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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第一部 オーク村の若夫婦 第一章 オークの花嫁
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第15話 誤解とすれ違い

「オークの、花嫁…?」


他がオーク語の中、なぜかその部分だけが共通語(ギンニム)である。

怪訝そうに問いかけるエミの背後で人間族の少女が恐怖で震え竦み上がって隣の老人にしがみついているが、背中に目があるでもないミエにはそれに気づけない。


「そうダ。オ前『オークの花嫁』にナッテタくさン俺ノ子供産メ。そうシタら後ロノ連中助けテやっテモイイ。そっちノガキよりオ前ノ方がタくさン産めそうダカらナ」


それはオーク族にとってかなり珍しい交渉であった。

強者絶対の価値観を旨とし略奪を本分とする彼らにとって、武器ひとつ持たず戦場へ乱入してきたミエの要望など本来耳を傾ける必要もない戯言であり、彼女を斬り殺して後ろの少女を連れ帰るか、或いはそのどちらも連れ帰って奴隷同然に扱いオークの子を孕ませればそれで済む話である。


だがクラスクはそうしなかった。

なぜなら目の前の女が単なる阿呆ではないからだ。

武器を持たぬ身で、死ぬかもしれないと理解した上で、覚悟して自分たちに挑んできた女なのだ。


それは弱者なりの必死の戦いであり、同時にとても度胸がいることのはずである。

女としてはかなり珍しい、なかなかお目にかかることのできない逸材と言えよう。

クラスクはミエのそんな暴挙を、オーク族の価値観に照らし合わせ勇猛と評価したのだ。


それにミエの背後にいるのはよれよれの年寄りと小さな子供である。

老人は邪魔だから殺すとしても、子供が子供を産める・・・・・・・・・・・ようになるにはかなり長い間待たなければならぬ。

人間族は脆弱な種族であり、彼らの村でその子供が大きくなるまで長持ち(・・・)するとは到底思えなかった。


せっかく自分が仕切れた襲撃だというのに、初めての女がそんなハズレとはなんともついてない。


けれどいないよりはマシだ。

ダメ元で連れ帰ってみるか。

死んだら死んだでまた次を攫えばいいではないか。



…と、そんな風に考えていたところにミエが現れたわけだ。



出産も育児も存分にできそうな大人の肢体(カラダ)

おまけにこちらの言葉がわかるというレアっぷり。

ラオクィク…背後にいる同期の仲間…が言ったようにこの女を斬り殺す? とんでもない。

この女は間違いなく掘り出し物だ。



まるで猪が自分のために構えた斧の下にのたのた歩いてきたかのような僥倖ではないか!



しかもそれが連れ帰っても面倒しか呼ばなそうな脆弱な小娘を放り捨てるだけで手に入るというのだ。

なんとも安い買い物である。

クラスクはほくそ笑んだ。



そして彼が言い放ったその言葉…

『オークの花嫁』という言葉。



本来それはオーク語ではなく、共通語(ギンニム)の表現である。

けれど長い年月のうち、攫ってきた女どもの呟きからその言葉自体はオーク達にも耳にするようになり、なんとなく侮蔑と恐怖のニュアンスも伝わっていた。

ゆえにオーク族の語彙として、標準語の発音そのままでその言い回しが用いられていたのである。



『詳しい意味は分からんが、これを告げると他の種族の女どもがひどく怯えるぞ』

『意味はよくわからんが、脅すには都合のいい言葉だ』、と。



先程の彼の発言が全体的にオーク語であるにもかかわらず、ミエの背後の少女が悲鳴を上げたのはその単語だけ聞き取れたからなのだ。


ゆえにクラスクはその言葉でミエを脅しつけた。

自分たちが恐れられている要因であるその言葉をあえて用いることにより、畏怖と恐怖とで相手の心を折り、より従順な雌に仕立てようとしたのである。


実際目の前の女はその身を震わせている。

己の言葉が効いているのだ。

クラスクは自らのあまりの賢さに満足げに唇を歪めた。



…確かに、クラスクの言葉はミエに覿面に効いていた。

けれどそれは彼の目論見通りではあっても計算通りではなかった。



ミエは確かにその身を震わせている。

いつの間にか両手を頬に当て戦慄(わなな)いている。

けれどそれは決して恐怖によるものではない。

彼女の顔が真っ青ではなく真っ赤に染まっているのがその証拠だ。


だがそれは何故か。






(え? え? ええええ? も、もしかして、もしかして今、私、わたし……ぷ、ぷ、プロポーズされちゃってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!?)






…これである。





この大いなる誤解が、勘違いが、そしてすれ違いが……

この後の彼女の、目の前のオークの…そしてこの国の命運を大きく左右することになるのだが……

それはこの時点の彼女には未だ知る由もないことであった。






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