「「「あ……!!」」」


ミエの言葉にハッと気づく一同。


「そうダ。オーク族が他種族を護衛すルなんテのは前例がなイ。ダがそれでもあえテオーク流に理由付けすルなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、が一番近イ」


クラスクの言葉にミエが嬉しそうに頷く。


「ハイ! 旦那様にオーク族の解釈について伺った時思いついたんです。街道の上を移動している限り『無用に荒らす』行為には当たりませんし、ならうちの村の護衛隊が付いている限り近隣のオーク族は襲撃できないんじゃないかって」

「なるほどなあ。つまりうちの護衛を雇えば被害が減るかもってことか」

「かもじゃないですよ。比較で言うなら()()()()()()()

「あん…?」


ゲルダは困惑した声を上げミエを見た。

襲撃に遭うなどというのは運不運の話である。

確かにミエの言い分が正しいなら効果的ではあるかもしれないが、確実とまでは言えないはずだ。


「そりゃどういうことだよ」

「だってオーク族の襲撃って縄張りを守るための排他行為じゃなくって()()()()じゃないですか。部族を維持するなら襲撃と狩りは常に()()()()()()必要です。でもうちの村の護衛隊がついている隊商は取り決めによって今後襲撃できません。となれば…当然()()()()()()()()()()()()()()()()をその分襲いますよね?」

「あー……あああああああ!」


そう、護衛隊がいようといまいと他部族のオークどもの方針も襲撃頻度も変わらない。

単に護衛隊が付いている隊商が襲われなくなるだけの話なのだ。

となれば当然そのしわ寄せ…即ち襲撃の被害は護衛隊を付けなかった隊商がまとめて受けることになる。


つまり今後はクラスク村護衛隊を雇えば確実に近隣のオーク族からの襲撃を防げる一方…

雇わなければ近隣のオーク族からの襲撃が確実に()()()のである。


「なのでこの先うちの護衛隊の取り合いになると思います。今は需要より供給の方が上回ってますから格安になってますが、それが逆転すればすぐに人員を増やせない分値段を上げて対応せざるを得ません。なので心配なさらないでも雇用価格はすぐに高くなると思いますよ? ついでに他部族のオーク達から襲われなくなったことで村の護衛隊の評判も上がって、結果的にうちの村のオークの評判も上がる、というわけです。いいアイデアだと思いません?」


嬉しそうに告げるミエの言葉にゲルダどころかシャミルやアーリやキャスまで口をあんぐりさせている。

左右をキョロキョロ見回したサフィナは、同じように真似っこしようとしたが、幾度か試みた後少し赤くなって俯いた。

エルフ族にとって大口を開けるのはあまり行儀のいい作法でないのである。


「まあこれに関しては実はこの先にもまだもう一段あってですね…ってあれ? どうしたんです?」

「ミエ…おっそろしいこと考えるなお前。引くわー」

「うむ。ミエが敵でなくて本当によかった心から思う」

「え? ふえ?」


ゲルダとキャスが何か恐ろしいものでも見るような目つきでミエを見つめ、ミエが困惑したように首を捻る。


「知ってるニャ。それあれニャ。前ミエが言ってたアレ…マッチポンプって奴ニャ!」

「うむ。流石本家だけあってマッチポンプの使い方が巧みじゃな!」


一方のアーリとシャミルはミエのやり口に感心しきりで、口々に賞賛の言葉を述べた




「うう…褒められてるはずなのに全然嬉しくないんですけどー!?」






当然二人はマッチポンプを優れた手法として認識しているため純然たる賛辞を示したつもりなのだが…

元の意味を知っているミエには全くそうとは聞こえていなかったのである。






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