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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第二部 族長クラスク 第四章 いざ村の外へ
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第159話 農地と家畜と

「では基本その方針で行くとして…まずは村の周りの畑づくりかのう。手早くチェック柄のように区切って二年周期で分けるのか?」

「いえ…この方式だったら全部の畑がこちらの管轄になりますし『計画農業』ができます。流石に祝福農法とかには敵わないかもですが…」


ミエが手持ちの黒板に荒い概要図を描き込んでゆく。


「だいたいこんな感じですけど…実現可能でしょうか?」

「複雑ニャー!?」


描き終えた図を見て思わずアーリが叫ぶ。


「いや…これは…複雑は複雑じゃが…できるできないでゆうたら…」

「できますか!?」

「ほほう、この地方の気候的には十分可能ではないか? ふむふむ、根瘤を利用して痩せた土地を…畜産との複合的な…ほう、ほう! なかなか興味深い試みじゃ! 面白い! ただ…これをするには水が足りるかのう」

「あー、このあたり川が遠いですもんねえ」


地図に載っているレベルの大きな川はこの村の北から北東の方に流れるブレズィム()シムツァオ川とクラスク村のある森の南端の方を流れている幽尾ズフィッツ・セア川で、どちらもこの村に直接導水するにはかなりの距離がある。


「とするとやっぱり井戸でしょうか…」


ミエが脇にある村の井戸を覗き見た。

かなり古びた感じに見える。

棄民達が掘ったわけではなく、かつてこの村が作られた当時に掘られたもののようだ。


「ああそういえばシャミルさんにお伺いしたいことがあったんですけど…井戸のために穴掘ってたら例の地底世界とかを掘りあてちゃったりとかそういうことはないんです?」

「皆無とは言わんじゃろうが…基本的に地底世界までは相当深く掘らんと辿り着かんはずじゃ。地下に通じる地底通路なり地下迷宮なりを掘り当てん限りはの」


かつて己の村に起こったことを思い起こしたのか、少し皮肉気な口調でシャミルが答える。


「じゃあ井戸は掘れるんですね。なら幾つか掘っておきたいです。オークさん達の力に頼るしかないのかな…う~んこんなことなら上総(かずさ)掘りの勉強とかしておくんだった…」


