表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第二部 族長クラスク 第四章 いざ村の外へ
137/936

第136話 地図

「ということでこんなものを用意してみたニャ」

「まあ、地図!」

「おお、最近の地図を見るのは初めてじゃな!」


ミエとシャミルが顔を輝かせ、キャスが胡乱げな目でアーリを見つめる。


「なかなかによくできた地図だが…このレベルだと軍事機密に相当するのでは? どうやって手に入れた?」

「し~らニャ~イニャ~ン♪ ここは確かにアルザス王国の国土かもしれニャイけど、別に国がこの村を支配してるわけじゃないニャン♪」

「貴様…」

「まあ、この国アルザス王国って言うんですか」


国王直属の騎士団の騎士隊長の一人を前に胸を張って堂々と言い放つアーリに、無邪気なミエの言葉がかぶさった。


「そこから!? そこから説明が必要なのかニャ!?」

「仕方ねーだろミエはキオクソーシツ? なんだから」

「(こくこくこく)」


アーリのツッコミにこれまで黙って聞いていたゲルダが返し、サフィナが激しく同意とばかりに幾度も頷く。


「まいいニャン。国王直属の栄えある翡翠騎士団の騎士隊長殿からよくできてると()()()()ももらったことニャし、そのあたりの説明から始めるとするニャ」

「あ……」


アーリがふんすふんすと得意げに鼻を鳴らし、キャスが己の失言に気づき思わず口に手を当てる。


「確かに他に地理地形を把握する手段がないと地図ってかなりの軍事機密ですよねえ」

「それはまるで他に地形を把握する手段を知っておるかのような口ぶりじゃのう、ミエや」

「へー…これが地図か。あー…どこがどうなってんだ?」

「サフィナの森、あるかな…」

地図ニーヴ? 地図ニーヴってナンダ?」


みんなでわいわいと好き勝手離しながら机の上に広げられた羊皮紙を見る。

喋っているのも共通語ギンニム北方語ミルスフォルムなどまちまちだが、特に問題なく意味は通じ合っているようだ。


「ええっと旦那様、そのー…鳥がいますよね?」

「トリ。トリイル。なかなか獲れナイ。喰ウトウマイ」


ミエが地図の()()について言葉を選びながら説明をはじめ、クラスクが腕を組みながらうんうんと頷く。


「はい。鳥さんです。その鳥さんになったつもりで考えてください。鳥が空を飛んでいる時に下を見るとどんな感じになります?」

「…木ノ上から下見ルノト同じデ…もっト高い所から見下ろす感じ…家ノ屋根タクサン見えル?」

「はい! そんな感じでふだんの鳥よりもっともっとずっとずぅーっとたかーいところからこのあたりを見下ろした感じで山とか森とかを記したのがこの『地図』なんです!」

空の王(クェス)ガ書イタノか!? 知り合いナノカ!?」

「そんな高い所飛ぶ鳥がいるんですか!?」


クラスクの驚愕の台詞に却ってミエが驚いてしまう。

だが妻の説明を聞いたクラスクは、すぐにその地図の上に身を乗り出し顎を撫でながら険しい顔つきとなった。


「これが山…これが森カ…? 地形わかれば遠くに行く時も迷わナイ。危険も避けられル。攻めル時相手ノ地ノ利を覆せナイまデも減らせル。守りも盤石にできル。あトは状況に応じテ高イトころ飛べル鳥ト低イトこロ飛べル鳥用意すれバ…」

