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異世界に転生したらオークの花嫁になってしまいました  作者: 宮ヶ谷
第一部 オーク村の若夫婦 第一章 オークの花嫁
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第11話 それぞれの言葉

ミエは震えていた。

あっさりと他者の命を奪う残忍な彼らに恐怖し、藪の中で身を縮めていた。


今更ながらあの神の端末だかを名乗っていた男の言葉を思い出す。

『この世界は決して安全な場所ではないのだ』と。

それを彼女はたった今身に染みて実感していた。

あの時は五体満足な体になれるとうかれていてまともに聞いていなかったけれど。


だが彼女が怯えるのは当然だろう。

かつてミエが生きていた世界はおおむね平和であり、命が奪われる機会などほとんどなかったし、あったとしてもその要因は怪我や病気、事故や災害が主であった。


今目の前で繰り広げられているような、殺意を持って(・・・・・・)明確に誰かを殺す(・・・・・・・・)様を目の当たりにするのは初めてだったのだ。


また彼女の恐怖心にはオーク族の有するスキルも影響している。

彼らの多くは暴力を伴った行為や言動によって相手を脅し、交渉を有利にする≪威圧≫というスキルを得意としており、今まさにそれを発現させているところなのだ。

戦場に耐性の無い素人であるミエが竦み上がるのはむしろ当然と言える。


人とは異なる種族…オークども。

そのうち先頭に立った一匹が震える少女と老人を睥睨している。

彼女たちの僅かな身じろぎ、一挙手一投足に歯を剥き出しにし、唸り声をあげて威嚇しながらじろりじろりとめつけていたのだ。


老人の腕の中、身を縮こまらせた少女の口から何かの言葉が漏れ聞こえる。


太陽の女神よ(エミュア)遍く(フォッブ・)世界を照らす(タヴォルイアス・)至高にして(ノルガー・ラズフス・)慈悲深き(イポル・スフォ・)者よ(イラブ)どうか(ヴロート・)我らに与え給え(ヴロムス・アット)恩情と(ビューズフス・)厚情の(ユースフ・)日差しの(イーホグスィム・)一差しを(イムブ・イーホグシム)…」


距離がある上に小声で、おまけに震えながらの呟きなのでところどころ聞き取れなかったが、ミエにはそれが祈りの言葉に聞こえた。

おそらくこの世界の神に祈りを捧げているのだろう。


それに対して彼女たちの前に立ちはだかるオークが五月蠅そうにこう返す。


オ前達(イェア・)俺達が捕マエタ(サブラクィ・アック)俺達ノ(イーク・)所有物(ベッキセヴ)



ミエには(・・・・)その言葉の(・・・・・)意味が分かった(・・・・・・・)



先ほどの少女の祈りの言葉とは明らかに異なる、別形態の言語である。

なのに彼女にはその意味が理解できた。


それはオーク族が使う言語、オーク語であった。

彼女がこの世界へ送られる直前、例の男が彼女に幾つかの言語スキルを与えてくれていた。

異世界に飛ばされて言葉が通じないのでは話にならぬ。

最悪転生して即詰みになりかねないのだから当然だろう。


だからこの世界に送られる際、彼女は人間と多くの亜人達が交易のために使う商用共通語(ギンニム)、それにこの地域の人間族の言葉である北方語(ミルスフォルム)を標準で与えられ、さらに追加で幾つかの言語を選んで習得することができた…



…はずなのだが。



健康な体になれると浮かれ果てていた当時の彼女はそのあたりをすっかり聞き逃していて、例の男が適当に決めてしまっていたのだ。


適当といっても彼も別に無作為に選んだわけではない。

ミエが魂送される地域の主要種族の言語から幾つか見繕って彼女に与えていた。


…この地域はオークどもの勢力が未だ根強く、大小の部族が幾十もあって各地で略奪や襲撃を繰り返していた。

彼らはこの地の人間族の勢力拡大や村や町の発展を脅かし、森や荒野に棲息する脅威そのものとして君臨していたのだ。


ゆえにあの男はオーク語をこの地の主要言語として認識し、ミエに与えていたのである。



通じる。

言葉が通じる!



その瞬間彼女が取った行動はあまりにも無謀なものだった。

隠れていた藪から飛び出し急な坂を転びそうになりながら必死に駆け下りて、例の少女とオークの間に割って入ったのである。



…いや割って入ろうとして、そのまま勢い余って走り過ぎ、見事にすっ転んだ。



「「「!!?」」」



あまりに唐突な事態に一瞬その場の空気が固まり、静寂が辺りを支配した。

崖を彼女と共に転がり落ちた小石だけがカラカラと乾いた音を立て…やがてその音も失せる。


暫らく地べたに大の字にうつ伏せになっていたその娘は…やがてむくりと身を起こすと己の服についた埃をはたき、その後幾度か深呼吸したのちゆっくりとそのオークと少女の間に割って入り、両腕を広げ立ち塞がった。





「あ、あの…! こ、この子たちを見逃してあげることはできないでしょうか?!」






そして、オーク語で彼らにそう言い放ったのだ。






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