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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第二部 族長クラスク 第四章 いざ村の外へ
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第148話 寒村

キャスと騎士隊、それにクラスクが率いるオーク達が村に入ってくると、村民たちは飛び上がらんばかりに驚いた。


騎士が危険なゴブリンを退治するために出陣したと思ったらもっと危険なオークを連れて戻ったのだから当たり前と言えば当たり前である。


だがそのオーク達は皆規律正しく、先頭にいるオークの命令に従っている。

なにより彼らを従えているそのオークの威風堂々たるその姿ときたら!


彼が馬に乗って村民の前にやって来た時、村人たちは我知らず皆平伏してしまった。

エモニモの前でも、かつてキャスがここを訪れた時でさえこんな風にはならなかったというのに。



そのオークには()()()()()()()()()()()()()()が、確かに備わっていたのだ。



…当然のことながらクラスクは出立前にミエに≪応援≫されており、それによって≪応援/旦那様クラスク≫の効果である≪スキル適用範囲拡大≫が発現している。

彼の有する交渉系スキル≪カリスマ(オーク族)≫はそれによって現在≪カリスマ(人型生物フェインミューブ)≫へと変更されており、その効果が村人たちにも遺憾なく発揮されていたわけだ。


「…なあ、あのオークってさ」

「ああ、なんかこう威厳があるっつーか…」

「隊長が参っちまうのもわかるっるーか」

「参ってなどいないからなっ!?」



というか、なんだったら騎士達相手にも存分に発揮されていた。



クラスクは馬を降り、平伏する村人たちの前で腕を組み仁王立ちをしている。

背後には屈強なオーク兵。


それだけで村の者は完全に戦意を喪失していた。

いや元から戦う気などありもしなかったのだけれど。


「ふー、やっと着いたわい」

非常食イウィキヴシ! ありがとう! 頑張ったわね、えらいっ!」

「ヒヒン!」

「ちょっと尻が痛いニャ…」


と、その時村の入り口付近から女性のものと思われる高い声がした。


小柄なオークと巨体の女性に護衛された荷馬車がゆっくりと近づいてきて、オーク達が整然と道を空ける。

そして、それが先程の威容を備えたオークの背後で止まると、人間族、ノーム族、そして獣人族(ドゥーツネム)猫種の三人の女性が降り立った。


「お待たせしました旦那様」

「イヤ、大丈夫ダ」


ざわり。

村人たちが動揺する。


一つに人間の女性がオークを旦那様と呼んだこと。

二つにそのオークがかなり流暢な商用共通語ギンニムを使った事である。



オーク族が旦那様?

一体どういうことなのだろう。

もしやして彼女がそのオーク族の妻女だとでも言うのだろうか。


その張った腹は身重だからだろうか。

つまり隣にいるあの大物そうなオークに子を孕まされたということだろうか。


いやそれ自体は不思議ではない。

オーク族の女好きとその繁殖力の高さはどんな種族でも知っている。


けれど…女を奴隷同然の道具扱いしかしないはずのオーク相手に、一体何処をどうしたらそんな穏やかな笑顔で隣に立てるのだろう。


ひょっとして旦那様と言うのは奴隷と主人としての関係性を表すものなのか?