「「「…………!!」」」


先刻まで地図の存在すら知らなかったクラスクの理解力に皆が瞠目する。

特に戦争や戦場に関する有用度の把握が尋常ではなく早い。


まさに戦闘に長けたオーク族らしい視点であり、クラスク自身の知能の高さを窺わせる反応である。


「鳥の高さの件は言い換えれば地図の()()か。よくもまあ今の説明だけでその発想に思い至れるものよ」

「うむ…私も正直驚いた」

「凄い…素敵です旦那様!」


シャミルとキャスが警戒心交じりの敬意を抱き、ミエがきゃー! と黄色い声で感嘆する。


「んで…俺たちのいるとこはどこなんだこれ」

「サフィナの森、どこ…」


そしてゲルダの一言で皆ハッと我に返って本題に戻った。


「フム、アーリを煩わせるまでもない。わしらのおるところはこのあたり…この森じゃな」

中森ナブロ・ヒロス…これがここの森の名前なんですね。ああ言われてみればオーク族の言ってる中森シヴリク・デキクルと意味は一緒か…」

「うむ。ちなみにサフィナの森はこのあたりじゃな」


ミエの疑問に答えつつ、シャミルが地図を飛び出して1枚分以上離れたところ、机の先の中空を指差した。


「とおい…!」

「そうじゃな。ずんと遠い」

「ここからだと…え、多島(エルグファヴォ)丘陵(レジファート)ってところのずっと、西…?」

「そうじゃ、サフィナや。わしらノームの国やドワーフの国、小人族フィダスの国、天翼族ユームズの国や幾つもの人間の小王国などなど、たくさんの丘とたくさんの小国がひしめいておる地域じゃな。サフィナがここに来るときも幾つか丘を越えたじゃろ」

「オー…まさに(アクシトゥクム)


シャミルに言われ当時を思い返していたサフィナは、知らずエルフ語で呟きこくこくと頷く。

そんな彼女らの横で地図を眺めていたミエは…


「ええっと私達が住んでいるのがアルザス王国の南西端、国境付近にある中森ナブロ・ヒロス…でいいんですよね?」

「そうじゃな」

「でここから西は多島(エルグファヴォ)丘陵(レジファート)が南北に広がってて、その丘陵地帯の北の方は赤蛇(ロビリン・)山脈(ニアムゼムト)と名前を変えている…と。ここから西はずっと丘か山なんですねえ」

「そうニャ」


ふむふむ、と己の内で納得するミエ。

なるほど、と隣で頷くクラスク。

こくこく、と真似っこするサフィナ。


「でうちの森から東は山がちになってて、そこから東にずーっと高い山が聳えてて…それがこの地図にある白銀山嶺ターポル・ヴォエクトですよね? 白銀ってことは万年雪? 相当標高が高いって事かな…」

「ああそれならあたしも登った事あるぜ。かなーり高い山脈だ」

「麓の方にはこの前来タ東山ウクル・ウィール部族の連中が住んデルナ」

「へええ…」


ゲルダとクラスクの言葉に頷きながら、ミエは東西に連なる山脈を指でなぞる。


「…でその後今度は山脈が北に延びるんですね。ええっと巨獣(モッシ ズロ)の巣(ース ドース)…? 山脈の名前ですかこれ?」

「そうだ、ミエ。その山脈には巨大な獣が棲んでいる言い伝えられていて、それで名付けられた名だ」


ミエの懐疑の言葉にキャスが答える。

彼女はそちらの方…すなわち王都からやって来ただけあって現地の地理には詳しいようだ。

巨獣(モッシ ズロ)の巣(ース ドース)は王都の東にそびえる山麗なのである。


「巨大な獣…どんな種なんでしょうか」

「わからん。山を越えられず行方知れずとなる者、あるいは山に行ったまま戻ってこない者がいて、何か危険が潜んでいるのは間違いないのだが、山から無事に帰った者はそうした危難に一切遭っていないのだ。逆に言えば…その山に潜む何者かに出会った者は()()()()()()()()()。ゆえに正体不明の巨大な獣が潜む山…巨獣(モッシ ズロ)の巣(ース ドース)、というわけだ」

「なにそれこわい」


キャスの説明にミエが思わず真顔になって、隣で青くなったサフィナがミエの腰にひしとしがみついた。


「で巨獣の巣の北に湖があって、王国の北は魔族どもの巣窟、闇の森(ベルク・ヒロツ)が一面に広がっておる。これがだいたいアルザス王国の周辺地形じゃな」


シャミルが〆た台詞を聞きながらミエはふむ、と地図を眺める。

他に大きな地形としては、国の中央に南北に長く伸びている森…暗がりの森(バンルラス・ヒロス)があるが、これは以前キャスに聞いたエルフ達の豊穣の森(シムーサ・ウーグ)のことだろう。

ただそれは今回のミエの思索には直接関係しない。



北が森、東と南が山、西が丘陵地帯…



「こうして見ると…なんかこの国碁盤のマス目みたいですねえ」



『碁盤』という単語がある以上おそらくなんらかの似た遊戯があるのだろう。

それが囲碁や五目並べのようなものなのかはわからないけれど。


ミエのその素直な感想に…シャミルはほう、と感心したような声を上げた。




「よう気づいた。確かにお主の言う通り…ここはゲームの盤上、碁盤のマス目じゃよ。()()()()()()()のな」

「ふえ…?」


その言葉に…ミエは一瞬言葉を失った。





「なんかいきなり話の規模が大きくなりすぎなんですけど…?」






けだし、もっともな意見である。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