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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第二部 族長クラスク 第三章 ハーフエルフの女騎士
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第128話 模擬戦

激しい剣戟が交わされ、怒号が響く。

オーク達が剣と剣で激しく打ち合い、その技量の粋を尽くして守り、攻める。


かつては如何に早く相手を倒すか、いかに圧倒的に叩きのめすか、そういう戦い方一辺倒だった彼らだったけれど、この村のオーク達には今や攻守の切り替えと配分がしっかりと根付いている。

初代教官たるキャスバスィの薫陶の賜物である。


そんな彼らが今やクラスクの審判の下、以前より強く、そして激しく戦っている。

キャスの頃は行っていなかった集団対集団の訓練…つまり模擬戦である。


「ほほう、なかなか派手にやっているな」


キャスが腕組みをしながら彼らの戦いを見学している。

最近この時間はずっと馬の調教をしていたためこうしたオーク達の集団戦を見るのは初めてだ。


見る限り彼女が担当していた頃に比べ技術の上達はそこそこだが、かわりにとにかく実戦経験を豊富に積んでいる。

形式や流派などよりとにかく実用本位。

このあたりは実にオークらしい。


「しかし随分と鬼気迫る模擬戦だな…」


疑似的に戦場を学ばせるための集団対集団の試合は騎士団にいた頃に何度もやったけれど、彼らの戦いには今目の前で繰り広げられている、戦場と見紛うばかりの迫力と緊迫感はなかった。

流石戦闘種族たるオーク族だとキャスは一人感心する。


ただ正味のところ普段の模擬訓練はここまでの真剣勝負ではない。

彼らが今日本気でやっているのはキャスバスィが見に来ているからである。


初代教官である彼女の前でみっともないところは見せられない(怒られる!)というのもあるし、あとは若いオーク共があわよくば自分の活躍を目に留めてもらおうと全力でアピールしているのだ。

なにせこの村のオークの若者達には現在誰一人として嫁がいないのだから。

それは鬼気も迫ろうと言うものである。


「ふえええ…聞きしに勝る迫力ですねえ」


ミエが感心しながら隣にいる馬を軽く撫でる。

彼女たちは馬たちの軍馬への馴致じゅんちの一環としてクラスクに許可を得て馬達にこの模擬訓練を見せているのだ。


馬達が落ち着かなさげにうろうろとしながら高い嘶き(ジェオー)を漏らす。

明らかな警戒音である。

戦場の熱気に、剣戟に、喧騒に、怒号に、狂気に怯え興奮しているのだ。


だが彼らは恐慌に駆られて逃げ出したり、逆に高揚して暴れ出したりといったことはせず、ミエやサフィナに優しく撫でられながらその場に留まっている。


ミエの≪応援≫により一時的に知力が上がっている彼らは、その騒音と殺気が直接自分達に危害を及ぼすものではないと理解しているのだ。


「あ、ワッフー!」


サフィナがエルフの優れた視力で乱戦の中に自分の夫を発見する。

ワッフの剣の扱いは緻密とまではいかないが、その圧倒的な膂力で雑に振り回し、剣の()()を対戦相手のオークの腹に力任せに叩きつけると、数人巻き込んでひとまとめに吹き飛ばした。

凄まじいパワーである。


「あらあらすごいじゃないですか」

「ワッフー…ワッフー!」


サフィナが嬉しそうにぶんぶんと手を振ると、土煙の向こうから彼女に気づいたワッフが両手を上げ嬉しそうに振り回す。


…そしてその隙だらけの後頭部を敵陣営にオーク共にタコ殴りにされて砂塵の中に沈んだ。


「ワッフー!!」

「ワッフテめえ戦場デよそ見しテンじゃねえぞ!!」

「ハッハイイイイイイイ!!!」


サフィナが悲鳴に近い叫びを上げるのと、クラスクの叱咤が飛ぶのがほぼ同時。

ワッフは慌てて飛び起きて再び戦場へと身を投じた。


「あらあら」


ミエは隣のサフィナの様子を見ながら目を細める。

彼女はワッフに向かって手を振りながら、だが少し唇を尖らせて頬を膨らませていた。

どうやら自分の声援よりクラスクの叱咤の方がワッフに効果覿面だったのがお気に召さなかったようである。


「…ふむ。これは悪くないな。いい訓練になる」


戦場のオーク達のことか、調教している馬達のことか、それとも不満げなサフィナの事を指しているのか。

いずれにせよキャスの言葉は実に適切なものだった。


「ようシ! 勝負あリ!!」


クラスクが右手を挙げ模擬戦の終了を告げる。

勝った側は鬨の声を上げ、負けた側は悔しそうに地団太を踏みつつ、だがすぐに仲間内で集まって議論を始めた。


自分たちの何が悪かったのか、何がまずかったのか、何が足りなかったのかを徹底的に話し合う。

キャスはこの戦いに対する真剣さと真摯さに関しては、むしろ王宮の騎士達や自分の部下の方こそオーク族を大いに見習うべきだと感心した。


さて試合が終わり、オーク達が(キャスの前に群がった後クラスクに蹴散らされ)去った後、ミエが落ち着きを取り戻した馬達の背中を撫でる。


「じゃあ次にこういう試合がある時にまだ連れてきましょうか。私とサフィナちゃんは馬をいつものところに戻してきますね?」


ミエが張って来たお腹をさすりながら馬を引いて連れてゆく。


「おなか…おっきい。もうすぐ生まれる? 明日?」

「明日はどうかしら…でも生まれたらサフィナちゃんもお姉ちゃんですね」

「サフィナおねーちゃん……!」


ふおおおおお…! と何やら興奮したサフィナが鼻息をふんすふんすと慣らしつつミエのお腹を爛々とした瞳で見つめる。

まるで今すぐにでもミエの張ったお腹からからぽんと赤ちゃんが生まれてくるのを待ち構えているかのようだ。


そんなほのぼのとした雰囲気と共に…馬とコルキを連れた二人は去っていった。



そうして…クラスクとキャス、二人だけが残される。



「しかしオーク族の集団訓練とはな。壮観なものだ」

「まあ実戦しナイナらナルべく実戦ト同じ雰囲気作らナイトナ。練習ハドコまデ行っテも練習ダ」

「それに関しては同感だ」


オーク達が仕事に戻って…いや中には公衆浴場に駆け込む者や休憩とばかりに家で駆け付け一杯酒を飲んでから出かける者、或いはその両方をまとめてやらかして女房に小突かれる者などもいたが…いずれにせよ彼らが去って広場が字の如く広くなった。

もう少ししたらこの広場を使った仕事…ワインの果実を踏んだりするような、屋内でやりにくく人手が必要な作業のためにここは村の女たちに明け渡されるが、それまでは少しばかり閑散としたままだ。



「そうだ…少し聞いておきたいことがあるんだが…いいか?」

「なンダ」






これを機会に…と、キャスは以前から気になっていたことを尋ねることにした。






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