けれどその割には二人の態度や空気が些か妙ではないだろうか。

村人たちの間に疑念と疑問が渦巻くが、一向に答えは出ない。



そんな彼らの混乱をよそに…

『旦那様』と呼ばれたその大柄のオーク族が重々しい口を開く。



「…一通り揃っタ。これからお前タちに聞きタイ事があル。正直に話セ」

「ハ、ハイ…ッ!」


腕組みをしてこちらを睥睨するオーク…おそらく後背に控えているオーク達を束ねる長なのだろう…から放たれた言葉に、村長らしき老人が畏怖と共に平伏する。


「お前たちドコから来タ。イつからここにイル」

「わ、私達は王都ギャラグフより参りました。ここに辿り着いたのは三ヶ月ほど前でございます…!」

「三カ月前…?」


クラスクはミエやキャスと顔を見合わせた。

つまりクラスク達が見回りをやめた後、キャス達翡翠騎士団がやってくるちょうど少し前、ということになる。


「どっちも王都から…到着した時期も近いですね…キャスさん、心当たりはありますか?」

「いや…私は聞いていない」


ミエの素朴な疑問をキャスは否定するが、彼女自身も気になるところはあった。

偶然と呼ぶには少々時期や目的地が一致しすぎているのではないだろうか。


ただしキャス達は騎馬な上に国の中央を最短距離で突っ切っているため旅程自体はかなり短かったはずだ。

村人がここに到着したのが騎士隊の少し前、というのなら出発はもっとずっと早かったことになるけれど。


キャスが考え込んでいる間に、ミエが挙手をしてクラスクの許可を得、村人に質問する。


「えーっと、この村に来たのは土地を開墾して瘴気を晴らすため…でいいんですよね?」


ミエの質問に、長老が無言で頷く。


「あのー、それってこんな遠くまで来てやらなくちゃいけないものなんですか…?」

「いえ…ですが我々には()()()()()()()()のです」

「ふえ…?」


長老の言葉の意味が理解できず、ミエは思わず怪訝そうな声を出す。


「これまではなんとか国王陛下の御厚情に縋って王都の隅に住まわせて戴いていたのですが、王都の人口が増えて住処がなくなったと言われまして…こうして新しい住処を戴いた次第でございます」

「こんな遠くに!?」


ミエはこの広場に到着する前、村に荷車の姿を確認した。

おそらくあれで農具や種籾、食料などを運んできたのだろう。


けれどこの村には彼らの馬はいなかった。

立派な鞍を乗せた騎士達のものしか見当たらなかったのだ。

とすればあの荷車は人力で引いてきたことになる。


ミエにとってのこの国のイメージはその日初めて見た地図上のものでしかない。

だが東端に近い王都からこの南西部の森までは相当遠い印象を受けた。

だからこそ中央の森を突破できるキャスが重用されたのではなかったか。


それを彼らだけで、しかもそんな追い出すような形で行軍させたというのだろうか。

ミエにはにわかには信じ難い話であった。


「ま、人は動かせるけど城壁は動かせねえもんな。城ん中がいっぱいになりゃ弱い立場の連中から壁の外に回すのは当たり前っちゃ当たり前だ」

「そんな…!」


ゲルダの言葉に真っ青になるミエ。

だが周りの誰もが彼女の言葉に驚いていない。

衝撃を受けているのはただただミエ一人である。


「普通だろ? ただまあそうやって追い出された連中は大概城の外に貧民街みたいなのを作ってそこに住むんだよ。こんな遠くまでってなあ聞いたことねえなあ」


今のゲルダの説明には納得できる部分もある。

西洋の古い街では外敵から守るため街を丸ごと城壁で囲っている構造となっているものが多い。


だが城壁は一度構築した後から移動させるのは難しい。

だから人口の増加などで住人が城壁の外に溢れることも当然あった。

そういう場合、城の外に広がってゆく街に合わせ、城壁が二重三重に増築されることもあったという。

まあ街によっては石材が足りなくなって内側の城壁を崩して外側の城壁の築材に当てたりすることもあったけれど。


ともあれそうしたわけで彼らが都の人口増加のあおりを喰らって城壁の外に追い出されるのはわかるのだ。

だがそれを王国騎士団が派兵を躊躇するほどに遠方の、それもオーク族の支配地域にわざわざ寄こす意味がわからない。




それではまるで…

そこまで考えたところで、ミエの背筋が寒くなる。


それではまるで、()()()()()()()()()()()()()()()みたいではないか……と。




「そうか…ようやく得心できたわい」


ミエが思索の迷路に入りかけた時、背後から声がした。

やや不機嫌そうな表情のノーム族のシャミルが…つかつかと前に出てこの村の長に向かって口を開く。



「お主ら…『棄民』じゃな?」






彼女の言葉を聞いた長老は無言で平伏し…言外にそれを肯定した。






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