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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第二部 族長クラスク 第四章 いざ村の外へ
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第164話 農業への誘(いざな)い

「しかしオーク族は成果がすぐに出ないものを嫌がる傾向があるようじゃが、農作業なんぞやらせられるものかの」

「アーリとしては一部のオーク以外共通語(ギンニム)がちょっと怪しいのが気になるニャ。この村の連中と上手くやれるかニャ?」

「まあなんとかなるんじゃないですか?」

「気軽に言ってくれるのう」

「知ってるニャ。そういうの安請け合いって言うニャ」

「安請け合いはさっきのお主の口約束もじゃからな、ミエ」

「ええ~?」


シャミルとアーリに散々な言われようながらあまり気にした素振りのないミエが、村にいる若手のオーク達を集める。

彼女が声をかけた途端作業を止めたオーク達が瞬く間に集まりびしりと整列した。


「族長夫人の権力おっそろしいニャ…」


アーリの小声の感想をスルーしながらミエがオーク達に共通語(ギンニム)で語り掛ける。

話す方はオークによって差があるが、聞き取りに関しては皆だいぶ上達しているのだ。

相手の言語を聞き取れるというのは襲撃や戦争などをする際に非常に有用であり、オーク達はそうしたことについては真面目に取り組むのである。


「えー、色々ありましたが今後私達は元の村とこの村を頻繁に行き来するようになると思います。つきましてはこちらの村でのお仕事が増えました!」

「「仕事…?」」

「「シゴト」」


ざわざわ、とオーク達が囁き合う。


「はい! 例えば家畜…鶏とか羊とかですねー…が無事かどうか村を見て回ったりとか、村を襲撃する人がいないように見張ったりとか、今後村を訪れることになる隊商の護衛をしてもらったりとかー」

「肉! 肉ヲ襲ウンジャナクテ見テ回ルノカ(ざわざわ」

「村ヲ襲ウンジャナクテ襲ワレナイヨウニ見張ルノカ!(ざわざわ」

「隊商ノ護衛ヲ殺スンジャナクテ隊商ノ護衛ヲスルノカ!(ざわざわ」

「「「面白ソウダナ!」」」

「こいつらみんな襲撃者側の視点で見てるニャー!?」


口々に感想を述べあうオーク達。

それを聞いてミエの背後でシャミルに抱きつき震え上がるアーリ。


「…元々オークはそっち側じゃろうが」

「ニャァーン…」


さてそんな背後の漫才をよそに、オーク達の前で腰に手を当てふんすと鼻息を荒くしたミエが話を続ける。


「でそっちの方は後から旦那様やラオさんから話が来ると思いますので。私の方からは! 皆さんに! 農作業のお仕事を募集したいと思います!」

「「「エエエ~…」」」


先程迄とは打って変わってなんともやる気のなさそうな返事である。

まあ見張りや護衛と違って戦いには一切関わらなそうな仕事であり、オーク族的にはあまり面白くなさそうに思えるのだろう。


背後でシャミルとアーリがさもありなんとうんうん頷いている。

だがミエは特に気にする風もなく話を続けた。


「えーとですね。ちなみに農作業をするときはここの村の人間族の皆さんと一緒にやってもらうわけですが…そこには若い娘さんもいます」

「ワカイムスメ!」


ミエの言葉を聞いた途端オーク達が目の色を変える。


「あと年増の女性もいます」

「トシマノオンナ!!」

「さらに御亭主を亡くされて乳飲み子のいる未亡人もいらっしゃいます」

「コモチミボウジン!!!」

「まあ適齢期を少し過ぎた御年配の方もいらっしゃいますけどー」

「トクシュセイヘキ!!!!」

「こーらー!」


ミエが言葉を重ねるごとに興奮の度合いを高めてゆくオークども。


「農作業に従事するオークの皆さんに()()…彼女たちにアプローチをかけることを、私と旦那様…クラスク族長は禁止しません」

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!?」


そして最後の一言で熱狂のボルテージが振り切れた。


「たーだーしー! 力づくで押し倒しちゃったりとか! 小屋に連れ込んで無理矢理とか! そういうのはダメです! 絶対! この私が許しません! いいですね!」

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


ぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんと首が千切れそうなほど激しく頷くオークども。


「さ、それでは農作業のお仕事に参加したい人はー…?」

「「「ハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハーイ!!!!」」」


若手のオーク共が目の色を変え我も我もと挙手をする。


随分とがっついているように見えるが、それも無理からぬことなのだ。

なにせクラスクが族長になって以降彼らは襲撃の数を減らしていたし、なにより女性を攫ってくる事が一切禁止されてしまった。

未だ女性を囲っていなかった成人前のオーク達は、クラスクが族長になって以降嫁取りの機会自体がほぼ存在しなかったのだ。


「おおー、ずいぶんとやる気がありますね。じゃあ村に残っているオークの皆さんも含めて、後日希望者には試験を行いますね?」

「「「ハーイハイハイハイ…ハイ…………シケン?」」」



耳慣れぬ単語に若いオーク達が顔を見合わせる。



「はい! オークの皆さんからすると成人の儀式とかああいう感じでしょうか。ただし試験内容は商用共通語ギンニムの日常会話ですけど」

「「「商用共通語ギンニムゥ!!???」」」


オーク達が皆目を丸くして驚愕の表情となる。

なおこの村の成人の儀はかつては隊商を襲って一人以上の相手を打ち倒すことだったが、襲撃が禁止された今はクラスクまたはラオクィクとの試験試合で合格をもらうことに変わっていた。


