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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第二部 族長クラスク 第三章 ハーフエルフの女騎士
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第133話 閑話休題~アーリ社長の目論見~

「てことはもしかして店員は獣人ばっかりかい?」

「そうですね…アーリンツ社長は私達以外でも、同じような理由で商売人になりたくてもなれなかった獣人たちを集められておられるようです」

「ふ~ん…?」


あの猫の獣人は村に幾度か訪れており、クエルタも何度か見たことがある。

表情が豊かでリアクションがオーバーでぱっと見コミカルなキャラにしか見えなかったのだけれど、彼女なりに自分の種族への扱いに内心忸怩(じくじ)たるものがあったのだろうか。


「ま。人は見かけによらないってね」


そう、彼女は知っている。

平凡な村娘に毛が生えた程度にしか見えなかった女が、この村の大改革を成し遂げてしまった事を。

最初鎖に繋がれた生活から抜け出せすことしか考えていなかった自分を、彼女にどんな迷惑をかけようが、隙あらば村を抜け出そうと画策していた自分を、軽々と()()()()まで連れて来てしまった事を。


そう、クエルタは知っている。

創意工夫が、諦めぬ心が、強い信念が、時に多くの者が()()()()()()だと思い込んでいた常識を打ち破り、変革してしまうことを。


「しっかしなんだってしゃっちょーは俺達をこんなとこに連れて来たんだろうなー」


少し物思いに耽っていたクエルタは、肉をがっつきながらそんな疑問を抱く狼獣人グロイールの台詞に我に返った。


「…そうさねえ。私としては村になんかの店があると助かるんだけど。ここは基本自給自足と配給だけで売り買いってのがないからねえ」


一応オーク達が猪の角を削ったものなどで物々交換をすることもあるが、貨幣経済というのはあまりにお粗末である。

まあ金銭を用いずにある程度の生活が保障されているのはそれはそれで素晴らしいことではあるのだが、文明社会に浴したことのあるクエルタとしては、時には消費文化が恋しくなることもあるのだ。


クエルタのそんな感想に、鹿獣人のファヴが賛意を示した。


「そうですねえ。この村に店を作る、そういう話もあるかもしれません。そしてその店の店員を村に連れて来た獣人たちの中から選ぶというのも十分あり得る話かと」

「まじで?! 俺達の店ができんの?!」

「みゅみゃ! それすっごいです! ミュミアすっごいやりたいのでございますです!」

「俺だって!」


狼獣人グロイールと兎獣人ミュミアの年少組が瞳を輝かせ跳びついた。

が、その興奮と高揚に虎獣人のヨアが水を差す。


「オイオイ、社長が口にしたわけでもねえこと気軽に言うんじゃねえよファヴ。ガキどもが本気にするじゃねえか」


「「ええ~!? 違うのぉ~~~!?」」


ヨアの言葉に露骨に落胆する二人。

だが優雅に蜂蜜酒を傾ける鹿獣人ファヴは涼しい顔だ。


「気軽に言ったわけではありません。ちゃんと『理由』はあります」

「へえ、理由? 面白えこと言うじゃねえか。ならその理由ってのを教えてくれよ」


どことなく険悪になる年長組のヨアのファヴにわたわたと怯えるグロイールとミュミア。


「ふ~た~り~と~もぉ~~。喧嘩はやめましょぉ~~」


牛獣人のプリヴが止めようとするがのんびりすぎて全く効果がない。


「理由ですか? 簡単ですよ。私達の『性別』を考えれば」

「あン? 性別ぅ…?」


全く予想していなかった言葉に虎獣人のヨアが眉を顰める。


「そいやあんたら全員女だね。店員はみんなそうなのかい?」

「いや…野郎もちゃんといるぜ。あー…でも言われてみりゃあ前回ここに来たときも全員女だったような…?」

「ああ、確かに。そういやこの前あんたらが来たとき妙に女が多いなって思ってたんだ」


ヨアとクエルタがそれぞれ前回のアーリンツ商会のメンバーを思い浮かべ、腕を組んで頷く。


「で、それがなんの関係があんだよ」

「まだわからないんですか? 村に店を開くということはクエルタさんのような主婦だけでなくこの村のオーク達と接触するということです。そしてこの村の若いオークは皆配偶者がいないという話ではないですか。これらの事を考えれば答えは明白です。社長はこの村に開く店の店員が村に()()することを想定してるんですよ」

