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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第二部 族長クラスク 第三章 ハーフエルフの女騎士
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第132話 閑話休題~獣人商会の店員たち~

ここはクラスク村の一角。

妙にそわそわしたオーク達が家の外に群がり中の様子を窺っている。


ゲルダ、シャミル、サフィナらミエの最初期の協力者たち。

彼女らの次にミエに(くみ)したクエルタの家である。


家の中には村に運び入れた荷物を無事倉庫へと押し込め、一段落して疲れ切った獣人どもが椅子に座りぐったりとしていた。


「んモぉ~~一歩も動けませぇ~~ん」


間延びした声で机に突っ伏しているのは牛獣人のブリヴである。

仕事は主に荷物の運搬や運送全般。

彼女の種族特性である≪怪力≫が存分に生かせる職だ。


肌は白黒の斑で、テーブルの上で自重に押し潰されている豊満…というよりかなりの巨乳が特徴的である。

彼女なりにだいぶ御不満の体なのだけれど、そののんびりとした口調ゆえかあまり切迫感を感じない。


「まあまあ、社長の人使いが荒いのはいつものことじゃないですか」


宥めているのか煽っているのかわからぬ口調でそう語りながら蜂蜜酒の杯を優美に傾けているのは鹿獣人のスフロー・ファヴト。

彼女の専門は会計と経理と簿記全般。

力仕事は門外漢であり、先刻の荷運びも社長と共に見学を決め込んでいた。


長い睫毛とつぶらな瞳が特徴で、人間から見ても美人と呼べる部類の容姿と言えるだろう。

ちなみにその愛らしい容姿に反してメンバーの中で一番の年長で、以前アーリと共にこの村を訪れたことのある一人でもある。


「それはそうかもしんねえけどきっちぃもんはきっちーんだよぉ!」


椅子に傾けながら背後に反り返り、荒土の壁に背もたれながら両腕を掲げ不満をぶちまけているのは狼獣人のグロイール。

「グロイール」は獣人としては男にも女にも付けられ得る名前であり、その叫びは声変り前の少年のような声音にも聞こえるが、れっきとした少女である。


本人は同世代の女の子より男の子と遊ぶのが好きな男勝りな性格で、こちらの世界であれば小学生の高学年か中学校に入りたて程度の年齢ではあるが、立派にアーリンツ商店の店員である。

仕事は主に雑用全般。


「みゅみゃぁぁぁぁぁぁぁ……ミュミアもう限界でございますぅ……」


テーブルに両手を投げ出し息も絶え絶えなのが兎獣人のミュミア。

年齢的にはグロイールよりさらに幼いのに妙に丁寧な口調と口から洩れる変な擬音が特徴で、長い耳と白い毛並が愛らしい。


彼女は店頭販売や接客が主な業務だけに、ここに来るまでの力仕事で相当参っているようだ。

なおこの世界には労働基準法などは存在しないため、彼女らの年齢で働いているのは別段珍しいことではない。

そもそも義務教育も存在しない世界ゆえ、この年齢から働かなければ食べてゆけない家庭も少なくないのである。

そうでなくとも獣人達は貧しいものが多いのだから。


「ったくだらしねえなあ。商売人ってのは体が資本なんだろ? あれくらいでへばってちゃあ先が思いやられるぜ?」


腕を組み、さらに脚も組み、小さな椅子に大きな体を窮屈そうに乗せ偉そうにふんぞり返っているのは虎獣人のイヴィッタソ・ヨア。

厳密には彼女だけは商人ではない。

行商の最中に夜盗などに襲われることを考えてアーリが雇った用心棒であり、そして鹿獣人スフロー・ファヴトと並んで獣人組の年長組でもある。


「そんなこといったってよぉ~~俺達まだ子供だぞ子供!」

「みゅみゃぁぁぁぁぁぁぁ~~~」

「そんなこと言い訳になるかよ。自分で金稼いでメシ食ってたら一人前だっつーの」


グロイールとミュミアの抗議(?)を一刀両断にして鼻を鳴らす。

まあ厳しいようでこの世界では正論ではあるのだが。


「そうですねえ。ヨアさんも接客なさってた時は立派に稼いでらしたものね」

「ばっ! ち、ちっげーよファヴあれはアーリの奴に騙されてだなあ…!」


鹿獣人のスフロー・ファヴト…ファヴの言葉にムキになって反論する虎獣人のヨア。

以前この村で仕入れた商品が出先の街で思った以上の売れ行きとなり、好調で人手が足りなくなった時、ヨアはアーリに泣きつかれて接客の手伝いをしたことがあったのだ。

ただその時に着せられた制服がなんというかいわゆる可愛いさ全振りかつひらひら全開の衣装で、ヨアは非常に恥ずかしい思いで接客することとなったのである。



…なお客受けは非常によかったという。



「騙されてもちゃんと着て仕事する辺りは立派だと思いますよ。笑顔はひきつってましたけど」

「そりゃお前…仕事だから…ホラ」

「「おお~~~~~~~」」


真っ赤になりながらそっぽを向いて、鼻面を掻きながらぼそぼそ呟くヨアに、狼獣人のグロイールと兎獣人のミュミアが感嘆の声を上げた。

なんのかんので根は真面目なヨアなのである。


「ふうん、あんたら仲がいいんだねえ」


台所で料理を作りながら彼らの会話に耳を傾けていたクエルタが両手に皿を載せてやってくる。


「そう見えるか?」

「ええとっても。そんでほいお待たせ!」


そして湯気のたつ山盛りの肉とたっぷりの新鮮なサラダをそれぞれ大きな皿で提供した。


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお~~~~~」」」


獣人たちから歓声が上がる。

どうやら肉食組も草食組もお気に召したようだ。


「新鮮な野菜は教会に〈保存〉の魔術かけてもらう分割高なんだから大事に食べてよね! この村にゃ教会なんて上等なもんないんだからさ! ったく自分の楽しみに取っておいたってのに…」