「あら、いざ農作業をやっていただく際には私や旦那様の通訳なく人間族の方に色々教えていただかなくてはならないんですよ? 言葉がちゃんと喋れる人を優先するのが当然でしょう?」

「ウ……ア……」


まったくもっての正論でぐうの音も出ない。

他の奴が喋れるからいいやと共通語の修得をおざなりにしていた一部のオークどもの顔が真っ青になる。


「それにー、昔と違って暴力とかでなく他種族の女性を堕としたいならー、ちゃーんと言葉で口説かないとじゃないですか。なら相手と楽しくお話しできなきゃダメですよね?」

「「「!!」」」

「今回だけじゃなくって、今後村がどんどんおっきくなっていったらこの村にもっと女性の方が増えるわけです。というかそういう予定です。暴力とか強姦とか旦那様に禁止されてるのに相手と同じ言葉で流暢に喋れなくてどうやって求婚するんです?」

「「「!!!!」」」


そうである。

まったくもってその通り。

なら今もっとも頑張るべきは斧の習熟より共通語の学習なのでは…!?

オーク達にどよめきが広がった。


「というわけで試験の日程については後日お伝えしますので、それまでしっかり勉強しておいてくださいねー?」

「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!?」」」

「ではー、解散! お仕事に戻ってくださーい!」


やる気とやけっぱちの入り混じったような怒号が響き、遠くにいた村の者達をおののかせる。

オーク達は皆口をもごもごさせながらそれぞれの持ち場に戻り、仕事を再開した。


…一刻も早く終わらせて、共通語に詳しい先輩に教わらねばと心に決めて。




「ほら! みんな農作業やりたいって言ってたじゃないですか! 共通語(ギンニム)の勉強もちゃんと頑張るって!」


オーク達が去った後、ふんすと鼻息を吐きながら腰に手を当て得意満面な顔で振り返るミエ。


「…えっげつない勧誘の仕方じゃのう」

「コワイ…アーリはミエがおっそろしいニャア…」

「ふぇ?! なんで!? なんでですかー!?」



そして二人にドン引かれた。



「若い連中の不満を昇華しつつやる気を出させてその上報酬の娘どもはくれてやるわけではなく当人の自助努力じゃからのう」

「なにもご褒美を上げずに士気だけ上げて仕事だけさせるとか鬼ニャ。ミエは人使いの鬼ニャ!」

「ひ、人聞きの悪いこと言わないでくださーい! オークさん達にだってちゃんとお給金支払いますもん! 一刻も早く貨幣経済に慣れてもらわないとならないんですからっ!」

「自由に金が使えたら全部肉と酒につぎ込みそうじゃがの」

「う゛…それは否定しませんが…」

「荷馬車で大量に搬入しニャイとならないニャー」

「そうそう。馬で…馬……?」


シャミルたちに返事をしようとしていたミエがそこで一瞬硬直する。


「馬…馬! あ、そうだった。イェーヴフ! イェーヴフさんバック! カムバックです!」

「ン…?」


先程他のオーク達と一緒にミエの演説で興奮し怒号を上げていた若きオークの一人、イェーヴフがわたわたと戻ってくる。

つい先刻荷運びをしながら村人たちと会話を交わしていたオークである。


「何ノ用デスカミエ・アネゴ」

「貴方だけ別の用を頼みたかったんです。なので貴方の農作業ナシ!」

「エエエエエエエエエエエエエエエエエー!?」


がびーんとショックを受けるイェーヴフ。

彼は若い連中の中では共通語が最も上手に話せるため、先程の試験にも自信があったのだ。

それだけにこのダメ出しは相当堪えたようである。


「貴方馬に乗れますよね。キャスさんに教わってましたし」

「エー、アー、ハイ」

「騎士であるキャスさんはこの村に預けておいた自分の馬があるはずなので森の村からここまで乗って来たうまい(ラクリィ)が空くはずです。貴方は私の言伝を元にまず北原ヴェクルグ・ブクオヴに行ってもらって…」


ゴニョゴニョ、と何やら耳打ちするミエ。

話しを聞くうちに真顔となるイェーヴフ。


「大事ナ役目デスカ」

「はい! とっても大事。旦那様とかリーパグさんとか他に交渉事ができそうなオークはみんな忙しそうだから貴方にしか頼めないの。できる?」

「…ヤル!」

「うんうん、えらいえらい!」


どうやら無能だからと仕事を外されたわけではなく、むしろ能力を認められて特別任務を下されたらしい。

それもミエ・アネゴ直々にである。

イェーヴフは勇躍してその任を受けた。


「じゃあまずは…」

うまい(ラクリィ)ヲ使ワセテモラエルヨウキャスバシー教官ニ許可モラッテキマス!」


こちらに手を振りながら瞬く間にばたばたと駆け去るイェーヴフ。


「なかなかに段取りをわかっておるではないか、あの小僧」

共通語(ギンニム)も上手いし、将来有望だニャ」

「はい。期待の若手ってやつです。エルフ語の発音は…もうちょっと頑張らないとなんですが」



ミエの秘密の用事を言い遣ったイェーヴフは、その日の夕刻前、うまい(ラクリィ)に跨って村を出た。






随分と…急いだ様子で。






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