「「「えええええええええ~~~~~~!?」」」


グロイール、ミュミア、そしてプリヴの三人が手を取って驚きの声を上げる。


「そ、それって、それって、それってまさか…アレか?! お、俺達が、俺たちが、その…」

「オークさんのぉ~~お嫁さんになるってことでしょうか~~?」


牛獣人ブリヴの言葉と同時に玄関の扉がばたんと開き、外で押し合いへし合いしながら耳を澄ませていたオーク共が折り重なるように部屋に倒れ込んできた。


「みゅみゃあぁぁぁぁぁ!?」


突然のことに椅子から真上に飛び上がる兎獣人ミュミア。

草食系の獣人は大きな音に過敏なのだ。


草食と言えば鹿獣人のファヴも同様なのだが、こちらは大人の余裕か耳と尻尾を一瞬ピンと立てたのみである。


何重にも重なり下の方が半分押しつぶされているオーク共は、けれど彼らなりに精いっぱいの柔和な表情で、愛想笑いをしつつ頭を掻く。

ただその表情が他種族から見ればどこか下卑たものみ見えてしまうのは種族性だろうか。


「ウェヘヘヘヘ…」

「ヘヘヘヘ…」

「コ、コンゴトモヨロシk…へぶっ!?」


そしてここぞとばかりに自己紹介をしようとしたところで…クエルタに真鍮製のフライパンで頭をぶっ叩かれた。


「お客人の前でみっともない真似晒すんじゃあないよ。アンタたち…自分の仕事は済んだんだろうねえ!?」

「イ、イヤ、コレハ種族的ニトテモ大事ナ…」

「ソウソウ」

「ゼンメン的ニ同意」

「ソレガシモ賛同イタス」

「拙者モソウ思ウデゴザル」

「ナンパしたいなら女が惹かれる程度の男っぷりまで上げてから出直してきな! 仕事もせずに女漁ってる奴なんざあどんな女だって願い下げだからね!!」

「「「ヒェッ! クエルタのアネゴガ怒ッタアアアアア!!」」」


威勢のいい啖呵に若いオーク達がこけつまろびつ慌てて遁走する。


「…ふうん、あたしもアネゴ呼びされるんだ。ふうん」


オーク達から送られた呼称に満更でもない風のクエルタ。

どうやらアネゴという呼称はこの村の女性の間ではだいぶ好意的に受け入れられているようである。


…広めた当人であるミエ以外には、だが。


さてクエルタがフライパンで肩を叩きながら家の中に戻ると、グロイール、ミュミア、ブリヴの狼兎牛の三人娘が角突き合わせてひそひそ相談事をしている。


その隣ではなにやら思案顔の虎獣人ヨア。

彼女はしばし腕を組んで首を捻り呻くように何か考えていたが、やがてハッと顔を上げて鹿獣人ファヴの方へと向いた。


「さっきのやつってもしかしてアタシも含まれてンのか!?」

「まあそうでしょうねえ。私も含めて」

「うええええ…?」


ずっと他人事だったらしき虎獣人のヨアは、いざそれが自分の身に降りかかると知ると今更ながらに真剣な面持ちで考え始めたようだ。


「まあオークは相当()()()って話だしなあ」

「みゃ? 上手いって何がでございます?」

「美味い? メシか?」

「干し草でしょうか~~?」

「ちっげーよ()()だよ()()

「ちょっとヨア、子供たちに卑猥なこと教えるのやめなさい」


三人娘にヨアが手指で()()()()な形を作り示し、鹿獣人のファヴがそれを嗜める。

グロイールとミュミアは幼すぎてよく理解できず頭上に幾つも?を浮かべていたが、牛獣人のブリヴだけは右手を頬に当ててぽ、と赤らめた。


「卑猥っつたってオーク族と暮らすってんなら()()抜きで考えられねえだろうがよお」


そう言いながらヨアが窓の外を眺めると、まだ家の周りをうろついていたオークの一人がその視線に気づき、ムキッと筋肉を強調するポージングをして己をアピールしてきた。

なんとはなしに吹き出してしまうヨア。


「…で、そこんとこどうなんだよクエルタさん…だっけ?」

「そうねえ…」


虎獣人の質問に顎先に指を当てながらさてどう答えたものやらと思案するクエルタ。

そしてミエの為だのなんだの色々考えつつも、結局自分の本音を素直に語ることに落ち着いた。


「夜の生活でしょ? 上手いと思うわよ。人間族の娘なら半月も一緒にいたらもう同族のオトコじゃ満足できないカラダにされちゃうんじゃないかしら」

「「「そん

   なに」」」


はわわわわわ…と真っ赤になって動転しながら互いの両肩を掴み合う兎と狼、ミュミアとグロイール。

まあまあまあまあと頬を赤らめて幾度も繰り返す牛獣人のブリヴ。

へえほおふうんと疑い深げに眉根を寄せる虎獣人のヨア。

一人我関せずと食後の蜂蜜酒を啜る鹿獣人のファヴ。


ただ…彼女たちに動転や狼狽、或いは疑念はあっても、嫌悪の色だけはないことにクエルタは気付いた。


「ふうん、アンタら嫌じゃないんだ?」

「嫌っつーか…こうそういうことなら俺らもあまりオーク達のことを言えないっつーか…」

「みゅみゃあ…獣人族には発情期がありますでございますから…」

「はい~~。時期によっては他の種族の方にもぉ~迷惑をかけることもあるんですぅ~~」




自分たちの業の深さを述懐しながら「でも自分の店と引き換えかぁ…」などと相談を始める獣人達。

そんな彼女らを見ながら…クエルタは片目だけ細めてフライパンでぽんと肩を叩いた。


発情期だろうとなんだろうと、女から求めてくる限りオークどもは一切拒むまい。

そう考えれば彼女たちの言う『迷惑』はこの村では一切問題にならないことになる。



「ふうん…あの猫も色々考えてるんだねえ」



そんな彼女たちの店が思いもよらぬ形で実現するのは…それからほどなくの事であった。






ただしこの村の中に、ではなかったが。







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