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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第二部 族長クラスク 第四章 いざ村の外へ
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第142話 オークの街

「「「街…?」」」


ミエの唐突な言葉に皆怪訝そうに眉を顰める。


「…それはなんじゃ、オークに街を作らせるという事か」

「はい! オークの街です!」

「オークに…? ほんとに作れんのか、それ」

「わかりません! でもやりましょう!」


ゲルダの言葉を前にミエは両拳を握り、きっぱりと宣言する。


「街…作ル。俺達ガ。ナンノタめにダ」

「はい旦那様、ええっとですね…」


地図の上、この村のある中森(ナブロ・ヒロス)の北を指差しながらミエが説明を始める。


「まず第一にここの街道を整備して交差点を作ります。そうすれば隊商は助かりますよね」

「それはまあすっごく助かるニャ」

「第二にこの辺りは交通の要衝、その交差点の中心に街を作れば商売もしやすいと思うんです。そこにアーリさんの商会の本店を建てましょう。そうしたら商品の仕入れもしやすいですし、近場ですからこの村から直通路も作りやすいと思います。アーリさんが目を付けた他の商人の方々にはそこからうちの商品を仕入れてもらうことにすれば無駄もありませんよね?」

「それはいいんニャけど、さっきも言った通り…ニャ?」


アーリは先程の話を繰り返そうとして己の言葉に矛盾を感じた。


()()()()()()がここの街道を整備して村や町を作ろうとすれば、確かにオーク族に襲われる危険があるでしょう。街を作る以上当然家族連れや夫婦で来るでしょうし、女性がいるとなればオーク族が放っておくはずがありません。ですが…()()()()()()()()()()()()()()()()()()限り()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よね?」

「ニャ……!?」

「治安の問題もそうです。オーク族は善悪を問わず他の種族と仲が悪く、オーク族の支配地域ではオーク族以外の危険は駆逐されます。ならその当のオーク族が街を作る限り、その縄張りの中での危険度はほぼなくなることになります。つまりオーク族が睨みを利かせているおかげで()()()()()()()()()()()()()()()()()。これが第三の理由」


アーリは目をまん丸く見開いて地図を凝視する。


アルザス王国の南西部。

地理的条件とオーク族の多さで開発と開拓が幾度も頓挫している地域。

今までオーク達のせいで軍事的にも商業的にも空白地帯だった場所。


なにせオーク族は戦闘が好物かつ大得意である。

下手に刺激すると複数の部族が手を合わせ危険な大軍団になりかねない。

魔族の対処や王都近辺である東部の開拓など他に優先すべきことが多かったこの国は…藪をつついて竜を出さぬためこの辺りの開発を後回し後回しにしてきた。



だがもしそのオーク族の邪魔が一切入らないとすれば…?



「コイツはデカイシノギのニオイがするニャ…!?」


目を爛々と輝かせ、耳と尻尾をピンと立てるアーリ。

俄然興味が湧いてきたようだ。


「第四は開墾です。キャスさん。サフィナちゃんの言葉通りだとするならこの辺りの土地は商人が往来しているとはいえ定住者が少なく、目に見えないだけで瘴気もまだ残っているらしいです。そこを開拓して農地を広げ、瘴気を浄化できたらこの国のメリットにもなりますよね?」

「ああ。それはまあそうだが…まさかオークに開墾させる気か?!」

「はい。だってオーク族も人型生物フェインミューブなんですよね? シャミルさん」

「む…! まあオーク族の神については色々と問題はあろうが…『はい』か『いいえ』で答えるならまあはい、じゃな。うむ」

「それならオーク族が住み暮らして畑を耕しても瘴気の浄化はできますよね?」

「うむ。しかしオーク族に耕作じゃと…?」


その手のすぐに成果の出ないタイプの労働はオーク族が嫌うものの一つである。

オーク族の特性を考えシャミルはそこを懸念したわけだ。

だが…


「今のこの村のオーク達は襲撃で生計を立てていません。旦那様が決まりごとをしっかし作ったお陰で蜂蜜関連の仕事やその他の労働に従事することで()()として食料やお酒をもらっています。開墾や耕作もそれがちゃんと目先の収入繋がるならやれると思うんです」

