表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第二部 族長クラスク 第三章 ハーフエルフの女騎士
130/937

第129話 剣を学ぶ理由

「お前の…お前とミエのやろうとしていることはわかった。実現するのは大変だろうが、もしできたらとても素晴らしいことだとは思う」

「そうカ。外の奴にそう言われルと嬉しイ」


()()()と言われてずきり、と胸が痛む。

だが何も間違ってはいない。彼女はこの村の外の者だ。

ただ一時、三ヶ月の間村に協力しているだけなのだから。


なら…なぜこの胸は痛むのだろう。

その答えから、キャスは未だに目を背け続けている。


「だがクラスク殿の目的は武力による収奪や襲撃から足を洗い、外の世界にオーク族を認めさせ、その関係を平和裏に着地させることだろう? ならなぜこれほどに戦いの鍛錬をする。なぜ充分な戦力を有しているのに剣を学ぶ? 矛盾していないか」

「矛盾しテナイ」


クラスクは村のオーク達が個々の家に戻り、家にいる女性…今やそのほとんどが『ユーホ』となった娘達…と笑顔で挨拶を交わしている様を眺めながら目を細める。


「ドんなに俺やミエが、この村の連中が平和を喧伝しテも、訴えテも、今ノママダト誰も理解しナイ。こノ村にも来ナイ。外ノ奴がこノ村に足を向けルには、そノ()()()()()が重すぎル。それくらイこれまデノオーク族ノ評判悪イ」

「…そうだな」


キャスはクラスクの言葉を否定しなかった。

彼の言う通りだったからだ。


この村の今がどんなに素晴らしかろうとも、これまでのオーク族の行状がをれを覆い隠してしまう。

キャス自身のように村を直接訪れれば解けるかもしれない誤解も、噂やイメージが邪魔してそもそも訪れようとすら思わない。

なにせ彼女自身もそうだったのだ。


最初の一歩を踏み出してもらわねば、イメージの払拭のしようがないのである。


「ダから俺達きっト綺麗に『着地』デきなイ。途中デ()()ト戦うこトもあル。人間ノ街や城に呼ばれテ腕を見せロ言われルかもシれなイ」

「む…それは…ありそうだな」

「オーク族全部がこノ村みタイじゃなイ。うちの村オーク族の中でデも珍しイ。ダから仲間の数減らしタくなイ。そのタめには守りも覚えなイトダメ。戦術の()()()()もダ」


クラスクの言葉には本音が詰まっていた。

目的を果たすまでに村のオークの犠牲を一人でも減らしたい。

そのための鍛錬であり、教練なのだと。


「あト俺の場合、村の代表トしテ他の種族の()()()()()ノ前に呼ばれテ色々値踏みされるかもしれナイ。親善? 試合や決闘すルコトにナルかもしれナイ。斧しか使えナイト馬鹿にされルかもしれナイ。剣以外使うノ認めナイ言われルかもしれナイ。そうイウ時困らナイためには、剣必要」

「そこまで考えた上でのことか…!」


確かに今後のことを考えれば族長としてクラスクが人間の街や王宮などに招かれる可能性も考慮しなければならない。

そして人間族の王国では剣が主要武器である事が多いため、それが使えない相手を相手を低く見るような連中もいるだろう。

その相手がオーク族なら猶更である。


キャスが瞳を輝かせ、クラスクの言葉に感じ入っている。

彼女の表情を観察していたクラスクは、これはチャンスかも、と感じた。


この娘は、『有用』だ。


自分とは別の()()()()()を持っている。

そしてそれを人に伝えるのが、教えるのが上手い。


さらに必要ならオーク語を学ぶ柔軟性や賢さがあり、村に来てからはオーク族を差別しない。


魔術を使えるのも重要である。

当人は謙遜しているが、今後のことを考えれば魔術の知識がある者は誰だって欲しい。


だから…クラスクとしては、これまで口には出さなかったけれど期限を過ぎてもできれば彼女に残って欲しかった。



だから…

『お前の力が必要だ。お前の力が欲しい。この村にいてくれないか』

と言いたかった。



「キャス」

「うん?」


何も意識せず、無警戒にクラスクを見上げるキャス。

真剣な面持ちのクラスク。


「お前が必要ダ」

「え?」

「お前が欲しイ」

「ふへっ!?」

「一緒にいテくれナイか」

「~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」


ぼんっ! と顔を爆発させ、尖った耳先まで真っ赤になって少女のように俯いたキャスは、



自分の仕事も、任務も、役職も、元の生活も、()()()()()()が頭から抜け落ちて…



「はい………っ」



小声で、囁くような声で、それを受け入れた。


「あらやーね族長さん昼間っから告白ぅ?」

「若い子達がみんな狙ってたのに、泣かれるわよう?」

「きゃうんっ!?」


村の若奥様達がころころを笑いながらからかい、キャスが飛び上がらんばかりになって驚いてあわあわと周りを見回した。


彼の言葉に夢中になり、その後の告白…告白? で激しく動転していた彼女は、周囲にいつの間にか仕事のため蓆をひいたり摘んだ葡萄や酒瓜などを運んできた女性達が三々五々集まりっていたことにすっかり気づかなかったのだ。


騎士隊長にあるまじき失態と、彼に対して思わず放ってしまった己の失言に、目をぐるぐるさせながら動揺する。


「ち、ちちち違うっ! い、今のは決してそういう意味ではなく…っ!」

「そうダ。違う。キャス優秀。村に残っテ欲しイ。ダからスカウトしテタ」

「えぇ…?」


自分のしどろもどろな言い訳はともかく、クラスクが否定するのは彼女には想定外で、そのお陰で急速に冷静さを取り戻してゆく。


そして冷静さを取り戻したことで、村を訪れたあの日と同じく、自分の勘違いに気づいた彼女は…


「なーんだ、違うのかー、ざーんねんっ!」

「でも族長さぁん、その様子だと()()()方面で攻めた方がいいんじゃなぁい?」

「? 何がダ?」


その場に女座りでへたり込み、真っ赤になった顔を両手で覆い、尖った耳をだらんと垂らしその先っぽをひこひこ動かしながらしくしくと泣いていた。




「今のは悪くない…今の勘違いはぜったい悪くない…っ! 悪くない…っ!」




その晩…彼女は一人用としては大きすぎる枕をぎゅっと抱きしめながら、これまた一人寝には少々大きすぎるベッドの上で…



ころころ、ぎゅっ。

ころころ、ころん。


ころころ、ぎゅぎゅっ。

ころころ、ころん。



ころころ、ころころ、ぎゅぎゅぎゅ~。






…などと、枕と共に一人転げまわり夜通し悶々としていたという。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