第1話 最期の風景
お父さん、お母さん、ごめんなさい。
…最期の瞬間に浮かんだのは、そんな謝罪の言葉だった。
それは今日まで大切に育ててくれた両親の想いを裏切るような真似をしてしまったがゆえの言葉だったのか。
それともこんな体に生まれ落ちてしまったせいで家族に迷惑をかけ続けてきたという自責の念からなのか、わからない。
でも。
それでも。
未来のない自分が生き永らえて僅かな余命を繋ぐより、将来のある子供が生きて命を繋いでくれた方が、きっと、ずっと、いいと思うから。
「さ、行って…」
わけもわからずきょとんとする少女を生垣の隙間に押し込める。
でも自分は間に合わない。
だってこの車椅子じゃ、もう歩道には上がれない。
遠くから聞こえる看護師さん…佐々木さんの悲鳴。
背後に響く急ブレーキの音。
迫る轟音。
不思議そうにこちらに振り向くその子に…
なんでか、私は笑顔で手を振った。
派手な衝突音。吹き飛ばされる肉体。
数秒続いたブレーキの音が止んだ後、そこには静寂だけが残された。
小さなタイヤ…ひしゃげた車椅子から落ちたタイヤがひとつ、道路の上をころころと転がって…さっきまで私だったものに当たり、倒れる。
今日までずっとありがとう。
私なんかを乗せてくれて。運んでくれて。
最後まで私なんかのわがままにつき合わせちゃって、ごめんね?
ああそうだ。佐々木さんとトラックの運転手さんにも謝らなくっちゃ。
あとそれから…それから…
それから、だんだんと意識が遠のいてゆく。
ああそうか。
私は…そうだ、私は。
私は、死んだのだ。