ミエはそんなことを呟きつつもシャミルの言葉にやや引っかかるものを感じたが、とりあえず後回しにすることとした。


「じゃあさっきのやるんだったら家畜の調達も必要ニャ?」

「そうですねー。えーっとまず最優先で鶏が欲しいですけど…鶏はいますよね? ファッグって言葉があるくらいですから」

「そりゃいるニャ」

「卵ってどれくらいの頻度で産みます?」

「だいたい毎日産むんじゃニャいかニャ?」

「それは素晴らしいです!」


どうやらこの世界でも鶏は変わらず非常に優秀な家禽のようである。

ミエはほっと胸を撫でおろした。


「で、大鶏ダズグファッグ小鶏トニアファッグどっちにするニャ」

「大?!」


唐突に知らない分類を投げ込まれて一瞬言葉に窮するミエ。


「ええっと大きさって…どれくらい違うものなんです?」

小鶏トニアファッグでだいたい全長2フース(約60センチ)くらいニャ」

「はい」


鳥の全長は仰向けに寝かせた時の嘴の先端から尾羽の先までを指す。

全長60センチならミエが知っている鶏とほぼ同じか若干小さい程度である。


大鶏ダズグファッグは大体全長2ウィールブ(180cm)程度ニャ」

「そん

 なに」


ミエの脳裏で突如背丈が1mほどの巨大な鶏が降臨し、甲高く鳴きながら羽根をばたつかせその嘴で猛烈につついて来た。

少しではすまないレベルで痛そうな気がする。


「はっは、懐かしいのう。ノームの男どもがよく大鶏ダズグファッグに跨って乗りこなすのを競ったりしたもんじゃ」

「へえ…」

「油断すると人型生物の子供くらいつつき殺されかねんからのう」

「あ-、たまに田舎の方で事件になったりするニャ―」

「小さい方でお願いします!」


しみじみ語る二人を前にミエが全力で叫ぶ。


そもそもその大きさではミエがやろうとしている農法に適用できない。

ミエは素直に自分の知っているであろう鶏を選択した。

まあなぜそこまで鶏が大きくなったのかについては非常に興味があったけれども。


「他にも羊毛のための羊、ミルクのための牛、食肉目的の豚…ああでも素人があまり欲張りすぎても失敗しちゃうかなあ…」


夢を見るのは自由だし、それを広げるのも頭の中だけなら好き勝手できるけれど、実際に運用し成果を出さなねばならぬとするとなかなかに塩梅が難しい。

人の生活がかかっているとなると猶更である。


「お主これだけ辣腕を振るうておいてまだ己を素人と呼ぶか」

「自覚ニャいって怖いニャ―」

「? なんの話です? それより他の家畜はそこまで変な種類ありませんよね…?」

「ニャにが変ニャのかアーリにはよくわからニャいけど、羊には巻き羊と角羊、牛には黒牛と白牛と斑牛がいるニャ」

「そん

 なに」


世界の壁を感じて少しだけ眩暈を感じたミエは、けれど気を取り直して家畜導入の問題点を洗い出そうとする。


「家畜…家畜で大事なのは畜舎と餌と病気の対処と…あとなんでしょうか」

「獣の襲来じゃろ」

「あ…すっかり忘れてました」

「なぜそれを真っ先に忘れるか。深謀なようで案外抜けておるのうお主」


家禽や家畜を飼育する上でもっとも注意しなければならないのは野生の獣の襲撃である。

……が、ミエの想像する家畜産業は彼女の故郷のイメージが主であって、そこには家畜を襲う主因たる狼がいない。

彼ら狼は彼女の国ではかなり早いうちに絶滅してしまっているからだ。


無論今でも野犬やキツネなどによって鶏が襲われたりすることはあるのだけれど、ミエの思考からはすっぽりと抜け落ちてしまっていたのである。

というか、そもそもミエはこの世界で未だ野犬を見たことがないし、コルキ以外に狼を見た事もない。


「でもこの辺りの狼とかってオーク達が全滅させたんじゃなかったでしたっけ」

「そう言っておったはずじゃが…一度聞いてみるかの」

「そうですね。ええっと旦那さm…」


ちょうどミエがクラスクを呼ぼうと広場の方に目を向けると、ちょうど向こうの彼と目が合った。


クラスクはミエと視線を合わせた後、再び村人たちに向き直り、ミエの方を指差しながら何かを捲し立てている。

どっと笑う村人一同。

ミエの≪応援≫によって範囲が拡大した≪カリスマ(人型生物)≫のお陰だろうか、どうやらすっかり打ち解けたようである。


「それはいいんですけどなにか私の話してません?」

「…しとるな、あれは」

「してるニャ」


村人たちの視線が明らかにこちらの方に向いている。

さらに注意深く見れば主にミエを注視している。


彼らの瞳に浮かんでいるのは主に興味、好奇心、敬意…それに畏怖。




…そしてなぜか、羞恥。




「ちょっと旦那様? 私の何について皆さんに伝えておいでです? 旦那様? なんで女性の方がこっちを恥ずかしそうにチラチラ見てるんです? 旦那様? だーんーんーなーさーまー?」


注がれる視線に含まれる圧に負け、片手を上げてひらひらと挨拶するミエ。

なぜか向こうで上がるどよめき。


湧く歓声

続く拍手。


クラスクがミエに背を向けたまま両手を大きく掲げて何か叫ぶと同時に、その拍手が一層大きくなった。


「んもう、クラスクさんったらー!」


ぷんすかぷーと頬を膨らませ、軽く腹をさすりながらクラスクの元へ向かうミエ。

けれど彼に文句を言ったり叱ったりするのかと思えばそうでもなく、クラスクの隣に辿り着いた後村人たちにぺこぺこと頭を下げ、ジェスチャーでクラスクを紹介し、二人で頭を下げている。


「完全に出先で夫の紹介と挨拶をしとる嫁の図じゃな、あれは」

「知ってたニャ」


ともあれミエに連れられクラスクが合流する。

彼が手を上げて村人たちにひと時の別れを告げると彼らから残念そうな声が漏れたが、その後三々五々サフィナのところへ食事のおかわりをしに向かったようだ。


「デ、ナンノ話ダ?」

「あの…家畜を飼いたいんですけどこのあたりって家畜を襲うような獣ってどれくらいいるんでしょうか。勿論畜舎とか作って気を付けるようにするつもりですけど」

「家畜…アア人間の村にイル牛トカ羊トカカ」

「はい」


ふむ、と腕組みをしたクラスクは、少しだけ眉を顰めてこう答えた。




「…俺モちょっト相談しタい事あル。ラオとキャスを呼んデもイイカ」




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