第14話 オークの花嫁
今回は一挙三話掲載です。
キリもいいですしね。
オークの花嫁…
その言葉が何を意味するのかについて知るためにはこの世界の成り立ちについて少し触れなければならない。
ミエが送られた世界には多くの神々がいて、それぞれが炎や大地といったこの世界の『要素』、戦争や死といったこの世界の『概念』などをひとつ、あるいは複数司っている。
これを『権能』と呼ぶ。
『権能』とはこの世界のルールそのものであり、例えば『死』を司る神が全て滅ぶかその姿を隠し、『死』の権能が失われてしまえばこの世界から死の概念そのものがなくなってしまう。
いわば神々と彼らが司る権能がこの世界そのものを定義し、構成していると言っていい。
彼ら神々の力の源は信仰心であり、ゆえに神々は自らを信仰させるため、己の性質と姿を模した種族を生み出して大地に放った。
人間をはじめエルフやドワーフと言った多くの種族たちはこうして生み出されたのだ。
だがこうした経緯ゆえに、神々は自らが生み出した種族の姿が変容することを嫌う。
己自身の似姿なのだからある意味当然と言えよう。
そのためこの世界では人間族を除く異種族同士がつがった場合、生まれてくる子供は必ず片親の種族の姿を受け継ぐことになる。
例えばエルフとドワーフが結ばれたとして…往々にしてどんな世界でも仲の悪い彼らがどうやって結ばれたのかについては置いておくとして…幸運にもその二人に愛の結晶が恵まれたとして、生まれてくるのは互いの特徴が合わさった混血種ではなく、必ずエルフかドワーフのいずれかの姿となるわけだ。
これがこの世界の法則である。
この時子供がどちらの種族の姿で生まれてくるのかは親がどんな種族の組み合わせなのか、またどちらが男でどちらが女なのかによってある程度偏りが生じる。
これをこの世界では『種族間の綱引き』と呼ぶ。
とはいえ選ばれなかった方の種族の特性が完全に失われるかというとそうではなく、それらは内包されたまま次世代の『綱引き』に参加する。
ゆえにドワーフが先祖にいるエルフと普通のエルフが結ばれた場合、親が見た目上完全にエルフ同士であるにも関わらず稀にドワーフが生まれてしまうことがある。
多くの種族はこうした現象を『取り替え子』と呼び、忌み嫌う。
オーク族は…特にオーク族の雄はこの『種族間の綱引き』が非常に強い。
ほとんどの種族の女性との間に生まれる子供は九割以上の確率でオークとなる。
そしてこの世界の…特にこの地方のオーク族は女性の出生率がとても低い。
例えば今ミエの前にいるオーク達の村などは、同族の女性が一人もいないほどだ。
女性がいなければ種族の繁栄どころか衰退や滅亡の危険すらある。
繁殖力が旺盛であるにも関わらず同族の女性が少ない彼らは…だからその対策として自らの種族特性を利用した。
そう、他種族の村を襲撃し、旅の行商に襲い掛かり、そこにいた異種族の娘どもを奪い、攫い、村に連れ帰っては己の種族の子を産ませてきたのだ。
無論無理矢理連れてこられて、あまつさえそんなことを強制させられて、喜んで従うような女性などいはすまい。
暴れ、抵抗し、隙あらば逃げようとするだろう。
当たり前の話である。
ゆえにオーク達は拐かしてきた女たちに手枷足枷を嵌め、首輪をつけ、紐や鎖で繋ぎ留め、暴力に訴えて心を折り、反抗心を奪い屈服させ、肉体に快楽を刻み込んで…子供を産み育てるためだけの道具へと仕立て上げるのだ。
言わば性奴隷、と言ってもいい。
フェミニストが聞けば卒倒しそうな話であるが、力と暴力こそが至上であり弱者は虐げられて当然という価値観の彼らにとって、非力な女性はせいぜい価値ある調度品程度の扱いであり、そうして侍らせた女の数や彼女たちに産ませた雄の数を競う風習すらある。
そんなオーク族は殆どすべての種族から忌み嫌われ、敵視されている。
まあ彼らの行状を考えれば当たり前の話ではあるのだが。
そしてオーク達もまた他種族と交渉の余地がないがゆえに自らの種の存続のため略奪と襲撃に走り、女を奪うしかない。
そうした閉塞状況の中…彼らのその野蛮な悪癖を、女を奪う残酷な風習を、他の種族の者達は畏怖と恐怖と侮蔑と憎悪を込めてこう呼ぶのである。
『オークの花嫁』と。