「む、確かに…!」


ううむ、とシャミルがうめき考え込む。

この村のオーク達は現在『襲撃とその分け前』から『労働とその対価』にシフトしつつある。

毎日の糧を得る、という点においては一見同じに見えるけれど、襲撃の報酬が常に成功報酬なことに対し、労働の対価は目の前の成果がなくとも計画通りに進んでさえいれば定期的に支払われる。

それは彼らに価値観の変容をもたらしているはずである…というのがミエの言わんとすることであり、シャミルが呻ったところだ。


「第五に私達は往来する商人や旅人に()()()()()ことができます」

「安全を…」

「売る…?」


奇しくもキャスとアーリが同時に声を上げ、顔を見合わせる。


「街にオーク族で構成された護衛を用意します。隊商や旅人に随行して近隣の街まで彼らを守るのが仕事です」

「ム。戦闘あルナら訓練活かせルナ!」

「はい。これからの生活様式ですと普段実戦を経験することが減っちゃいますからこういう場所で腕を磨いてもらいます。あと護衛として仕事をすれば当然近隣の街までついていくことになります。そうすれば()()()()()()()()()()がいるって周囲の街にも噂が広まりますよね?」

「ああ、傭兵部隊が実績で名前を売るみたいなもんか…面白そうだなそれ」


ゲルダがニヤっと笑い、膝の上に座っているサフィナの頭をぐりぐりと撫でた。

サフィナは撫でられるままに頭をぐりんぐりんと動かしている。


「やめてやれゲルダ。サフィナの首がもげかねん」

「おっとっと」


シャミルのツッコミで慌てて手を放すゲルダ。

手を離された後でもぐるんするんと首を回すサフィナ。

その脇で地図とにらめっこしているアーリ。


「ニャるほど…要は商売としてオーク族の戦闘力を売りつつオーク族の評判を上げようって魂胆かニャ」

「そうですね…ゲルダさんの仰る通り傭兵とかもいいのかもしれませんけど、私はそっち方面には詳しくなくって」

「んじゃそっちはアタシがちょっと考えてみるわ」

「お願いしまーす」


ミエが頭を下げ、ゲルダが片手を上げて応える。


「とまあ、だいたいこんな感じの計画なんですが…どうでしょうか」


しん、と一同が黙り込む。

だがそれは決して否定的な沈黙ではない。


突拍子もない、だが実現性の可能性の見える意見を提示されて沈思してしまったのだ。


「あの…えっと、このニンゲンの国の中、エルフ族、豊穣の森(シムーサ・ウーグ)に戻ったの」


サフィナがゲルダの膝の上から降り立ち、机に身を乗り出して地図を指差す。

アルザス王国の中央部に位置し南北に長く伸びる大きな森だ。


「森のエルフ、ニンゲンと仲悪いって聞いた。ミエもニンゲンと喧嘩する?」

「あー…したくはないですけど、場合によっては」

「なんだよ。国と街で戦争するってか? ハハハ! 面白いなそれ!」

「戦争…とは少し違うと思いますけど…私達は戦い自体に()()()()()()()ので。旦那様はどう思われます?」

「ム…?」


名指しされたクラスクは卓上の地図を眺める。


「偉イ奴…王様? 立場的に南の部族…じゃなイ国の手は借りタくナイ。デモ自分達ダけデココに来ルには遠回り必要…特に強イ奴北の街に集まっテテこっちに手出せナイ…近場の開拓もまダ全部終わっテナイ…」


先程の話を思い起こしながら考えを纏めてゆく。


「大軍が来ナイか来テもまトめテ来ナイ限り、街を守るのはデキル。街の周り休んデ立テ直す場所なイ。守ル側有利」

「ああ、防衛戦か! 懐かしいなあ」


ゲルダが合いの手を入れて、クラスクが頷いた。


「なるほど…つまり勝つ気がなければ持ちこたえることはできるんですね」

「アア。デきルト思う。タダ戦すル気ならなルべく早く『砦』にシタイ」

「砦か…そっか、それも考えなきゃですねえ」


全員でわいのわいのと相談している中、キャスは想像以上に大きくなってしまった事態に少し困惑し、思わず呻いた。


「国の中に…()()()()()()()を作るつもりか」

「? 何か変なことですか?」


ミエのきょとんとした表情を前にキャスが言葉に窮し、横で見ていたシャミルが噴き出した。

彼女は意地悪そうににたりと笑うと、地図の上を指でトントンと叩く。






「別に変な話ではなかろう。ミエが言うておるのは…要は『自由都市』のことじゃろ?」






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