ぶつぶつと文句は言うけれど、料理に使う材料はケチらない。

このあたりがミエが彼女を饗応に指名した理由なのだろう。

まあ実際にはこの村にはまだ貨幣経済が存在していないので、この野菜も彼女が金銭であがなったわけではないのだけれど。


「…しっかしあんたたち美味そうに食べるねえ」

「そりゃ(もぐもぐ)、メシが(はぐはぐ)、美味いから(もぐもぐ)、だよ(ぱくぱく)」

「もぉ~~最高に美味しいですぅ~~」

「そいつはどうも。ま、()()()()()()()()()けどね」


グロイールとブリヴの称賛の言葉を適当に受け流すクエルタ。


「で、アンタたちはなんで商売人なんかになろうとしたんだい?」


夢中になって食事を貪る獣人たちに彼女が素朴な疑問を投げかけて、鹿獣人のファヴが口元を拭きながら答える。


「んー…私はたまたま近所に好事家がいたお陰で幼いころから書物を読むのに慣れ親しんでましたし、計算も得意だったので目指すのは自然なことでしたね…むしろなろうとしてからが大変でしたが」

「へぇ…そりゃまたなんでさ」

「みゅみゃあ! ウェイトレスとかやってると獣人はお客様にすっごく怒られるんでございますぅ!」

「なんでさ。人種差別って奴かい?」

「みゃあ、その、抜け毛が…」

「ああ…そりゃ確かに食事に入ってたら文句出るわねえ」


ミュミアの言葉にクエルタは一人納得する。

言われてみればかつて人間達の街に住んでいた頃、カフェなどで獣人が接客しているのを見たことがない。

というかむしろ街中で商売人をしている獣人を全然見ないからこそ先程の疑問を抱いたわけだが。


「わたしもぉ~~、運んだ荷物に毛が混入したとかでいっぱい怒られた事がありますぅ~~」

「牛って抜け毛とかするんだ? あんまりイメージなかったねえ」

「季節によってはすごいんですよぉ~~」


もむもむ、と野菜を頬張りながらブリヴが語る。


「へえ、そいつは知らなかった。ここに来るまではずっと都会暮らしだったしねえ。じゃあ今の仕事にありつくまでは結構大変だったのかい?」

「そりゃあもう! 俺だってすっげえ苦労したよ! ほとんどの店じゃ店員は募集するけど獣人お断りとかな! 他にも募集にはそう書いてないのにいざ面接に行ったら獣人は考えてなかったとか言われて門前払いとかよー!  くっそーラグフ商会だけは許さねーからなー畜生! 」

「畜生はぁ~~やめてくださぁ~~い」

「あ、ワリ」


思わず口走った毒舌をブリヴに抗議され、片手を上げて謝るグロイール。


「私も望んでいるのは接客や運搬の仕事ではないのにそもそも雇用の機会自体に恵まれなくて途方に暮れていたのですが…そんな私達を雇ってくださったのが社長なんです。獣人の商人として望んだ職に就けない同胞を放っておくことはできないと言われまして」

「へえ、あの猫が」


狼獣人グロイールがぶちまけた不平はともかく、鹿獣人ファヴの説明にクエルタは少々驚いた。

一見するとあの猫獣人にそんな度量があるようには思えなかったからだ。


「…成程ねえ。でも雇用の機会はともかくそれ抜け毛の問題は解決してないんじゃ?」

「みゅみゃ! それが社長の扱ってる化粧品がすっごいんでございます! あのクリーム塗ると毛づやがすっごくよくなりまして! しっかり手入れすれば抜け毛なんかも綺麗に防げるのでございます!」

「ああ…保湿効果とかもあるもんね、うちのクリーム」

「みゅぅみゃあ! とってもすばらしいと思いますです!」

「そうですね…あの化粧品は私達が接客業などをする際の福音になってくれると思います。うちの店以外の者が日常使いするにはまだ少々値が張りますが…」


兎獣人のミュミアがこの村の化粧品の素晴らしさを力説し、食事を一休みして蜂蜜酒を嗜む鹿獣人のファヴがをれをフォローした。


「へえ…べた褒めじゃないか。一応製造に関わってる身としちゃあまあ悪い気はしないねえ」

「みゅあ! ほんとにありがとうございますです!」


真っ白い毛を生やした腕をミュミアが伸ばし、クエルタが手を取るとぶんぶんと振って来た。




その手はとても柔らかく、そして暖かくて。

クエルタはそんな手から握手を求められる自分になったことを…






()()()()()()()ことを、少し不思議に思った。






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